こんにちは。バラ十字会の本庄です。
東京板橋では、朝晩がとても過ごしやすくなりました。
いかがお過ごしでしょうか。
さて、イースター島にある巨石の遺物や、ストーンヘンジ、日本でいえば、縄文時代の火焔土器、土偶などを見て、次のようにお感じになったことはないでしょうか。このような太古の時代の人たちの世界のとらえ方は、現代の私たちとは、とても異なっていたのではないだろうか。
ミルチャ・エリアーデというルーマニアの民俗学者の説によれば、現代人は、観念を操作して理性によって世界を理解しているのに対して、太古の時代の人たちは、イメージ(ものの具体的な姿)とその象徴的意味を用いて、世界をとらえていました。
やや分かりにくいでしょうか。ご説明のために夢を例にとります。
とても意味深長に感じられる夢を見た経験が、あなたにも、おありではないでしょうか。何か、とても奇妙な事物が登場した夢です。
たとえば、私が以前に見た夢では、黄金に輝くホルンを演奏する3匹の不気味なタヌキが、暗い道端に並んでいました。酒瓶をぶら下げた例の置物のような色と姿をしたタヌキなのですが、生きているし、輝くホルンを抱えているのです。
こう書くとユーモラスに思えてしまうかもしれませんが、歩いている道は暗くすさんだ感じで、恐ろしい夢でした。目が覚めたとき、このタヌキはどのような象徴的な意味を帯びているのだろうと、とてもいぶかしく思いました。
これは単なるつまらない一例ですが、おそらくこの夢と同じように、古代人が周囲の世界に見たあらゆる事物は、現実の事物でありながら同時に象徴であり、古代人の心の中は、象徴の意味に満ち満ちていたのだと思われます。
そのため、現代に生きる私たちにも、夢を見ているときなどに、先祖返りのように古代人の心の働き方が再現されることがあるのでしょう。
スイスの心理学者カール・ユングは、このような象徴の多くが、地域や文化にかかわらず、人類全体で共通していることを発見し、普遍的無意識という考え方を提唱しました。
つまり、すべての人に共通する潜在意識があり、この潜在意識は、人類の長い歳月の体験の積み重ねによって作り上げられて、世代を通じて伝え続けられていると考えたわけです。
話がやや難しくなりましたが、要するに、人類の歴史では観念や理性によってものごとをとらえるようになる以前は、イメージ(物や生物の具体的な姿)や象徴によって世界を理解してきたわけです。
そのため、私たち現代人でも、心の奥深くはいまだに、言葉や論理よりも、イメージや象徴によく反応します。
ちなみに、バラ十字会が提供している神秘学の通信講座では、イメージや象徴を用いるさまざまな実習が紹介されます。それは、直感などの心の奥深くの働きを刺激するためです。
現代人の多くは、心の奥深くの部分があまりうまく働いておらず、それが、人生という貴重な機会を生き生きと体験する妨げになっています。
縄文文化を深く研究したドイツの民族学者ネリー・ナウマンによれば、古代人にとって極めて重要だった象徴のいくつかは、死と再生を表しています。
現代人と同じように、古代の人たちにとっても死への恐れは切実な問題だったことでしょう。
彼女は世界中の遺跡、遺物を研究した結果、古代の人たちは、死と再生を表す象徴を崇拝することでこの恐れから逃れようとし、それが原始宗教の発生につながったと考えています。
このような象徴の代表的なものに、月、ヘビ、カエルがあります。月は満ち欠けをし、ヘビとカエルは脱皮をするので死と再生の象徴になりました。
日本の縄文時代の遺物には、直接間接に、この3つを表したものが多く含まれることが知られています。
月、ヘビ、カエルという3つの象徴に付きまとうのは、暗い夜のような印象でしょうか。一方で、死と再生を表しているけれども、昼の明るい印象を持つ象徴もあります。
その代表例は花です。世界各地で古代の人々は、花に象徴としての意味を与えてきました。以下にそのうちの3つをご紹介したいと思います。
1.ハス
私は見たことがありませんが、ハスの花は日の出とともに開き、日没とともに閉じるのだそうです。そのため古代エジプトでは、ハスが太陽を象徴するようになりました。「昇る太陽」すなわち復活のシンボルであるホルス神が、ハスの花の中から生まれ出てくる図案を、古代エジプトの遺物の多くに見ることができます。
エジプトは、古くはナイル川の上流と下流で別々の国でした。そのうちの上エジプトの象徴がハスで、下エジプトの象徴はパピルス草でした。この2つの国が統一されると、この2つの植物が組み合わされた図案を統治者が用いるようになりました。
ハスは汚い泥と汚水の中から出ていても、影響されることなく、水面上に汚れなく清らかな花を咲かせることから、インドでは原初の混沌の暗闇から創造された秩序ある宇宙を表しています。
古代インドの「ブラーフマナ」という書物には、創造者とともに、宇宙を象徴するハスが、この世に最初に現れたとされています。
その影響だと思われますが、インドでも日本でも仏陀の像の多くは、ハスの台座の上に立ったり座ったりしている姿で表されています。
2.ユリ
ヘブライのカバラの書『ゾーハル』(光輝の書)には、ユリの花を取り巻いている13枚の葉が、神の持つ13の性質にあたると書かれています。
ヘレニズム時代のエジプトのある文献には、「私は〈光〉のユリから生まれた純粋なユリである。私は啓示の源であり、永遠の美へと通じる生命である」と書かれています。
ギリシャ神話では、ゼウスの妻であるヘラの母乳から白いユリが生じたとされています。
このように、ユリは純粋さの象徴でした。
その影響だと思われますが、キリスト教では、聖母マリアに受胎を告知する天使は多くの場合に、ユリを手に持った姿で描かれます。
フランス王室の紋章は「フルール・ド・リス」と呼ばれるユリの花の図案ですが、その起源は古代エジプトのアンサタ・クロスだと言われています。
アンサタ・クロスとは上部が輪になった十字で、自然界のエネルギーにはプラスとマイナスという2つの極性のものがあるということを象徴しています。
3.バラ
古代エジプトで、バラは母なる大地の神イシスの花だとされ、再生の象徴でした。
古代ユダヤ教の文書「ハッガーダー」には、人間が堕落する以前、バラにはとげがなかったという物語が書かれています。
ヘブライ人は、バラが楽園を象徴していると考えていました。
ギリシャ神話では、バラは女神アフロディーテの花だとされています。
また、神々の饗宴でエロスが酒杯をひっくり返したため、不死の酒ネクタルがかかって、それまでは白かったバラの花が、赤色になったとされています。
英語で「バラの下で」(under the rose)という慣用句は「内緒で」を意味しています。その元になったのはラテン語の「スブ・ロサ」(sub rosa)ですが、中世のさまざまな神秘学派で、バラが長い間沈黙の象徴だったことに由来しています。
神秘学派の秘密の集まりでは、会合が秘密であることを出席者に思い起こさせるために、天井からバラの花がつり下げられていたのだそうです。
バラ十字会の哲学では、その名の通り、バラが重要な象徴になっています。たとえば、16世紀にドイツのバラ十字会の代表であったミヒャエル・マイヤーは自身の本に「『哲学の庭』にはバラが咲き乱れている」と書いています。
バラ十字会を表す象徴は、開きつつあるバラが中央に配置された十字ですが、この十字は人体と人生での経験を象徴し、バラは、人生経験によって進歩していく人のソウル(魂)を表しています。バラの花が開きつつあることは内面的な進歩を象徴し、バラの花の香りは、進歩し洗練された人格から周囲に広がる喜びを表しています。
ルドルフ・シュタイナーは、内的な目覚めを引き起こすために、バラ十字の象徴をできるだけ生き生きと思い浮かべる実習を自身の著作で勧めています。
椅子に座って、背筋を伸ばし、何回か深呼吸してリラックスした後に、これらの花と、その象徴的な意味をひとつずつ思い浮かべてみてください。
これらのイメージと象徴的意味によって、心の奥深くが刺激されるのが感じ取れることと思います。もしかしたら、遠い過去の思い出などが、よみがえってくるかもしれません。
今日は、この辺りで。
またお付き合いください。
参考記事:『人類と子供の心の進歩の段階』
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