マーク・コーンウォール(Marc Cornwall)

マヤの9つの葬送の仮面(デスマスク)のう
ち最もよく知られているカラクムルの仮面(Mask of Calakmúl)

古代エジプトのファラオたちのミイラが、金や銀の葬送の仮面(death mask)で飾られたのと同じように、「クフル・アハウ」(K’uhul Ahawob)と呼ばれたマヤの都市国家の聖なる王たちも葬送の仮面とともに埋葬されました。現在のメキシコ、グアテマラ、ベリーズ、ホンジュラスに広がっていたマヤ文明の世界では、金が貴重なものとされていましたが、翡翠は、それよりはるかに価値があると考えられていました。

メキシコのユカタン半島のペテン盆地の、密集した熱帯林の奥深くに位置している荘厳な都市カラクムルは、放棄された後まもなくして、密林に埋もれてしまいました。マヤ文明が栄えた地域は、古代ギリシャが思い起こされるように、いくつもの都市国家に分かれていました。マヤ文明の古典期には、ティカル(Tikál)とカラクムル(Calakmúl)という2つの都市国家が、知られている他の国々に対する権力と影響力を競い合う巨大なライバル国家でした。アテネとスパルタの関係を想像していただくとそのイメージが掴めることでしょう。

ニコライ・リョーリフの作品「Madonna Oriflamma」に描かれた平和の旗(提供:WikiArt, Public domain, Nicholas Roerich Museum, New York City)
ニコライ・リョーリフの作品「Madonna Oriflamma」に描かれた平和の旗(提供:WikiArt, Public domain, Nicholas Roerich Museum, New York City)

カーン(蛇)王国(Kaan kingdom)の首都であったカラクムルの広大な遺跡は、グアテマラの国境に近い、現在のメキシコのカンペチェ州にあります。現代でも、この場所に行くのは困難です。カラクムルの元々の名前は「3つの木の石」を意味するオクス・テトゥーン(Ox-Te’-Tun)であったとされています。この名が天球のある場所のことを意味していることを知らなければ、奇妙な都市の名前だと感じられることでしょう。「3つの木の石の場所」とは、正三角形を構成しているオリオン座の3つの星(β:Rigel, ζ:Alnitak, κ:Saiph)を意味しています。この三角形は、当時の人々が火を焚くときの形、つまり火を取り囲む3つの炉辺の石を意味します。現代でも、ニコライ・リョーリフ(Nicholas Roerich)が描いた「平和の旗」にそのイメージを見ることができます。

古代ローマのウェスタの処女(訳注)によって守られていたウェスタの火のように、「3つの木の石の場所」もまた、マヤ神話において特別重要な場所です。マヤの剃髪のトウモロコシの神(Tonsured Maize God)が、天空の亀(オリオン座)の甲羅を破りこの世界に出現したのは、マヤの長期暦の初まりである「13.0.0.0.0 4アハウ 8クムク」(紀元前3114年8月11日に相当)という神秘の日付でした。この日に、現在の世界が創造の舞踏によって形成されたとされています。このようにして、カラクムルは、世界が創造され出現した場所であるとされています。

(訳注:ウェスタの処女(Vestal Virgins):ウェスタは古代ローマの炉の神でギリシャ神話のヘスティア(Hestia)にあたる。ウェスタの祭壇の聖火を守る役割を果たしていた。)

グアテマラのキリグアにあるステラ(石柱)Cの東側に掘られた碑文。「13.0.0.0.0. 4 アハウ 8 クムク」(紀元前3114 年8 月11 日)という神話上の世界創造の日を示している
グアテマラのキリグアにあるステラ(石柱)Cの東側に掘られた碑文。「13.0.0.0.0. 4 アハウ 8 クムク」(紀元前3114 年8 月11 日)という神話上の世界創造の日を示している

カラクムルの仮面

The Mask of Calakmúl

「マヤの9つの葬送の仮面(デスマスク)のうち最もよく知られているカラクムルの仮面は、美についての高度な洗練された感覚と宇宙を重要視する特徴を備えた、この古代の文化の性質を明かしている。私たちがこの文化を称賛し続ける限り、それが人類の記憶から失われることは決してない。」- ディエゴ・プリエト、メキシコ国立人類学歴史研究所所長(Instituto Nacional de Antropología e Historia, INAH)

この美しい翡翠の仮面は、無数に繰り返される生と死と復活という人間の周期を表しています。この仮面はまた、統治者の聖なる姿を表わしています。彼が治める民衆や都市や世界のすべての生き物の生命力が、この統治者から放出されています。仮面のひとつひとつの要素にはそれぞれ独自の意味がありますが、同時にそのすべてが関連しています。マヤの宇宙観は、単純なものではありません。マヤの宇宙観においては、自然と神、動物と人間、生と死のそれぞれが絶えず互いに影響しあい、一体になっています。

1984年12月12日、メキシコ考古学史上の最も重大な発見がありました。カラクムルの第7号建造物で、翡翠で作られた葬送の仮面を考古学者は発見しました。それは、この都市国家の支配者の仮面ですが、その名前は判明していません。このカラクムルの仮面は、マヤ文化を象徴する代表的な遺物の一つであり、今もなお多くの謎に包まれています。この仮面のそれぞれの要素の解釈をご紹介します。

カラクムルの第2建造物
カラクムルの第2建造物

カラクムルの仮面が象徴するもの

Calakmul Mask Symbology

メキシコ国立人類学歴史研究所(INAH)の専門家によれば、この仮面の神のような顔立ちは、死とその後の復活の両方を象徴していますが、それはまた生命も意味しています。2018年7月から、カンペチェ市の中心部のラ・ソレダ砦にあるマヤ建築博物館に、他の装飾品とともにこの仮面が展示されています。

カラクムルの仮面は、いくつかの部品でできており、そのそれぞれに意味があります。

顔:マヤの葬送の仮面すべてには、材料として翡翠が使われています。緑色は自然との関連を示しています。この仮面が生命と豊穣と再生の象徴だからです。

花:仮面の耳飾りもしくは耳栓だと考えられている部分にある4枚の花びらを持つ花は、メソアメリカ(訳注)の人々の宇宙観を表しています。マヤの人々は、世界はその初期に、四隅と中心によって囲まれていると考えていました。

(訳注:メソアメリカ(Mesoamerica):中央アメリカで、高度な農耕民文化に基づくアステカ・マヤ・テオティワカンなどの古代文明が築かれた領域。現在のメキシコ中部からコスタリカの一部を含む。)

蛇:耳栓の下には貝殻から彫り出された蛇の牙があります。マヤの支配者は、自分が神聖な地位にあるというメッセージを伝えるために、蛇の牙を衣装飾りとして用いていました。カルクムルの支配者は、「蛇の聖なる君主」を意味するクフル・カン・アハウ(K’uhl Kaanal Ahaw)と呼ばれていました。

風:仮面の口の中には、巻き貝の一部がありますが、これは風を表しています。これは精霊(spirit)の息吹を表しており、魂(soul:ソウル)と同じ意味です。開いた口は、聖なる洞窟を表しています。

蝶:顎の下には羽を広げた蝶が配されています。これは亡くなった君主の魂を象徴しています。スペイン征服以前の中南米の美術においては、蝶は「明けの明星」の象徴でした。

聖なる山:これは創造の場所を象徴しています。マヤのピラミッドは山を表現しています。山の内部には埋葬室があり、そこで、支配者はトウモロコシの神として生まれ変わるとされています。

トウモロコシ:仮面の頭飾りの中には、トウモロコシの小さな芽が2つあります。支配者は死ぬと種子になり、神として再び地上に姿を現し、彼の民衆の生活を守るとされました。マヤの人々は、原初のトウモロコシの実の3粒から、最初の人間が作られたと考えていました。

古代マヤ文明では、翡翠は極めて貴重なものだと考えられていた
古代マヤ文明では、翡翠は極めて
貴重なものだと考えられていた

カラクムルの仮面は、亡くなった支配者の復活と再生を象徴しています。マヤの人々の思想には、二元論的なテーマを広く見ることができます。それは、善と悪、昼と夜、生と死などの相反する力の間の永遠の戦いとして表されています。この仮面を付けることによって、死を克服し、生命の木を登って天上の世界にたどり着くことを支配者は望んでいました。

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