※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
まえがき
こんにちは、バラ十字会の本庄です。
今回取り上げる話題は音楽です。皆さんもきっとお感じになったことがあると思いますが、音楽には謎がたくさんあります。
たとえば、次のようなことです。私たちは子供のころから、親や周囲の人の語る言葉を聞いて、その意味が少しずつ分かるようになります。小学校の国語の時間には、文章の解釈を学びます。
ところが音楽の大部分は、今までに聞いたことがない特定のリズムと音と旋律の組み合わせですし、その解釈について本格的に学んだことがありません。また音楽には、言葉のような厳密な文法もありません。
それにもかかわらず、私たちはなぜ音楽に込められている感情を理解することができ、深く心を揺さぶられることがあるのでしょうか。
古代ギリシャの哲学者であるピタゴラスやプラトンは、それが「天球の音楽」をもとにしているからだと考えました。「天球の音楽」とは一体何なのでしょうか。
また、こんな疑問も沸いてきます。古代人も現代の私たちと同じように、音楽に感動したのでしょうか。人類の歴史の中で、音楽はいつごろ、何のために生じたのでしょうか。
これらのことについて、当会(バラ十字会AMORC)のフランス代表が、自身の人気ブログに文章を掲載しています。今回はその翻訳をご紹介します。
記事『音楽について』

音楽の起源
音楽を作り、演奏するという考えは、どのようにして人間の心の中に芽生えたのでしょうか?確かなことは、誰にもわかりません。しかし、鳥のさえずり、動物の鳴き声、そしてより広く言えば、自然界で生じる音を聞いたことが、自分も音を出したいという欲求を人間の中に呼び起こしたのではないかと考えられています。
そして、直観とさえ言えるかもしれませんが、ある考えが人間の心の中に湧き上がりました。それは楽器を作るということです。人類学者によると、最古の楽器は若い熊の大腿骨から作られた笛でした。それは約6万年前に作られた4つ穴の笛で、スロベニアのツェルクノ(Cerkno)という町の近くの洞窟で発見されたものです。
参考サイト:https://www.nms.si/en/collections/highlights/343-Neanderthal-flute


楽器について
今まで人間によって作られた楽器は、およそ64,000種類と見積もられています。それらは3つの主要なカテゴリーに分類されます。弦楽器(ギター、ヴァイオリン、ピアノなど)、管楽器(フルート、トランペット、ボンバルドなど)、打楽器(太鼓、マラカス、木琴など)です。
今日では、それらは2つのグループに分けられます。伝統楽器(ボンバルド、バグパイプ、口琴など)と現代楽器(エレキギター、電子オルガン、電子ドラムなど)です。 これらは互いに相容れないものではなく、一緒に演奏することができます。
訳注:ボンバルド(bombarde):フランスのブルターニュ地方の伝統的な音楽で用いられているオーボエの一種。

音楽の目的
音楽は何の役に立つのか? これは誰もが抱く疑問でしょう。音楽は、人間の最も貴い部分である魂(soul)に欠くことのできない、生来の欲求と必要に応えるものだと私は考えています。そのため、人類の歴史のごく初期に、音楽を奏でる道具が作られたのでしょう。
音楽は状況に応じて、自身に勇気を与えるため、恐怖に打ち勝つため、神々と触れるため、神を崇拝するため、自身の感情を表現するため、ストレスを発散するため、リラックスして緊張をほぐすため、瞑想するため、超越的な状態に達するために用いられてきました。これら多くの動機によって、極めて多様で、時には正反対とさえ思える音楽のジャンルが生じてきました。

音楽のジャンル
音楽にはさまざまな分類方法がありますが、たとえば次の3つ、もしくは4つのジャンルに分けることができます。
アフリカ系アメリカ人の影響を受けた音楽(ブルース、ゴスペル、ジャズ、レゲエ、ラップなど)、国際的なポピュラー音楽(ポップ、フォーク、ロック、パンク、メタルなど)、西洋音楽(17世紀から19世紀初頭に西洋で創作されたすべての音楽)です。さらに西洋音楽には、2つのジャンルが含まれます。和声が「多声的」(confused)であると言われるバロック音楽と、和声の規則を尊重する古典派音楽です。
ベートーベン、モーツァルト、ヨハン・セバスチャン・バッハ、シューベルト、ワーグナー、ヴィヴァルディ、ドビュッシーなどの音楽家によって作曲された傑作を誰もが知っています。それから何世紀もが経ちましたが、これらの作曲家が創作したオペラ、協奏曲、バレエ、フーガ、レクイエムなどは今でも世界中で鑑賞されています。

天球の音楽
いわゆるピタゴラス音階の作者であるピタゴラスは、音楽のことを、人間を通して表現される神の性質の発露であると考えていました。ピタゴラスによれば音楽は「天球の音楽」と不可分のものです。天球の音楽とは、太陽、月、水星、火星、金星、土星、木星の運動によって奏でられているとされる宇宙の音楽です。
プラトンはこう述べています。「音楽は私たちの心に魂を与え、思考に翼を与える」。バラ十字哲学の観点から見ると、音楽はその最も美しい表現において、人の心の深奥にある高貴さと深く関連しています。深い調和が表現された音楽は、人間という存在のさまざまなレベルに肯定的な影響を及ぼし、望ましいあらゆる結果が私たちにもたらされます。
音楽は、私たちをリラックスさせ、落ち着かせ、再生させ、癒し、インスピレーションを与えることができます。「音楽は人の気性を和らげる」(La musique adoucit les mœurs.)という古代ローマの詩人オウィディウスに由来する言葉がフランスでは広く知られています。
音楽を人生の友にすべき数多くの理由があります。


あとがき
再び本庄です。「天球の音楽」について補足しておきます。
プラトンを代表する著書『国家』の最後には、「エルの物語」という、戦争で死んだある戦士が火葬の直前に生き返り、その間にあの世で見てきたことを語る場面があります。
そこには天球の音楽についての次のような描写があります。
天の丸天井には、巨大な紡錘(ぼうすい:はずみ車の中心に針状の鉄棒が通っている糸をつむぐ道具)が釣り下がっていて、運命の女神アナンケがこれを回しています。
紡錘のはずみ車には8つの天球(外側から、恒星天、土星天、木星天、火星天、水星天、金星天、太陽天、月天)があり、その中心に地球があります。
それぞれの天球にはセイレーン(歌声で人の心を惑わせる妖女)が座っていて、ひとつの音の高さで歌っています。この8つの音からできているのが「天球の音楽」であり、そこには宇宙の調和が余すところなく表れています。
つまり、プラトンの描いているソクラテスは、人が音楽になぜ感動するのかをこのたとえ話によって説明しているわけです。
研究によれば、この部分には、プラトンがピタゴラス学派から受けた影響が表れています。
「エルの物語」には、まるでインド哲学のような「カルマの法則」(因果応報)の考え方も表現されていて、とても興味深い読み物です。岩波文庫(プラトン著『国家』下巻)やその電子書籍版が簡単に手に入りますので、ご興味のある方は、どうぞお読みになってみてください。
下記は、セルジュ・トゥーサンの前回の記事です。
記事:『宇宙の魂(ソウル)の媒体としての自然』
こちらは、音楽について過去に掲載した記事です。
記事:『エリック・サティとバラ十字サロン』
記事:『バグパイプと戦争』
体験教材を無料で進呈中!
バラ十字会の神秘学通信講座を
1ヵ月間体験できます
無料でお読みいただける3冊の教本には以下の内容が含まれています

第1号:内面の進歩を加速する神秘学とは、人生の神秘を実感する5つの実習
第2号:人間にある2つの性質とバラ十字の象徴、あなたに伝えられる知識はどのように蓄積されたか
第3号:学習の4つの課程とその詳細な内容、古代の神秘学派、当会の研究陣について
執筆者プロフィール
セルジュ・トゥーサン
1956年8月3日生まれ。ノルマンディー出身。バラ十字会AMORCフランス本部代表。 多数の本と月間2万人の読者がいる人気ブログ(www.blog-rose-croix.fr)の著者であり、環境保護、動物愛護、人間尊重の精神の普及に力を尽している。
本庄 敦
1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学の普及に尽力している。
詳しいプロフィールはこちら↓
https://www.amorc.jp/profile/