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大地の母

2021年2月19日


こんにちは。バラ十字会の本庄です。

バラ十字会日本本部代表、本庄のポートレイト

 

職場へと向かう道の途中に河津桜が2本あります。10日ほど前に開花したのですが、今日は快晴の空に多くの花が映えていました。

東北、北陸にお住まいの皆さんも、少しずつ春が近づいてきていることを、きっとお感じのことと思います。

 

いかがお過ごしでしょうか。

 

さて、スイスの心理学者ユングは、世界中のさまざまな時代の神話や伝承には、とても良く似たエピソードがあったり、同じ性質のキャラクターが登場したりすることに注目しました。

そしてその説明として、人間の心は表層では個人個人に分かれているけれども、奥深くでは一緒になっていて「集合的無意識」というものを構成しているという説を唱えます。

この考え方は、現在では多くの研究者の支持を受け、ほぼ定説とされています。

集合的無意識の働きから生じる典型的なキャラクターには、老賢者、大地の母、永遠の少年と永遠の少女、トリックスター(いたずら者)などがあります。外国の物語にも、日本の物語にも、このようなキャラクターがよく登場することに、皆さんも思い当たるのではないでしょうか。

 

このうち今日は、大地の母を話題として取り上げたいと思います。

 

南フランスの南西部にトゥールーズという都市があります。13世紀にはすでに大学があった歴史の古い町で、バラ十字会の歴史にも深く関わっているのですが、町の南のガロンヌ川のほとりにはラ・ドラードと呼ばれる大聖堂があり、そこには黒い聖母が祭られています。

参考記事:「クレマンス・イゾール-バラ十字の黄金のイシス

 

十字軍の指導者であったシモン・ド・モンフォールは、ある女性の投げた石に当たって命を落としました。このことは、黒い聖母のおかげで起こったと言われています。

1944年には、ナチズムが早く終わるようにと、人々は黒い聖母に祈りをささげました。

黒い聖母に対する信仰は、10世紀まで遡ることができます。今日でも、安産のために黒い聖母に祈りが捧げられています。

 

12年ほど前に私も観光する機会に恵まれました。この写真はそのときに撮影した黒い聖母です。

ラ・ドラード大聖堂の黒い聖母像

ラ・ドラード大聖堂の黒い聖母像

ラ・ドラード大聖堂の黒い聖母像(拡大)

 

もともとここは、西ゴート族が大地の母なる神を祭っていた場所で、後にキリスト教の聖堂が建てられました。

つまり、古代に地母神として祭られていた神をキリスト教が取り入れ、黒い聖母への信仰が成立したのだと思われます。

 

フランスには、この一帯を中心として200体以上の黒いマリア像があり、世界中には450体の黒い聖母マリア像があると言われています。

日本でも、山形県の鶴岡カトリック教会天主堂に黒い聖母像が祭られています。

 

先ほどお話ししたように地母神は、集合的無意識の働きから現れるキャラクターのひとつですが、具体的には、大地の植物を育む力を人格化した女神です。地母神の像の遺物は、ヨーロッパでは旧石器時代の遺跡にも発見されています。

古代人は、植物が冬に枯れて春に再生することを生きものの繁殖と同一視したので、地母神はほとんどの場合、生物の繁殖をつかさどる神、安産や子育ての神にもなっています。

日本でも「縄文のビーナス」と呼ばれている土偶は、妊娠した姿で表されていることから、このような地母神のひとつなのではないかと推測されています。

縄文のビーナス(2018, 東京国立博物館ほか, 『特別展-縄文』より)

縄文のビーナス(2018, 東京国立博物館ほか, 『特別展-縄文』より)

 

古代ギリシャでは、デメテルという神が地母神にあたります。彼女は穀物の発芽をつかさどる神で、ペルセポネという娘がいました。ペルセポネが草原で花を摘んで遊んでいると、大地が突然割れてあの世の支配者であるハデスが現れ、ペルセポネを妻とするためにさらって行きました。デメテルは長い間娘を探し続けますが見つけることができず、深い悲しみの果てに、アテネのすぐ東にあった都市エレウシスの王の宮殿に姿を隠します。そのため穀物は発芽しなくなり、一帯が飢饉に襲われます。

ギリシャ神話の主神ゼウスは、人間たちを救おうとして、ペルセポネを解放するようにハデスに命じます。ところがハデスは計略を巡らし、ペルセポネがザクロの実を食べるように仕向けます。オリンポスのおきてによれば、ザクロの実を食べた女性はハデスと結婚しなくてはならないのでした。ゼウスは仲裁案を示し、ペルセポネは一年のうちの3ヵ月はあの世でハデスと過ごし、残りの9ヵ月は地上でデメテルと過ごすことになります。

このときから、地上では冬の3ヵ月の間には植物が育たないことになりました。

 

女神デメテルへの信仰は、もともとは当時の農村の人たちが行っていた、穀物の収穫を感謝するお祭りでした。しかしこのお祭りは都市国家の宗教儀式として発展し、女神デメテルとペルセポネに感謝するイベントは壮大な国家規模の祝祭になります。

一方でこの祝祭には別の側面があります。エレウシスで活動していた神秘学派があり、この神秘学派は、デメテルとペルセポネの逸話から作られた儀式を、自分たちの神秘学派に入会した人たちに秘密の教えを伝える手段として用いていました。これから説明するように、この手法はほぼ確実なことですが、古代エジプトから伝えられたものです。

実は神秘学(神秘哲学:mysticism)という言葉そのものも、このことに語源があります。エレウシス神秘学派の研究者カール・ケレーニイ(Carl Kerenyi)によれば、ミステリア(mysteria)というギリシャ語は、「そこで、秘密が伝えられた祝祭」を意味します。

ハドリアヌス帝によって建設されたエレウシスの聖域への入り口

ハドリアヌス帝によって建設されたエレウシスの聖域への入り口

 

古代エジプトでは女神イシスが地母神にあたります。イシスは自然界の象徴であり、すべてを育むものとされていました。イシスの夫は創造神であるオシリスでした。オシリスにはセトという弟がいましたが、セトはオシリスの地位に嫉妬し、計略を巡らしてオシリスを殺害します。セトはオシリスの遺体を14の断片にした後に、エジプトのさまざまな場所にばらまきます。女神イシスは長い間探し続け、オシリスの遺体のうち13の断片を見つけ、その体をまとめて復活させます。イシスとオシリスは再び一緒になり、ホルスという息子をもうけます。

エジプトの神秘学派では、死と再生にまつわるこの物語が密儀(集団の構成員にしか公開されない儀式)になり、学派内の人たちのために用いられていました。

 

古代インドにはハリーティー(Hariti)という地母神がいました。言い伝えによれば彼女には500人の子供がいて、人間の子供をつかまえては食べ物として与え養っていました。お釈迦さまはこの話を聞き、ハリーティーの末子プリヤンカラを誘拐して隠しました。

ハリーティーは長いこと子供を探し、悩み悲しみ、お釈迦さまに相談したところ、人間の子供に対する愛も自分の子供に対する子供への愛と同じことを悟り、仏教に帰依したとされます。中国、日本でもハリーティーは広く信仰されていて、日本では鬼子母神(きしぼじん、きしもじん)という名で、安産と子育ての神とされています。

鬼子母神の像は手に吉祥果を持つ天女として表されますが、吉祥果とは一説にはザクロの一種だとされます。

雑司ヶ谷、鬼子母神堂本堂

雑司ヶ谷、鬼子母神堂本堂

 

以上のような地母神の逸話を調べていて、似た点が多いことに改めて驚きました。大切な誰かが隠されてしまうこと、長年の探索が行われること、取り戻されること、そしてザクロが登場することなどです。

 

さて、これらの神話、言い伝えにはどのような現代的意義があるでしょうか。

これらは古代の呪術と深く関わっていました。たとえばエレウシスの祝祭では、男と女の生殖器にかたどった菓子を焼き食べたりすることによって、植物を育てる大地の力を促す呪術が行われていました。それは類感呪術もしくは模倣呪術と呼ばれますが、明らかに迷信の一種です。

類感呪術の別の例としては、穴の開いた容器に水を入れて大地にまき散らすことによって、雨ごいをすることなどが挙げられます。

地震、火山の爆発、天候の不順などの自然界の猛威を前にして、風に吹き散らされる木の葉のように生きていた古代人にとっては、このような呪術が心の大きな慰めだったことは容易に想像することができます。しかし明らかに、現代人の私たちにとってこのような呪術は何の意味も持ちません。

一方で、古代の祝祭と同じように現代のお祭りにも、私たちの心の奥に影響を与える別の強い力があるように私には感じられます。収穫祭、秋のお祭りによって私たちは、自然界に対する畏れと感謝を心の奥底に育んでいるのではないでしょうか。

科学があまりにも発達し、多くの人の価値観を規定している現代の社会では、季節の巡りを記念したりするさまざまな行事が軽視されがちですが、エコロジーと深層心理という観点から見たとき、これらには見直すべき価値があるように思います。

 

いかがでしたでしょうか。今回の話題を、人の心の不思議さに思いを馳せるきっかけにしていただければ、とても嬉しく思います。

 

下記は前回の私の文章です。

参考記事:『自分とは何か

 

では、今回はこの辺りで。

またお付き合いください。

 

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