こんにちは。本庄です。
バラ十字会の世界総本部の会議があり、日曜日からモントリオールの郊外にある研修施設に来ていて、そこで、このブログを書いています。こちらはかなり寒く、朝にはもう霜が降りています。
いかがお過ごしでしょうか。
窓からはカエデの林が見え、その向こうには湖が見えます。
会議の合間に散歩することができるのですが、林にはリスがたくさんいます。5種類ぐらいがいるとのことなのですが、先ほど見かけたリスは、おなかが白で背中がこげ茶で、尻尾が太くてふさふさとしていました。すばしっこくて、そんなことは実際にはできないのですが、もし尻尾にさわることができたら、どんな感じがするでしょうか。やわらかいけれどごわごわとした、忘れられないような手触りに違いありません。
この季節のカナダからは、渡り鳥の雁(がん)がヨーロッパに向けて旅立ちます。編隊を組んで、鳴き声を交わし合っているのが聞こえてきます。カモメと猫の中間のような声で、乾いた空に響くと、ちょっと悲しげに感じます。
林のカエデの葉は、かなり大ぶりで、手を広げたときほどの大きさがあります。緑や黄や赤と、林はまるでパステル画のようです。
風のないときには、これらの木々が湖に映り、鏡のような湖面は溶かしたチョコレートのようになめらかで、じっと眺めていると、心が溶かされるような感じがします。
リスの尻尾の手触りは想像でしかありませんが、雁の鳴き声を聞いたり、湖面に映る木々を見たりしたときには、それぞれに独特な「感じ」があります。
このような感じは「クオリア」と呼ばれています。私たちが外界から光や音などを受け取ると、それは、コンピュータに入力されるような無味乾燥な情報ではなく、ある「感じ」を伴った心(意識)の体験になります。
さまざまな病気の診断に使うために、脳の内部での活動をリアルタイムでイメージにする方法がとても進歩しました。また、人工知能の開発も貢献して、脳がどのように情報を処理したり記憶したりしているかが、細かく解き明かされるようになってきました。
しかし、心が体験する「クオリア」の正体は何なのか、どのように生じているかということは、脳の情報処理や記憶のしくみを解明するよりも、はるかに難しい問題であることが分かっています。
今から20年ほど前に、オーストラリア出身の哲学者デイヴィッド・チャーマーズは、この問題を「意識のハード・プロブレム」(Hard problem of consciousness)と名付けました。
そして、クオリアは、脳細胞の働きで起こっている電気信号や化学物質の活動だけでは説明することができないということを示しました。
つまり、おおまかに言えば、この世に物質ではない何かがあって、それが原因となって人の心が生じていると、彼は考えています。
バラ十字会の神秘学(mysticism)では、このことを次のように考えています。この世界は主に2つのエネルギーからできています。ひとつは「スピリット」(spirit)と呼ばれるエネルギーで、物質はすべてこのエネルギーからなります。
物理学の歴史に詳しい方は、20世紀の初めにアインシュタインが、物質とは実はエネルギーが姿を変えたものであることを突き止めたことをご存じだと思います。スピリットとはまさにこの物質のエネルギーにあたります。
そして、もうひとつのエネルギーは、「ソウル」(soul)と呼ばれています。魂にあたるエネルギーで、新生児が生まれて最初の息を吸ったときに、人の体に宿ると考えられています。
先ほどの湖のことを思い出してください。あたりまえのことですが、水面は、空気と水という2つの別のものの境界にあたります。
そして、難しいことだとは思いますが、物質と心という2つの別のものの間にある境界を思い浮かべてみていただきたいのです。この水面にはある理由で、いつも小さなさざなみが立っているのですが、私たちが何かを見たり、聴いたり、何かを触ったりしたときには、湖に石を投げ入れたときのように、水面には、このさざなみとは別の波紋がひろがります。この波紋が感覚にあたり、この波紋には、独特な「質感」であるクオリアが伴います。
この世界に物質以外の何かがあるという考え方は、哲学の世界ではあまり人気がないようですが、先ほどご紹介したチャーマーズのような最先端の有名な研究者が、バラ十字会の神秘学と似た考え方をしているのは興味深いことです。
いかがでしたしょうか。今回は、最近の哲学とバラ十字会の、心についての考え方を、おおまかにご紹介させていただきました。興味深い点があったと、あなたに少しでもお感じいただけたなら、心からうれしく思います。
それでは、また。
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