以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
識別する能力
Discernment
クラウディオ・マッツッコ(バラ十字会AMORC世界総本部代表)
By Claudio Mazzucco (Imperator of AMORC)
「心理的な変容とは、過去に耐え忍んでいたことが何であれ、それが今では理解され、愛され、役立っているということです。」
ジョーゼフ・キャンベル(1904-1987)
偉大な神話学者であるジョーゼフ・キャンベル(Joseph Campbell)のこの言葉は、神秘学の道の極めて大切な要素の一つである識別力、すなわち識別する能力について考えるように私たちを促します。哲学者のジャン=ジャック・ルソーは、『人間不平等起源論』という論文の中で、人が経験する極めて困難なことの一つは「選択の必要に迫られること」であると述べています。動物は生まれながらにして自分に定められた生活を受け入れる準備ができているが、私たち人間はそうではないとルソーは指摘しています。たとえば、猫は常に猫のように行動し、猫が食べる特定の食物しか食べません。鳩は常に鳩のように行動し、鳩が食べる食物しか食べません。飢えている猫でも決して種子を食べることはなく、飢えた鳩でも決してイワシを食べることはありません。自然が定めている行動パターン以外の行動を動物が選択することは、動物の本性からして起こりません。
しかし、人間はそれとは根本的に異なります。私たちは、人生の節目節目で、決断と選択に直面します。人間のすべての行動はある選択の結果であり、選択にはしばしば困難が伴います。私たちがある特定の行動を決断するとき、それは当然のことながら、別の異なる決断をしていればあったかもしれない何千という他の可能性を断念していることになります。一つのことに「イエス」と言うことは、他の可能性を断念することだということを私たちはよく知っています。そのため選択は、多くの場合に困難なことになります。たとえば、もし山に登る休暇を選んだならば、海には行けないということです。今この雑誌を読むことを決めたなら、他の雑誌は読むことができなくなります。
しかも選択は、休暇にはどこに行こうかとか、どの本をまず読もうかというような単純な決断ばかりではありません。どんな決断も、私たちの後々の人生に大きな影響を与える可能性があります。たとえば、人生をともにする伴侶を選んだり、他の仕事を選ばずにある仕事を選んだりすることなどがそうです。選択は、私たちが長い時間をかけて培ってきた道徳的価値観や、私たちを取巻く環境、身体の健康状態などの多くの要因の影響を受けます。
重要な決断の一つ一つを難しくしているもう一つの要因は、私たちが心の底では十分な時間がないことを知っていることです。読みたい本をすべて読んだり、もてなしたい人をすべてもてなしたり、訪れたい場所をすべて訪れたりすることはできません。私たちの時間は限られていて、遅かれ早かれ私たちはこの世を去ります。選択は、よく考えた上でなされることでしょうが、その結果として私たちは、他のすべての選択肢を放棄することを強いられます。
よく考えて選択を行うために必要な要素に識別力があります。他の道も選択できることを知りながらも、目の前に現れた道を歩み始める必要があるとき、識別力を用いて見極めることが、極めて重要な鍵となります。見極めるとは、物事をより明確に見ることであり、この「見る」ということはもちろん視力が良いなどということではありません。識別力は訓練することができます。つまり、時間とともに徐々に磨きをかけて微妙な刺激も感じるようにすることができます。
これは、バラ十字会の学習の過程で、実際に起こっていることです。それに気がつくことは、しょっちゅう起こるわけではありませんが、体系的な学習と実践のシステムからは、結果として高度な識別力が生じ、訓練を積んでいない場合にはわからない微妙な差異や特色が知覚できるようになります。このプロセスは、より自信に満ちた人間になることに役立ち、選択できるさまざまな道が人生にあることに留意できるようになります。そして、いわゆる「運命」と呼ばれているものは自分自身に由来するものであり、運命は私たちを罰することもなければ、逆に報いることもないことを理解するようになり、「宇宙の法則」がどれだけ深く自分に影響しているかということを単に気づかせてくれます。
人類の偉大な師たちは、驚異的な能力を持っていたことだけが理由ではなく、ある特別な状況に直面したときや、必要な決断に迫られたときに示した識別力によって、偉大な師になったのです。姦通した女性に石を投げつけようとした人々に向けたイエスの発言、仏陀の中庸の選択について調べてみてください。最後に、プラトンが伝えた、ソクラテスの死刑を選択したアテネの市民に向けたソクラテスの言葉をご紹介します。
もう、出発する時がきました。
そして私たちはそれぞれの道を行きます。
私は死へと、そしてあなた方は生へと。
どちらの道がより良いのか、
それは神だけが知っています。
識別する能力が私たちの人生における真の光となりますように。
※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。
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