こんにちは。バラ十字会の本庄です。
東京板橋は、初夏の過ごしやすい陽気になっています。町のそこここにバラの花が咲き乱れています。
いかがお過ごしでしょうか。
札幌で当会のインストラクターを務めている私の友人から、イギリスの小説についての文章が届きましたので、ご紹介します。
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『ジェーン・エア』― 文芸作品を神秘学的に読み解く33

この物語はジェーン・エアという孤児で器量の悪い女の子の半生を綴ったものです。ジェーン自身による一人称で書かれており、ジェーンが移り住んだ場所ごとに4つ+1つを舞台にしています。
1.【ゲーツヘッド】(1章~4章)
赤ん坊の時に孤児となったジェーンを伯父夫婦が引き取り、自分の3人の子どもと一緒に育てます。やがて伯父も亡くなり、義理の伯母は仕方なくジェーンを育てますが、虐待に近いものです。3人の従兄姉たちもジェーンをいじめ尽くします。ジェーンの味方は一人もいません。
2.【ローウッドスクール】(5章~10章)
1月19日、伯母は手に余った10歳に満たないジェーンを寄宿学校ローウッドスクールへ入れます。ここは劣悪な環境で多くの病人や死者を出すほどのところです。ここでジェーンは同じように孤児のヘレン・バーンズという級友と出会い打ち解けますが、ヘレンは病死してしまいます。しかし、尊敬できるテンプル先生という理解者にも恵まれ、生徒として6年、さらに教師として2年を過ごします。
3.【ソーンフィールド】(11章~28章)
テンプル先生が去ってしまった学校に残ることをよしとせず、ジェーンは新聞広告を出し、住み込みの家庭教師の職を得ます。生徒はアデルというフランス生まれの孤児で、38歳になる当主エドワード・ロチェスターが養育しています。
ここではアデルもジェーンになつき、ロチェスターにも気に入られ、ついには求婚されます。ジェーンもロチェスターを愛おしく思っていて、プロポーズを受け入れますが、結婚式の最中に、ロチェスターには妻がおり、発狂してソーンフィールドの屋敷の3階に幽閉されていることが発覚します。
ロチェスターは妻がいてもジェーンと暮らしたいと説得しますが、ジェーンは家を出ます。7月のことでした。この時ジェーンは、こんな体験をします。
「白い人間の姿をしたものが青空に光り輝き、神々しい額を地上に向けた。それは私を凝視し、凝視しつづけた。そして私の魂に話しかけてきた。その音声ははるかかなたから発せられているのに、とても近くに聞こえて、私の心にささやきかけた。『「我が娘よ、誘惑より逃れよ!』『お母様、そういたします』」[小尾芙佐訳]
無一文のジェーンは見知らぬ土地を数日さまよいます。

4.【ムーア・ハウス】(29章~35章)
行き倒れになりそうなジェーンを牧師のセント・ジョンが助け、彼、それに妹2人と暮らすようになります。後にセント・ジョン兄姉はジェーンの従兄姉であることが分かります。牧師のセント・ジョンはインドへの布教に妻として同行することをジェーンに申し出ます。
その申し出に神への愛はあったとしても、自分への愛がないことを確信したジェーンは結婚を拒絶します。しかし、セント・ジョンの神がかりとも言える説得により、ジェーンはセント・ジョンとの結婚を受け入れようと思い始めます。ところがその時、「ジェーン」と呼ぶ声がはっきりと聞こえます。ロチェスターの声です。
3+.【ソーンフィールド】(36章~38章)
6月1日、ジェーンはソーンフィールドに向かいます。しかし、そこには火事で焼け落ちた屋敷が無残に残っていました。近所の人が言うには、ロチェスターの妻が火を付け、そして屋根から落ちて死んだのです。
ロチェスターも妻を助けようとして、怪我をして片腕と視力を失いました。今は近くのみすぼらしい家に住んでいるということです。ジェーンはすぐにロチェスターに会いに行き、愛の告白をし、結婚します。
10年後の現在、ロチェスターは片目の視力が回復し始め、息子も生まれ、2人は幸せに暮らしています。

この物語の大きなテーマは、「神秘」と「愛」です。
21章の冒頭は6歳の頃の出来事を元に、ジェーンの次のようなモノローグで始まります、
「予感とは奇妙なものだ! そして、共感もそうであり、予兆もそうである。そして、この3つが組み合わさって、人間が解くための鍵をまだ知らないひとつの神秘を作り出す。私はこれまで予感というものをバカにしたことはない。」
「というのは、私自身、奇妙な体験をしたことがあるからだ。共感は存在すると思う。(たとえば、遠く離れている親戚が、疎遠であるにもかかわらず、それぞれが自分の出自をたどると源は同じという絆の意識が存在している)。その働きは人間が理解できないのだ。そして、予兆は、私たちが知る限りでは、自然と人間の共感かもしれない。」[拙訳]
また27章の始めの部分では、こう述べます、
「午後のある時、私は頭を上げて、あたりを見回し、西日が壁にその衰えを示しているのを見て、『私はどうしたらいいの?』と問いかけた。」
「しかし、私の心の答えは『ソーンフィールドをすぐに離れろ』というもので、これはあまりに急な答えで、私は耳を塞いだ。そんな言葉には耐えられないと言った。(中略)しかし、その時、私の心の声が、『できる』と言い、『やるべきだ』と予言したのだ。」[拙訳]
そうしてジェーンはロチェスターの元から去る決心をするのでした。

そして35章の終わりのシーンです、
「家中が静まり返っていた。セント・ジョンと私を除く全員が、今は休息していたのだと思う。最後のろうそくが消え、部屋は月明かりに満ちていた。私の心臓は高鳴り、その鼓動が聞こえた。突然、言いようのない感情が沸き起こり、その感覚は、私の頭や全身にも伝わってきた。」
「その感覚は電気ショックとは違うが、同じくらい鋭く、奇妙で、驚くべきものだった。私の五感に働きかけ、あたかも最大限の活動が休止状態から呼び起こされ、強制的に目覚めさせられたかのようだった。」
「『何が聞こえた? 何が見える?』とセント・ジョンは尋ねた。私は何も見なかった。しかし、どこかで叫び声が聞こえた…『ジェーン! ジェーン! ジェーン!』という声が聞こえたが、それ以上は聞こえなかった。『神よ、何事ですか?』 私は息を呑んだ。私は『どこにいるのですか?』と言ったかもしれない。」
「それは部屋にも家の中にも庭にも見えず、空中からでもなく、地中からでもなく、頭上からでもなかったからだ。私はそれを聞いたのだ。どこからなのか、永遠に知ることはできない。知るよしもないが、それは人間の声だった。エドワード・フェアファックス・ロチェスターの声だった。その声は痛みと苦しみに満ち、不気味に響いた。」
「『今行きます』。私は叫んだ。『待っていてください! 待っていて、すぐ行きますから!』扉まで飛んで行って廊下を見たが、真っ暗だった。私は庭に飛び出したが、そこは空っぽだった。『どこにいるんですか?』私はそう叫んだ。」[拙訳]
こうしてジェーンはロチェスターのところへ向かうのです。実はその時、ロチェスターも同じようにジェーンの声を聞いていました。
片腕を失い、盲目になったロチェスターにジェーンは結婚を申し込みます。そしてお互いの愛を、真実の愛を確信するのです。

19世紀の中葉に書かれたこのイギリス文学作品は、全編を通してキリスト教の教義が色濃く反映されています。もちろんジェーンも真摯に神への祈りを捧げます。しかし、ジェーンは子どもの頃から一貫して誠実さと倫理感を曲げることはありませんでした。
ですから牧師のセント・ジョンが神学教義を持ち出して結婚を迫ってもジェーンの心は頑なです。ジェーンが帰依するのは創造主としての神なのです。28章、ジェーンがロチェスター邸を出て見知らぬ土地をさまよい、飢えと疲れでうちひしがれそうになったとき、彼女はこう想うのです、
「こんな苦しい思いに疲れ切って、わたしは膝をついた姿勢で起き上かった。夜が訪れ、星が昇っていた。静かで安らかな夜――あまりに穏やかな夜で、不安の入り込む余地もないほどだった。神がどこにでもおられるということをわたしたちは知っているが、その存在を一番強く感じるのは、神の御業が壮大な規模で眼前に広がるときだ。」
「まさに今、雲のない夜空に、神の世界がその定められた針路を静々と回っており、それを見るとき、わたしたちは神の無限、全能、遍在を最もよく知るのだ。わたしはひざまずいて、ロチェスター様のために祈った。見上げると、涙でかすんだ目に壮大な銀河が映った。」
「それが何であるか――無数の小宇宙が柔らかな光で空間全体を照らしているということ――を思い起こしたとき、神の全能が感じられた。お造りになったものはお救いくださる、と確信でき、また地上の世界は滅びることはなく、そこにある魂も一つとして滅びることはないだろうという確信も深まった。」
「わたしの祈りは、感謝の祈りに変わった。命の造り主は、魂の救い主だ。ロチェスター様の心配はいらない――彼も神のものであり、神に守られているのだから。再びわたしは心地よく丘に抱きとられ、まもなく眠りに落ちて悲しみを忘れた。」[河島弘美訳]
ジェーンが愛したのはロチェスターという人間であり、見返りはもちろん、対象となる何かでもないのです。そこには2人の共感する一体性だけが存在します。俗世を超えた精神愛です。
私はこの作品を読んで、バラ十字会AMORCの世界総本部の代表を1915年から1939年に務めていたH・スペンサー・ルイスの次の言葉を思い起こしました、
「人生の最大の贈り物は、愛の法則が宇宙の最高の法則であるということです。この世に愛ほど輝かしいものはありません。愛が存在するからこそ、人生は常に生きる価値があるのです。」
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再び本庄です。
『ジェーン・エア』に示されていたように、時間と空間を超えて、親しい人と心が通じ合うということは、もしかしたら、とても多くの人が経験していることではないでしょうか。
下記は森さんの前回の文章です。
記事:『浦島太郎について』
では、今日はこのあたりで。
また、お付き合いください。
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