以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
華麗なる王国 - シャンバラ(抜粋)
Excerpts from Shambhala, the Resplendent
ニコライ・リョーリフ著
By Nicholas Roerich
ニコライ・リョーリフ(Nicholas Roerich)は、1874年にロシアのサンクトペテルブルクで生まれ、画家、作家、人道主義者、哲学者として世界的に知られた人物です。彼の著作は1930年代から『バラ十字ダイジェスト』(訳注)にも掲載され、バラ十字会AMORCの世界総本部の当時の代表のハーヴェイ・スペンサー・ルイス博士の要請により、彼はヒマラヤにおける代表代行も務めました。1924年に、リョーリフがシャンバラ(Shambhala)を探し求めて数年間に及ぶ遠征を開始したのもヒマラヤからでした。シャンバラとは、いくつかの仏教伝説が語る高度な精神性を持つ王国であり、すべての住人が悟りを開いているとされるシャングリラ(訳注)はここから着想を得たものです。シャンバラへの道とは意識進歩の道であり、この進歩は、固定観念に左右されない心を通してのみ獲得できるとリョーリフは述べています。彼は、講演、秘伝思想の著作、アジア発の特報に加え、文化機関や科学機関などが戦争時にも保護されることを定めたレーリッヒ(訳注)条約に20ヵ国以上の国々を調印に導いたことが評価され、1935年にノーベル平和賞の候補に推薦されました。
「師(訳注)よ、シャンバラについてお聞かせください。」
「あなたがた西洋人は、シャンバラについて何も知りません。心から知りたいと願っていることが何ひとつないからです。おそらくあなたがたが質問するのは、単なる好奇心からでしょう。あなたがたは、この神聖な言葉を空虚な心で口にします。」
「師よ、私は興味半分でシャンバラについてお尋ねしているのではありません。あらゆる土地の人たちが、さまざまな呼び名を通じてこの偉大で象徴的な名前を知っています。欧米の研究家たちは、この驚くべき王国についての手掛かりであれば、どんな小さな輝きでも見いだそうとしています。チョーマ・デ・コロシュマ(訳注)は、長期にわたりさまざまな仏教寺院を訪れ、シャンバラのことを耳にしました。またグルンヴェーデル(訳注)は、有名なタシ・ラマ(訳注)であったパルデン・イェシェ(訳注)の著書『シャンバラへの道』(The Way to Shambhala)を翻訳しています。私たちは、この象徴的な秘密の名前のもとに、偉大な真実が隠されていると感じます。偽りなき心で、熱心な研究家はカーラチャクラ(訳注)の全容を知りたいと心から望んでいます。」(中略)
すると、ラマは貫くような視線で私たちをじっと見つめ、それから口を開きました。
「大いなるシャンバラの地があるのは海のかなたです。そこは荘厳な天の領域であって、私たちの暮らす下界の地とは何の関わりも持ちません。地上の人間がなぜ興味を抱くのか。シャンバラのまばゆい煌めきは、極北のごく限られた土地でしか見分けられないのです。」
「師よ、シャンバラの崇高さは私たちも心得ています。かの王国が、言語では表せない場所に存在していることも承知しています。しかし、我々はシャンバラが地上にもあるのを知っています。幾人かのラマの高僧がシャンバラに赴き、その道中で、ありふれた遺跡を見た様子が伝えられています。またブリヤート人(訳注)のラマがお供を連れて、狭い知られざる抜け道を通ったという逸話も知られています。また別の訪問者が、まさにシャンバラの国境で、湖から塩を運ぶ山岳民のキャラバンを見たという話もあります。私たち自身も、シャンバラに3つある居留地のうち、最も前線にある白い建物をこの目で見たのです。ですから、天上のシャンバラについてだけではなく、地上のシャンバラについてもお話しください。師も私と同じように、地上のシャンバラが天上のシャンバラと関わっていることをご存知でしょう。そしてこの関わりによって、2つの世界が一つになることを。」
ラマは口をつぐむと、半眼のまま、私たちを探るように見つめました。そして夕暮れのほの暗い光の中で、彼は話を始めました。「まさしく、聖なるあのお方の教えが再び、北から南へと向かう時が来たのです。ブッダガヤ(訳注)から大いなる道を歩み始めた真実の言葉は、再びその場所に戻ることになります。我々は、真実の教えがチベットを離れ、南方に再び現れるという事実を、ただありのままに受け入れなければなりません。そして、すべての国々でブッダの示したことが現実となります。まさしく、尋常ならざる出来事が起ころうとしているのです。実際に、あなた方がシャンバラの情報を持って西洋から現れました。私たちはそれをありのまま受け止めなければなりません。リグデン・ジェポ(訳注)の塔から放たれた光がすべての国に届いたのでしょう。」
「シャンバラの塔はダイヤモンドのように光り輝いています。そのお方、リグデン・ジェポはそこにおいでになり、不撓不屈の心をもって人類の動向に絶えず目を光らせています。彼の目が閉じられることは決してありません。魔法の鏡の中で地球上のあらゆる出来事を見ているのです。彼の思いの力は、はるかかなたの地にまで行き渡ります。彼にとって距離というものは存在しないのです。また彼は助けを受けるべき者に、即座にそれをもたらすことができます。彼の発する力強い光は、いかなる闇をも打ち砕くことができます。彼には無尽蔵の富があり、正義という大義に奉仕を捧げるすべての困窮者に、いつでも助けを送ることができます。彼は人類のカルマさえ変えることもできるでしょう。」(中略)
「師よ、今のお話はマイトレーヤ(訳注)のことを語っておられるように思われるのですが、違いますか。」
「我々は、この秘密について語るわけにはいきません! 明かしてはならないことや、言葉にはっきりと表すことが許されない事柄はたくさんあります。私たちは声によって思考を打ち明けますが、声を通して自分の思考を空間に放出することで、最大級の災いが引き起こされることもあります。なぜなら、定められた日よりも前に暴露された事柄は、すべて測り知れない災いをもたらすからです。そうした軽はずみな行為によって、筆舌に尽くしがたい大惨事さえ引き起こされることがあります。リグデン・ジェポと聖なるマイトレーヤが、あなた方にとって同じであるならば、そのままにしておきましょう。だが私はそうは言っていません! シャンバラに暮らす者の数は数え切れません。この地で人類のために準備されている、輝かしい新しい力と成果は数知れません。」(中略)
「師よ、ウラン・ダバン(訳注)からそれほど離れていないところで、私たちの野営地の近くを低く飛ぶ巨大な黒いハゲワシを見ました。日差しに美しく輝く美しい何かが、私たちの頭上を南に向かって飛んでいて、その進路を黒いハゲワシが横切ったのです。」
ラマの目がきらりと光りました。そして熱を込めてこう尋ねたのです。
「その荒野で寺院のお香の香りも感じましたかな?」
「師のおっしゃる通りです。どの集落からも数日離れた石だらけの荒野で、私たちの多くが、素晴らしい香りに一斉に気づきました。それは何度も起こりました。あれほど心地よい香りは嗅いだことがありません。私は、友人がかつてインドでくれたあるお香のことを思い出しました。彼がどこから手に入れたものかはわかりませんが。」
「ああ! あなた方はシャンバラに守られておいでなのです。巨大な黒いハゲワシはあなた方の敵であって、あなた方の仕事を止めようと躍起になっていたのです。だが、シャンバラから送られた守護の力が、輝く実体になってあなた方を後ろから守っているのです。この力は常にあなた方の近くにありますが、いつでもそれを知覚できるわけではありません。ときたまあなた方に力を与え、導くために姿を現します。光の球体の進む方角を確認しましたかな?あなた方も同じ方角に向かわなければなりません。あなたが語ったのは、聖なる呼び声「カラギヤ」(Kalagiya)のことです! この呼び声の命令を聞いた者は、自分の前にシャンバラへの道が開かれていることを知らなければなりません。さらに、自分が呼ばれた年を覚えておかなければなりません。なぜならその者は、それ以降未来永劫にわたって、聖なるリグデン・ジェポからの手厚い支援を受けるからです。あなた方だけは、支援のあり方を知り、理解していなければなりません。なぜなら、人は往々にして届いた支援をはねつけるからです。」(中略)
「シャンバラはすべてを知っています。しかし、シャンバラの秘密はよく守られています。」(中略)
「師よ、地上のシャンバラがいまだに発見されていないのはなぜでしょう? 地図には夥しい数の探検ルートが載っています。すでにすべての高地に足が踏み入れられ、すべての谷と川が探検されたように思われるのですが。」
「まさしく、平地には金が、山脈にはダイヤモンドやルビーが豊富にあります。誰もがそれらを手に入れることを熱望していて、あまりにも多くの人が、それらを見つけようとしています! しかし、彼らはすべて発見し尽くしたわけではありません。ですから、呼び声を耳にしていない人もシャンバラを探しているでしょうが、そのままにしておきましょう。あなた方は、高地を取り囲む毒の川のうわさをすでにご存知です。その川に近づいた者が、立ち昇るガスを吸って死に絶える光景を目の当たりにされたことさえ、あるかもしれません。また、いくつかの場所に近づいた動物や人間が、震え出す光景を目にされたことがおありでしょう。呼ばれてもいないのにシャンバラにたどり着こうとする者は数多くいますが、その中には永遠に帰らぬ人となった輩もいます。聖地に到達できる者はごくわずかで、しかもそれは、その人の運命において時が熟した場合に限られます。」
「師よ、あなたは地上の聖地について語ってくださっていますが、そこでは草木が育つのでしょうか。山々は不毛の地に思えますし、暴風に加えて、何もかもを凍らせてしまう寒さが、ことのほか厳しいのではないのでしょうか。」
「そびえ立つ山々の懐には、思いもよらぬところにひっそりとした谷が点在しています。そにでは温泉が湧き出ていて、植物を育む温かさがあり、極度に火山性の土壌でありながら、珍しい植物や薬草がたくさん生い茂っています。あなたも、熱い間欠泉が高地にあることにお気づきになられたのではあるまいか。ナクチュ(訳注)からわずか2日離れた土地には一本の草木も見当たらないのに、ひとつの谷だけは草木が茂り、お湯が湧き出しているのを聞いたことがおありでしょう。これらの山々にある迷路について、誰が知っているというのでしょうか。地表は石だらけで、人間の足跡を見分けることは不可能です。人の考えを読み取ることはできませんし、それができる者は黙して語らぬのです。あなたは、放浪中に多くの旅人に出会ったことでしょう。質素な身なりで暑さ寒さに耐えながら、見知らぬ土地の荒野を横切り、黙々と歩き続け、どこにあるか知らない目的地を目指している旅人たちです。身なりが簡素だからといって、その人がつまらぬ人だと決めつけてははなりません! 半開きの眼をしているからといって、その視線が鋭さを欠いていると思い込んではなりません。力ある者が、どちらから近づいてくるのかを見極めることはできません。予兆も予言も一切無駄です。しかし、あなたが達成を勝ち取ることができるとすれば、そのためには、シャンバラの道をたどるほかはありません。聖なるリグデン・ジェポに直接語りかけることによって、成功を収めることができます。」
訳注
・『バラ十字ダイジェスト』(Rosicrucian Digest):バラ十字会AMORCの北中南米英語圏本部が定期刊行している雑誌。
・シャングリラ(Shangri-La):英国人作家ジェームズ・ヒルトンが1933年に出版した小説『失われた地平線』に登場する理想郷。
・レーリッヒ(Roerich):リョーリフのドイツ語読み。
・師(Lama:ラマ):チベット仏教の高僧。
・チョーマ・デ・コロシュマ(Sandor Korosi Csoma):ハンガリー出身の東洋学者。チベットの言語や文化に造詣が深く、仏教の文献研究で知られる。シャンバラの存在に関する研究も行った。
・グルンヴェーデル(Albert Grunwedel):19世紀末から20世紀初頭のドイツの東洋学者、考古学者。チベットの文化や仏教に深い洞察を行い、著書も多数。
・タシ・ラマ(Tashi Lama):チベット仏教ゲルク派においてダライ・ラマに次ぐ高位の化身ラマへの称号。無量光仏(日本における阿弥陀如来)の化身とされる。パンチェン・ラマとも呼ばれる。
・パルデン・イェシェ(Pal-den ye-she):パンチェン・ラマ六世(1738-1780)。
・カーラチャクラ(Kalachakra):時輪タントラ。11世紀に編纂されたチベット密教の無上ヨーガ・タントラの代表的な聖典。シャンバラ国の王がこの教えを受けたため、シャンバラが特別な国になったとされる。
・ブリヤート人(Buryat):ロシアからモンゴル、中国に分布するモンゴル系民族。
・ブッダガヤ(Bodhigaya):インド北東部ビハール州、ガヤー県にある仏教の八大聖地のひとつ。釈迦が菩提樹の下で悟りを開いたとされる場所で、仏教では最高の聖地とされている。
・リグデン・ジェポ(Rigden-jyepo):シャンバラの最高指導者の称号とされる。
・マイトレーヤ(Maitrey):ゴータマ・ブッダの入滅後56億7千万年後の未来にこの世界に現われ、悟りを開き、ブッダの後継として多くの人々を救済するとされる未来仏。日本では弥勒菩薩と呼ばれる。
・ウラン・ダバン(Ulan-Davan):伝説の地名と思われる。詳細不明。
・ナクチュ(Nagchu):中国のチベット自治区を構成する都市のひとつ。
※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。
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