投稿日: 2015/07/10
最終更新日: 2024/02/13

こんにちは、バラ十字会の本庄です。

大きな書店に行くと、まず間違いなく精神世界のコーナーがありますが、この分野が日本に生じたのは1970年代の終わり頃のようです。そしてこの分野の古典と言われている本に、イギリス生まれの医師であるリチャード・モーリス・バックの書いた『宇宙意識』があります。

彼によれば宇宙意識(Cosmic Consciousness:普遍的意識)とは、人間の通常の意識を超えたレベルの意識のことであり、そして人類の精神は、単純意識から、自己意識を経て、宇宙意識へと進歩している最中だとされています。

人類全体のたどってきた体や心の進歩を、胎児や子供が個人として、人生の初期に繰り返すことはよく知られています。

人類が自己意識を持つ状態に達したのは、30万年ほど前だとされていますが、子供は多くの場合3歳の頃に、単純意識の状態から自己意識の状態へ変わります。

そして、自分と外界を区別できるようになり、誇りと恥、敬意、希望、愛と憎しみのような感情、抽象的な思考やユーモアの精神などを身につけます。アダムとイブがリンゴを食べる話は、人間が自己意識に達することのたとえだと、バックはこの著書の中で書いています。

一方、人類の大部分は、まだ宇宙意識の状態には達していないので、森羅万象に満ちている生命や秩序などを実感することができていません。これらを実感するようになると、人生に対する信頼と強い幸福感、自然との一体感、揺らぐことのない心の安定、押しつけでない高度な道徳意識などが自然に身につくとされます。

下記の記事をすでにお読みくださった皆さんは、これらが、本来の意味での「スピリチュルな進歩」と密接に関連していることにお気づきになることと思います。

参考記事:『スピリチュアルとは?本当の意味を簡単に解説、4つの実際の例、「感じる」というキーワード

源光庵の「悟りの窓」と「迷いの窓」
源光庵の「悟りの窓」と「迷いの窓」

では、私たち個人が、宇宙意識の状態に達するためにはどのようにしたらいいのでしょうか。

ひとつには、仏陀、イエス、プロティヌス、ダンテ、フランシス・ベーコン、ヤコブ・ベーメ、ウイリアム・ブレイク、バルザック、ホイットマンなど、宇宙意識を体験した人たちの残した言葉や文章に、できるだけ多く接するのがよいと、先ほどの本でバックは語っています。

また、人類の内面の進歩が進み、多くの人が宇宙意識の状態に達したとき、個人と宇宙(神)をつなぐ聖職者が必要とされなくなり、現在ある宗教は姿を消すだろうと彼は述べています。

潜在意識とは、日常的な心(顕在意識)には気づかれていない、心の働きを指します。しかし、この心の働きは、日常的な心から見たときに「潜んでいる」ように思われるのであって、「潜在」していることが本質ではないので、専門の方は、無意識もしくは下意識(subconsciousness, subconscious mind)という語を用いることの方が多いようです。

下の図は、ユング派とトランスパーソナル心理学、仏教の唯識、バラ十字哲学が、人間の意識の構造をどのようにとらえているかを表したものです。

心のもっとも表層にある意識(日常意識、顕在意識、もしくは単に意識)は、図には書かれていませんが、さらに2つに分類することができます。

外界を知覚する働きをする客観的意識と、思考や決意をしたり、過去の記憶を想起したり、未来を想像したりする主観的意識です。

人間の意識の階層

これらの日常の意識に対して、精神分析や夢分析などによらなければ、日常意識には明らかにならない心の部分が無意識にあたります。

西洋では無意識の存在は、オーストリアの心理学者ジークムント・フロイトによって19世紀末に明らかにされましたが、東洋ではそれよりも1600年ほど前に、仏教の瑜伽行唯識学派によって知られていました。

カール・グスタフ・ユングは、無意識を個人的無意識と集合的無意識に分類しました。潜在意識という語は、無意識全体を指す場合もありますし、個人的無意識だけを指す場合もあるようです。

バラ十字会の哲学でも無意識は、下意識(subconsciousness)と宇宙意識(Cosmic Consciousness、普遍的意識:Universal Consciousness)に分類されています。

そして下意識と宇宙意識は、先ほど話題にした、本来の意味での人間の「スピリチュアル」な進歩と密接に関連しています。

スピリチュアルな進歩は、人の心が、真・善・美などと呼ばれている普遍的な完全さ(宇宙意識の性質としての完全さ)を、自分の思考と発言と行動に表せるようになることであり、それは下意識を経由して宇宙意識とつながることにより伝えられるからです。

当会のフランス本部の代表であるセルジュ・ツーサンが自身のブログで、宇宙意識とスピリチュアルな進歩の関係について書いていますので、以下にご紹介させていただきます。

区切り

(バラ十字会AMORCフランス語圏本部代表セルジュ・ツーサンのブログより)

バラ十字会AMORCフランス語圏本部代表セルジュ・ツーサン
Serge Toussaint

辞書を引くとほとんどの場合、「宇宙」(Cosmic)とは、「すべての物質と現象」、「地球の大気圏の外」であるというように書かれています。それは、科学やそれに関連した分野で、この語が使われる場合の典型的な意味にあたります。

一方、何世紀も前からバラ十字哲学でもこの言葉が使われてきましたが、その場合は、物質からなる世界だけでなく、心の世界も宇宙に含まれます。また、何かを「宇宙の」(cosmic)という語で形容する場合には、それは「普遍的な」(universal)とほぼ同じ意味であり、「あらゆる所に存在する」ことや、「あらゆることに適用される」ことを表わします。

また特に、ブラフマン、「宇宙の魂」などのさまざまな名前で呼ばれている、万物を満たしている魂の性質を、この言葉は表わしています。

ガンジス河畔で経典を読む僧侶(ブラフマンのイメージ)

バラ十字哲学の見方から言うと、宇宙を構成しているのは、無数の銀河や、それを構成している恒星や惑星やその他の種類の星だけではありません。物質の世界は、壮大で驚くべき神秘的な世界ですが、宇宙が、単に物質だけからなると考えてしまうことはできません。

先ほど述べたように、宇宙は魂によって満たされています。そしてこの魂の持つ意識が「宇宙意識」(Cosmic Consciousness)と呼ばれています。宇宙意識という観念は、とても昔からありました。

たとえば、古代ギリシャの哲学者はすでに宇宙意識のことを、「エーテル」(ether)という名前で呼んでいました。そして、中世とルネサンス時代には、宇宙意識は「アーニマ・ムンディ」(Anima Mundi:世界の魂)として知られていました。

この宇宙意識という心の深奥に関わる観念は、現段階の科学では適切に扱うことができていません。

パルテノン神殿(古代ギリシャ文明のイメージ)

宇宙意識は、宇宙の魂の持つ性質ですが、宇宙の魂と同じように、形あるすべてのものと形を持たないすべてのものを満たしています。論理的な思考だけを用いて理解することは難しいのですが、源が宇宙の魂であるため、宇宙意識には完全さと全知(omniscient:すべてを知っている)という性質があります。

さまざまな爆発、銀河の移動、星の誕生と死、惑星の動きなど、宇宙を舞台にして起こる異様なできごとが多々ありますが、そのような見かけにもかかわらず、完全さと全知という宇宙意識の性質によって、宇宙空間は(有限であったとしても無限であったとしても)、整然と組織され、秩序と調和に支配されています。

宇宙意識は、万物を満たしているので、それは、すべての生き物の中にも存在しています。この地球上では、自然界を構成する3つの世界、つまり、動物界、植物界、鉱物界に生命が現れています(現在の科学では鉱物は生きていないとされていますが、鉱物にも生命の萌芽が認められます)。

この場合も宇宙意識のおかげで、これらの3つの世界は、“洗練された”法則に支配されていて、その法則の素晴らしさには、科学者も神秘家も感嘆せずにはいられません。

地球と月と星間物質(宇宙意識のイメージ)

そしてこの場合も、火山の噴火、地震、嵐、四季の乱れ、動物の移動、捕食者と餌食など、見かけ上は混乱しているように思われますが、自然界が秩序と調和に満たされているのを、私たち人間は見て取ることができます。

この地球上で最も進歩した生き物は人間であることから、人間には宇宙意識が最もはっきりと現れていますし、人間を通して、宇宙意識のさまざまな性質が最も良く表現されています。

バラ十字会が提供している学習コースで説明されるように、宇宙意識は人間の中では、4つのレベルの意識として表現されます。客観的意識、主観的意識、下意識、宇宙意識です。

そして、私たちの誰もが、宇宙意識の完全さと全知という性質を実際には持っているのですが、“そのことに気づき”、自分の思考と発言と行いに、この完全さと全知を表わすことは、一人一人の人間に任されています。

そして、それがうまくできるようになることが人間のスピリチュアル(spiritual:内面的な進歩)であり、スピリチュアルな進歩をなし遂げることが、私たち人間がこの地上に存在することが正当化される理由にあたると考えることができます。

バラ十字会AMORCフランス本部代表
セルジュ・ツーサン

区切り

バラ十字会のご提供している通信講座では、受講されている方々に宇宙意識を体験していただくことを、長期的な目標のひとつとしています。
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執筆者プロフィール

セルジュ・ツーサン

1956年8月3日生まれ。ノルマンディー出身。バラ十字会AMORCフランス本部代表。多数の本と月間2万人の読者がいる人気ブログ(www.blog-rose-croix.fr)の著者であり、環境保護、動物愛護、人間尊重の精神の普及に力を尽している。本稿はそのブログからの一記事。

本庄 敦

1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学(mysticism:神秘哲学)の普及に尽力している。詳しいプロフィールはこちら:(https://www.amorc.jp/profile/

参考文献:
1998,岡野守也,「唯識」,日本放送出版協会

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