ピーター・ワイリー
子供から大人へと成長していく間に、知識を手に入れ、経験を積み、人の意識は拡大していきます。人の意識がこのように成長を続けていることは、まさに、世界の希望です。意識が拡大するのと並行して、物質的な世界では、身体が成長していきます。子供は花のつぼみのようなものです。それは、成熟という可能性に満ちあふれた生命であり身体です。成長の過程が進むにつれて、子どもはさまざまな能力を兼ね備えるようになり、それらの能力が調和して働くようになります。それとともに、周囲の環境と触れ合うことを通じて、感覚器からの刺激が心に届くようになり、子供の意識が拡大していきます。
歴史上初めて人類が記録を書き残したのは、おそらく5,000年ほど前のことです。意識の一般的なあり方について考えてみると、この5,000年の間に、人類の意識は大きな進歩を遂げてきたことが分かります。人類は、周囲の環境から絶えず課題を与えられ、それを解決してきました。人類は、身の周りに存在するさまざまな力を手なずけることに成功し、その結果、今日の文化的な社会という物質的成果が得られました。しかし残念なことに、文化的な社会が成立するまでの経緯は、必ずしも建設的なものではありませんでした。知性が発達すると、人々は、自分たちと同様に人口が増えつつあった他の種族と争うようになりました。その結果として、物質的なものを所有するという観念と欲望が生じ、物を所有することが、おおむね人生の目的であり生きる楽しみであると、大部分の人が考えるようになりました。そうした概念と所有欲により、人間は互いに反目し合うようになり、世界のあちこちで多くの紛争が引き起こされるようになりました。
一方、人類の意識が成長を続けているという証拠を否定することは誰にもできませんし、意識をいっそう拡大させるための余地は、まだ多く残されています。人類はまた、環境や資源や自分自身の能力をうまく活用できるようになりました。しかし一方で、真に意識が拡大されたならば、自分と同様に意識の拡大に取り組んでいる他の人々の権利や能力に、深い理解を示すように導かれるということを認識するレベルには、まだ達していません。
無駄な行い
Wasteful Action
宇宙の中で起こるすべてのことには、無駄な部分があります。たとえば、通常のガソリン・エンジンを例に挙げれば、燃料が燃える際に生じるすべてのエネルギーを、運動エネルギーに変換してエンジンの出力として利用することはできず、エンジンの効率は、ある程度までしか上げることができません。燃焼から得られるエネルギーの大部分は、熱や摩擦として失われます。ガソリンが最初に持っているエネルギーのうちの、とても小さな割合だけを、最終的に車を動かすエネルギーに変換することができます。
このように、あらゆる過程には、ある程度の無駄が伴います。人類の意識の拡大や精神的な成長のプロセスにおいても、事情は同じです。そして、人類の精神面の成長というプロセスで生じる無駄とは、他の人々を誤解することと、意識を拡大するプロセス全体の最終的な目的を誤解することです。ですから、人類全体の成長と進歩はいつでもゆっくりとしたものであり、進んだり後退したりしています。その理由は、集団として人類が、精神的な成長の目標も、その目標をなし遂げる手段も、まだ十分に把握することができていないからです。
宇宙意識
Cosmic Consciousness
思慮深い人たちは、自分たちが現在置かれている状況よりもさらに良い状況を、常に切望してきました。哲学者や神秘家は、いつの時代も、意識の高度な状態を求めてきました。この状態は「宇宙意識」、「神聖な源泉との合一」などのさまざまな名前で知られています。後者の場合、人間はこの神聖な源泉の一部でもあるとされます。人類がまだ成長の途上にあるうちは、この〈宇宙意識〉とう状態、あるいはそれを別の名前で呼んでもかまわないのですが、この状態に完全に達することはできないということを理解している人は、あまり多くはありません。子供が大人になるまでの間に、生理学的な、さまざまな発達の段階を通過しなければならないのとまったく同じように、人類は、自分たちが神であると考えているものと一体となる意識の状態に最終的に到達する前に、多くの段階を通過しなければなりません。
高い目標を設定し、〈宇宙意識〉の状態を達成するのを望むことは、向上心にあふれる神秘家にとって価値あることです。しかし同時に、自分たちは、〈宇宙意識〉の状態を達成する変容の最中である、つまり、意識を発達させ拡大しようとするプロセスの途中段階にある、さらに言えば、この変化の歩みを始めたばかりであるということを、神秘家は決して忘れてはいけません。肉体で得ることができる感覚の現在の範囲を超えている、さまざまな能力や観念があるということに気づくことができれば、人は必ず、自身の意識を拡大させる道において確実な一歩を踏み出し、現時点では単なる理想に過ぎない究極の目標に向かって少しずつ進んでいくことになります。
潜在する理想を実現する
Realising Potential
自身のあらゆる行ないには、考慮すべきさまざまな点があるということを、人は経験を通じて学びます。実験や研究に時間や努力を費やすことなしには、ビルを建てることも、新しい機械を発明することも、自然の法則をさまざまな形で使いこなすことも、できるようにはなりません。つまり、実際に努力し、懸命に働くことで、自身の構想を完全な形で実現することができます。このような実現のプロセスを通じてこそ、人は学ぶことができ、達成すべき最終的な目的が、追求するに値するかどうかを判断できるようになります。
意識の完全な拡大をなし遂げること、つまり、究極で絶対なる存在と完全に同調することは、この人生で達成することはできないかもしれません。しかしそれでも、最も本質的なプロセスであり、進めることが絶対に必要なこのプロセスの、ひとつの段階に自分がいるということは理解できますし、知っておくべきです。そして、この段階は、最終的な目標に達する一因となる要素にあたります。
現代を生きるすべての人は、気づいているといないに関わらず、単に自分が生きるためでなく、人類の集合意識の成長と拡大に役立つという観点で、自分の行いを取捨選択し、このことに努力を振り向ける責務を負っています。人間は誰もが、科学の法則や哲学や技術を、さまざまな形で活用しなければなりません。それらは、個人や人類全体の意識の成長のための実際的な手段を提供してくれています。この成長のプロセスの各段階に不可欠なのは、より寛容であることであり、より広くより多くの実際的な知識であり、何が善で何が悪かを小さな声で教えてくれる英知です。寛容さ、実際的な知識、英知を持っているときにだけ、他の人が今直面している課題、人類が過去に直面した課題と同じ課題に、人はより適切に対処することができ、他の人たちが直面しているさまざまな課題を理解し共感することを学ぶことができます。そして、それらの多くは、すでに解決されている課題なのであり、人類がまだ一度も直面したことのない課題は、それほど多くはありません。
ですから、誰もが互いに、他の人の役に立つように生きる世界という理想が実現するかどうかは、私たちひとりひとりにかかっています。つまり、人類の集合的な意識の成長を犠牲にして、個人としての成長を果たすことはできないということを、個々の人が、いつの日か自覚し、客観的に理解することが必要なのです。人間は、自分自身と縁の深い人たちの行動に対して、主としてカルマの責任を負うため、個人の成長がまず優先されるのですが、個人の内面的な成長は、人類の集合意識の拡大と成熟を犠牲にして成り立つものではないことを、常に心に留めておかなくてはなりません。
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