以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

内なる音楽を見つける
Find Your Inner Music
グラフィカ
By Graphica

アメリカの翻訳家で作家のアンディ・ガウスが現代英語に翻訳した新約聖書の『ヨハネによる福音書』(脚注1)は、次の「言葉」で始まります。「初めに言葉があった。その言葉の内には命があり、命は世界の光であった」(訳注)。この言葉を念頭に置きながら、化学者のドナルド・アンドリュース博士の魅力的な著書『生命の交響曲』(脚注2)に表現された考えのいくつかを見ていきましょう。人間の体には無数の原子が存在し、それぞれの原子、さらには神経や動脈など協調して働いている(concerted)集団は、音楽を奏でているとアンドリュース博士は述べています。
身体の全体が振動していて、その音色には、原子核のエネルギー、電子のエネルギー、原子全体の運動のエネルギーだけでなく、神経インパルス、血液の循環、生命プロセス自体の化学的活動のエネルギーも反映されている。これこそが生命の交響曲であり、人生のあらゆる瞬間に私たちの体内で鳴り響いている、想像を絶するほど複雑な音楽の綴織である。そしてこの交響曲は、体内だけでなく体の周囲の空間にも神秘的な振動を引き起こし、その振動のすべてが実際に、私たちから放射されている(脚注3)。
(訳注:英文は、「In the beginning was the Word; within it there was Life, and the Life was the light of the world.」 。日本聖書協会の新共同訳新約聖書の該当箇所は「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった」である。)
冒頭の『ヨハネによる福音書』に戻ると、宇宙の創造的エネルギーは、ギリシャ語でロゴス(logos)と表現されているものに相当することが理解されます。ロゴスは、万物を生じさせた神によって発せられた最初の言葉であるとされています。私たちはこの言葉の実際を想像することはできません。ただ、それが「音」であり、神の思考から生じた創造的な音であると想像することはできます。音は振動であり、この原初の音はある種の音楽的表現であり、思考を創造された世界へと変えるほどの強力な響きでした。
アンドリュース博士の身体に関する説明を踏まえて、創造のこの素晴らしい音色が私たちの体全体に絶えず鳴り響いていることを思い浮かべてください。私たちの体は、まるで世界で最も完璧な楽器であるかのようです。宇宙の最初の音であるロゴスから生じた私たちは、宇宙と共鳴し調和するために、その音と響きを私たち自らの内側で再発見したいと願っています。宇宙と調和することは、ヴァイオリンの弦を正しく調律するようなものです。一本の弦の音程がわずかに狂っているだけで、弦の振動と他の弦の振動は、調和のとれた美しい音を生み出すために一緒に働くのではなく、互いに争ってしまいます。そして、演奏される音楽は、調和がとれていないように聞こえることになります。内面的な啓発を求める私たちは、今もなお私たちの内面と全体に響き渡っている宇宙の最初の音と調和する必要があります。

偉大なる創造の響き
The Great Sound of Creation
では、創造を引き起こした偉大な音、自身の内部にある音楽を私たちはどのようにして発見し、自らの「さまざまな弦」の音を調律して、体と意識と自己自体が宇宙の調和と一つになるようにできるのでしょうか。失われた「言葉」を、どのようにして見つけられるのでしょうか。
音楽家を志す人が、才能と情熱をもってたゆまぬ努力を続けるように、神秘家を志す人もまた、内なる音楽を発見するための方法を築いていかなければなりません。音楽家として成功しようとしている人の生活とエネルギーと時間は、音楽への熱烈な愛に突き動かされて、優れた音楽家になるという目標に向けられます。“光”を求める私たちもまた、同じ情熱と傾倒とともに、自らの目標を追求し、自らの音楽を見つける必要があります。
バラ十字会の学習では、実習と内的な能力の刺激を通して、精神生活に役立つ技法を学びます。音楽を真剣に学ぶ場合と同じように、神秘家の道も段階的な過程であり、その技巧を習得するためには同等の真剣さが必要とされます。その技巧は最終的には完全に自分のものになり、一流の音楽家が、自分が知り尽くした愛する楽曲を演奏するときと同じように、考えることなく完璧に発揮されるようになります。熟練した演奏家の音楽の表現は、思考などが介入することなく直接行われます。神秘家もまた、宇宙との直接的なつながりに達するためには、その技法が、自分の第2の本性のようになっていなければなりません。それを達成するためには、熱心な学習によって段階的に進歩していく以外に方法はありません。

神秘学の道のある地点に到達すると、私たちの内面に存在する高次の領域を、初めて把握する魅惑的な瞬間を経験します。それは初めての光景であり初めての鳴り響きです。これまでは想像すらできなかった音色と音楽の内面的世界に心を開き始めるのです。「美は混沌から宇宙へと導く」(脚注4)と言われるように、音楽などの崇高な芸術をじっくりと味わうことで、人生の内面的な側面を理解することができるようになります。音楽は、感情や内面の理解に直接語りかける力を持っているからです。
これは音楽の用語によって説明することができます。音楽の体験に影響を与える要素には、ピッチ(音高)、メロディ(旋律)、ハーモニー(和声)、リズム(律動)があります。これらの要素の組み合わせが、インスピレーションによって心を動かし、音楽の体験が生まれます。完成された作品は、音楽的な着想が徐々に展開されるプロセスの結果として生じ、このプロセスは音楽の法則と音響学の法則の正しい知識に裏付けられています。
音響という現象は、私たちの音楽鑑賞にも、精神探究にも深く関わっています。倍音列(訳注)では、ピッチ(高さ)の異なる無数に多くの音が、人間の耳が主に感じる基本音(キーノート)に対して共鳴し、数学的な比率を保って振動しています。そのため、倍音列は私たちが音楽を認識する際の主要な要素になります。
(訳注:倍音列(harmonic series):最も低い音(基音)の周波数の整数倍(2倍、3倍、…)の周波数の音の集まり。弦楽器や管楽器では倍音列が自然に作り出される。)
ある音を鳴らすと、1オクターブ、5度、4度、長3度、短3度の間隔で、それよりも高いピッチの音の振動が空気中に広がります。この最初の5つの倍音は、「自然の和音」(脚注5)と呼ばれます。この和音の音は、音楽において最も和声的な響きを持ち、そこから基本的な和声の体系が導き出されます。倍音列の音は天球の音楽の物理的な現れだと考えることができ、天球の音楽と私たちを結び付けてくれます。倍音列のことを、音の周波数の範囲を超えてさらに上下に拡大すれば、地球の最も低音の振動から宇宙の最も高音の振動にまで広がっている、壮大な宇宙規模の倍音だと考えることができ、そこには可聴音(人間の耳に感じる音)、電波、思考の波動、そして瞑想における意識までもが含まれます。

私たちのキーノート
Our Key Note
広大なチベット高原にはかつて多くの僧院があり、この地の僧侶たちは、のどの奥から響くような深く鼻にかかる声で詠唱を行っていました。この発声の技法によって、のどや鼻腔で複数の倍音が生じ、一人の声で二重、三重の和音を奏でることができます。この詠唱法は現在も受け継がれており、そのときの姿勢も関与し、瞑想している人には自身の骨もが振動しているように感じる深い体験がもたらされます。
私たちは誰もが倍音列に共鳴しており、自身の内面に完全な音階を持っています。そして、一人一人が固有の「音」を持ち、その音に個人的に共鳴しています。この音色を発見したとき、私たちは内なる音の世界と突然つながることになります。メロディ、ハーモニー、リズムが調和した多様な性質の音楽を聴くことによって、私たちは実際に「生命の交響曲」という概念を別の形で体験することになります。音楽のさまざまな要素が、私たちの体のさまざまな部分に集中していると想像してみましょう。体のさまざまな部分が、交響楽団の一員として演奏に加わっています。メロディ(旋律)は思考の領域である脳に私たちを導く傾向があります。それは、心の中のイメージの具体化であり、自身の思考を感情という側面に開いてくれます。メロディには流動的な性質があり、血液の循環にも影響を与えます。メロディは通常、管楽器や高音域の弦楽器によって表現されます。

ハーモニー(和声)は胴体で主に活動し、心臓と胸の中心が開かれるような感覚をもたらします。ハーモニーは、内面的な感情という要素を体内に目覚めさせますが、一方でリズム(律動)は音楽の鼓動であり、呼吸や脈拍に活気を与えます。リズミカルな音楽は神経系に影響を与え、細胞内の分子にも影響を与えます。実際のところ、リズムが完全に失われることは死を意味します。リズムは両腕と両脚で活動し、規則正しく秩序ある運動によって意志に励ましを与えます(脚注6)。
以下の実習が役に立つでしょう。静かに座り、魅力的な音楽を聴きながら、体の各部分を感じることに集中すると同時に、その部分に対応するサイキック中枢(訳注)にも意識を向けてください。頭の中をメロディが流れているのを感じ、胸の中でハーモニーを感じながら呼吸を続け、リズムによって両腕両脚に目覚めるぞくぞくとした感じを味わってください。このようにして聴いている音楽に体全体を浸すと、調和の中で骨までもが歌い始めるかもしれません。
(訳注:サイキック中枢(psychic center):バラ十字思想では、内分泌腺、内臓、神経叢のいくつかは、物質の世界と心の世界を中継する周波数の変換の役割を果たすと考えられており、サイキック中枢と呼ばれている。ヨガのチャクラと類似する概念。この実習では、額の奥、眉間の奥、甲状腺、胸腺、心臓、みぞおち、下腹部の中心などに意識を向ける。)
「上のように下にも」という錬金術の法則は、話題にしてきたこれらの原理に直接あてはめることができます。自然の法則と宇宙の法則を学び、それが私たちの人生にどのように関わっているかを理解することは、「内なる音楽」を発見するためのきっかけになり、宇宙の振動とリズムに同調する方法を私たちに教えてくれます。

※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。
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第1号:内面の進歩を加速する神秘学とは、人生の神秘を実感する5つの実習
第2号:人間にある2つの性質とバラ十字の象徴、あなたに伝えられる知識はどのように蓄積されたか
第3号:学習の4つの課程とその詳細な内容、古代の神秘学派、当会の研究陣について
脚注
Endnotes
1.From The Unvarnished New Testament, trans. by Andy Gaus (Phanes Press, 1991), p. 171.
2.Dr. Donald Hatch Andrews, The Symphony of Life (Unity Books, 1966).
3.Ibid. pp. 57-58.
4.Walter Albersheim, The Conscience of Science (AMORC, 1982), p. 97.
5.たとえばCを基本音とすると、自然の和音の倍音は、1オクターブ上のC、G、2オクターブ上のC、E、Gとなる。
6.これらの考えは、ルドルフ・シュタイナーの講義集『音楽の内的性質と音の経験』(The Inner Nature of Music and the Experience of Tone, Anthroposophic Press, 1983)でさらに詳しく展開されている。





