資料室

賢者と愚者の挑戦

The Sage and the Fool

パウロ・M・ピント

by Paulo M Pinto

 この物語は、賢者と愚者の挑戦にまつわる伝説です。ある日天使が、賢者と愚者に、ある挑戦を提案しました。それはとても特別な目的地へと向かう、数々の罠とつらい仕事が待ち構えている、長く危険な探求の旅でした。天使は、この2人の男に行わなくてはならない任務について説明し、長い旅の道筋を明らかにしました。彼らの村が救われるかどうかが、旅の成功にかかっていました。天使はまた、この旅がどんなに価値があることなのか、そして、任務が果たされたときには素晴らしい報酬が与えられることも説明しました。最後の説明がもうひとつ、神から伝えられました。それは、一人だけで任務を達成しなくてはならないということです。つまり彼らは、それぞれの道を一人で歩まなくてはならないのです。賢者は愚者が歩いた道を歩むことはできませんし、その反対も同じです。しかし、もし彼らのどちらかが目的地にたどりつけば、村は救われ、多額の報奨が勝利した者に与えられることになります。両方の挑戦者が成功を手にするのを阻むような定めは何もありませんでした。もしそれぞれのやり方で両方の使者の手によって勝利がもたらされるならば、報酬はさらに積み増されることになります。

 その不思議な会合を終えると、天使は空中に消え去り、2人の男は別々の道へと出発しました。天使の言葉はまだ、彼らの心に鳴り響いていました。

 賢者はすぐにすべてを理解しました。そして激しい落胆に襲われました。彼は進むべき道を理解しており、その道が長くて困難なことがわかっていました。起こりうるあらゆる試練とそれを克服することの難しさが、賢者の有能な頭脳の中に映画のように流れていきました。彼の優れた知性は、不確実さという霧を貫き、まるで自分の心の目に自由に映し出せるかのように、時間という霧をものともせずに未来を見通すことができたのでした。それはまるで、痛みの数々や汗の一滴一滴、あちこちにできた火ぶくれや体中の痛みを感じるかのようでした。彼はそれらすべてを予想することができました。そのような能力があるため、彼は人々から知識の権威だと認められていました。彼は今回に似た旅の物語を何千回も読んだことがありました。そこで彼は、似たような旅に勇敢に立ち向かおうと試みたことがある旅団の指導者たちに助言を求めたのです。彼らから聴いた話には、苦難、挫折、痛み、孤独、恐れ、後退、そしてたびたび起こるみじめな失敗の様子が満ちあふれていました。それはまるで、彼の目の前いっぱいに広げられた、苦闘と不満を象徴する織物のようでした。

 そうした考えの重苦しさといったら、自身の筋肉からエネルギーが吸い取られていくと感じるほどでした。彼は先のことを考えると心が弱まるのを感じました。そんな不快な探求の旅は、始めると考えることさえ、ほとんど耐えることができないほどのものでした。そのうえ、彼がそうする必要もありませんでした。もし2人のどちらかが一方だけがその任務を果たしたとしても、村は救われることになるからです。賢者は、自身がとても正確に予想した苦難から逃げ出すことを決め、自らの決定を恥じて打ち負かされ、絨毯の上に崩れ落ちました。そしてその上から動くことはありませんでした。

 この個人的なドラマが展開されていた間に、愚者は、たいして考えを巡らすこともなく、身の回りの品々をまとめようとしていました。必要となるであろう基本的なものが、いくつかあるのではないかと彼は気づきました。しかし、それが何なのかは正確にはわかりませんでした。そこで彼は荷物を軽くして、事がうまく運ぶのを期待することにしました。あまり良く働かない愚者の頭には、自分が挑戦を受け入れたのかどうかさえも、よく分かっていませんでした。彼はそのことについて考えることすらしなかったのです。ただ、いくつかの所持品をまとめて、彼はすぐさま旅立ちました。天使に指示された方角へと向かって。

 彼には、この旅で何が起こるのかが、まったく分かっていませんでした。しかし彼は、そのことはあまり気にしませんでした。彼はこれまでの人生でも、計画を立てることも予想をすることも、まったくなかったのです。彼はこの旅が困難であろうことは知っていましたが、それを何かと比較する基準もありませんでしたし、予想して苦しむこともできませんでした。しかし報酬が魅力的に思われたので、彼は何のためらいもなく旅立ったのでした。

 旅の最初の数日から、すでに極めて困難なことが起こりました。道の途中には多くの敵が待ち受けていて、通り抜けるために戦わなくてはなりませんでした。そして、理解さえしていない目的地に向かって、ときにはほんの数センチずつ、苦労して進まなくてはなりませんでした。夜は寒くて邪悪であり、自分が何かの注意をひくことを避けるために、たびたび彼は動物のように洞穴に隠れなくてはなりませんでした。彼の動物としての本能は、時には仲間のようであり、時には敵のようでした。挑戦の日々は険しいものであり、その歩みは遅々としていました。数えきれないほど多くの挫折を経験しました。何度も盗賊におそわれ、道端に身を隠さなければならないこともあり、体は感覚がなくなるばかりか、硬直し麻痺しました。

 それでも彼は進み続けました。彼の計算ではすでに道のりの半分に近づいていたので、ここからの旅は少しは楽になるだろうと自分自身に思い込ませました。彼は断固たる決意で進み続けましたが、体のあちこちが痛みで不平をこぼしていました。

 そのとき、あまりよく働かない彼の頭に、いくつかの疑念がわき上がりました。もしかしたら、出発する前に賢者の意見を聞くべきだったのではないのだろうか。おそらく、もっと多くの情報を得るために村の長老たちに相談したほうが良かったのかもしれない。彼はもともと、元気は良いけれども考えの足りないタイプでした。ですから、この探求の旅のために、天使がなぜこんな間抜けな自分を選んだのかが、どう考えても彼には理解できませんでした。

 しかし、彼は考えることがあまり得意ではありませんでした。ですから、少しの時間が経つと、頭の中はまた真っ白になり、彼は立ち上がって旅を再開したのでした。

 再び敵に襲われ、さまざまな動物に追いかけられ、恐怖に責め立てられ、彼の苦難は続きました。体じゅうの痛みと心の内側からわき起こる痛み。またしても、よく働かない彼の頭が何度も不満の声を上げました。なぜ自分が?

 いくつもの地平線を過ぎ、打ちのめされるような風雨や、飢えや、体中の激しい痛みの日々がさらに続いた後に、疲れ果てて彼は地面に倒れこみました。今回の惨めさは、これまでになく辛すぎるものでした。どうしたらいいのか? どうしたらいいのか? あまりにも疲れ切って、彼はもはや探求のことも報酬のこともどうでもよくなり、村のことを考えることも、もうできなくなりました。彼の今の関心は、ぼろぼろになった体を何とか保ち生き延びることだけでした。どうしたらいいのか? どうしたらいいのか? 悲嘆にくれながら、命の炎が吹き消されてしまう前に、ただちに降参して、探求を放棄しなくてはならないと彼は悟りました。今となっては、探求を諦めることだけが正気を保つ方法だということは明らかでした。それだけが生き残るただ一つのチャンスだったのです。探求の道に留まり旅を続けることは、死か狂気を自ら招くことに他なりません。

 そのとき彼は、はたと気づきました。すでに旅のなかばをかなり過ぎていたのです。彼は、出発点よりも目的地に近いところまで来ていました。ですから、道を戻ることはもはや選択肢ではありませんでした。今、諦めて故郷に戻ることは、確実な死を意味していました。彼が生き残るただ一つのチャンスは、少しずつでも前に進むことでした。

 ですから彼はそうしました。もはや報酬を追い求めるためではなく、彼自身の正気と命を保つためだけに進みました。先へ先へと彼は歩き、さらに何度か戦いました。

 そしてついに彼は、目的地にたどり着きました。天使が約束した通り、報酬はとても素晴らしく、彼の呼び名は英雄に変わりました。やり遂げたという炎のような熱烈な感覚で、彼の体じゅうが満たされました。曲がりくねって進んでいく蛇のように、純粋な喜びが彼自身の奥深くから発し、天上へと続く通路を最後まで駆け上がっていきました。今や彼は、報酬と安らぎ、そして完全さを得ていました。しかし一番満足に感じたのは、なぜ自分が選ばれたのかを理解したことでした。

作者について

 パウロ・M・ピントは経済学者で、純粋知性科学(noetic science)と形而上学を独自に研究しており、アマチュアの音楽家でもあります。自身の研究と実践からの学びを体系化することを試みている、バラ十字会AMORCの現役会員です。彼は、妻と2人の小さな男の子、ギター一式と、スヌーピーという名のパグ犬とともにシドニーに住んでいます。

 ※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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