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元型と日本絵画

2020年9月25日


 

こんにちは。バラ十字会の本庄です。

バラ十字会日本本部代表、本庄のポートレイト

 

東京板橋では、昨日から雨が降り続けています。「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉がぴったりで、残暑も終わり、朝晩は肌寒いほどになりました。

 

いかがお過ごしでしょうか。

 

さて、とても不思議なことだと私には思えるのですが、世界中のさまざまな時代の神話や説話には、同じモチーフが繰り返し現れます。たとえば、年老いた賢者、龍、太母(グレートマザー、地母神)、いたずらな子供、永遠の若さを保つ青年、乙女などです。

スイスの心理学者ユングによれば、このことは、現代人の夢にもあてはまるそうです。皆さんは、龍の夢を見たことがありませんでしょうか。

 

ユングは、人間の心はその奥底ではひとつになっていて、そこに先ほどのようなモチーフを生み出す働きがあると考えました。

集団に共通するこの心は集合的無意識と呼ばれ、繰り返し同じモチーフを生み出す集合的無意識の働きは元型(archetype)と呼ばれています。

 

集合的無意識という考え方は、バラ十字会に伝えられている人間の意識の構造と、とても良く一致しています。

当会の通信講座の初期に学習する内容ですが、通常の意識の奥には下意識(subconscious:潜在意識)があり、ここまでは個々の人に属している心なのですが、さらにその奥には宇宙意識(Cosmic Consciousness)があり、宇宙意識はすべての人(おそらく宇宙のすべての生きもの)に共通しています。

人の心が、下意識を経由して宇宙意識に接続しているということは、実は、瞑想が有益であることの根本の理由です。

 

参考記事:『瞑想のやり方』(人気記事です)

 

元型は私たちの行動に大きな影響を与えます。たとえばアニマという元型は、物語では船乗りの命を奪う魔女セイレーンや美しい人魚として登場します。アニマは男性の心の中にある女性的な側面だと考えることができます。

ある男性が自分の女性的な側面を認めることを拒むと、自己のその部分は無意識の中に隠れて「シャドウ」と呼ばれる要素になります。そしてアニマは、シャドウにエネルギーを与えます。

 

人間は、自分の否定した部分が、他人にあると考えがちです。このことを「投影」と呼びます。

もし抑圧(否定)されたシャドウをある女性に投影してしまうと、突然にその男性はその女性に強い恋愛感情をいだくようになり、時としてその感情が激しすぎるために、破滅的な行動につながったりします。

 

女性の心の中にある男性的な側面は、アニムスと呼ばれます。女性が自身の男性的な側面を抑圧した場合、アニムスもアニマと同じようにシャドウにエネルギーを与え、恋愛に影響を与えたりします。

 

このように元型は、このブログで以前に話題にしたシャドウと深い関係があります。

参考記事:「シャドウとひとつになる

 

先日、板橋区立美術館で開かれていた、『狩野派学習帳』という展覧会を見てきました。狩野派とは室町時代から江戸時代末期まで、400年にわたって続いてきた絵師の集団です。

この展覧会の展示品の多くは学習帳、つまり古画を模写して絵師たちが練習を行った記録でした。

 

興味深かったのは、絵画に取り上げられているモチーフの多くに、元型との深い関連が見られたことです。

館内は撮影が許されていたので、いくつかをご紹介させていただきたいと思います。

室内が暗くガラスケース越しでしたので、写りが多少悪いことにはご容赦ください。

 

★ 狩野常信筆『西王母図』(一部)

西王母は、中国の古代の神話に登場する桃の木の女神です。これは太母の元型の表れのひとつです。この絵では右手に花の咲いた桃の枝を手にしています。

西王母の持つ蟠桃園(ばんとうえん)には九千年に一度実るという桃の木が生えていて、この実を食べると不老不死になります。

『西遊記』には、孫悟空が蟠桃園の管理人を命じられ、桃の実を盗み食いするという逸話が書かれています。

狩野常信筆『西王母図』(一部)

 

★ 逸見一信筆『龍虎図屏風』(一部)

中国の龍は、雷雲、嵐、竜巻を呼ぶ伝説上の生きもので、中国の皇帝の象徴にもされています。

水源・水脈を司る神ともされ、皆さんもよく見かけることと思いますが、神社やお寺の手水を使う場所では、龍をかたどった蛇口がよく使われています。

この屏風には、左右に龍と虎が描かれていて、源平の戦いを暗示しているとも言われています。ユーモラスで、爽快な勢いを感じる龍ではないでしょうか。

逸見一信筆『龍虎図屏風』(一部)

 

★ 狩野周信筆『蛤(はまぐり)観音図』(一部)

中国の唐の皇帝であった文宗(文草)が蛤(はまぐり)を食べようとしたところ、蛤の中から小さな観音様が表れ、たちどころに悟りを得たという言い伝えがあります。

観音様もおそらく元型の現れなのではないかと私は思いますが、最初に挙げたどの元型に分類されるのかはよく分かりません。性別を超越したさらに普遍的な理想像なのかもしれません。

ちなみに、大きな蛤は蜃(しん)と呼ばれ、怪しい気を吐いて楼閣などの幻を見せるとされています。「蜃気楼」という言葉の語源になっています。

この絵では、大小2つの蛤が描かれ、大きい方の蛤が気を吐いてその気の中に観音像が描かれています。

狩野周信筆『蛤観音図』(一部)

 

★ 狩野惟信筆『菊慈童図』(きくじどうず)(一部)

菊慈童は、永遠の若さを保つ青年というモチーフの一例です。

菊慈童の逸話は、能の演目のひとつになっています。菊慈童は、中国の周の穆(ぼく)王に愛された美少年ですが、王の枕をまたいだという罪で流刑になります。

彼は流刑地で、渓流のそばに生えていた野菊の葉に経文を書き、その葉で草露を飲んだところ不老不死になったとされます。

何とも怪しさのただよう絵ではないでしょうか。

狩野惟信筆『菊慈童図』(一部)

 

さて、元型と深い関連のある日本絵画を見てきました。

ユングは、個人が心の中の意識と無意識という2つの領域を統合することを「個性化」と呼びました。人間は個性化を経て自身の無意識を浄化し、全体を備えた本来の自己になるとされています。

 

この視点から考えると、元型をモチーフに扱った絵画を鑑賞したり、神話や伝奇物語を読んだりすることは、単に楽しいだけでなく、心理学的に重要な意義があるように思われます。

今回は狩野派の絵画を取り上げましたが、多くの芸術が元型に関わるモチーフを扱っているのは、この意義を、芸術家が直観的に察知しているからかもしれません。

 

板橋区立美術館は、狩野派の絵画を特に重点的に収集している素晴らしい美術館です。『狩野派学習帳』の展示は終わってしまいましたが、今後も類似の館蔵品展が行われることと思います。

皆さんも訪れてみてはいかがでしょうか。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

今日はこの辺りで。

またお付き合いください。

 

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