渦巻きのスピリチュアルな意味
今回は、渦巻きと螺旋(らせん)のスピリチュアルな意味についてお話ししようと思います。そのために、今では多少使い古されてしまった、「スピリチュアル」の意味を再定義しておきます。
「スピリチュアル」の定義と感情
「スピリチュアル」というカタカナ語は、日本では様々な意味に使われ過ぎて、かなりあいまいになってしまっています。しかしここでは特に、心の奥が静かな喜びに震えるような体験が持つ性質のことを、スピリチュアルと呼ぶことにしましょう。
一例ですが、たとえば次の場面を想像していただきたいのです。
あなたはアラスカの高緯度の地方、澄んだ水の波ひとつない湖のほとりで、ひとりで風景を見ています。今は夜明け前で、周囲には物音ひとつしません。オーロラで薄く輝く星空が、少しずつ明るくなってきて、雪をかぶった遠くの山々の頂上近くが、ピンク色に染まり始めました。そしてその日の最初の陽光がひとすじ、地平線から射してきました。
思い浮かべていただけたでしょうか。
このようなとき、その体験には何か、心の奥を揺さぶる厳かさがあるのではないでしょうか。「スピリチュアル」(spiritual)という英語は本来、このような性質のことをおおむね表していました。
参考記事:『スピリチュアルとは?本当の意味を簡単に解説、4つの実際の例、「感じる」というキーワード』
スピリチュアルだけれども宗教でなく(SBNR)
歴史を100年ほどさかのぼると、このような厳かな(スピリチュアルな)感動を人に与えるのは、多くの場合に宗教に関連する事柄だったようです。しかし今や、ネイチャー・ウォッチングや音楽や、ヨガや瞑想など、さまざまな体験で私たちは、静けさや厳かさを楽しんでいます。
そして、個人の好みや傾向のこの変化を表すのに、「スピリチュアルだけれども宗教でなく」(SBNR: Spiritual But Not Religious)という言葉が、数十年前から米国でたびたび用いられるようになっています。
単純化を怖れずに語るとすれば、それは、宗教とは別のアプローチで、外部にある偉大な何かと、あるいは内部にある偉大な何かと、親密に心を通わせることであるように思われます。
この内部にある偉大な何かは「ハイアーセルフ」などと呼ばれたりすることもありますが、多くのバラ十字会員はむしろ「内なる自己」(inner self)という言葉を用いています。
渦巻きと螺旋(らせん)の違い
渦巻きと螺旋はどう違うのかということが気になる方もいらっしゃることと思います。私も気になっていました。
調べてみると、通常渦巻きとは、半径が大きく(もしくは小さく)なりながら巻いている平面上の図形のことを指します。
この渦巻きの中央部を平面に対して上方または下方に引っ張ったときにできる立体的な図形が、螺旋と呼ばれます。
しかし、渦巻きと同じ意味で螺旋という言葉が用いられることもありますし、支柱に巻いているアサガオのつるのように、半径が変わらない立体図形も螺旋と呼ばれます。
渦巻きと螺旋と、古代人のスピリチュアリティ
下の写真は、火焰式土器と呼ばれる縄文時代の遺物です。この土器には、いたるところに螺旋がデザインされています。
これからご紹介する、バラ十字会の研究家が書いた記事にも、古代エジプト人が描いた見事な渦巻きが登場します。
おそらく古代人は、渦巻きや螺旋に強いスピリチュアルな意味を感じていました。言い方を変えれば、強く心を動かされていました。なぜでしょうか。主に次の2つの理由があると思われます。
1.月とヘビに対する信仰が、渦巻きや螺旋に関連していること
興味深いことに、古代エジプトでもメソポタミアでも、日本の縄文時代でも、古代人の多くが、月とヘビのことを神だと見なしていました。月の満ち欠けとヘビの脱皮が、不老不死と結びつけて考えられたためだと推測されます。
天空における月の運動を古代人が渦巻きだと考えたことや、ヘビの巻くトグロが螺旋形であることから、渦巻きや螺旋が不老不死という意味と結びつけて考えられたのだと思われます。
参考記事:『縄文文化の精神性』
2.強烈なエネルギーの現象、生きものの成長・生殖に関連して、渦巻きや螺旋が自然界にたびたび現れること
竜巻、渦潮など、螺旋の形をとる自然現象のいくつかは、強いエネルギーによって生じています。
たとえば竜巻は、北極周辺から低緯度地方の上空に下りてきた寒冷渦(cold vortex:コールド・ヴォルテックス)と地上の気温差のエネルギーによって生じる激烈な現象です。
また、巻き貝、松かさの鱗片の配置、ヒナギクの花の中央、ネジバナの花の付き方、ヒマワリの種の配置など、自然界のデザインにはいたるところに螺旋が表れ、その多くが生きものの成長に関連しています。
参考記事:『自然界に見られるフィボナッチ数列|なぜ黄金比と関連?』
このことから古代人は、渦巻きと螺旋を、強いエネルギーや生命力を結びつけて考えたのではないかと思われます。
それを受け継いでいるのか、あるいは直接の体験に由来するのかはわかりませんが、人間の生命力も渦巻きや螺旋と関連しているという考え方が、ヨガや太極拳など、長い歴史を持つ伝統で唱えられています。
さて、バラ十字会の専門家が書いた記事『渦巻きとらせんの神秘』を、下記にご紹介します。
記事:『渦巻きとらせんの神秘』
(The Mystical Spiral)
ディニ・ヤコブス
By Dini Jacobs
エネルギーの流れを表す渦巻きという象徴
渦巻き(Spiral)は、エネルギーの流れを表わすために、太古の昔から用いられていた神秘的象徴で、世界中のさまざまな遺跡の道具類に見ることができます。エジプトの先王朝時代の陶器や、神殿の石壁の彫刻に渦巻きの模様が使われています。また、西ヨーロッパや南北アメリカ大陸や東洋の、巨石からなる遺跡やストーンサークルにも見ることができます。渦巻きは現在もなお、さまざまな宗教団体や神秘学派で用いられています。また、神秘的な象徴として一般にも使用されています。
渦巻きと太陽の軌跡
幾何学的図形の中でも、渦巻きは極めて古くから使われていたので、何か特別な意味があるに違いないと、考古学者は長い間考えていました。渦巻きが表していたのは、一年の4分の1の期間に、太陽が空に描く軌跡であることが、研究と数々の実験によって明らかにされています。春分から夏至までの間、太陽が空に描く通り道は右回りの渦巻きで、太陽はこの渦巻きを、外側から内側へとたどります。夏至が過ぎると、内側から外側に進み、秋分には元の点に戻ります。一方冬期には、左回りの渦巻きをたどり、冬至までは外側から内側へと進み、その後春分に最初の点へと戻ります。
渦巻きを組み合わせた模様
2つの渦巻きを組み合わせた模様が、多くの古代文化で共通して使われています。そこから発展した3つの渦巻きを組み合わせた象徴も現れました。しかしどの象徴においても、ひとつひとつの渦巻きは3ヵ月という期間を意味しています。3つの渦巻きを組み合わせた象徴は、人間の胎児が子宮にいる期間を表していると考えられています。
自然界に見られる渦巻き
自然界で見ることができる形には、異なる構造であるにもかかわらず、同じ数式に従っているものがあります。渦巻状の運動はマクロコズム(macrocosm:大宇宙)の中に様々な種類のものを見ることができます。最もよく知られている例は、美しい渦巻銀河であり、星々でできた腕を優美なカーブを描いて外側に伸ばしています。ミクロコズム(microcosm:小宇宙)では、自然界や人間の体に見ることができる、さまざまな形と周期がその例です。
渦巻きと人生と生物の成長
渦巻きは、人生の展開やあらゆる生物の成長がたどる自然な進行を表しています。その渦は常に大きくなっていき、同じ地点を通ることはありません。渦巻きの性質からして、それは必然的なことであるように思えます。そして、変化と成長、カオス(chaos:混沌)の中にある秩序、相反すると同時に同じであるものを、渦巻きは見事に表しています。
物質界と非物質界からなる秩序であるコスモス(Kosmos)
ギリシア人は、ものごとの物質的な面と非物質的な面を総合して、有機的統一体として把握することの重要性に気づいていました。ギリシア語の「コスモス」(Kosmos)は「秩序」を意味していて、そこには、次のような考え方が反映されています。つまり、物質はそれ自体の運動と秩序があるから存在しているのでもあり、成り立ってもいるのだという考え方です。言い換えれば、物質とは振動であるということです。原子核の周りを回る電子の運動や、分子の中の原子の振動、DNA鎖の中の分子のリズミカルな運動などについて考えるとその意味がお分かりになるでしょう。
同じように、人間の意識が生まれ、進化していくということは、意識の構造を継続的に、より洗練されたものにしていくということであり、ひとりの人間というミクロコズムを、より秩序あるものにしていくということです。このような観点から見ると、渦巻きは魂(soul:ソウル)が永遠の生命に向かって進化していくことを象徴しています。
内向きの運動と外向きの運動、二重のらせん
単純な二次元の渦巻きには、いくつかの特徴的な性質があります。それはその源から始まって、その源に戻っていきます。それはすでに起こったことの意味を明らかにし、新たな光を当て、その結果として起きる新しい発見へと私たちを導きます。渦巻きは過去の説明であり、未来の予言なのです。
時空(space-time)という四次元の世界では、渦巻きは圧力の低い領域の周囲で形成され、上向きもしくは下向きに圧力をおよぼす、らせん状の流れと考えることができます。たとえば竜巻や台風を思い浮かべると良いかもしれません。渦の中心に、それとそっくりなもうひとつの渦ができ、らせん状の流れが2つ重なると、内向きの運動と外向きの運動が組み合わせられます。
人間の本質の核心には、このような二重のらせんがあります。上向きのらせんは、人間の意識が高められることを表現しており、下向きのらせんは人間の身体が物質化され、物質の領域で進化することを象徴しています。それによって全体的な存在、つまり「生ける魂」を、二重のらせんが創造しているのです。
瞑想と意識の上昇とらせん
私たちが殿堂内や自宅で瞑想するときには、私たちは自身の意識を〈創造主/神〉の精神に同調させようと試みています。そのような時には、上に向かうらせんとして自分自身の意識を視覚化することができます。創造されたすべてのものを包み込むような大きさの渦になるまで、ずっと広がっていく円として、らせんを思い浮かべます。意識を上昇させている間に、私たちはある「滞在の場所」に到達します。バラ十字会員には〈天上の聖所〉として知られている精神の状態です。
渦巻きと迷宮(labyrinth:ラビリンス)
渦巻きと密接に関連しているのが「迷宮」です。迷宮とは、二重になっている渦巻きと考えることができます。アメリカ先住民族のホピ族は迷宮のことを「母なる地球」の象徴と呼び、地下にある彼らの聖なる場所「キバ」(Kiva:円形の大広間)を、それになぞらえています。この「キバ」を通して、以前の世界からホピ族が出現したという言い伝えがあります。迷宮の中の線と通路のすべては、創造者の普遍的な企画が具体化されたものであり、この企画には、すべての人が〈人生の道〉を歩む上で従わなければなりません。
知られている最も古い迷宮は、エジプトで発見されたものであり、紀元前19世紀にさかのぼります。しかし最も有名な迷宮はもちろん、クレタ島のミノス王のラビリンスであり、神話のアリアドネの糸の話で知られています。
迷宮は、作られては破壊され、広げられたり狭められたり、また、姿を消したり現れたりします。それは正しい道を知っている人にとっては秩序正しい〈宇宙〉であり、道を見失っている人にとってはカオス(混沌)です。ウィリアム・ブレイクの言葉には、こうあります。
私はあなたに黄金の糸の端を渡します。
ただ、それを巻いて糸玉にしなさい。
この糸があなたを、
エルサレムの壁の中に作られた
天国の門へと導きます。
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第1号:内面の進歩を加速する神秘学とは、人生の神秘を実感する5つの実習
第2号:人間にある2つの性質とバラ十字の象徴、あなたに伝えられる知識はどのように蓄積されたか
第3号:学習の4つの課程とその詳細な内容、古代の神秘学派、当会の研究陣について
(参考文献)
Lyall Watson, Dark Nature, Hodder & Stoughton, London, 1995
Jill Purce, The Mystical Spiral: Journey of the Soul, Thames & Hudson, London, 1975
Christopher Knight & Robert Lomas, Uriel’s Machine, Arrow Books, London, 2000
執筆者プロフィール
本庄 敦
1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学(mysticism:神秘哲学)の普及に尽力している。
詳しいプロフィールはこちら:https://www.amorc.jp/profile/