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人工知能と人間

2016年3月18日


 

こんにちは、バラ十字会の本庄です。

バラ十字会日本本部代表、本庄のポートレイト

 

東京板橋では、もうすっかりとソメイヨシノがつぼみを膨らませ、咲く気満々になっています。

そちらはいかがでしょうか。

 

すでにニュースで耳にされている方も多いことと思いますが、3月9日~15日に、グーグル・ディープマインド社の開発した、囲碁の人工知能「アルファ碁」(AlphaGo)が、世界で最高峰の韓国の棋士イ・セドル九段と、賞金100万ドルをかけて対戦しました。そして結果は、人工知能の4勝1敗でした。

 

囲碁を趣味にされている方の多くは、とうとうこんな時代が来たかと感慨をお持ちになることと思います。私もその一人です。

このゲームを愛好されている方の多くがそう感じているのですが、トッププロが対戦をしていると、碁盤の上に石が美しい形で並ぶのです。囲碁で高段の実力になるためには、この美に対する鋭い感覚が必要とされます。そして、この美的感覚は人間に特有の能力のように思われるため、トッププロと同等の実力を持つ人工知能を作ることは難しいのではと、数年前までは多くの人が思っていました。

囲碁の盤面

 

人工知能によるボードゲームへの挑戦には、数十年という歴史があります。バックギャモン(西洋双六)という興味深いゲームがありますが、1980年に、世界チャンピオンと人工知能が賞金5000ドルを賭けて戦い、人工知能が勝利しています。

このことについて書かれた雑誌「サイエンス」(日経新聞社)の記事を読んで、当時、衝撃を受けた覚えがあります。

バックギャモンの名人は、時として過去の常識を破るような妙手(絶妙な手)を選ぶことがあります。そのような創造性もまた、人間に特有の能力だと思われていたのですが、この対戦では人工知能が、単なるコンピュータ・プログラムでありながら、何度も妙手を放ったのです。

 

その後も人工知能の進歩の勢いは止まらず、1997年には、IBM社の「Deep Blue」というチェス専用のスーパー・コンピュータが、アゼルバイジャン出身のグランドマスターのガルリ・カスパロフを破りました。

そして、2012年には、日本の将棋のプロがコンピュータに敗れています。

参考記事:「人類とコンピュータの戦い-人工知能、自由意志と存在意義の関係」

http://www.amorc.jp/blog/?p=268

 

しかし囲碁では、プロが人工知能に負けるのは、まだかなり先だろうと、多くの人が思っていたのです。というのも、次の手の候補が平均して250種ほどある、極めて複雑なゲームだからです。2手先になると、250*250、3手先になると250*250*250と変化の可能性は天文学的に増えていきます。そして囲碁の対局(対戦)は、通常150手ほど続きます。

今回の最大の功労者であり、グーグル・ディープマインド社の経営最高責任者(CEO)であるデミス・ハサビスさんは、「囲碁には宇宙に存在する原子の数よりも多くの変化がある」と言っていました。

 

私の概算では、これは多少控えめな言い方で、囲碁には宇宙に存在する原子の数の2乗程度の変化があります。つまり、この宇宙に存在する原子の数だけ、この宇宙が別々にあるとします。これらすべての宇宙の原子の総数が、囲碁の変化の数とだいたい同じになります。

もし、このような変化のすべてを調べ尽くしたとしたら、神と対等に戦うことのできる最強の囲碁ソフトができるはずですが、もちろんそんなことができるはずもなく、この変化の多さが、人間のプロに勝つような強い人工知能を作る妨げになっていました。

 

ではどのようにして、アルファ碁は、世界最強のプロ棋士を上回る実力を身につけたのでしょうか。とても興味深いことに、それは人間の脳と学習をまねることによってでした。

まず、コンピュータの内部に、人工ニューラルネットワークというものをプログラミングによって作り出します。これは、人間の脳の神経回路をまねたものです。

 

人間の脳は、眼や耳の神経から情報を受け取り、それを処理し、思考して行動を決めたりして、その結果を筋肉の神経に伝えます。神経回路は多数の神経細胞からできています。この神経細胞からは多数のシナプス(信号を伝達する接合)が伸び、他の神経細胞に接続して、入力から出力までが何層もあるネットワーク構造である、脳の神経回路を作り上げています。

これと同じように人工知能のニューラルネットワークは、ソフトウェアで作られた神経細胞にあたる人工ニューロンが互いに接続されてできている多層のネットワークです。このネットワークが、ゲームの現在の状態を入力として受け取り、最終的には、どれが次の手として最善かを出力します。

 

そして、人間が親や先生や他の人から学ぶように、人工知能も、過去のゲームのデータを使って学習を行ないます。たとえば、人工知能が正しい答えを出したときには、その答えに寄与したニューラルネットワーク内の接続が強められ、間違った答えを出したときには接続が弱められます。多層のニューラルネットワークに行われるこのような学習はディープラーニング(deep learning:深層学習)と呼ばれます。このようにして、人工知能は正しい答えが出せるように最適化されます。

 

これだけの仕組みでも、たとえば、郵便番号の読み取りができたり、ベルトコンベアーから流れてくる魚の種類を判別したりすることができるようになります。

アルファ碁では、過去の人間の囲碁の対局の3000万件ほどのデータが使われ、ディープラーニング(深層学習)が行われたのだそうです。

 

しかし、この方法だけでは、囲碁のプロを超える実力を持つ人工知能はできないことが分かっていました。そこで次の段階として、自己強化学習(Self-Reinforcing)という方法が採られました。

アルファ碁の開発者は、先ほどの最適化された状態の人工知能から、それとよく似た別の人工知能を作りました。そして、それとオリジナルの人工知能との間で、何百万回もの仮想的な試合がコンピュータの内部で行なわれ、その結果をもとに、人工知能が自動的に修正されました。これが自己強化学習です。

そして、この自己強化学習のデータを、さらに別の人工知能に与えます。このようにすることで、最終的な人工知能は、多数の変化を調べ尽くすことなく、候補になる手を選ぶことができるようになります。

人工知能のイメージ図

 

このようにして作られたアルファ碁と韓国の棋士イ・セドル九段は全部で5回の対戦を行ないました。

私は結果のことが、とても気になっていました。毎回対局の時間になると、ユーチューブで行なわれていた実況中継をブラウザーに表示して、ちらちらと見ながら、バラ十字会の翻訳スタッフから送られてきた、いくつかの原稿をチェックする仕事を続けていました。

 

最初の3戦をアルファ碁がすべて勝ち、3月12日に賞金のゆくえが決まりました。

そして、テレビニュースやネットニュースで、「グーグルの開発した人工知能に人類が敗れた」というようなタイトルが飛び交いました。

しかし、囲碁で人類トップの頭脳が、ある条件下でコンピュータに敗北したことは確かですが、あまりネガティブな感想を感じることは私にはありませんでした。

というのも、先ほどご紹介したように、今から35年ほど前にバックギャモンにおいて、人間よりも人工知能が強くなって以降も、このゲームの人気が衰えることはありませんでしたし、むしろその後は、人間が人工知能を活用してゲームの研究をするようになった結果、このゲームの奥深さ、興味深さが、さらに良く理解されるようになったからです。

 

「ターミネーター」という映画がありました。この映画では、スカイネットという人工知能が、自己意識を持つようになって反乱を起こし、人類は絶滅の危機を迎えます。

人工知能の発達には、このような危険があると警告する人が、科学者を含め少なからずいます。

もちろん、最悪の可能性に備えることは、どんな場合にも必要であり望ましいことですが、神秘学の立場から哲学的に見ると、その可能性は、現時点ではありえないと私は考えています。このことについては、以前に記事を書いていますので、そちらをご参照ください。

参考記事:「アンドロイドと2045年問題」

http://www.amorc.jp/blog/?p=697

 

第3戦が終わった時点で全敗していたイ・セドル九段は、ずいぶんと気落ちしているように見えました。そして、対局後の記者会見では、韓国の多くの囲碁ファンの声援、期待に応えられなくて、ほんとうに申し訳なく思っている。プレッシャーに負けて全力を出し切れていないことを不甲斐なく思っている。今回の敗戦は人類の敗北ではなく、わたくし、イ・セドルの敗戦であると言っていました。

 

失礼かも知れませんが、33歳のほっそりとした彼を見て、私はとても気の毒に思いました。しかし、この記者会見で、関係者たちがイ・セドル九段をさりげなく励ましている様子が、ほんとうに素晴らしかったのです。

まず、グーグルの共同創始者であるモスクワ出身のセルゲイ・ブリンさんは、私も、上手ではないけれども、昔、囲碁をよく打ったことがある。このゲームが大好きで、世界最高のプロ棋士とこの場に同席できることを本当に光栄だと思うと挨拶し、イ・セドル九段の手を両手で包むような優しい握手を交わしていました。

 

そして、ディープマインド社の代表であるイギリス人のハサビスさんは、正直に申し上げれば、一秒に1万通り以上の変化を検討できるこの人工知能と、何の助けもなしにひとりで対等に戦うあなたに驚嘆しているし、とても尊敬している。私たちがここに来ている目的は、あなたから学ぶことだ。そして、この3回の対戦によってアルファ碁の能力の限界が広げられた。残りの2回の対戦も、とても楽しみにしている。この成果を長期的には、家事を助けるようなロボットの開発、科学研究におけるデータ解析、健康管理技術の向上に生かすことを考えていると言っていました。

 

また、ユーチューブの実況で英語解説を行なっていた、日本の棋士のマイケル・レドモンド九段は、素晴らしい戦いを見せてくれてありがとう。イ・セドル九段が全力を出しきれていないと私は考えていない。囲碁の歴史では、江戸時代の道策、昭和時代の呉清源という天才棋士が序盤戦の打ち方に革命を起こしたが、アルファ碁は実に素晴らしく、囲碁に第3の革命を起こす可能性がある。この人工知能とあなたとの対戦には重要な意味があると思うと言っていました。

また、韓国の棋士のひとりは、姿の見えない相手と慣れない環境で、たったひとりで戦うのは、ほんとうにたいへんなことだと思う。どうかあまり緊張せずに、残りの2局を楽しんでくださいと言っていました。

 

そして第4戦で、イ・セドル九段はアルファ碁に勝ちます。彼の笑顔を見て、私は、ほんとうに良かったと感じました。

人工知能の進歩のために、立場を越えて多くの国の方々が協力をしつつ、相手を思いやる紳士的な姿を見て、とてもすがすがしく感じました。

そして、おおげさに言えば、他のあらゆる分野でも、すべての国の人たちがあたりまえのように協力できる状況が、この世界全体に実現することが、それほど難しくないのではという希望をこの一例に感じました。

 

いかがでしたでしょうか。このイベントから感動をいただいたので、つらつらと書きつらねてしまいました。少しでも雰囲気が伝わったなら、嬉しく思います。

それでは、また。

 

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