資料室

ロバート・フラッドのバラと十字

Robert Fludd's Rose And Cross

ピーター・ビンドン

by Peter Bindon

ロバート・フラッドのバラと十字。
ニューヨーク市のハーレム地区にある
バラ十字文化センターの手描きの壁画。
写真撮影:エドガー・ワート。

 この記事では、バラ十字会オーストラリア本部の元代表であるピーター・ビンドンが、「ロバート・フラッドのバラと十字」と呼ばれている挿絵について検討します。ロバート・フラッドは、バラ十字会を擁護するためにいくつかの著作を発表していますが、そのうちの一冊、1629年に出版された『最高善』(Summum Bonum)に、このバラ十字の挿絵が用いられています。

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 ロバート・フラッドの時代より350年前には、バラ十字会の存在はすでに知られていましたが、フラッドがバラ十字会という友愛組織にどのように関わっていたのかということについては、さまざまな議論があります。しかし、フラッドがバラ十字会の哲学に精通していたことは、彼自身の著作からも、他の人々が彼について残した記録からも明らかです。ロバート・フラッドのバラと十字の挿絵には、バラ十字思想に関連する多くの象徴が盛り込まれています

 フラッドは1574年に生まれ、1637年にこの世を去りました。人生の大半をイギリスで過ごし、医者として働きましたが、6年をかけてヨーロッパ中を旅して回ったことがあり、その間に、よく似た考えを持つ人々と交流したと考えられています。彼はオックスフォード大学で学位を取り、後に医学博士になりました。しかし、患者のホロスコープ(占星術の天体配置図)を参考にしたり、ホメオパシー(訳注)に似た治療法を用いていたりしたことから、彼の医術は正統派のものでないとされていました。フラッドは、今日ではホリスティックヒーラー(訳注)と呼ばれている人でした。彼は、まず患者の心と魂を治療するべきであり、どんな種類の病気であれ、それを治療するのは次の段階であると主張していました。薬や治療に対して急進的な考えを持っていたため、医学界に受け入れられるまでにフラッドは大変な苦労をしました。しかし、最終的に彼は、英国内科医師会の一員として認められました。1617年に出版された著作『バラ十字友愛組織のための簡潔な擁護』(A Compendious Apology for the Fraternity of the Rosy Cross)は、ロバート・フラッドがバラ十字会の熱烈な支持者であったことを示していますが、自分がその一員であるとは一度も主張していません。もちろんこれは驚くべきことではありません。なぜなら当時は、自分のことをごく一般的な市民であると主張しなければ、身に危険が及んだからです。ロバート・フラッドのバラと十字は、1629年に出版された著作『最高善』(Summum Bonum)の第4部の挿絵として初めて発表されました。この本は、バラ十字会を擁護する目的で書かれた、『簡潔な擁護』とは別の著書でした。挿絵に添えられているラテン語の意味は「バラは蜂に蜜を与える」です。これはあまりにも素直な観察です。なぜフラッドは、これほど明らかなことをわざわざ言ったのでしょうか。この言葉には、表面上の意味よりも、はるかに多くの内容が込められているのです。

訳注:ホメオパシー(homeopathy):18世紀後半にドイツ人の医師ザームエル・ハーネマンが広めた治療法。「同種のものが同種のものを治す」という原理に基づく。

ホリスティックヒーラー(holistic healer):人の生活において、体と精神と心の深奥の状態は緊密に関連しており、治療にあたって、それらのすべてに取り組むことが重要であるとする治療家。

 それでは、この挿絵が何を象徴しているのかを見ていきましょう。

 「バラ」という言葉の象徴的な意味については、まるまる一冊の本になってしまうほど広範囲になりますので、ここで全体的な考察をすることはできません。しかし、バラは愛と関連しており、愛という美徳は、バラ十字思想がこの象徴で表わしている意味の核心にあたるということができます。第1に愛(Love)は、光(Light)と命(Life)とともに、バラ十字会の式典で説明される〈発現の三角形〉の頂点を占めています。第2に、キリストの言葉が一例ですが、私たちは「互いに愛し合う」ように助言されています。そうすることで、私たちのソウル人格(訳注)は、開きつつあるバラの花のように成熟していくことができます。第3に、ソウル人格を象徴する神秘学のバラは、「奉仕」を表わす十字の上で開いていきます。十字は、極めて強力な理解しやすい象徴であり、フラッドの挿絵の中の十字は、個人的な成長における苦労を表わしています。バラの木は、魂の集う庭、つまり人間社会に立っています。蜂はもちろん苦労を象徴しています。何千もの花の蜜を集め濃縮して、1リットルの蜜をたくわえるのに必要な、個々の蜂たちの苦労の総和がどれほどのものかを想像してみてください。錬金術師や治療家の苦労は、蜂たちの苦労と同じように厳しいものです。蜂という象徴は、神秘学が目指している内面の進歩は、その個人の苦労なくしては、なし遂げられないことを示しています。バラ十字会員の集団によって運ばれているバラ十字哲学の光もまた、多くの小さな光が組み合わされてできています。このことは、右下の蜂の巣箱の絵にも表わされています。植物が果実を実らせて、自体に秘められている豊かさを現わすためには、庭に蜂がいることが必要です。何らかの受粉のメカニズムの作用を受けなければ、花は実をつけることなくしぼんでしまいます。蜂は、生命が自然に受け継がれていくことを現わす永遠の象徴です。その一例として、少しも詩的でないフレーズですが、「鳥たちと蜂たち」のための活動という言葉が、生殖の遠慮がちなたとえとしてしばしば用いられます(訳注)。

訳注:ソウル人格(soul personality):個人個人の魂に付属している人格を表わすバラ十字思想の用語。魂(soul:ソウル)が最初から完全であるのとは対照的に、ソウル人格は、生まれ変わりを繰り返すことによって進歩して完全な状態へと近づいていく。

鳥たちと蜂たち(The birds and bees):鳥や蜂の習性を例にして、子供に性教育を行なう場合があることから、性に関する基礎的な知識を意味する英語の慣用句。

 フラッドの挿絵にある格子状の垣根と葡萄の木は、私たちが庭にいることを思い起こさせてくれます。「葡萄から作られたワイン」は昔から、大規模な仕事がもたらしてくれる豊かな報酬の象徴でした。このことに関連していますが、葡萄とワインは、変化をもたらす働きの象徴でもあります。なぜなら、葡萄の実を、魂に栄養を与えるワインに変化させるためには、多くの段階的なプロセスが必要とされるからです。このことからも苦労という事柄が思い起こされます。庭を実りあるものにするためには、苦労が必要だからです。庭の地面にある波のような凹凸は、容易に連想されるように、「人生の浮き沈み」と現代でも呼ばれているものを意味していると考えられます。すべての瞬間が、必ずしも楽しい時間ではないことを人は承知しています。しかし私たち人間が遭遇する逆境をものともせずに自身が示す不屈の精神と決意のおかげで、個人個人のソウル人格はさらに速く進歩していきます。

 蜘蛛は、人生で避けなくてはならない落とし穴を象徴しています。蜘蛛の巣に不注意な蜂が捕らえられるように、油断や集中力のなさ、怠けぐせや、その他諸々の悪習に、魂という軽率な庭師は捕らえられます。以上のように、ロバート・フラッドはこの挿絵に、互いに関連する多くの象徴を盛り込んでいます。彼は、バラそのものが十字の上に掲げられているということを、芸術的な手法で目立たないようにしています。十字の腕木は、太くて短い枝でできていて、それは実際の植物に見られる枝とは異なっています。間違った解釈が決してなされないように、フラッドの十字は意図的に、キリスト教会が用いている磔の十字とは全く異なるデザインにされています。それゆえに私たちは、フラッドの十字を、宗教的な象徴の十字と混同するべきではありません。この2種類の十字の間には類似点があるかもしれませんが、フラッドの十字によって私たちは直ちに、奉仕について熟考するように導かれます。奉仕が、進歩しつつあるソウル人格というバラを花開かせるのです。

 ※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラ十字」(No.146)の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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