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伝統こけしと暮らした日々

2019年9月12日


 

こんにちは。バラ十字会の本庄です。

千葉にお住いの方々は、台風でたいへんな思いをなさっていることと思います。

どうか、体調など崩されないように、くれぐれもお気を付けください。

 

山形県にお住まいの、私の友人の山下さんに寄稿をお願いしたところ、40年以上にわたる思い出についてのエッセーをお届けくださいました。

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記事:『伝統こけしと暮らした日々』

バラ十字会日本本部AMORC 理事 山下勝悦

バラ十字会日本本部AMORC 理事 山下 勝悦

 

こけ女(じょ)という言葉をご存知でしょうか? 女性のこけしマニアの方々をこう呼ぶのだそうです。実は私もこけしマニアと呼ばれる輩(やから)の一員なのです。ところで…、男性の場合はなんと呼ぶのでしょうか…?(笑)。

 

さて、私が伝統こけしの世界に足を踏み入れたのはもう四十数年も前のことになります。カミさんと二人で美味いと評判の蕎麦屋さんに行った時のことがきっかけとなりました。

店の壁に『全日本こけし祭り』と印刷されたポスターが貼られていました。見ると開催日は当日です、場所は宮城県の鳴子温泉。車でおよそ二時間ぐらいの距離です。楽しそうなイベントだね、行ってみようとなりました。

 

会場は学校の体育館でした。

会場内にはコンクールに出展されたこけしが多数展示されており、フロアに設置された仮設のテーブルの上には数えきれない程のこけしが所狭しと並べられ、そのすべてが即売品とのこと。

そこでカミさんと相談して『めったにない機会だから一本だけ買っていこう』ということになりました。実は、この『一本だけ』が大正解だったのですが、私のそれからの人生を変える事になってしまったのです(詳しい話は後ほど)。

さて、いざ買おうとはしたものの、伝統こけしに関しては二人ともまったくのド素人です。どのこけしを購入してよいのやら全く見当が付きません。そこで私は何も考えずに一本、一本のこけしと御対面と云う手段に出ました。すると大量のこけしの中の一本が私に向かって「連れてって…」と小さな声でささやいた様な…気が…。

色白でふっくら顔の鳴子系のこけしでした。直感的に『このこけしだ!!』と思いました。直ぐに手に取り即購入。その瞬間『こけしマニア』と呼ばれる人種がまた一人誕生したのです(笑)。

古品こけし―伊藤松三郎作(昭和14年)

古品こけし―伊藤松三郎作(昭和14年)

 

それから数日後、伝統こけしとそれに関しての資料集めに夢中になっている自分がいました。

物事は深入りすればする程に疑問が湧いてくるのだとか。私の場合もそうでした。こけしの美とは一体何? 名品・美品・名工・名人と云った基準は? いくら考えても答えは出てきません。評論家と称する方々の論評も読みまくりました。しかし、ただ単に「これが名品・美品。この方が名人・名工」とあるだけです。

感覚的には理解出来るのですが、まるで雲を掴(つか)んでいる様な感じです。それからの私は何かに取り付かれたかの様に伝統こけしの美の追求に没頭して行きました。休日ともなると各地のこけし資料館や伝統こけしを販売している店舗等に足繁(しげ)く通いまくりました。

そうした時に興味深い話しに出くわしました。伝統こけしに対してそれほどには興味を持っていない方の前に、複数のこけしを並べ、『気に入ったこけしを一本差し上げます、選んでください』と言うのだそうです。

するとその方は無意識の内に一番出来の良いこけしを選ぶのだそうです。ところが『もう一本差し上げます』と言うと、今度は一番出来の悪いこけしを選んでしまうのだそうです。

このことを知って以来、こけしの購入は一回につき一本だけにする事にしました。それでも二本以上の購入の時には(贈答品などを購入の際)ちょっと時間を空け、気持ちをリセットしてから選ぶことにしました。

木目の美しい夫婦のこけし

 

そんなある日のことです。宮城県の遠刈田(とうかった)温泉に工房を兼ねて店を開いている某伝統こけし工人の元を訪ねた時のことです。私が初めての客にも関わらず仕事の手を休め、「いらっしゃい。ゆっくり選んで下さい」と笑顔で声をかけてくれました。

棚に飾られているこけしは、六寸物・八寸物・尺物(一尺サイズ)が主で大きなこけしも何本かありました。でも私は八寸物だけを凝視していました。十数本はあったでしょうか。いずれも見事な出来です。

どう頑張っても最良の一本の判定ができません。思い余って、ここは工人の方の意見も聞いて見ようか…。ひょいと後ろを振り向いた瞬間、ドキッとしました。こけしを選んでいる私の後ろ姿を先程の笑顔とは裏腹の厳しい表情で見つめていたのです。私は一瞬にして悟りました。私のこけしを選ぶ目利きの度合いを試しているのだと。

同じ様なことはその後も各地で何回も経験しました。この頃のこけし工人の方たちは、こけしの美を理解出来ないと判断した客には絶対に心を開いてくれませんでした(通り一辺の応対はしてくれましたが)。この時、これは大変なことになってしまった、何が何でも最良の一本を選ばねばと思いました。

 

気を取り直してもう一度、全てのこけしを見渡してみました。すると上の棚の端にポツンと一本、忘れられた様な風情のこけしを見つけました。良く見ると、店内に飾られたどのこけしよりも強力な存在感を発揮しています。いわゆる、オーラが違うのです。

そこで私は「オヤジさん、このこけしは非売品ですか?」と声をかけました、すると今度は急に寂しげな表情になり『非売品ではないんですけれどね…』

さらに続けて『お客さん、やっぱりそれを選ばれましたか…実はそのこけし、頭の上の所に節が入っているんですよ、木取りの段階では見つからなくって、ある程度ろくろ作業が進んだ段階で見えてきたんですよ。それでも最後まで造り上げたんですけど、こういった物に限って特に良いのが出来るんですよ』。

聞けば、節が入っている場合その箇所からひび割れが起こる可能性があるのだとか。欲しいと言った常連客は何名かいたとのことでしたが『節が入ってます』の一言で皆さん購入を渋ったのだとか。しかし、必ずひび割れが起こるとは限らないとのこと。『だったら買います!!後々、ひび割れが起きたとしてもかまいません!!』。

あれから四十と数年。あの時のこけしは、今も我が家で微笑んでくれています、もちろんひび割れも起こっていません。

右が最初に購入した鳴子のこけし。左が頭の上に節のあるこけし。

右が最初に購入した鳴子のこけし。左が頭の上に節のあるこけし。

 

実は私、ここ数年間こけしの世界から遠ざかっていました。今回、エッセーの依頼を受けた瞬間、なぜかこけしの美を追いかけていた頃のことが次々と思い出されてきたのです。そこで久しぶりにこけし達との御対面を行いました。するとこけし達が私に言うんです。「連れて来てくれて有り難うございました、これからもよろしく」って。

△ △ △

ふたたび本庄です。

上の文章からも、山下さんとお話をしたりしていても感じるのですが、東北には何とも言えない、決して他の場所では感じられない奥の深い独特さを感じます。今まで駆け足で通り過ぎたことしかないので、今度、じっくりと旅ができたらなと考えています。

 

下記は前回の山下さんの記事です。こちらもどうぞ。打って変わって奈良県にまつわる話です。

記事:『居場所はどこ

 

では、今日はこのあたりで。

 

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