投稿日: 2025/07/18

渡辺篤紀
バラ十字会日本本部AMORC下部組織(大阪)役員 渡辺篤紀

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

最近、TV番組で面白い研究を見ました。
それは「磁石によって冷却する」という研究です。

アイデア自体は古くからあったそうですが、冷蔵庫レベルの冷却装置として実用化するのは難しかったようです。

放熱・蓄熱とエントロピー(=乱雑さ)は、一見無関係に思えるかもしれませんが、実は非常に深い関係があります。

方眼紙の上に置かれた馬蹄形磁石と方位磁石と砂鉄

物体を冷やすということ

一般的に物体の温度を下げるには、気化熱を利用するなど、直接的に熱を奪う方法があります。
これは冷蔵庫やエアコンにも使われている仕組みです。

しかし、別の方法もあります。
前述のように磁石を使い、エントロピーの増減を利用して放熱・蓄熱を行う方法です。

ざっくりと説明すると、

  • 磁場をかけると:物体内の電子スピンが整列(エントロピーの局所的な減少) → 熱を外へ放出(放熱)
  • 磁場をゆるめると:電子スピンがバラバラになる(エントロピーの局所的な増大) → 熱を内部に蓄える(蓄熱)
磁気冷却(断熱消磁)によって極低温を実現するために用いられるガドリニウムの結晶
磁気冷却(断熱消磁)によって極低温を実現するために用いられるガドリニウム(Gadrinium)の結晶

つまり、物体内では次のような関係があります:

  • エントロピーが減少すると、温度が下がる
  • エントロピーが増大すると、温度が上がる

このとき、物体内では電子スピンの整列が同時に起こります。

スピンの整列とは、磁力の向きが揃うことであり、これがなければ物体は磁石として機能しません。

これらの現象を整理すると:

法則A(物理的因果順)

  • エントロピー増大 → 電子スピンがバラバラ → 蓄熱
  • エントロピー減少 → 電子スピンが整列 → 放熱

法則B(逆方向からの理解)

  • 蓄熱 → 電子スピンがバラバラ → エントロピー増大
  • 放熱 → 電子スピンが整列 → エントロピー減少

これらは表裏一体の関係です。

磁場を加えると温度が下がることが最近発見されたアタカマイトの鉱石
磁場を加えると温度が下がることが最近発見されたアタカマイト(Atacamite:Cu2Cl(OH)3)の鉱石

日常生活では?

私たちの日常生活に物理法則をそのまま適用することは難しいですが、視点を変えれば、上記のような「エントロピーの変化」はよく見られます。

そして、この場合のエントロピーは、「選択肢の多さ」と言い換えることができるかもしれません。

ある会議の場面では…

例えば会議で意見が多く出れば、情報は錯綜し、エントロピーは増大します(スピンがバラバラの状態)。
一方、要点を整理して意見が絞られると、エントロピーは減少します(スピンが整列した状態)。

もしかすると、前者の会議室は後者よりも温度が高いかもしれませんが、これはあくまで比喩です(笑)。

  • エントロピー増大 → 意見がまとまらない(スピンの向きがバラバラ)
  • エントロピー減少 → 意見がまとまる(スピンの向きが整列)

情報が増えれば増えるほど判断に迷いが生じますが、逆に情報を絞ることで素早く結論を出すこともできます。

ただし、これは一長一短で、情報の統制によっては、結論を特定の方向に誘導する危険性もあります。

これは「エコーチェンバー現象(注1」とも似ていて、閉じた情報空間の中では「信じたい情報だけを選ぶ」というバイアスが働き、自分自身でエントロピーを減少させてしまっているとも考えられます。

(注1自分と同じ意見・価値観を持つ人たちの中で、情報が反響・増幅し、自信や確信が強化されてしまう現象。

たとえば、

  • エントロピーの減少だけを行うと → 電子スピンが整列 → 動きがなくなる → 思考の固定化
  • エントロピーの増大だけを行うと → 電子スピンが乱れる → 動きすぎる → 思考の不安定化

というように、思考のバランスもエントロピーと似ているかもしれません。

無秩序な矢印と女性の横顔

生物の内部では?

では、生物はどうやって内部のエントロピーを保っているのでしょうか?

熱力学第2法則によれば、「自然界では、エネルギーはエントロピー増大の方向にしか流れない」。
つまり、何もしなければ世界はますます散らかっていく(エントロピーが増大する)わけです。

生物も放っておけば内部のエントロピーは増大し、秩序は崩れます。
それにも関わらず、生物は秩序だった構造や機能を保っています。

その秘密は「外部とのエネルギー交換」にあります。

生物は、エネルギー源(食べ物など)を外から取り込み(低エントロピー)、不要なもの(熱・二酸化炭素・尿素など)を外に排出(高エントロピー)することで、内部のエントロピーを抑え、秩序を維持しているのです。

思考においても、適切な情報の取捨選択を通じて、「自分の中のエントロピー」をコントロールすることが、秩序ある思考の維持につながるのではないでしょうか。

宇宙の背景と女性のシルエット

しかし、情報過多のこの時代に情報を絞ることは重要ですが、絞り方によっては思考が固定化されてしまう危険もあります。

「ノイズ」と「本質」を見極め、思考のエントロピーの増減を意識的に調整する必要があるかもしれません。

そして、思考のエントロピーを健全に保つには、「情報空間での対話」や「多様性」も重要であると思われます。

「ネットを捨てて外に出よう!」とまでは言いませんが、せめて、偏った情報ばかりが反響する「エコーチェンバー」からは、一歩外に出てみることが必要かもしれません。

執筆者プロフィール

渡辺 篤紀

1972年9月30日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部下部組織(大阪)役員。ベーシスト。 TV番組のBGM、ゲーム音楽の作編曲のほか、関西を中心にゴスペルやライブハウスでの演奏活動を行っている。

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