投稿日: 2019/08/09
最終更新日: 2022/08/08

 

こんにちは。バラ十字会の本庄です。

バラ十字会日本本部代表、本庄のポートレイト

 

他の多くの地域と同じように、東京板橋でも酷暑の日々が続いています。

 

もうすぐお盆ですが、いかがお過ごしでしょうか。

 

以前、ある老師の方に教えていただいたことがあるのですが、お盆の元になったのは、盂蘭盆会(うらぼんえ)という中国の行事だそうです。そしてさらに盂蘭盆会の始まりは、目連(もくれん)という名のお釈迦さまの直弟子が、母を供養した行ないだとのことです。

インターネットでお調べになると、この興味深い逸話を知ることができます。

盆踊りの風景(夜)

 

さて、ご存知の通り仏教は、日本の芸術、文化など、あらゆる面に大きな影響を及ぼしています。特に、茶道、華道、弓道など、「道」という名のついているものの多くは、仏教と深く関連しています。

 

しかし、仏教の専門家でなければ、日本に仏教が伝来する前の歴史や、その考え方がどのように変化していったのかということを、あまり知らないのではないでしょうか。

かなり以前のことですが、ドイツの仏教学者ヘルマン・ベックの書いた『仏教』(岩波文庫)を読んだことがあります。それまでに読んだ仏教についてのどの本よりも明快な解説に、驚いた覚えがあります。

外国で仏教を研究されている方々には、客観的に本を書くことができるという有利な点があるのかもしれません。

 

最近、米国の思想家で発達心理学の権威であるケン・ウィルバーの著作を読み始めました。すると、その冒頭に初期の仏教の歴史と考え方が概説されていました。

扱われている内容が本格的であるにもかかわらず、説明が分かりやすいことに驚きました。

実は自分のための覚え書きでもあるのですが、その部分の翻訳をご紹介させていただきます。この文章が日本語に翻訳されるのは、おそらく初めてのことです。

▽ ▽ ▽

仏教の歴史をざっと振り返って、そこにはどのようなことが含まれているかを見ていきましょう。

初期の仏教は、列挙するならば、次のような観念を基礎にしていました。迷い(苦しみの源)と涅槃(啓示すなわち悟りの源)という異なる2つの状態。迷いの状態に見られる、苦、無常、無我という3つの特徴。次の4つの真実(四諦):(1)迷いの状態で生きることは苦である。(2)この苦の原因は執着である。(3)執着をなくせば、苦は終わる。(4)正見、正思、正語、正業、正命、正精進、正念、正定という執着をなくす方法(八正道)がある。

以上から理解されるように、初期の仏教が究極の目標としていたのは、「誕生、死、生まれ変わり、老いること、苦、病気」などが現れる「迷い」(samsara:サムサーラ)という状態から脱出することでした。

 

迷いの反対であると考えられる「涅槃」(Nirvana:ニルバーナ)は、そもそもは、形を失い消えることを意味していました。

接頭語の「ニル」(nir-)は、「何かがないこと」を意味し、「バーナ」(vana)は、願望、執着、欲望、渇望などの、燃えさかるような感情を意味します。ですから「涅槃」(Nirvana)という語の全体的な意味は、「吹き消すこと」、「(灯火などを)消すこと」となります。

それはまるで、火のついたロウソクを手渡されたときに、そこに身をかがめて炎を吹き消すようなことを意味しています。

 

では、消滅させられるもの、「吹き消される」ものとは何なのでしょうか。それは、迷いの状態で生きることに含まれるあらゆる特徴です。

たとえば、苦しみ、永遠に生きることを切望することから生じる不安、他の存在とは独立した自己という観念(通常、エゴと呼ばれます)、そして、内面的な恐れ、心配、憂鬱などです。

涅槃の状態とは、夢を見ない深い眠りのようなものであると言われることがあります。そのような眠りにおいては、もちろん、エゴも苦しみも、永遠に生きることへの切望も、空間も時間も、他の人や周囲の物体と自分は別のものであるという観念もないからです。

そしてもしそこに何かがあるとすれば、それは限りない平安と心の究極の静けさだけです。この平安と静けさは、迷いという責め苦と、迷いから生じる苦しみから解放されることから生じるとされます。(中略)

 

(以上のように)初期の仏教の目標は明確であり、迷いの状態を脱して、涅槃の状態に入ることでした。

 

仏教の説話によれば、ゴータマ・シッダルタは、宮殿で王子として育てられ、王子にふさわしいあらゆる贅沢に囲まれて暮らしていました。

彼の父は、当時のインドの日常の暮らしに存在する典型的な恐怖を、彼が知ることのないように注意深く保護していました。

しかしある日、城壁に囲まれた宮殿をゴータマは抜け出し、周囲の町を巡り歩きます。そして、心をひどくかき乱す3つのことを目撃したのでした。

 

それは、重病の人、年老いて歩くのがままならない人、そして死体でした。「病、年老いること、死は、宮殿で暮らしていたとしても免れることはできない」と彼は考え、宮殿を離れ、さまざまな聖者のもとで、町を歩いていたときに知った人生の疑問への答えを探し求めます。

しかし6年が経っても、彼を満足させるものは何ひとつ得られませんでした。疲れきって挫折を感じ、彼は一本の菩提樹の木陰に座り、答えが見つかるまでは決して立ち上がらないと誓います。

 

ある日の早朝、星々が輝いている空を一目見たとき、ゴータマに深遠な体験が訪れます。「ああ! 見つけた! もう二度と私は惑わされない!」と、事情を完全に究明したという心の底からの喜びとともに彼は叫んだのでした。(中略)

 

彼が何を見て何を理解したのかということに関しては、さまざまな宗派が以下のようなさまざまな見解を唱えており、そのいずれもが信頼に足る意見です。

「十二縁起」(訳注)と呼ばれる徹底した理解だと唱える宗派があります。それは、実在世界の極めて交錯した性質と、そこにあるすべてのものを結びつけている因果の法則の、不変の作用についての理解です。

訳注:十二縁起:十二因縁とも呼ばれる。迷いの世界の因果関係を説明した12項目からなる系列。無明、行、識、名色、六処、触、受、愛、取、有、生、老死。

 

仏陀の悟りの内容は、この世界の3つの特徴(諸行無常、諸法無我、一切皆苦)と、執着から離れる8つの方法(八正道)であると別の宗派は唱えています。

禅宗によれば、仏陀が得たのは深遠な悟り、徹底した気づき(目覚め)の体験です。それは、自分に真の仏性(訳注)があるという気づきと、存在する全てのものの基礎(Dharmakaya)と自分が根本的に一つであるという気づきであり、この気づきによって、他と分離した自己という観念が終わり、それとともに苦しみも終わります。

仏陀の悟りの内容が正確にはどのようなものであったとしても、すぐにそれは定式化され、三法印(訳注)、十二因縁、八正道という教理が成立しました。(中略)

訳注:仏性(Buddha-nature):すべての人に内在している仏(完全な人格者)であるという性質。より広く言えば、生きとし生けるもの(有情)に内在している、完全であるという性質。

訳注:三法印:仏教の教理の3つの根本的特徴。初期には諸行無常、諸法無我、一切皆苦であるとされた。その後、涅槃寂静を加えて四法印とされ、さらにここから一切皆苦が取り除かれ、諸行無常、諸法無我、涅槃寂静が三法印とされた。

 

「あなたは神なのですか、神通力者なのですか」と聞かれると、仏陀は、「いいえ」と答えました。「それではあなたは何ものなのですか」と聞かれると、「気づいたのです」と単に答えました。

 

以上が仏教の初期の形態の概略であり、それは、800年後に龍樹(訳注)が出現するまで、実践され続けました。龍樹は、迷いと悟りという異なる2つの性質のものが共に存在しているという事態の奇妙さに着目したのです。(次回に続く)

訳注:龍樹(Nagarjuna):2世紀に生まれた南インド出身の仏教の僧。大乗仏教を確立した人物だとされる。

(ケン・ウィルバー著『The Religion of Tomorrow』(Shambhala Publications, Inc.)、第1章“A Fourth Turning of the Dharma”)

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バラ十字会は、あらゆる宗教に対して中立の立場を採っていますが、その一方で、宗教が人類の歴史に果たしてきた役割、特に、道徳意識の向上に寄与してきたことに深い敬意を払っています。

また、伝統的宗教の教えや実践には、極めて重要な真実が含まれていると考え、バラ十字国際大学でも、さまざまな研究が進められています。

 

当会の通信講座で学ばれている皆さんは、用いられている言葉は異なっていますが、バラ十字哲学の根本的な考え方との共通点が多いことに、驚かれたのではないでしょうか。

 

後半の部分に、龍樹が登場してきました。日本に現在存在する仏教の宗派のほとんど全てで、龍樹は、最大級の尊敬を受けています。

彼が主張した「空」という事柄が、この文章の続きで説明されますので、次週はそれをご紹介させていただきます。

「ノンデュアリティ」(非二元)にご興味をお持ちの方には、特に興味深いことと思います。

 

今回は、初期の仏教を話題にしました。お盆が近いこの機会に、この行事の背後にある壮大な歴史に思いを馳せるきっかけにしていただければ幸いです。

迎え火・送り火

 

下記は前回の私の記事です。

参考記事:『スポーツと心の錬金術

 

また、お付き合いください。

 

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