マーガレット・ハルガス
千年以上も前の西暦900年ごろのことですが、深遠な形而上学の考え方を表した見事な宗教美術の作品が、この世に生み出されました。それは、ナタラージャ(Nataraja)と呼ばれる4本の手を持つ彫像で、インドの創造神であり、原初の創造の力の化身であり、舞踏の王であるシヴァ(Shiva)を表わしています。
この彫像は、1本の手に小さな太鼓を持っています。この太鼓は、原初の創造の音、つまり、神の言葉を表しており、この言葉と同時に創造が始まったとされます。それは、相対的な存在(relative existence)であるこの世の、あらゆるものの基礎となる振動が発する音でもあります。
反対側の手は開いており、その上には、宇宙を破壊する火が示されています。この2つの手が、天秤のさおのように釣り合いを保っていることは、万物が常に変化していることを表わしています。相対的な存在であるこの世では、創造と破壊が同時に進行しており、この2つは互いに他を働かせるために一体になっています。創造と破壊のどちらか一方だけが独立して働くことはできません。
第3の手は、手の平を外側に向けて高く持ち上げられ、「恐れてはいけない!」ということを身振りで示しています。それに対して第4の手は、持ち上げられた足を指し示していますが、これは、マーヤー(Maya)と呼ばれる、相対的なこの世界に“宇宙”が作りだしている幻影からの解放を表しています。
シヴァ神は、戦いに敗れて倒された悪魔の体の上で踊っています。この悪魔は人間の無知を表しています。それは、自己の本質を知らないという無知、“宇宙”が作りだしている幻影から生じた無知です。
シヴァ神の穏やかに澄んだ表情は、啓示の光を授かった意識の状態を表わしており、この意識の状態から、宇宙の創造と破壊のダンスが生じ、働き続けます。
形而上学
Metaphysics
ナタラージャの像には、詩歌と芸術と形而上学が、とても美しく融合しています。しかし、さらに多くのことが、ナタラージャによって表わされています。形而上学と物理学は、最終的には完全にひとつになるということも、そのひとつです。
形而上学では、存在には2つの領域があるとされます。つまり、絶対的領域の存在と相対的領域の存在です。相対的領域の存在には、私たちがよく知っている全てのものが含まれます。たとえば、私たちの身体や、人間が作った道具のすべて、私たちを取り囲んでいる自然、大きな山々から一片のほこりにいたるまでの全ての物体です。そして、それらを構成する分子や原子も含まれ、あらゆる相対的な存在を見るための光もそれに含まれています。
一方、絶対的領域の存在には、形もなく、時間もなく、寸法も存在しません。そして、相対的領域の存在の基礎となる領域にあたります。人間の分析的な思考で、絶対的領域の存在を表わすためには、相対的領域の持つ性質を否定する言葉を用いることで、それが可能になります。ですから、無限の(限界がない)、不滅の(滅ぶことがない)、不変の(変化することがない)などと、絶対的領域の存在を形容することができます。絶対的領域の存在を言葉で述べるために、否定や打消しの表現をこのように用いてはいますが、この存在は空(から)なのではありません。絶対的領域の存在は、潜在的な力からなる活動的な状態なのです。
さらに言えば、絶対的領域の存在を体験することもできますし、それに名前をつけることもできます。たとえば、瞑想では、この体験は最も深遠な静寂と感じられます。そして、私たちはそれに〈一なるもの〉(Being)とか「神」という名前を付けます。
物質とエネルギー
Matter and Energy
物理学、より明確に言えば量子物理学は、物質とその運動、そして物質の性質と構造についての科学であり、物質とエネルギーの相互作用も扱います。相対的領域の存在を極めて精密なレベルで調べた場合、物質とエネルギーは、究極的には密接に関係していて、物質はエネルギーの表れであると物理学は述べています。私たちはまた、エネルギーが、粒子的な振る舞いと波動的な振る舞いの両方を示すことを知っています。つまり、エネルギーは、素粒子という非常に小さい“物質”の個別の塊(かたまり)として振る舞うこともありますし、電磁場の波動というよく知られた概念に従って、連続的なもののように振る舞うこともあります。
しかしまた、これらの“波動性を持つ粒子”は、相対的領域のすべての存在の基礎になっているのですが、これらの粒子を、その粒子に働いている力と別なものと見なすことはできないことも、物理学によって示されています。波動性を持つこれらの粒子は、ある「場」が励起した状態として、数学的に正確に記述することができます。
この「場」は「真空状態」と呼ばれています。私たちは真空のことを、何もない空間であると考えてしまいますが、場の量子論における「物理的真空」とは、何もないことではありません。なぜならそこから全てのエネルギーが生じ、それゆえに全ての物質が生じるからです。ですから真空状態とは、物理学的な潜在状態です。それは絶対的な領域であり、先ほどの言葉を使えば、〈一なるもの〉です。
波動的な性質を持つ粒子に作用を及ぼしている力を、それらの粒子と別々のものだと見なすことはできません。そしてこのような力には、重力、電磁気力、そして2つの種類の核力があります。
アインシュタインが統一場理論の研究を始めて以降、この研究は、ずっと続けられています。統一場理論は、すでに知られている上記の4つの力の働きを説明する法則の最終的な性質を明らかにして、4つの力の振る舞いを統一する「ひとつの場」を見つけようとしています。この研究によれば、この統一場は、意識という場そのものである可能性が極めて高いことが示されています。
ではもう一度、ナタラージャの穏やかに澄んだ表情を見てください。その顔には、静寂と、このうえなく美しい潜在状態のありさまが表れています。太鼓をもう一度見てください。真空状態を励起させて、物質とエネルギーを生じさせようとしています。もう一度、宇宙の破壊の火を見てください。作り直される運命にある物質を焼き尽くそうとしています。
他の2本の手は、相対的な領域の存在に生じる大変化に直面しても恐怖を持たないように私たちを勇気づけ、自己を理解するという目標を思い出させてくれます。私たち人間もまた、〈一なるもの〉と呼ぶことのできる源を基点にして、何かを理解しようとします。〈一なるもの〉と私たち自身が別々であると見なすことはできません。そして、私たち人間が理解しようとするのは、まさに自己なのです。真空状態から生じる波動性を持つ粒子という議論において、覚えていていただきたいことは、物理的な真空状態であるもの、すなわち〈一なるもの〉は、場から分離することができず、その真空状態に働く4つの力からも分離することができないということです。
4つの力は、真空状態に作用し、万物が存在するように命じます。そして、この4つの力の統一場であると確認されるのは、実は人間の意識なのでしょう。
〈一なるもの〉が、宇宙の創造と破壊のダンスにおいて、一巡して元の位置に戻り、自己になり、自己を知り、自己を理解するのは、まさに人間の意識の中でなのです。
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