記事:『カオス(混沌)の中に潜む創造性』

私は普段、作曲や編曲などをしていますが、これらの本質である「創造」とは一体何なのでしょうか?
一見、「無」から「有」を生み出すようにも思えるこの「創造」という行為を、私なりに考察してみたいと思います。
創造する方法
「どうやって作曲や編曲をしているのか?」
とよく質問されますが、実はこの二つでは、行っている作業の性質が大きく異なります。
作曲とは、何もないところからメロディーなどを生み出すこと。
一方、編曲とは、すでにあるメロディーや曲想という“制約”の中で新たな創造を行うことです。

もう少し具体的に言うと…
「絵を描きたい」という衝動だけでは、
- 何を描くのか
- 何に描くのか
- 何で描くのか
といったすべてが自由で、いわば「制約のない状態」からのスタートになります。
一見自由に思えますが、実はこれは“不自由”な状態でもあります。
しかし、たとえば
- 自画像
- F6号(410×318mm)のキャンバス
- 油絵の具
という条件が与えられると、その「枠の中」ではむしろ自由に表現できることもあります。
つまり、「制約のない状態」とは一種の「カオス(混沌)」であり、
「枠の中」とは、ある種の「秩序」を表しているとも言えます。
カオス(混沌)=「めちゃくちゃ」ではない
カオスとは、予測できないほど複雑でありながら、その中に潜むパターンや規則を持つ動的な状態です。
数学的には「初期条件に非常に敏感な非線形システム(例:天気)」として扱われることもあります。
「カオス」の反対が「秩序」であるとすれば…
| 秩序 | カオス |
| 安定・制御・再現性がある | 予測不能・不安定・自由 |
| マンネリに陥りやすい | 新たな発想が生まれる源泉 |
と対比することもできます。
私は、「創造性」は、この「秩序」と「カオス」の狭間(はざま)で最大化されると考えています。
すなわち「創造」とは、一見無秩序のように見える「カオス」から「意味のある秩序」を引き出す行為です。
そして、創造性の高さとは、秩序という“既存の回路”から、少しズレた“カオスの回路”へ自由に行き来できる能力であるとも言えるでしょう。

芸術と科学
「芸術」に対して「科学」は、創造性という言葉からやや距離があるように思えます。
しかし実は、どちらもカオスを“材料”として、そこから「秩序(=意味・作品・法則)」を生み出しているという点では同じです。
アーティスト
- 混沌から「感じ(Feeling / Vibe)」をすくい上げる者たち
- 無意識のカオス=創造の泉
芸術家は頭で考えるよりも感覚や衝動を信じます。
この衝動こそが、実は「内なるカオス(混乱・未整理な感情)」そのものです。
しかし「制約なき自由」は、ときに創造ではなく“混乱”を招くこともあります。
そのため、多くのアーティストは意図的に制約を設け、「カオス」に枠を与え、その中で秩序を創り出します。
例:
- 俳句の五七五
- 音楽の和音やスケール
- 絵画の技法、など
科学者
- 混沌から「法則」を見いだす者たち
- 科学とは「カオスの中にパターンを見つけるゲーム」
観察・測定・試行錯誤という行為は、まさにカオスの海を泳ぐプロセスです。
そこから共通する規則を抽出したものが「理論」です。
ニュートンもアインシュタインも、日常のカオスを再構成し、シンプルな数式に結晶させました。
芸術も科学も、「創造」には、カオスへと飛び込む“勇気”と、
そこから意味を掬(すく)い取る“構築力”の両方が不可欠です。

破壊と再構築
そして、冒頭で述べた作曲と編曲の違いを改めて整理すると、
- 編曲:ある程度枠組みのあるカオスに飛び込む行為
- 作曲:より深いカオスに身を投じる行為
どちらもカオスから「感じ」を掬い取りますが、私にとっては、作曲の方がカオスの深度が深く、難易度も高いと感じられます。
そして、さらなる創造へと進むためには、掬い取ったものを一度「破壊」し、再びカオスへ飛び込む勇気が必要となります。
人類の発展の歴史も、まさにこの「創造と破壊」の繰り返しの中にありました。

結び
「完全な秩序」でも「ただの混乱」でもなく、そのあいだにある「うねり」「ゆらぎ」「ノイズ」の中から何かを見いだす。
私は、それこそが「創造」の本質だと考えています。
「カオス」という無限の境地を恐れず、
「秩序」という安全地帯に閉じこもらない“勇気”を持つこと。
その姿勢こそが、「創造の源泉」なのだと思います。
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執筆者プロフィール
渡辺 篤紀
1972年9月30日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部下部組織(大阪)役員。ベーシスト。 TV番組のBGM、ゲーム音楽の作編曲のほか、関西を中心にゴスペルやライブハウスでの演奏活動を行っている。





