以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

エコロジー
Ecology
クラウディオ・マッツッコ(バラ十字会AMORC世界総本部代表)
By Claudio Mazzucco (Imperator of AMORC)

「私たちは、より深い意味での人生の目的を社会に取り戻さなければならない。多くの人たちが幸せでないことが、成功だけでは十分でないことを教えてくれている。物質的な成功によって、これまで知られていなかった精神的な破綻と道徳的な破綻が、私たちにもたらされている。」ベン・オクリ(Ben Okri)
作家であり、バラ十字会の長年の会員であるベン・オクリは、この引用文の中で、宣言書『バラ十字友愛組織の姿勢』(訳注)でも取り上げられた、工業化が世界にもたらした大きな偏りの核心にあるものを表現しています。この偏りのひとつについて、私はここで考察しようとしていますが、それは環境と私たちの関係です。この関係を研究する学問はエコロジー(生態学)と呼ばれています。エコロジカル、バイオ・コンパチブル、バイオ・エコロジカル、エコ・サステナブルなどの言葉は、あまりにも広まりすぎていて、それらが本来持つべき意味を失う危険があります。マーケティング(宣伝広告)において用いられるこれらの用語は、消費者を混乱させ生産者の良心に安心を与えるだけであり、その結果として、地球の生態系(私たち人間もその一部です)へのダメージがそのままになってしまっています。私たちはよく、環境に優しいガソリン(!)で走る環境に優しい自動車、環境保護(green)洗剤、環境保護建築手段、環境保護原材料などについて、これらの用語が本当は何を意味しているのかをそれ以上考えることなく口にしています。
(訳注:『バラ十字友愛組織の姿勢』(Positio Fraternitatis):2001年発行。日本語版をこちらから読むことができます。 )
このような使い方をするのであれば、これらの用語には何の意味もありません。人間のすべての活動が環境に影響を与えていることは間違いなく、私たちはその程度(影響の大小)について語ることができるだけであり、真の環境保護製品なるものについて語ることなどできません。また、私たちは生態系を複雑なシステムとして扱わなければならず、環境問題は単純な方法で解決することはできません。それでも、人類のエコロジーに対する意識は、国家間や個人間の社会的正義や平和の必要性に対する意識と同じように、少しずつですが進歩していることが分かります。

私たちが考えなければならないのは次のことです。人類の未来像(vision:ビジョン)についての真の変化、いわゆるパラダイム・シフトは、精神の崇高さを重視する世界観から生じる意識の変化なくして起こりうるのでしょうか。ここで注意していただきたいのは、私が語っているのは精神の崇高さを重視する世界観、真の意味での“スピリチュアルな”世界観であって、宗教的な世界観ではないということです。個人の意識を拡大することなく、自然界や環境に対する健全で深みのある広い視野を発展させることなど可能なのでしょうか。私は、それはできないと思っています。私たちは時々、さまざまな人がまったく無意識のうちに、そして誠実に、しかし全体像を見ることなく、『自然を守らなければならない』と言うのを耳にすることがあります。
自然界を自然そのものに任せておけば、それを保護する必要はありません。これまで地球上に存在した生物種のうち98パーセントが絶滅したと推測されています。必要であれば、自然界は私たち人間のすべてを絶滅させることによって、そのバランスを取り戻すことでしょう。人間が踏みつけるアリやハチや草などと比較しても、自然界がそれ以上に、私たち人間を特別扱いしたり、例外的な特権を与えたりすることはありません。14世紀の神秘家であり哲学者であったマイスター・エックハルトは、神は木や石の中にも、私たちの中にも同じように存在しているが、唯一の違いは、私たち人間はそれを知ることができることであると述べました。これこそが私たちが目指すべき意識であり、私たちが決断を下すときの指針にするべきものです。守るべき環境は「外のあちら」に存在するものではありません。そのような考えは限定的かつ部分的な理解です。環境と私たちの間には、物質とエネルギーの絶え間ない交換があり、ある意味では、私たちを環境から切り離すことはできません。
さらに人類は、ある閾値を超えようとしているのであり、それを越えると人類にその後は何が起こるかを予測するのが困難になるという認識が広まっています。このような認識に表されているのは、世界の終わりに関する大変動のビジョンです。小惑星が地球に衝突しようとしているというような終末論的な未来の予言もあれば、他にも、治療法のわからない奇妙な病気が発生するというような予言もあります。これらは目覚めのプロセスで起こり得る認識です。なぜなら人類の大部分は、病気や食料不足や戦争によってすでに死につつあるからであり、それらを引き起こしたのは、人類のほんの一部だけが利益を享受している、私たちの惑星に出現した経済システムだからです。

私たちの誰もがまさに岐路に差し掛かっており、私たちの生き方によって引き起こされた偏りを正さなければならないと私たちは感じています。経済学者や科学者はすでに、このような変化を起こす必要性を主張し始めています。しかしバラ十字会員として私たちは、世界全体の意識を根本的に高めない限り、それは実現しないと考えています。私たちのような会に参加するという意図的な行為は、新しい社会に向かって前進するうえで重要です。古い考え方、他の人たちとの古い関わり方、環境や自分自身との古い関わり方、繁栄や幸福は何から構成されるかということについての古い考え方を捨て去ること、これらすべてには内面的な成長が必要であり、これこそが、過去のバラ十字会の兄弟たちが「人類の普遍的な改革」に言及したときにすでに呼びかけていた、当会の目的なのです。私たちのような会の一員であることは、人から人へと受け継がれる精神的な財産に対して責任を担うことを意味します。そして私たちが必要だと理解しているのは、「内なる師」としばしば呼ばれる真の自己を外に表す余地を作るために、内面のバランスを取り戻すことです。
自分が不幸であるという感覚や欲求不満は、希望が失われ、深い悲しみを抱えた状態の表れですが、今日ではおそらく人類史上かつてないほどにまで広まっています。そして、ベン・オクリが語る「破綻」とは、私たちの理性的な側面と精神的な側面の間に隔たりが生じてしまった結果です。人間尊重の精神を再び選び取り、心の奥深くにある精神の崇高さを認識することによってだけ、私たちがすでに世界の環境の大部分を占めていることを理解することができます。実際のところ、地球は私たちであり、全人類はひとつです。ただし、誤解しないでください。私たちの理想を正確に反映した行動パターンを確立するためには、多大な努力と勤勉な実践が必要です。私たちは、エコロジーや世界平和、動物界への敬意について詳細な調査研究を行うということについて話しているのではありません。私たち自身がそのような態度を選び取ることを目指しています。ごまかしを用いたり断念したりすることなくこれを行うには、精神の崇高さを探求する道に身を投じなければならず、そこから有益な変化が生じます。世界中で集会を行っているバラ十字会の多くのグループは、バラ十字会の思想と知識を後の世代に伝えるための場所であるだけでなく、意見交換、対話、友愛のための出会いの場でもあります。
私たちは、私たちと同じように自己の向上と内面の成長を求める人たちと集う機会を作ったり、探し求めたりしなければなりません。アイデアを共有し、人生の基礎となるものについて考えたり意見を分かち合ったりすることができるグループを作ることに力を注がなくてはなりません。美しいブドウの木が太陽の光に向かって伸びるように、私たちは、意識が拡大する「神秘学的な生態系」を作らなければなりません。誰もが認めるように、私たちの体はすでに十分に満たされていますが、一方で意識の拡大は、魂に栄養を与える素晴らしい方法です。21世紀のバラ十字会には、人類のあらゆる可能性と、人間の真の性質に根ざしたあらゆる能力が現れることに貢献するという教育的な役割があります。このことが実現すれば、もはやエコロジーや環境について語る必要はなくなります。私たちはその時には、人類と環境が一体であることを理解しているからです。
※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。
体験教材を無料で進呈中!
バラ十字会の神秘学通信講座を
1ヵ月間体験できます
無料でお読みいただける3冊の教本には以下の内容が含まれています

第1号:内面の進歩を加速する神秘学とは、人生の神秘を実感する5つの実習
第2号:人間にある2つの性質とバラ十字の象徴、あなたに伝えられる知識はどのように蓄積されたか
第3号:学習の4つの課程とその詳細な内容、古代の神秘学派、当会の研究陣について