こんにちは。バラ十字会の本庄です。
東京板橋では、快晴だった昨日とは打って変わって、朝から雨が降り続いています。
いかがお過ごしでしょうか。
3年ほど前のことですが、このブログでエメラルド・タブレットについての記事を書いたことがあります。それ以降、何人かの方から、感謝の言葉と、もっと詳しく知りたいというご要望をいただいていました。
そこで今回は、錬金術についてのこの話題を再び取り上げたいと思います。
錬金術と聞くと、なんだか怪しいと感じる方も多いことと思います。苦労しないでお金を儲ける詐欺まがいの方法というような意味を連想される方もいます。
しかし、古代エジプトで生じ、長い歴史を持つこの分野に携わっていた人たちの大部分は、極めてまじめな研究者たちでした。また、この研究から現代の化学と薬学が生まれました。
錬金術について理解するためには、次のことを考えに入れる必要があります。さまざまな学問が個々の分野に分かれたのは、比較的最近になってからのことであり、それまでは、たとえば哲学、政治学、医学、化学、占星術や宗教の研究などは、同じ人が行っていたのです。
自然哲学者として有名なあのアイザック・ニュートンも、物理学や数学だけでなく、錬金術や神秘学(mysticism:神秘哲学)の研究者でした。
参考記事1:『アイザック・ニュートンと太古の神殿』
参考記事2:『アイザック・ニュートンと錬金術と賢者の石|最後の魔術師と呼ばれた理由も解説』
専門家によれば、錬金術の根本的な考え方として次の2つを挙げることができます。
1.自然界では、不完全なものは完全なものに進化していく
2.人間は自然界をまねて、それと同じことを行うことができる
たとえば錬金術師たちは、自然界では、錫や鉛のような不完全な金属が、徐々に進化して、金や銀のように完全な金属が生じたと考えました。
そして、人間には自然界と同じことができるので、卑金属から金や銀が作り出せると考え、その方法を研究しました。
また彼らは、人間は、自然界で利己的な不完全な状態から徐々に進歩して、賢者のような完全な状態になると考えました。
そして、どのようにして、そのような人格の向上を促し、確実にするかということを研究していました。
また、病気とは不完全な状態であり、健康とは完全な状態だと考えました。自然界では多くの場合、病気を健康に変える自然治癒という現象が起きるので、錬金術師たちは、それと同じことを人の介入によって実現する方法を探していました。
ですから、錬金術師たちは、自然界というシステムを研究すると同時に、卑金属から金や銀を作り出そうとし、人格を向上させるための方法を試し、エリクサーと呼ばれる万能薬を調合しようとしていました。これらのすべては錬金術師たちにとって、ひとつが他のヒントになる一貫した研究だったのです。
ドイツの錬金術師ハインリッヒ・クンラートの本には、錬金術師の部屋を描いたイラストが登場します。左のテントのような部分は、人格を向上させるために祈りと瞑想を行う場所であり、オラトリウムと呼ばれていました。カーテンがある右の四角いテーブルは、実験を行うための場所で、ラバラトリウムと呼ばれていました。
この2つから、現在の英単語「オラトリー」(oratory:祈りの部屋)、「ラボラトリー」(laboratory:実験室)が生じました。
話を戻します。錬金術についてのある言い伝えがあります。それは、ヘルメス・トリスメギストスという賢者が錬金術の秘法を刻んだ、エメラルドでできた板、もしくはエメラルド色の板があるという言い伝えです。
ヘルメス・トリスメギストスとは誰かを説明するためには、古代ギリシャの時代にまでさかのぼらなければなりません。
古代ギリシャ時代に、アリストテレスという優れた哲学者がいました。彼の授業を受けたアレクサンドロス3世(アレキサンダー大王)は、その知識によって優れた王になり領土を拡大します。そして、自分の名前にちなんで、アレクサンドリアという都市を世界中にいくつも作ります。
そのうちのひとつである、エジプトのナイル川の下流にあったアレクサンドリアでは、古代エジプトの文化と古代ギリシャの文化が混ざり合いました。
エジプトのトート神は、言葉と文字を人間に教えたとされていた神でしたが、ギリシャのヘルメス神と同一視され、「第1のヘルメス」と呼ばれるようになります。
そして、エジプトに住んでいた優秀なある哲学者が、「第2のヘルメス」、別名「ヘルメス・トリスメギストス」と呼ばれるようになりました。彼が実在の人物であるかどうかは分かりません。トリスメギストスとは「3重に偉大な」という意味で、神智学、錬金術、魔術の3つの分野を知り尽くしているという意味です。
エメラルド・タブレットがほんとうに存在したかどうかも、はっきりとは分かっていません。
しかし、そこに書かれていたとされる文章が、何種類か伝えられています。
そのひとつが、18世紀の後半にドイツ北部の町アルトナで発行された『バラ十字会員の秘密の象徴』という本に登場します。
円形をした図版とラテン語の表題が2つあり、その下にドイツ語でヘルメス・トリスメギストスの言葉が書かれています。また、その後の2ページには、やはりドイツ語で、「ヘルメスのエメラルド・タブレットの解説と説明」という題の文章が、詩の形式で書かれています。
ヘルメス・トリスメギストスの言葉については、以前に下記のページで日本語訳をご紹介しましたので、そちらを参照してください。
参考記事:『エメラルド・タブレットとは』
今週、「ヘルメスのエメラルド・タブレットの解説と説明」の部分の翻訳を行いました。この文章が日本語に訳されるのは初めてのことだと思います。原本は、バラ十字会AMORCの北中南米担当英語圏本部の所有している英語訳のデータです。やや長い文章なので、今回は前半をご紹介します。
この文章には、人間の不完全さを完全な性質に変えるための秘法、つまり、傲慢さを謙虚さに変え、利己心を分け与える心に、狭い心を親切な心に変えるための秘法が含まれています。
しかしおそらく専門家以外には、普通に読んだのでは、何を意味しているのかさっぱり分からないと思います。
なぜ、これほど分かりにくく書くのだろうかと、最初は私も疑問に思っていました。ところが、読み込んでいるうちに理解したのですが、この文章は、心の奥を刺激することで、そこから何かが湧き上がってくることを意図しています。
そこで、次のように、当時の錬金術師のまねをしてみることをお勧めします。
1.30分ほど、誰にも邪魔されない時間を確保して、ひとりきりになれる静かな場所に行ってください。そこがあなたの「オラトリウム」になります。
2.まず、心を静めて、エメラルド・タブレットの図版をじっくりと観察してください。
3.そして、次の言葉を唱えます。
「これから読む文章によって、私の心に、錬金術の秘法が明かされますように。」
4.次に図版を参照しながら、以下の文章(前半)を読んでみてください。
5.読み終えたら、しばらくの間、心の奥の声に耳を傾けてください。
* * *
ヘルメスのエメラルド・タブレットの解釈と説明(前半)
この図は、一見しただけでは、単純で取るに足らないもののように思われるが、偉大で重要な事柄が隠されている。
のみならず、この図にはある種の秘密が含まれていて、それは、世界で最も偉大な宝である。
というのも、この地上で、次のような者よりも優れていると考えられる者がいるであろうか。黄金のような徳と威厳を常に保ち、健康さを生涯にわたって保つ王である。そしてこの王は、どのような生き物にも超えることのできない、あらかじめ定められた寿命に達するまで、生き生きとして、はつらつとしている。
先ほど述べたように、このすべてがこの図の中に明らかに含まれている。
図の中には3つの盾があり、ワシとライオンと独立した星が描かれている。
そして、その3つのまさに中央には、皇帝の地位を表わす球が巧みに描かれている。
同じように、この図の中には天と地が意図的に配置されており、互いに向かって伸ばされている2つの手の間には、さまざまな金属の象徴が見られる。
そして、絵を囲んでいる円周の中には、7つの単語が記されている。
そこでこれから私は、それぞれが個々に何を意味するかを述べ、ためらうことなく、それがどのような名前で呼ばれるかを示す。
そこには賢者の秘密があり、この秘密の中に偉大な力が見いだされるであろう。
そして、どのようにして準備を行うべきかということも、以下に説明される。
3つの盾は、塩と硫黄と水銀を示す。
塩は肉体(corpus)であり、錬金術の技法において、まさに最後のものにあたる。
そして硫黄は、魂(soul)であり、それなしでは肉体は何もできない。
水銀は力のスピリット(spirit)であり、肉体とソウルをひとつに保っている。それゆえにそれは媒介(medium)と呼ばれる。なぜなら、媒介がなくては、作られた何ものも安定性を保つことがないからである。
魂と肉体は、スピリットがこの2つとともにある限り、死ぬことがない。
そして、宿るべき肉体がなければ、魂とスピリットは存在することができない。そして、魂とともになければ、肉体もスピリットも何の能力も持たない。
これが錬金術の意味である。肉体は形と安定性を与える。魂は肉体に宿り、それに血の気を与える。スピリットは肉体を満たし、それに流動性を与える。そしてそれゆえに、これら3つのうちのひとつだけでは、錬金術は存在することができない。
また、最も偉大なる秘技も、単独では存在することができず、肉体と魂とスピリットを必要とする。
それでは、この3つが生じた源である第4のものとは何であろうか。下の盾の7つの先端を持つ星が、その名前を示している。
同じようにライオンは、色と力によって、その本質と性質を示している。
ワシには、黄色と白が現れている。
私の語っていることを注意深く聴きなさい。よく用心しなさい。王権を表わす球は、この最高の善を象徴している。
天と地と四大元素と火と光と水が、その中にある。
2つの手は、正しい思考と真の知識という誓いの証人である。そして、すべての金属と他の多くの源は、この2つに由来する。
さて、残るは7つの単語である。さらに、それらが何を意味するのかを聴きなさい。今、このことを良く理解したならば、今後この知識が、汝を見捨てることは決してない。
すべての語は、ある都市を表わしていて、そのそれぞれには、ひとつだけ入り口がある。
第1の語は金を示し、その見かけは黄色である。
第2は、純白の銀である。
第3は水銀であり、灰色である。
第4は錫(スズ)であり、空色である。
第5は鉄であり、血のような赤である。
第6は銅であり、真の緑色である。
第7は鉛であり、墨のような黒である。
私が意味することに注意し、よく理解しなさい。これらの都市の入り口に、まさに錬金術のすべての基礎がある。
どの都市も、単独では何の成果も出すことができない。他のすべてを用いる必要がある。
そして、入り口が閉ざされるやいなや、いずれの都市にも入ることができない。
そして、もし都市に入り口がなかったとすれば、これらの7つは何もなし遂げることができなかったであろう。
しかし、これらの入り口が同時に閉じられるとき、7色からひとつの光線が出現する。
ひとつになって輝いたとき、その威力は何にも比べられない。
このような驚異を、汝は地上では見ることができない。それゆえに、さらに個別要素について聴きなさい。7つの文字、7つの単語、7つの都市、7つの入り口、7つの時刻、7つの金属、7つの曜日、7つの暗号である。
それはまた、7つの薬草であり、7つの技法であり、7つの鉱石である。
永遠なる技法はすべて、これらによって成立する。
このことを見いだした者に幸あれ。
もし、以上のことが汝にとって難しすぎて理解できないのであれば、ここに私は再び、いくつかの他の個別要素を挙げる。私は汝に、憎しみもうらやみもなく、明確に単純に完全に明らかにする。どのようにして、それが硫酸(Vitriol)という一語によって名付けられるのかを、それを理解できる者に明らかにする。
もし汝が、熱心な努力によってカバラの方法を理解し、暗号の中に7と50という数を発見するならば、汝はあらゆるところにこの数を見いだすであろう。
この作業が汝を落胆させないように、私の述べることを正しく理解せよ。そうすれば汝はこの作業を楽しむことができる。
さらに、次のことを完全に理解せよ。何も濡らさない水というものが存在する。
この水から、さまざまな金属が作られ、その水は氷のように固く凍る。
湿った塵(ちり)が豊かな風を起こし、その中にはあらゆる性質がある。
このことをもし汝が理解しないのであれば、私は汝のために他の名前は示さない。
そして、どのようにしてそれを準備するかを示す。
それには、7つの方法がある……
* * *
バラ十字会の通信講座(下記)を学ばれている方々に補足があります。この文章でスピリットと呼ばれているものは、教材では根源的生命力(Vital Life Force)と呼ばれています。
参考:『1ヵ月無料体験プログラムのご案内』
いかがでしたでしょうか。次回は、この文章の後半をご紹介します。
実は、『バラ十字会員の秘密の象徴』に掲載されているエメラルド・タブレットの図版は白黒なのです。ご紹介したカラーの図版は、専門家が彩色したものですが、それがあなたにとって、最も望ましい彩色であるとは限りません。
ですから、白黒の図版を掲載しますので、時間の余裕がある方には、次回までに印刷して塗り絵をしてみることをお勧めします。心静かに塗り絵をすると、楽しい不思議なひとときを経験できることと思います。
では、今日はこの辺りで
また、お付き合いください。
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