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古代ローマのバシリカと音楽の聖人

2019年10月4日


 

こんにちは。バラ十字会の本庄です。

バラ十字会日本本部代表、本庄のポートレイト

 

秋がずいぶんと深まってきました。私たちの事務所のすぐ近くには石神井川が流れていますが、川沿いにたくさんのトンボが飛んでいます。

いかがお過ごしでしょうか。

 

数年前にカナダのモントリオールを仕事で訪れたときに、この地のノートルダム大聖堂を見学して、教会に備え付けられているパイプオルガンの生の演奏を聴いたことがあります。それ以来、私はキリスト教の信仰を持っているわけではないのですが、教会を見学するのがとても好きになりました。

先月やはり仕事でローマに行く機会があり、その時にも何ヵ所か訪れることができました。その中でも特に最も興味深かったのがトラステヴェレ地区のサンタ・チェチリア教会で、先週からこのブログの話題にさせていただいています。

サンタ・チェチリア教会の外観

サンタ・チェチリア教会の外観

 

前回の記事をまだお読みになっていない方は、こちらで読むことができます。

参考記事:「音楽の聖人チェチリア」(前半)

 

さて、この教会の名前は、イタリア語では『Basilica di Santa Cecilia in Trastevere』です。

最初のバシリカ(Basilica)という語は、今では教会の格付けを表しますが、もともとはそうではありませんでした。

ラテン語の辞書を引いてみると、こう書かれていました。

Basilica:(古代ギリシャ、ローマの)裁判および商品取引・陳列用の公共の建物

 

西暦4世紀にキリスト教がローマ帝国から公認されたとき、それでは立派な聖堂を作ろうということになりますが、キリスト教徒の建築家たちはとても困りました。

それまでは、信者の中でも裕福だった人の家に集まって、秘密の部屋で礼拝をしていたので、どのようなものを建てたら良いかが分からなかったのです(チェチリア自身も裕福なローマの貴族であり、家がそのように用いられていたと言い伝えられています)。

そこで彼らは、ローマの公共の建物にならって初期の教会の建設を行いました。

 

ローマ市の有名な観光名所にフォロ・ロマーノがあります。古代ローマの公共の広場が発掘されたもので、とても大規模な遺構であり、その内部を散策することができます。

気温が40度という中だったのですが、この場所を見学する素晴らしい体験をすることができました。写真1は、その時に撮影したもので、中央に見えているのがバシリカの列柱(4列)の跡です。写真の端には、神殿(右)と凱旋門(左)の柱も見えています。(記事中の画像はいずれもクリックで拡大できます)

フォロ・ロマーノにあるバシリカの列柱の遺構

写真1:フォロ・ロマーノにあるバシリカの列柱の遺構

 

古代ローマのバシリカの中心にあったのは、巨大な長方形をした身廊(nave)と呼ばれる広間でした。そこには長辺に沿って2列に柱が並び、その間が集会や商品取引などに使われました。列柱の両方の外側は側廊(aisle)と呼ばれ、古代ローマの人たちは広間と側廊の間を自由に通り抜けすることもできましたし、広間の混雑を避けて側廊を歩くことができました。広間の一方の短辺と建物の入り口の間には、アトリウム(前廊)という部屋が設けられていました。ちなみにアトリウムという名前は、バラ十字会の学習課程のひとつに、その名をとどめています。

広間のもう一方の短辺の向こう側には、裁判が行われる場所があり、その場所も列柱で囲まれ、その中に裁判官たちが座りました。

図1は、サンタ・チェチリア教会の平面図です。古代ローマの公共の建物と構造が同じであることが分かります。商品取引の行われていた身廊は信者が座る場所になり、裁判官の座る場所が、教会では後陣(apse)と呼ばれる聖歌隊の位置する場所になりました。身廊と後陣の間には主祭壇が置かれています。

図1:サンタ・チェチリア教会の平面図

図1:サンタ・チェチリア教会の平面図(記事中の画像はいずれもクリックで拡大できます)

 

写真2は、入り口側から見たサンタ・チェチリア教会の内部の様子です。中央に白い美しい天蓋があり、その下が主祭壇になっています。主祭壇の後ろには、半円形になっている後陣(聖歌隊席)を見ることができます。広い身廊の両脇にはアーチが掛け渡された美しい列柱があり、その外側の側廊には、この教会の場合、さまざまな聖人の祀(ルビ:まつ)られている祭壇があります。

サンタ・チェチリア教会の内部の様子

写真2:サンタ・チェチリア教会の内部の様子

 

ところで、バシリカと関係しているので話題にしたいのですが、皆さんは「幾何学」と聞くとどのようなイメージをお感じになるでしょうか。

中学校で、ピュタゴラスの定理とか、二辺夾角による三角形の合同とかに苦労し、何でこんなことを勉強しなければならないのだろうと思った方も、いらっしゃるのではないでしょうか。

「幾何学」(Geometry)は語源からいうと、「土地を測ること」を意味しますが、古代では、実用的な意味よりもむしろ、図形の象徴的な意味を理解することが重視されました。哲学者が世界の真の姿を見抜くためには、基礎としてこの知識が欠かせないと考えられていました。

ですから、古代ギリシャの哲学者プラトンの創設した学校の入り口には「幾何学を学んでいないものは入るべからず」と書かれていました。

 

象徴としての図形の意味の一例ですが、たとえば円という図形は、天上の世界の神聖な調和を象徴していました。一方で正方形は、人間が暮らしている地上の世界を象徴しています。

そして、ある円と同じ周囲の長さ(もしくは同じ面積)を持つ正方形を、定規とコンパスだけを用いて作図するという問題は円積問題と呼ばれていました。

この問題を解くことは天上の調和を地上にもたらすことを象徴しているため、人類が解くべき崇高な課題だとされてきました。この問題には、千年以上にわたって多くの人が挑戦し、1882年に原理的に不可能であることが証明されました。

 

このような象徴的な意味は、キリスト教の聖堂(basilica)や大聖堂(cathedral)の建築に深く関連しています。象徴的な意味が建物の神聖さに影響すると考えられており、慎重な幾何学的な設計が施されています。

 

たとえば、フランスのトロワの大聖堂の平面図(図2)を調べると、周囲の長さが同じ黄金長方形と円と正方形が含まれているのを見ることができます。黄金長方形とは、長辺と短辺の長さが黄金比(おおむね1.618:1)になっている長方形のことで、最も美しい長方形だとされ、数多くの絵画の構図に使われています。

フランスのトロワの大聖堂の平面図

図2:フランスのトロワの大聖堂の平面図

 

中世ヨーロッパの物語が好きな方はご存知かもしれませんが、周囲の長さが同じこの3つの図形は、アーサー王と円卓の騎士たちの物語にも登場します。

(付記:これらのことは、雑誌『バラのこころ』の145号~147号の記事『図形と数が表す宇宙の秩序』(第17章)に詳しく解説されています。この雑誌の電子書籍(kindle)版を https://amzn.to/2IsAktn で購入することができます。147号はキャンペーン中で、10月8日の午後4時59分まで無料ですので、ご興味のある方はそれまでに手に入れてください。)

 

サンタ・チェチリア教会に話を戻します。

写真3は、主祭壇にある聖チェチリアの大理石像です。首にむごたらしい傷跡を見ることができますが、それは彼女の聖人伝に関連しています。

聖チェチリアの大理石像

写真3:聖チェチリアの大理石像

 

彼女は、ゼウスを主神とする古代ローマの神々を崇拝することを法廷で拒絶し、死刑を言い渡されます。聖チェチリアに溺死の刑が執行されますが、彼女は溺れることがありませんでした。

そこで斬首刑が行われ斧が3回振り下ろされるのですが、それでも彼女は死ぬことがなく、しきたりにより4度目の斧は振り下ろされなかったのだとされています。言い伝えによれば、彼女はその後3日の間生き続け、多くの人をキリスト教に改宗させたということです。

そして彼女は、当時の教皇ウルバンを自分の遺産の相続人に指名し、自分の家を教会にしてくれるように頼んだのだそうです。この望みがかない建設されたのがセント・チェチリア教会だと言い伝えられています。

 

写真4は天蓋の上のドーム型の天井を飾っているモザイク画です。描かれているのは、向かって右から順に聖アガタ、聖ヴァレリアヌス、聖ペテロ、キリスト(中央)、聖パウロ、聖チェチリア、パスカリス1世で、その下に描かれている羊は十二使徒を表すとのことです。

写真4:サンタ・チェチリア教会のドーム型の天井を飾っているモザイク画

 

さて、長いことイタリアのセント・チェチリア教会についてご紹介してきました。最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。

訪れてからすでに一月以上が経ち、何か遠い昔の思い出のような感じがしますが、歴史の重みと静けさが特に印象に残った観光でした。

皆さんにも、少しでもお楽しみいただけたなら、嬉しく思います。

 

来週はこのブログはお休みさせていただきますが、再来週は、バラ十字会フランス本部代表のブログの記事をご紹介する予定です。

また、お付き合いください。

 

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