こんにちは。バラ十字会の本庄です。
全国の多くの場所と同じように、東京板橋でも猛暑が続いています。ちょっと外を歩いただけで汗が噴き出してきます。
厳しい陽気ですが、お変わりはありませんでしょうか。
さて、ある読者の方から、錬金術についてもっと知りたいとリクエストをいただきました。
ご覧になった方も多いことと思いますが、小説『ハリー・ポッター』シリーズと、そこから作られた映画は、とても楽しい作品でした。そして、あちらこちらに錬金術にまつわる事柄が出てきます。
特に、第1作の『ハリー・ポッターと賢者の石』では、伝説の錬金術師ニコラス・フラメルと賢者の石が話題に上ります。賢者の石とは、錬金術師たちが作り出そうとしていた究極の物質です。

いったい、錬金術とは何でしょう。このことを考えるときに、心に留めておくのが重要なことがひとつあります。
現代でこそ科学は、さまざまな分野に分れていて、たとえば、医学と化学と薬学と生理学は、別の人たちによって研究されています。ですから、たとえば生理学者は、どれほど人体で起こっていることに詳しくても、患者の治療を直接行なうことはありません。
ところが、昔はそうではありませんでした。たとえば、古代ハワイでカフナと呼ばれていた人たちは、病を治す医者として尊敬されていましたが、それだけでなく、法律家、建築家、科学者、教育者、農学者でもあり、航海術に長けた船乗りでもありました。
同じように、古代ギリシャの有名な哲学者アリストテレスは、医者であり哲学者であるばかりか、物理学や博物学を深く研究していましたし、国家統治の専門家でもあり詩人でもありました。
そして、スーパーマンのようにさえ思われるこれらの万能の人たちが、哲学者とか賢者とか、神秘家と呼ばれていたのです。
錬金術師にも、同じことが言えます。錬金術師と聞くと、卑金属(銅、鉄、亜鉛、鉛などのさびやすい金属)から黄金を作ることだけを目的として、フラスコやビーカー、すりこぎや炉や蒸留器が雑然と散らかった暗い部屋で、怪しい化学実験を行なっている人を私たちは思い浮かべがちです。

しかし、先ほどご説明したように、中世では科学の分業は進んでおらず、これらの人たちにとっては、物質を研究することも、人の体を治療することも、自身の内面を進歩させることも、異なることだとはあまり意識されていなかったのです。
そのため、錬金術師たちが作ろうとしていた「賢者の石」(philosopher’s stone:哲学者の石)は、究極の物質であるとも、霊薬エリクサー(elixir)でもあるとされ、卑金属を純金に変えるばかりでなく、不老不死の作用を持つとされていました。
先週、アメリカのカリフォルニア州サンノゼ市のバラ十字公園を、仕事で訪れる機会がありました。そして、この公園内にある古代エジプト博物館で、特別展「錬金術」を見ることができました。
この展示で説明されていたのですが、錬金術とは、もっとも広い意味で言うと、成長と変化の背後にある普遍的な原理を明らかにしようという研究のことでした。
物質だけでなく、人の体も心も、成長と変化をします。錬金術師たちは、それらのすべてに関わる根本的な原理を探ろうとしていました。以前にも書きましたが、
(参考記事:「エメラルド・タブレットとは」)
このような錬金術師たちの業績から、現代の薬学や化学が生じたのです。
そのような事情から、卑金属から純金を作るという目標は、物質の研究にはとどまらず、純粋な生命の根元を探す生物学的な目標でもありましたし、不純な心を純粋な心に変えるという道徳的な目標を持つ心理学的な研究でもありました。
そして、この内面についての錬金術は、特に「精神の錬金術」(spiritual alchemy)と呼ばれています。
たとえば、ハインリッヒ・クンラートというドイツの錬金術師が書いた『永遠なる叡智の円形劇場』(1609年)という本には、錬金術師の部屋の奇妙な絵が描かれています。

部屋の中央には乱雑に散らかった机があり、その左にはテントで区切られた一角があります。それは祈りと瞑想を行なう場所で、「オラトリウム」と呼ばれます。
キリスト教の修道会では、祈りを行なうために特別に設けられた場所を今でもオラトリウムと呼ぶそうです。
一方、机の右側には、カーテンで区切られた実験ブースのような一角があり、実際の作業を行なう場所という「ラバラトリウム」という名がつけられています。このラバラトリウムは、現代英語の実験室「ラボラトリー」(laboratory)の語源になっています。
つまり、錬金術師というのは、祈りと瞑想によって自身の心を完成に近づけようとする修道者でもあり、物質の研究家でもあったわけです。
錬金術は、現代の英語では「アルケミー」(alchemy)です。色々な説があるようですが、この語のもとになったのはアラビア語の「アル・ケミア」(al-khemiya)で、文字通りの意味は「エジプトの黒い土」です。
何で「土」なのかはよく分かりませんが、要するに錬金術が最初に起こったのは古代エジプトで、そこから、地中海沿岸、アラビア、ヨーロッパ、インド、中国へと広がっていったのです。
先ほどご紹介した古代エジプト博物館の「錬金術」展によれば、卑金属から純金を作り出す手順は7つに分れます。1焼成、2溶解、3分離、4結合、5発酵、6蒸留、7凝結です。
お聞きになったことがあるかもしれませんが、人生が「るつぼ」にたとえられることがあります。つまり、生きていて私たちが出くわす苦労は、るつぼで物質が受けるさまざまな作用のようなものであり、それによって不純な心が、純粋な心へと鍛えられていきます。
このように考えると、卑金属を純金に変えようとして錬金術師たちが編み出した7つの手順は、同時に、人間の粗野な心を洗練されたものに変えるプロセスを表わしていることになります。
日本の禅宗には、悟りを完成する道筋を表わした十牛図というものが伝わっています。錬金術の7つの手順と十牛図の似ている点について調べると、人の心の成長のメカニズムに関わる、興味深い洞察が、きっと得られることでしょう。
先ほどご紹介した特別展「錬金術」では、この7つの段階が物質的な意味と精神的な意味で、どのような作業を表わしているのかということが説明されていました。
1.焼成(Calcination)とは、熱したり乾燥させたり砕いたりして、試料を灰や粉にすることを意味します。人の心に当てはめると、エゴを乗り越え、本来の自己にあたる魂の性質を明らかにすること、既成の習慣を壊すことにあたります。また、生命力(spirit)の男性的な性質を解き放つことにあたります。焼成は〈黒の段階〉(Black Phase)の始まりだとされます。
2.溶解(Dissolution)とは、灰や粉になった試料を、水や酸などの溶液に溶かすことです。精神的な意味では、ソウル(soul:魂)にある女性的な性質を解き放つことにあたります。溶解は〈黒の段階〉(Black Phase)の終わりだとされます。
3.分離(Separation)とは、溶液をろ過したり沸騰させたりして、基本的な成分だけを分離することを意味します。内面的な意味では、生命力とソウルの両方の性質を洗練し、望ましくないものを捨て去ることにあたります。分離は〈白の段階〉(White Phase)の始まりだとされます。
4.結合(Conjunction)とは、まったく異なる2つの要素を結合して、新しい物質を得ることを意味します。精神的な意味では、分離の過程で洗練した2つの性質を和解させて結婚させることにあたります。結合は〈白の段階〉(White Phase)の終わりだとされます。
5.発酵(Fermentation)の過程は、密閉された容器の中で、植物的な要素を死滅させ分解することから始まります。その後バクテリアの働きで、糖分が気体成分と油性成分とアルコールに変化します。アルコールは植物のスピリット(精髄)にあたり、油性成分は植物のソウル(魂)にあたります。植物の死骸は底に沈んでいきます。精神的な意味では、心の中の能動的な要素と受動的な要素を調和させることで、肉体と生命と魂の力を解き放って活性化させることにあたります。発酵は〈赤の段階〉(Red Phase)の始まりだとされます。
6.蒸留(Distillation)とは、溶液を沸騰させて、その蒸気を集めて液化することです。人の心にあてはめると、先ほどのプロセスで活性化された肉体と生命と魂の力から、それらを汚染しているものを取り除くことにあたります。これらの3つの力はこの過程によって、さらに活性化されます。蒸留は〈赤の段階〉(Red Phase)の終わりだとされます。
7.凝結(Coagulation)とは、液体から最終的に目的とされている固体を作り出すプロセスのことです。このプロセスによって、それ以上純粋にすることのできない究極の物質である「賢者の石」が得られます。精神的な意味では、〈赤〉(生命力)と〈白〉(魂の力)が結合することで、心の理想的な状態が実現されるプロセスにあたります。
長くなりましたので、今日の話はここまでとさせていただきたく思います。まだ私も、これらの情報を十分に消化しきれていません。これからじっくりと取り組んで、何か有意義な話がご紹介できるようでしたら、改めてお伝えさせていただきたいと思います。
今回は、かなりとりとめのない話でしたが、少しでも興味深いと、あなたにお感じいただける点が含まれていたなら嬉しく思います。またよろしくお付き合いください。
それでは、また。
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