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権力について

2020年4月3日

 

こんにちは。バラ十字会の本庄です。

新型コロナウイルスの動向が日々気になりますが、ここ東京板橋でも、春が確実に進んでいます。ソメイヨシノはそろそろ満開を過ぎ、バラの苗もつぼみをつけ始めました。

いかがお過ごしでしょうか。

 

今回は、当会のフランス代表が自身の人気のブログに先週投稿した記事の翻訳をご紹介します。

▽ ▽ ▽

記事:「権力について」

“À propos du pouvoirpar”

バラ十字会AMORCフランス語圏本部代表セルジュ・ツーサン

バラ十字会AMORCフランス語圏本部代表セルジュ・ツーサン

 

人類の人口が増え社会が作られるようになったときから、人間には常に2種類の性格の人がいました。

ひとつは、支配者でありたい、リーダーでありたいと望む気質の人たちであり、もうひとつは、支配欲がそれほどなく、歴史に名を残そうとはまったく考えず、他人の導きに身を任せてもかまわないと考える気質の人たちでした。

このことは人類の歴史にとって好ましいことでした。なぜなら、誰もがもしリーダーであり命令者でありたいと望んだとしたら、世の中には常に“戦火と流血”が満ちあふれていたであろうからです。

反対に、そのような人が誰もいなければ、社会は組織化されずに活力を失い進歩は止まっていたことでしょう。人間のこの2つの性格は、互いに他を補い合い、バランスし、調和しているとさえ言うことができます。

中世の戦いの道具

 

しかし誰もが知っているように、人間には欠陥とまでは言いませんが弱点があり、多くの支配者や指導者には次のような傾向があります。つまり、他人を従わせる力を無制限に手に入れようとし、公共の利益や利他的な目的のために用いるのではなく、権力を自分の個人的な野心を満足させるために用いがちです。

このことは政治だけでなく、経済、科学、宗教などのあらゆる分野に見られます。多くの場合、このような野心の背後にあるのは過剰な自尊心であり、バランスを失った自尊心からは、ひどい場合には、暴君や独裁者、絶対権力者、マフィアの「ゴッドファーザー」、さまざまなカルトの「教祖」などが生じます。

勅令を読む王様

 

このような極端な例は別にしても、ご存知のとおり、権力のための権力を求める人たちが、それを有益で建設的なやり方で用いることは、あまり見られません。

このような人たちは、自分が要人であり大物だと感じたいという欲求を満たし、個人的な利益を得るために権力を行使します。そして一度権力を手に入れると、どうしてもそれを手放さなければならなくなるまでは権力にしがみつきます。

さらに言えば、このような人たちはほとんどの場合、他人に、特に社会的な立場が自分より“劣る”人たちに服従を要求します。つまり、弱者を威圧することで自分の支配下にあり続けるようにします。

 

当然のことですが、権力を望んだり要求したりしなかったにも関わらず、何らかの敬意で権力を行使する役割に就き、権力に取り憑(つ)かれることなく、その役割を果している多くの人がいます。

このような例が特に多いのは、専門性が極めて高い職業の分野です。この様な分野では、決断を下さなければならず、仕事の仲間を指導しなくてはならない立場の人が、リーダーの役割を務めます。

例外はありますが、このような人たちは通常、自分の能力の最善を尽くして、すべての人の利益のために与えられた役割を果そうとします。そのために自分の困難がさらに増すようなときでも、すべての人の利益が優先されるべきだと彼らは考えます。

 

一般的に言えば、権力は、それを握った人の心の中にあるものを露わにしてしまいます。

もし権力を持つ人が、内面的に好ましい発達を遂げているのであれば、力を誇示することなく、他の人から認められることや敬意を受けることもそれほど強く求めずに、権力が聡明なやり方で行使され、公共の利益のために役立てられます。

もしその人がまだ、もっぱらエゴの衝動のもとに行動しているのであれば、その人は、執念深い権威主義者に変身してしまう危険性があります。

 

権力を行使する立場にあるすべての人が、自身の心の深奥にある良心に従って最善のやり方で行動する、そのような時代が来ることを心から望まずにはいられません。

 

著者セルジュ・ツーサンについて

1956年8月3日生まれ。ノルマンディー出身。バラ十字会AMORCフランス本部代表。

多数の本と月間2万人の読者がいる人気ブログ(www.blog-rose-croix.fr)の著者であり、環境保護、動物愛護、人間尊重の精神の普及に力を尽している。

△ △ △

ふたたび本庄です。

 

この文章を読んで、イソップ物語のことを思い出しました。

皆さんも、いくつも話を覚えておられることでしょう。

 

「ネズミの相談」では、自分たちをいつも苦しめているネコの首に鈴を付けるという案が出ますが、その役を買って出る者が誰もいません。

「ライオンの分け前」では、ライオンとロバとキツネが狩りをしますが、獲物の分配をまかされたロバが平等に分けると、ライオンが怒ってロバを食べてしまいます。

ライオン

 

イソップ物語には、教訓や道徳的な意味が込められていると言われることもありますが、この2つの例などから考えると、むしろ、権力や政治へのユーモアにあふれた批判に思えてきます。古代ギリシャにも、他のあらゆる時代のあらゆる国と同じように、ろくでもない権力者とその取り巻きがいたのでしょう。

 

下記は前回のセルジュ・ツーサンの記事です。

記事:『理性について

 

では、今日はこのあたりで。

また、よろしくお付き合いください。

 

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楽器の話あれこれ

2020年3月27日

 

こんにちは。バラ十字会の本庄です。

春分の日も過ぎました。ところが明後日は東京でも雪が降るかもしれないとのことです。花冷え、寒の戻りは毎年ありますが、雪の予報とは驚きました。

新型コロナウイルスのニュースで落ち着きませんね。いかがお過ごしでしょうか。

 

山形県にお住まいの私の友人から、楽器にまつわる話を寄稿いただいたのでご紹介します。

▽ ▽ ▽

記事:「楽器の話あれこれ」

バラ十字会日本本部AMORC 理事 山下勝悦

バラ十字会日本本部AMORC 理事 山下 勝悦

 

この文章をお読みになってくださっている皆さん方にお聞きします。

この世で最良にして最高と言われている楽器とは何なのか、ご存知でしょうか? バイオリンのストラディバリウス?

いいえ違います。正解は私たち人間です。人間とは言葉を発する楽器なのだと言われています。そのことに加えて、自分自身で音階を無段階にコントロールすることが可能です。極めつけは同じ声質の人は誰一人として存在しないということです。

お分かりいただけたでしょうか、私たち人間はこの世で最良にして最高の楽器なのです。

このことを合唱の指導を長年やっている知人に話したところ、返って来た言葉が『嬉しいですね~。ところで、もう一つ特徴があるでしょう? 持ち運びが楽…(笑)』。

 

さて、それでは本題に入りましょう。

今回は色々な楽器に関連した、楽しい(?)話しをちょっと。

ある時、三人の著名な文豪が一つのテーブルで文学論を語り合ったのだそうです。

いつしか話題がピアノの音色の話になりました。

すると、一人の文豪が『ピアノは名人が弾いても猫が鍵盤の上を歩いても出る音は同じだ』と。

するともう一人の文豪が『何を言っている、出る音は全く違う!!』。ついに大論争となってしまいました。

すると、もう一人の文豪は『こんな論争には関わる値打ちは無い(怒)』。と言い残し、さっさと退散してしまったのだそうです。

 

さて、皆さんはどう思われますか?

ちなみに、私は三人目と同じ意見です。

ピアノ演奏中の演奏家の両手

 

次の話に行きましょう。

津軽三味線の名手と云われた高橋竹山は尺八の名手でもありました。皆さんご存知でしたか?

いまだ無名の時代に生きるための手段として身に付けたのだったそうです。

そして、その演奏は仲間内から『竹山の尺八には到底かなわない、あんな尺八で(失礼な表現で申し訳ないですが、いわゆる安物)あれほどの音を出すのだから』と言われていたのだそうです。

数年前に当時の演奏が収録されたDVDを入手する事が出来ましたので尺八奏者の友人に聞いてもらいました。感想は一言『凄い!!』でした。

 

次は洋楽器のフルートの話に行ってみましょう。

フルートの価格は上で数百万円(四百万円まで聞いた記憶が有ります)、下で数万円と、大きな差があります。

この差は主に材料の価格の違いです。高い順にプラチナ・金・銀・洋白(合金です)等です。さらに数は少ないのですが木製品も作られています。

それでは高価なフルートほど良い音が出るのかと言われますとそうとも言い切れないのが楽器の面白くも楽しいところです。

最近ではクリスタルガラス製のフルートも販売されています。こちらはリコーダーの横笛版と言ったところでしょうか? こちらは一本一万円くらいから購入可能です。

外観のデザインは綺麗な花模様などがあしらわれており、ルームインテリアとしても立派に通用する造りとなっています。

そこで肝心の音色ですが、『天使の歌声』と表現した方がいましたがまさにその通り、透明感の有る実に神々しい音色で響いてくれます。

もし吹いてみたいと思われる方がおられましたならば、しっかりと腰を据え、覚悟を決めてから挑戦して下さい。見た目は可愛いのですが、半端でなく手強い楽器です。

ピンク色の布の上に置かれたフルート

 

最後にちょっと古い話で締めくくりましょう。

私が子供のころに父から聞いた話です。

ある村に軽度ですが知的障害を持つ若者が住んでいました。その若者は連日のように太陽が上がると共に一人で裏山に登って行き、陽が沈む頃になると帰って来る、という生活をしていたのだそうです。

そのことを村人の誰もが気に留めることはしなかったのですが。ある時、好奇心旺盛な一人の村人がこっそりと後を付けたのだそうです。

一体あいつは何をしに裏山に登っているのだろうと。

後を付けて山道を登って行くと、ちょっとした広い場所がありました。すると若者はその場に座り込み、懐から一本の竹の笛を取り出しピーヒャラ・ピーヒャラと吹き始めたのだそうです。

すると、つい今しがたまで雑木林の中で鳴いていた野鳥が一斉に飛び出し、若者の肩や頭にまとわり付き、若者の笛の音に合わせるかの様に大合唱よろしく鳴き始めたのだそうです。

これを見た村人、腰を抜かさんばかりにビックリ仰天したのだとか。

春の野道

 

私たちは一人一人が自分自身という名の楽器で人生という名の音楽を奏でているのだと私は考えています。

△ △ △

ふたたび本庄です。

私ごとですが、パイプオルガンの演奏を聴くのが好きで昨年は何度かコンサートに行きました。今は出かけるのを自粛していますし、実際のところ、東京ではほとんどのコンサートが中止されています。再び多くの人と一緒に音楽を楽しめる時が待ち遠しいです。

新型コロナウイルスの感染症で命を落とされる方が、日本でも世界でも、できるだけ少なくなることを祈念しています。

 

下記は前回の山下さんの記事です。

記事:『清兵衛とひょうたん

 

では、今日はこのあたりで。

 

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君も名探偵

2020年3月13日

 

こんにちは。バラ十字会の本庄です。

私たちの事務所のすぐ近くにある中山道の板橋はソメイヨシノの名所です。夜のライトアップが昨日から始まりました。つぼみが大きく膨らんで、今にも咲き始めようとしています。

いかがお過ごしでしょうか。

 

岐阜で小中学生に読書の楽しさを紹介するブックトークというお仕事をされている、私の親しい友人から寄稿をいただきましたので紹介させていただきます。

▽ ▽ ▽

ブックトーク「君も名探偵!」

可児明美

可児 明美

 

不可解な謎や、難解な事件を解決するのに活躍するのが、名探偵ですね。

探偵の帽子とパイプとチェス盤

 

『怪人二十面相』(江戸川乱歩・著、ポプラ社)。お話の舞台は、今からおよそ80年ほど前の昭和初期の東京です。人々は口々に怪人二十面相の噂をしていました。

その盗賊は、変装がとても上手で、美しくて珍しくてとても高価なものばかり盗んで、現金にはあまり興味をもたないようでした。

それに、血が嫌いなようで、人を傷つけたり、殺したりすることは一度もないのでした。そしてねらった獲物を盗むときは、必ず予告状を送りつけてきました…。

さあ、この盗賊に対するのが名探偵・明智小五郎と助手の小林少年です。いったいどんな戦いが繰り広げられるのでしょうか・・・。

 

では、名探偵になるために、腕を磨いていきましょう。

『くろグミ団は名探偵』(ユリアン・プレス、作・絵、岩波書店)では、甘いお菓子よりもなぞの事件が大好きなくろグミ団の子どもたちと一緒に、ストーリーを読んで絵の中に隠された手がかりを見つけながら、事件の謎を解いていきます。

絵をよく観察して、おかしなところを見つけてね。

 

『鍵を守れ! 暗号学』(稲葉茂勝・著、今人舎)には、暗号について様々なことが書かれています。

「暗号」とは、「秘密を保つために当事者間にのみ了解されるように取り決めた特殊な文字や言葉」のことです。

ロゼッタストーンの解読、カエサル暗号、アナグラム、モールス信号、戦争で実際に使われていたさまざまな暗号…など、暗号のことがよくわかります。

探偵の机、酒、新聞、タバコ、懐中時計

 

名探偵は、トリックも見破らなくてはなりませんね…。

『よく見て! 目のトリック 錯視・錯覚』(曽木誠・監修、市村均・文、伊東浩司・絵、岩崎書店)には、目で見えるものの中に潜んでいるトリックがたくさんのっています。

見えているものにだまされてしまうことも、あるんですね…。

 

また、名探偵には行動力や機転も必要ですね。きっとこの本も役に立つでしょう。

『スパイ図鑑』(ヘレイン・ベッカー・著、ブロンズ新社)には、スパイになるためのいろいろな心得がかいてあります。

まずは、最初のページのスパイ適性テストをやってみましょう。スパイって、どんな人に向いていると思いますか?

イギリスの機密情報機関MI5のスパイの応募資格は、「身長は並、体つきも並、顔も並」なんだそうです。

そう、スパイは、外見はごく平凡で目立たないようにしなくてはならないからだとか。他にも、ウソを見破る方法、味方を見分ける方法、会わずに伝える方法…などがのっています。

 

では最後に、江戸時代の少年探偵をご紹介しましょう。

『お江戸の百太郎』(那須正幹・作、岩崎書店)。江戸の街に、大仏の千次という岡っ引きがいました。

岡っ引きとは、いわば江戸時代の私立探偵のようなものです。奉行所の役人を助けて、事件の調査をしたり、犯人をつかまえたりします。

中には悪いことをする岡っ引きも少なくなかったようですが、この千次は、ずるいことは全くせず、十手を見せびらかして威張ったりすることもなく、街の人から信頼されていましたが、捕り物の腕はサッパリでした。

この千次の捕り物の手伝いをしているのが百太郎です。百太郎の名推理、楽しんでください。

十手と御用提灯

 

…君も、名探偵になれるかも?

おわり

 

紹介した本

『怪人二十面相』(江戸川乱歩・著、ポプラ社)

『くろグミ団は名探偵』(ユリアン・プレス、作・絵、岩波書店)

『鍵を守れ! 暗号学』(稲葉茂勝・著、今人舎)

『よく見て! 目のトリック 錯視・錯覚』(曽木誠・監修、市村均・文、伊東浩司・絵、岩崎書店)

『スパイ図鑑』(ヘレイン・ベッカー・著、ブロンズ新社)

『お江戸の百太郎』(那須正幹・作、岩崎書店)

△ △ △

ふたたび本庄です。

 

世界初の名探偵はといえば、エドガー・アラン・ポーの短編推理小説に登場するオーギュスト・デュパンだそうです。

もう50年近く前のことになりますが、中学生だったときに、ポーの全集を夢中で読んだ覚えがあります。

推理の方はといえば、私は全然ダメで、小説を読んでも映画を見ても、真犯人が当たったことなど一度もありません。

 

下記は可児さんの、前回のブックトークの記事です。

参考記事:『ねずみの話

 

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

また、お付き合いください。

 

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桜の園

2020年3月6日

 

こんにちは。バラ十字会の本庄です。いかがお過ごしでしょうか。

昨日は、北海道の広い範囲で猛吹雪だったようです。あまり被害がないと良いのですが…。

 

東京板橋でも風が強く、駐輪してあった自転車が道に倒れていましたが、こちらは日に日に温かくなり、寒桜や菜の花、モクレンの花が咲いています。本格的に春が近づいてきているようです。

 

札幌で当会のインストラクターを務めている私の友人から、この季節にふさわしい文章を届けていただきましたので、ご紹介します。

▽ ▽ ▽

文芸作品を神秘学的に読み解く(19)

『桜の園』 アントン・チェーホフ

森和久のポートレート

森 和久

 

ロマノフ朝ロシア帝国の末期、19世紀と20世紀の変わり目頃に、ロシア貴族のラネフスカヤは5年ぶりにパリから自分の邸宅「桜の園」に戻ってきます。「桜の園」はドネツク(現ウクライナ領)の大草原に近い地域にあったと思われます。

ドネツクの草原

ドネツクの草原

 

ラネフスカヤは6年前に夫と7歳になる息子を相次いで亡くし、フランスへ旅立っていたのでした。母親のラネフスカヤを気遣った17歳の娘アーニャも母親の面倒を見るべく家庭教師のシャルロッタとフランスへ向かい、母と暮らしていました。

さらにラネフスカヤがフランスで雇った召使の青年ヤーシャも同行して帰ってきます。ラネフスカヤと娘のアーニャは自分たちの屋敷を懐かしみ帰ってきたことを喜びます。桜の花々も咲き誇っています。ところがラネフスカヤは、借金返済のために家屋敷が競売に出されることを知りつつ何も改善策は講じず浪費癖もそのままです。没落貴族の典型です。

 

地主ラネフスカヤの不在中、「桜の園」を管理していた51歳になる兄のガーエフも借金返済の手立てはなく、言動はいつもいい加減で真剣みは全くありません。24歳で平民出身の養女でアーニャの姉であるワーニャだけはこまごまと働いているという次第です。

小間使いのドゥニャーシャ、召使のフィールスもこの「桜の園」存続にはあまり関心を示しません。唯一、商人のロパーヒンだけが、改革案を何度も提案します。彼の祖父と父はこの「桜の園」の農奴でした。しかし、ガーエフは全く取り合いません。そもそもロパーヒンの改革案というのは「桜の園」を潰して別荘地にしようというものです。

 

百科事典にも載っているこの有名な「桜の園」を誰一人として真剣に守ろうとはしていないのです。日本語の題名こそ『桜の園』となっていますが、原題「Вишнёвыйсад」の意味するのは、「さくらんぼの果樹園」です。87歳になった召使のフィールスは言います、「四、五十年も前には、桜の実を乾したり、砂糖漬けにしたり、酢漬けにしたり、ジャムを煮たり、それによく、乾した桜の実を幾台も車につんで、モスクワやハリコフへ送ったものでございます。」(中村白葉訳)

しかしながら今では、さくらんぼを使ったそのこしらえ方を知っている人は誰もいないのです。ここのさくらんぼは2年に1回しかならないし、欲しがる人ももういないのです。「桜の園」はすでにその役目を終えてしまったかのようです。

果樹園でサクランボを集める子供

 

チェーホフはこの作品を喜劇としていましたが、それは登場人物たちの滑稽な振る舞いを見ればそうなのでしょう。小津安二郎監督の映画に通じる諧謔(かいぎゃく)性が全体を通して表れています。ガーエフは何かというとビリヤードの仕草をし、氷砂糖を舐めています。小間使いのドゥニャーシャはフランス貴族のような格好をしたがります。ラネフスカヤがトロフィーモフに言い放つ言葉「あなた二十六だか七だか知らないけれど、中学二年生とおんなじよ!」(浦雅春訳)などは今なら「中二病」ということでしょう。

養女のワーリャは商人のロパーヒンと自他共に認める婚約者なのですが、2人に進展はなく、最後にはロパーヒンはワーニャへの求婚を蔑ろにします。小間使いのドゥニャーシャは桜の園の管理人エピホードフにプロポーズされますが話は進まず、ドゥニャーシャの方はフランス帰りの召使いヤーシャに惹かれていきます。しかしこちらも不発に終わります。アーニャとトロフィーモフだけは、「恋愛を超えた関係」として描かれます。

 

作中、唯一思想的に未来を見据えているのはトロフィーモフだけです。彼は「万年大学生」ですが、川で溺死したラネフスカヤの息子の家庭教師でした。

【トロフィーモフ】 なんの話でしたっけ?

【ガーエフ】 人間の誇りのことさ。

【トロフィーモフ】 きのうは、長いこと議論したけれど、けっきょく結論は出ませんでしたね。あなたの言われる意味で行くと、人間の誇りなるものには、何か神秘的なところがありますね。まあそれも、一説として正しいかも知れません。がしかし率直に、虚心坦懐に判断してみるとです、そもそもその誇りなるものが怪しいと言わざるを得ない。げんに人間が生理的にも貧弱にできあがっており、その大多数が粗野で、愚かで、すこぶるみじめな境涯にある以上、誇りとかなんとかいっても、なんの意味があるでしょうか。自惚れはいい加減にして、ただ働くことですよ。

【ガーエフ】 どっちみち死ぬのさ。

【トロフィーモフ】 わかるもんですか? 第一、死ぬとは一体なんでしょう? もしかすると、人間には百の感覚があって、死ぬとそのうちわれわれの知っている五つだけが消滅して、のこる九十五は生き残るのかも知れない。

(神西清訳)

 

トロフィーモフは実践の伴わない哲学論を否定しています。彼は「人類は一歩一歩自己の力を完成しつつ前進しているのです。人類にとって現在では理解しがたいこともすべて、いつかは身近な明瞭なものになるに相違ないのです。」(中村白葉訳)と述べます。

 

なし崩し的に「桜の園」は競売に掛けられ他人の手に渡ります。ラネフスカヤとガーエフは気落ちしますが、「しょうがない」という諦め感を感じさせます。それに対しアーニャとトロフィーモフの若い2人は新たな旅立ちという希望を見いだします。

【アーニャ】 あなたのおかげで、わたしどうかしてしまったわ、ペーチャ(トロフィーモフの愛称)。なぜわたし、前ほど桜の園が好きでなくなったのかしら? あんなに、うっとりするほど好きだったのに、――この世に、うちの庭ほどいい所はないと思っていたのに。

【トロフィーモフ】 ロシアじゅうが、われわれの庭なんです。大地は宏大で美しい。すばらしい場所なんか、どっさりありますよ。(中略)だから、これはもう明らかじゃありませんか、われわれが改めて現在に生きはじめるためには、まずわれわれの過去をあがない、それと縁を切らなければならないことはね。過去をあがなうには、道は一つしかない、――それは苦悩です。世の常ならぬ、不断の勤労です。そこをわかってください、アーニャ。

【アーニャ】 わたしたちの今住んでいる家は、もうとうに、わたしたちの家じゃないのよ。だからわたし出て行くわ。誓ってよ。

【トロフィーモフ】 もしあなたが、家政の鍵をあずかっているのなら、それを井戸のなかへぶちこんで、出てらっしゃい。そして自由になるんです、風のようにね。

【アーニャ】 (感激して)それ、すばらしい表現だわ!

(神西清訳)

 

トロフィーモフは、農奴たちを搾取することで成り立っていた栄光はまがい物だから捨て去るべきだと、そして新たな実を結ぶ果樹園を作ろうとアーニャにいいます。

 

そして、物語の最後、揃って「桜の園」を出て行くときのシーン。

【ラネフスカヤ】 あと十分したら馬車に乗りましょう。(部屋を見まわして)さようなら、私の大好きだったお家、古くなったおじいさん。冬がすぎて春が来るころには、お前はもうこわされてないのね。この壁が生き証人! (感極まって娘にキスをする)大切な大切なアーニャ、そんなに晴れ晴れとした顔をして、目なんか二つのダイアモンドみたいに、きらきらしてる。これでよかったのね? 思い残すことはないのね?

【アーニャ】 ぜんぜん! 新しい生活がはじまるのよ、ママ!

【ガーエフ】 (うきうきと)実際こうなってみると、万事まるくおさまるもんだ。庭が売却されるまでは、みんなはらはらのしどおしだったが、いざ、問題に片がついてみると、やれやれこれで一安心とせいせいしたくらいだ……。私は銀行勤めで、今やいっぱしの金融のプロってわけさ……黄玉をサイド・ポケットへ、リューバ(ラネフスカヤの愛称)、お前だって、なんだか若やいで見えるよ、いや、本当。

【ラネフスカヤ】 そうね。めそめそすることはなくなったわ、たしかにそう。

【ラネフスカヤ】 ああ、いとしい、かけがえのない、美しい庭!……ああ、私の生活、私の青春、仕合わせだった日々、さようなら!……さようなら!……

(浦雅春訳)

 

ラネフスカヤも家族も、ほとんどの使用人たちも「桜の園」を後にします。そこには、競売で「桜の園」を落札したロパーヒンの指図で桜の木々を伐採する音が響いていました。ただ、「桜の園」と共に生きてきた老齢の召使いフィールスが屋敷に取り残され、弱った身体をソファに横たえます。

 

さてラネフスカヤはなぜパリから「桜の園」へ帰って来たのでしょうか。意味の無いことだったのでしょうか。

神秘学では「今日出来ることは明日に延ばすなかれ」(『Unto Thee I Grant』より)と言われています。そしてこれはより大きなスパンでも考慮されるべき事柄です。「今週出来ることは来週に延ばすな」であり、「今年出来ることは来年に延ばすな」でもあります。さらには「今生で出来ることは来生に延ばすな」ということです。

ラネフスカヤの帰郷は「桜の園」の終焉を全うするということでした。借金返済の目処もなければ、方策もないのに戻ってきたことには大きな意義があります。けじめを付けるということです。

周期の終わりは、新たな周期の始まりに繋がります。この物語では、物理的な再生はロパーヒンが受け持ち、精神的な新生はアーニャとトロフィーモフが担うことになります。

 

もう手遅れだ、今更どうでもいい、人間死んでしまうんだから、と自分に言い訳して何もしないのは、当座は楽かもしれません。しかし、そのような思考は自分の中に滓(おり)のように溜まっていき、自分を蝕んでしまいます。さあ、今生で出来ることは来生に延ばすなかれ!

△ △ △

ふたたび本庄です。

 

調べてみて驚いたのですが、『桜の園』は、日本で大正時代にすでに上演されています。

それ以降、チェーホフの四大戯曲(かもめ、ワーニャ伯父さん、三人姉妹、桜の園)と短編は、“定番”として、日本で何千回も上演されているのだそうです。

アントン・チェーホフ

アントン・チェーホフ(Wikimedia Commons / Public domain)

技巧をこらしてストーリーを展開するのではなく、人間の内面を描くのに徹したことが人気の秘密のようです。

 

では、今日はこのあたりで。

下記は、森さんの前回の記事です。

雪のひとひら

 

また、よろしくお付き合いください。

 

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人生を変える一番シンプルな方法(その2)

2020年2月28日

 

こんにちは。バラ十字会の本庄です。

バラ十字会日本本部代表、本庄のポートレイト

 

7年ほど前に「人生を変える一番シンプルな方法」という題のブログ記事を書いたことがあります。

この記事には、人生を変える方法、つまり自身の状況を好転させるためのあるテクニックを書いたのですが、読んで実践してくださった何人もの人から感謝の言葉をいただきました。

かなり以前に書いた文章なので、しばらくそのようなことも途絶えていたのですが、つい先日、ある人から再び喜びのご報告を受け、ああそういえばそんな実習をご紹介したこともあったなと、この文章のことを思い出しました。

 

この記事の実習は、マックスウェル・マルツという人のアイディアをもとに作られているので、望ましい効果があることは決して私の手柄ではありません。

今では「自己啓発」という分野には、さまざまなものが含まれるようになってしまいましたが、マックスウェル・マルツは、潜在意識が人生に及ぼす影響を指摘し活用法を示した、自己啓発分野の草分けのひとりにあたります。

サンディエゴ大学で講演中のマックスウェル・マルツ(Unknown photographer / Public domain)

サンディエゴ大学で講演中のマックスウェル・マルツ(Unknown photographer / Public domain)

 

バラ十字会の通信講座で詳しく説明されている事柄ですが、人の潜在意識の最も重要な働きは、生理活動をコントロールすることです。

たとえば食物の消化とか、心臓の鼓動とか、ホルモンの分泌、つまり不随意活動(自分の意図でコントロールできない活動)は、潜在意識がコントロールしています。

潜在意識は、人の生命を維持し健康に保つように指示(プログラミング)されていて、一生の間、その働きを続けています。

 

そして、潜在意識には、指示されたことをそっくりそのまま忠実に行い続けるという性質があります。

 

最近では、イメージトレーニングというテクニックとして多くのスポーツ選手に潜在意識が活用されています。このテクニックでは、たとえば試合の前に、自分が最高のプレーをしているところを心の中に思い浮かべます。

スケート選手がイメージトレーニングをしているところを、あなたも目にしたことがあるのではないでしょうか。

イメージトレーニングが効果的な理由はいくつかありますが、そのひとつは、それが潜在意識に対する指示(プログラミング)になっているからです。

潜在意識は、思い浮かべた動作を指示として受け取り、そっくりそのまま実現しようとします。

水面と波紋

 

興味深いのは、言葉よりもイメージ、否定よりも肯定を用いた方が、潜在意識には指示が伝わりやすいということです。

スポーツのイメージトレーニングであれば、「この筋肉を用いて左腕をこういう風に内側に回転させながら、同時に腰をこちら側にひねって」というような言葉の指示を使うよりも、一挙にその姿をイメージにして思い浮かべた方が有効です。

また、言葉を用いて指示する場合にも、「ミスをしないようにしよう」というような言葉ではなく、「正確な動作ができる」というように、肯定的な言葉を用いる方が有効なことが知られています。

それは、潜在意識がとても古くからある意識だからです。

 

私たちの祖先にあたる生きものがまだ人間ではなかったはるか昔から、それらは、潜在意識を用いて行動をし続けてきました。

その当時には言葉もありませんでしたし、「**しない」というような論理もありませんでした。単に行動するイメージとともに行動していたのです。

潜在意識には、この当時の性質がそのまま残っているので、イメージを受け取ることを得意としています。また、感情にも強く反応します。

また、人間が言葉を使い始めてから長い歳月が流れたので、言葉による指示も受け取ることができますが、「**しない」というような否定の表現を受け取るのは苦手です。

 

さて、以前の記事「人生を変える一番シンプルな方法」で紹介した方法と同じなのですが、人生を変える方法、自身の状況を好転させる方法をご紹介します。

 

まず、紙を一枚用意します。

そして、手書きで次のリストを書き写します。パソコンやスマートフォンを用いるのではなく、必ず手で書き写してください。

決意を紙に書いている女性

 

(この文章は当会のフランス代表の以前の記事「聡明さへの呼びかけ」で紹介したものです。)

* * *

● 忍耐強くあろう。忍耐によって希望がはぐくまれ、人生の折々に自分の支持者が現れるから。

● 自分を信じよう。自分を信じることは、ものごとをなし遂げるためのよりどころであり、他の人と友情を結ぶためのよりどころだから。

● つつしみを持とう。つつしみによって極端を避けることができ、安心を得ることができるから。

● 寛大でいよう。寛大さによって心の翼を広げることができ、他の人と親しくすることができるから。

● 公平でいよう。公平であることによって心の自由を表わすことができ、内面の富を築くことができるから。

● 物惜しみをしないようにしよう。物惜しみをしないことによって、与えた人が受け取った人と幸せを分かち合えるから。

● 誠実でいよう。誠実さによって良心が保たれ、澄み切った心がもたらされるから。

● 謙虚でいよう。謙虚さによって人は育ち、他の人の尊敬を勝ち取れるから。

● 勇気を持とう。勇気は日々蓄えることができ、逆境の時に強くあることができるから。

● 非暴力を支持しよう。暴力を排除すれば心の中に平安がもたらされ、すべての生きものに平和を広げることができるから。

● 善意を持とう。善意は心を喜ばせ、魂を美しくしてくれるから。

* * *

このリストを紙に書き写したら、たとえば出勤前など、毎日時間を決めてそのリストを読み上げます。心の中で読んでも声に出して読んでも、どちらでも構いません。

しかし、心を込めて読んでください。潜在意識は感情に強く反応するからです。

そして、これらを守るために最善を尽くすことを自分に誓います。

 

この実習の成果として、自身の状況が好転したことが実感されるまでには、通常約21日間がかかります。それは、自分への誓いが潜在意識への指示として定着し、周囲に影響をおよぼすまでにかかる日数にあたります。

ですから21日間は、このテクニックがほんとうに有効であるかどうかを決めてしまうことなく、以上のご説明の通りに、ただ行い続けてみてください。

紙に書かれた決意、コーヒー、スマートフォン

 

なぜこの方法によって、人生が好転するのでしょうか。

さまざまな言葉で説明することができますが、その理由は、この世界に働いている法則と潜在意識への指示との間に、調和がもたらされるということにあります。

人の潜在意識は元々は、その人が健康で幸せで成功するようにプログラミングされています。ところが、私たちの顕在意識が潜在意識に与えている指示には、それをかき乱してしまうような、元々のプログラミングとの矛盾が含まれています。

上のリストの内容には、そのような矛盾を限りなく少なくするような効果があります。

潜在意識は、自体に与えられている指示の矛盾が解消されると、本来の役割を十分に果たせるようになります。

 

さて、実際に取り組んでいただけると、ある程度の効果を体験される方や、驚くほどの効果を体験される人がいらっしゃることと思います。

そして、その後も続けていきたいと感じることでしょう。私もそうでした。

しかし、数ヵ月続けると、さすがに飽きてきて多少マンネリになってしまいます。最善を尽くすという自分への誓いが、どうしても「ゆるい」ものになってしまいがちなのです。

ですから、そのようにお感じになったときには、手書きのリストを他のものに変えてください。

また、先ほどのリストがどうも自分の感覚に合わないとお感じの方は、他のリストを使ってみてください。

 

下記の記事には、マクスウェル・マルツが推奨したリストとベンジャミン・フランクリンが用いたリストが載っています。

参考記事:「人生を変える一番シンプルな方法

 

次の記事には、アメリカの作家であるマックス・アーマンという人の書いた「デシデラータ」という詩が含まれています。

この詩は、心温まる素晴らしい内容なのですが、「あなたへの願い」になっていますので、「**なさい」のところを「**しよう」と書き換えてリストとして用いるのが良いと思います。私も再来月から自分への誓いとして使おうと思っています。

参考記事:「デシデラータ 〜あなたへの切なる願い

 

以上、少しでもあなたのご参考になれば、嬉しく思います。

では、今日はこのあたりで。

また、よろしくお付き合いください。


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