投稿日: 2025/02/12

以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

区切り

露のしずく
The Dewdrop

カート・ロスゴット
By Kurt Lossgott

ばらと露のしずく

ある日の早朝、鳥たちは、太陽が地平線に顔を見せるのを待ちわびて、さえずっていました。太陽の最初の光が露のしずくに反射して、きらめくような色彩を放ちました。冷たい夜の厳しさを生き延びて疲れ果てていた蝶は、その華やかな光景に目を奪われ、こんなものは今まで見たことがないと感嘆の声を上げました。

夜の冷気の中で生まれた露のしずくは、まだ自分自身の輝きに気づいていませんでしたが、自分よりもずっと経験豊かに見える美しい蝶の言葉を耳にすると、すぐにそれを受け入れました。自分が独立した考えることのできる主体であると気づいたことは、彼にとって予想外の啓示であり、それが自分を取り巻く世界を観察するきっかけになりました。小川のほとりに咲いている大きく開いた美しいバラの中央に彼はいました。すぐそばの草の葉には、別の露のしずくが輝いていました。

バラの露のしずくは、「あそこにいる輝く露のしずくのように私も見えますか」と蝶に尋ねました。「ええ、全く同じように見えますよ」と蝶のご婦人は穏やかに答えました。

「いいえ」と蝶は言いました。「あなたがたはどちらも同じように輝いていますよ」。

バラの露のしずくはこれを聞いて腹を立てましたが、黙っていました。疲れ果てた蝶のご婦人は、今や寿命が尽きようとしていましたが、早朝の太陽の下でゆっくりと羽を動かしていました。彼女は、小さなほうの露のしずくに口さきを伸ばすと、それを一瞬で飲み込んでしまいました。小さな露のしずくは、そこにあったのに、次の瞬間には完全に消え去ったのでした。

何も知らないバラのしずくは恐怖のあまり叫びました。「いったい何をしたんだい、私の友だちが消えてしまったよ」。「のどが渇いていたので、水を一滴吸収したのですよ」と蝶のご婦人は淡々と答えました。

「でも、もう消えてしまった」とバラの露のしずくは言い、彼は恐ろしい恐怖に襲われました。「なぜあなたは、古い知り合いの私ではなく、彼を飲んだのですか」。蝶の答えを予期して、小さなさざなみが彼の表面に広がりました。

意識がさらに発達するとともに彼にはエゴが生じ、世界に対する最初の印象が構成され、羽のある大きなご婦人にこう話しかけました。「確かに、バラの中心にいるのですから、あそこにいる他の露よりも、私は間違いなく重要な立場にあるのでしょう。それに、私のほうが大きいのだから、彼よりも輝いていることは間違いありませんね」。

「彼の方があなたよりも近くにあったからですよ。それに正直に言うと、私はこの話に飽きてきたわ」と彼女は言いました。

「私も飲み込んでしまうつもりですか」とバラの露のしずくは尋ねました。「いいえ、もう十分よ」と彼女は答えました。

バラの露のしずくは不安そうに言いました。「あなたがあのしずくを吸収したと言ったのはどういうことですか。それは今どこにあるのですか。あのしずくの輝きと鮮やかな色はどこにいったのですか。今、あなたの中にそれがあるのなら、なぜあなたの皮膚を通してそれは輝かないのですか」。

彼女は言いました。「露のしずくは水からできています。あなたの下を流れる小川も、存在する他のすべての露のしずくも、雨のしずくも同じです。そして生きているものは何一つ、あなたを作っている物質、つまり水なしには存在することができません」。

「それはみんな、私のようにきらきらと輝いているのですか」とバラのしずくは尋ねました。

蝶のご婦人は、こんなにおしゃべりな露のしずくに会ったことはありませんでしたが、先ほど飲んだしずくとこれまでの会話で元気を取り戻していました。生命力を取り戻した彼女は、時間が経つほどに気分が良くなり、このバラのしずくの好奇心旺盛な性格に想いを巡らしました。「いいえ」と彼女は答え、「でも、太陽が色と輝きを与える前のあなたは何だったの」と尋ねました。

バラのしずくは短い記憶をたどって、彼が存在する前の虚無に、すぐに思い至りました。彼がしずくとして凝縮する前の記憶を探っていくと、彼は水という元素についての宇宙の記憶の貯蔵庫に達しました。時間を超越したこの旅から彼の意識が戻ってきたとき、小さな露のしずくは自分が宇宙の一部であり、この宇宙には芽生えつつあるエゴのための余地はないことに思い至りました。そのため、エゴはごく初めの段階で捨てられたのでした。

「私も吸収されたいのです」とバラのしずくは蝶に言いました。

彼女は「ごめんなさい」と答え、こう続けました。「それは私の役割ではありません。私はこれ以上あなたのお役に立つことはできないのです。さっき言ったように、あなたの生命力の物質を私はもう十分にいただきました。でも嘆かないでください。もうじき太陽があたりを温め、あなたは雲の一部になるのですから」。

バラのしずくは「でも私は、さっきそこにいたばかりです」と言いました。「私の存在は今ほど凝縮していなかったのです。私の意識の理解は今やずっと明瞭になり、自分の生命の循環の目的を認識できるようになりました。今、私は生命の主流に加わりたいのです」。

生命力を取り戻した蝶が羽ばたき、バラの花にとまると、バラのしずくは一瞬にして下の小川に落ちて行き、一瞬の落下の旅の間に、かってないほどの輝きを放ちました。

彼は望みを達成したのでした。偉大な集合意識の一部となり、無数の存在とつながり、皆が同じ目的を持つ一つの巨大な存在に姿を変えたのです。彼は一つだったのでしょうか、それともすべてだったのでしょうか。この究極の目標をなし遂げた今となっては、おそらくこの循環全体を繰り返すこと以外には、望むことは何も残っていませんでした。

※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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