ヒューマニズムとは何か、その意味
こんにちは、バラ十字会の本庄です。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
今回の話題はヒューマニズム(humanism)です。ヒューマニズムとは何を意味するのでしょうか。この語は、人間を意味する「ヒューマン」(human)と、行動・主義・理論などを表す語尾の「イズム」(-ism)からできており、主に2つの異なる意味を表すために用いられています。ひとつは「歴史上に実際に起こった運動」であり、もうひとつは「ヒューマニズムの精神」です。
歴史上の運動としてのヒューマニズム
人類の歴史には「ヒューマニズム」と呼ばれる運動が何回か起こっています。その中でも最も有名なものは、古代ギリシャとローマの文化と芸術を見直そうという14~16世紀のヨーロッパで起こった運動です。この意味のヒューマニズムは人文主義、人間主義などと訳されます。
この運動はカトリック教会の古い学問に対抗して「もっと人間らしい学問と芸術」を取り戻そうとしたものです。
当時のカトリック教会の考えでは人間は原罪を背負って生きている堕落した存在でした。それに対してヒューマニズムを信奉する人たちの間には、人間の本来の性質は善であるとする傾向がありました。
イタリアの詩人で学者のペトラルカは、古代ローマの詩人のウェルギリウスやホラティウスの写本を集めて研究することによって、理想的な人間はどのようであるかを突き止めようとしました。
下の絵画は、16世紀のブラバント公国(現在のベルギーとオランダ)の画家のピーテル・ブリューゲルが描いた『農民の踊り』です。
それまでの絵画では、聖書の一場面とか、偉人や聖人の肖像ばかりが描かれていたのですが、ブリューゲル家の画家たちは、自然や農村の風景や花や、人々の生活を油絵で描くことを始めました。
参考記事:『四大元素とブリューゲル』
宗教的な題材よりも、実際の人間や自然の姿を描くことを芸術家の使命だと考えたのだと思われます。
17世紀になるとヒューマニズムは科学と結びつくようになります。フランスの哲学者デカルトは、神を認識することができる「恩寵の光」によってではなく、人間は自分に備わっている「自然の光」(自然界の事物を認識する能力)を用いることで、より良い生き方をすることができると考えました。
18世紀になると、人間の認識の能力と理性を重視し尊重する考え方は、哲学だけでなく社会、政治、経済にも広がり、科学的な合理性を極端に重視する「啓蒙思想」と呼ばれる運動が生じます。
たとえば啓蒙思想の哲学者の中には、世界は機械仕掛けのカラクリのように自動的に動いているので、人間の自由意志は幻想であると唱える人も現れました(機械的世界観)。
それに対して18世紀の後半のドイツには機械的世界観に対抗して、「新ヒューマニズム」という、古代ギリシャをお手本にして人間らしさを取り戻す運動が起こります。この運動にはレッシング、ゲーテ、シラーなどが関わっています。
デカルトとゲーテは当時のバラ十字思想と深く関わっていますので、ヒューマニズムの運動とバラ十字会には深い関わりがあることになります。
参考記事:『デカルトの心身二元論とは?他説の例と合せてわかりやすく解説』
参考記事:『ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテと神秘思想、主な作品の紹介、テンプル騎士団』
ヒューマニズムの精神
以上のような歴史上のヒューマニズムは大まかに言えば、人間的でない何らかの傾向に対する反動として起こった「人間らしくあろうとする」運動ですが、「人間らしく」の意味は、それぞれでかなり異なっています。
一方で、すべての人間は尊重されるべきだという考え、人類全体が幸せであることを願う精神のことも「ヒューマニズム」と呼ばれます。この意味の場合には、明確化するために「ヒューマニタリアニズム」(humanitarianism)という別の語が用いられる場合もあります。この意味でのヒューマニズムは、人道主義と訳されます。「博愛主義」もほとんど同じ意味です。
ですからこの意味でのヒューマニズムを信奉する人は、戦争や残虐行為や、あらゆる貧困に反対します。人間としてあたりまえの考え方だと思われるでしょうか。
しかし世界のニュースを見ていると皆さんもお感じのことと思いますが、すべての人にこのヒューマニズムの精神が行き渡っているわけではありません。
そしてそれを説明する理論もあります。スパイラル・ダイナミクスという進化心理学の理論によれば、個人の心理学的な発達段階は、人類の歴史の心理学的な発達をなぞるように進んでいきます。そして現在の世界には主に次の4~6の段階の人がいて、互いに争っています。
4.(神話的秩序の段階)自分と同じ神話(宗教)を共有している人たちだけが幸せであること願う人たち
5.(科学的達成の段階)人類全体が幸せであることを願う人たち
6.(感受性豊かな自己の段階)すべての生きものが幸せであることを願う人たち
どうでしょうか。世界や日本の現状に照らして、少しの間、このことについて考えてみていただきたいのです。かなり納得のいく考え方なのではないでしょうか。
もしこの説が正しいとすれば、ヒューマニズムの精神とは、心理学的な発達段階が5段階以降に達した人たちの特徴にあたることになります。
参考記事:『胎児と子供は、人類の歴史を繰り返す』(前編)
地球上のすべての人の幸せを願う精神
さて、駆け足でヒューマニズムの意味を説明してきましたが、ここからは第2の意味、つまりヒューマニズムは、地球上のすべての人の幸せを願う精神を意味するということで話しを進めましょう。
そして、ヒューマニズムを信奉し実践する人がヒューマニストです。
発展途上国では餓死する子供たちが今でもたくさんいるにもかかわらず、先進諸国で食べ物が大量に無駄にされていることがおかしいと考える人はヒューマニストです。
世界の紛争地域で、幸せな生活どころか、多くの人の身の安全が確保されていないことに我慢がならないと感じる人はヒューマニストです。
当会のフランス代表が、自身の人気のブログで、この意味のヒューマニズムについて書いています。その記事を翻訳しましたので、ご紹介させていただきたいと思います。
記事:『ヒューマニズムについて』
バラ十字会AMORCフランス語圏本部代表セルジュ・ツーサン
人間の尊厳を尊重するヒューマニズム
バラ十字会では、人の心の深奥にある崇高さ(スピリチュアリティ)を重視することに加えて、人間の尊厳を尊重すること(ヒューマニズム)を多くの方々に訴え続けています。
2001年に当会が発行したマニフェスト(宣言書)には次のように書かれています。
「ひとりひとりの人は、全人類という身体を構成する、欠かすことのできない細胞にあたると私たちは考えています。この原則に基づいて、生まれた国や住んでいる国家に関係なく、すべての人が同じ権利を持つべきであり、同じ敬意が払われるべきであり、同じ自由を享受するべきであると私たちは考えています」。
このようなヒューマニズムは、私たちの会自体に具体的な形で表れています。当会には、あらゆる人種、あらゆる国籍、あらゆる社会的地位、あらゆる宗教の男女が属しているからです。
私たち人間は誰もがソウルメイト
すべての人は兄弟姉妹です。私たちすべての血管には、ほぼ同じ血液が流れており、遺伝子の構造も同じであり、人類という同じ生物種に属しています。
すべての人の体はほとんど同じです。それに加えてバラ十字思想の見地からいうと、私たちは誰もがソウルメイトなのです。
なぜなら、すべての人の魂は同じ源から発しているからです。より明確に言えば、個々の人に宿っている魂は、「普遍的ソウル」(Universal Soul:宇宙の魂)という樹木から分かれ出た枝にあたります。
この普遍的ソウルは、知性であり意識であり、エネルギーでもあり影響力でもあり、オーバーソウルとか、神とか創造主と呼ばれることもあります。
以上が意味しているのは、人類は本質的には一体であり、宇宙という崇高な源に由来しているということです。
親近感という生物学的な本能
もちろん多くの人は、自分と同じ国、同じ宗教、同じ政治思想、同じ考え方の傾向、同じ文化習慣、同じ美的感覚の人に親近感を覚えます。
すべての人には、同類の人と集まって群れを作る生物学的な本能があるからです。このような傾向は無理もないことで、それ自体が否定的されるべき事柄ではありません。
しかし、自分と異なった考え方や生き方をしている人を認めなかったり、さらに悪いことに、憎んだりするとしたら、それは異常なことであり、間違っているとさえ言うことができます。他人に対してそのように振る舞うことは、人間尊重と寛容の精神が欠けていることを明らかに意味します。
どの人も憎まないという現実的なスタート地点
イエス・キリストや、過去の他の偉大な人たちは、すべての他人を愛しなさいと命じました。キリスト教の信者であろうとなかろうと、ヒューマニズムがこの言葉に強く表われているのを否定することはできません。
しかし、この理想にほんとうに沿った生き方をすることは、誰にとっても容易なことではありません。ですから、無条件で絶対的な愛をすべての人に注ごうと努力して、かえって、独りよがりや偽善に陥ってしまうよりは、どのような人も憎まないというところからスタートする方が良いように思います。
一見矛盾しているように聞こえるかも知れませんが、憎しみを一掃するということは、普遍的な愛へと向かう大きな一歩であると考えられます。
スピリチュアリティとヒューマニズム
スピリチュアリティ、つまり心の深奥にある崇高さを追求することは、私の人生にとって不可欠なことですが、スピリチュアリティの追求とヒューマニストであることのどちらかを選ばなければならないとしたら、私はヒューマニストであることを選びます。
すべての人にとって、最も優先して学ぶべきことは、自分の近くにいる人を愛すること、もしくは、愛するとまではいかなくても、少なくとも、すべての違いを乗り越えて尊重することではないでしょうか。このような愛や尊重がなければ、人類が平和と調和に満ちた世界を築くことは決してできないでしょう。
一方で、スピリチュアリティという指針のもとで、人間尊重の精神が発揮されることが真の理想だとも私は考えています。なぜなら、心の深奥にある崇高さを追求することによって、物質を超越した気高さがヒューマニズムに加えられるからです。このような気高さは、無神論や、ましては物質主義からは、決して生じることがない要素です。
バラ十字会AMORCフランス本部代表
セルジュ・ツーサン
上の記事で紹介されていた「普遍的ソウル」について書いたブログ記事があります。ご興味のある方はこちらもどうぞ。
関連記事:『宇宙の魂について(その1)』
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執筆者プロフィール
セルジュ・トゥーサン
1956年8月3日生まれ。ノルマンディー出身。バラ十字会AMORCフランス本部代表。 多数の本と月間2万人の読者がいる人気ブログ(www.blog-rose-croix.fr)の著者であり、環境保護、動物愛護、人間尊重の精神の普及に力を尽している。
本庄 敦
1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学の普及に尽力している。
詳しいプロフィールはこちら↓
https://www.amorc.jp/profile/
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