以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
石灰岩のガゼルの物語－ バラ十字古代エジプト博物館のコレクションから
Limestone Gazelle’s Interesting Story – RC 1734
1965年10月、エジプトのカイロでのことです。バラ十字古代エジプト博物館の学芸員のジェームズ・フレンチは、古物商のカメル・アブドラ・ハムーダ氏を訪ねるために、エルマハディ通りのアンティークショップに立ち寄りました。ハムーダ氏はエジプト人の商人で、当時はエジプトから出土した遺物を合法的に輸出する許可を得ていました。当博物館の学芸員は彼と話しているときに、店頭に陳列されていた商品の中に、一部が壊れたとても興味深い石灰岩の彫刻を見つけました。そこには、太陽を表す絵とその隣に描かれたガゼル（訳注）の線画がありました。太陽から放たれた光線は、いずれもその先端が、優しく愛撫するような手の形になっています。フレンチ氏は、すぐにその彫刻がどのようなものかが分かりました。ファラオ・アクナトンが首都に定めたアケタトン（現在のテル・エル・アマルナ）から出土した芸術品だったのです。
（訳注：ガゼル（gazelle）：アフリカの乾いた草原などに生息し、体型はシカに似ている。肩高50～120cm。）
フレンチ氏はバラ十字会の当時の統領（代表）であったラルフ・Ｍ・ルイス氏に、彼が見つけたアマルナの遺物のことを報告しました。ルイス統領はアンティークショップの古物商に連絡を取り、遺物の購入と輸送を手配しました。博物館の資料には、1966年２月、カメル・ハムーダが、エジプト北東部のポートサイドの港から、ヘレニック・サンビーム（ギリシャの太陽光線）という名のギリシャの貨物船で石灰石の彫刻を出荷したことが示されています。翌月この彫刻はニューヨークに到着し、積み換えられて無事にカリフォルニアへと送られました。
この彫刻は現在、バラ十字古代エジプト博物館のアマルナ・ギャラリーで見ることができます。この作品はかなり昔に壊れ、一部は故意に削り取られたようですが、博物館でこの作品をじっくりと見ようと足を止めるすべての人に伝えたい物語があります。まず、右側の動物たちを描いた線画を見てください。左側のガゼルは草を食べているように頭を下げ、その首が繊細な曲線を描いています。この彫刻には、自然界とその美しさに対する繊細な感受性が表れています。
それはまさに、アクナトンと彼の妻であった女王ネフェルティティが支援していたアマルナ芸術の製作活動の特徴です。左側には、王家を表すコブラが下端に乗っている太陽の円盤で表されるアトン神が描かれています。太陽の光線の下にかろうじて見えるのは、供物が山積みにされたテーブルの輪郭です。テーブルに触れているアトン神の輝く光線の先は手の形になっていて、祝福を表わしています。
光線の右側にある象形文字の銘は削られてしまい、荒々しい彫り傷が残っています。これはアクナトン以降の支配者たちの仕業だと思われます。彼らはこの“異端王”に関するすべての記録と、他の神々を廃しアトン神信仰を人々に広げようとした彼の試みを消し去ろうと、あらゆることを行いました。
しかしこの象形文字を、手間をかけて調査すると、その破壊の槌は完全ではなかったことがわかります。かろうじて右に見えるのは、並んだ２つのカルトゥーシュです。その中の文字は、１文字だけが残り、他の文字は消し去られています。しかし、アクナトンの支援で作られた他の芸術作品と比較してみると、この並んだ２つのカルトゥーシュが「地平線で喜ぶ」を意味する名前を持つ太陽神を賞賛するものであると推測することができます。そして、削られ神聖さを汚されたカルトゥーシュの下には、「永遠に与えられた命」という意味の「ディ・アンク・ジェト」（di ankh djet）という、よく用いられていた祈りの言葉を今でもはっきりと見てとることができます。これは未来への希望と意思の表現であり、アマルナの予言者たちに大切にされていた言葉です。
石灰岩製、15.8 x 54.5cm、紀元前1353年 – 紀元前35年
当会は神秘学の源流が古代エジプトにあると考え、その研究に注力しています。研究拠点のひとつ、米国カリフォルニア州サンノゼ市にあるバラ十字古代エジプト博物館は、毎年10万人以上が訪れる人気の観光スポットであり、子供向けの考古学のイベントを開催して、地元の教育にも貢献しています。
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第２号：人間にある２つの性質とバラ十字の象徴、あなたに伝えられる知識はどのように蓄積されたか
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