Art and the People スヴャトスラフ・リョーリフ(スヴャトスラフ・レーリヒ) by Svetoslav Roerich
自身の絵画(”Two Alps, Gepang”、1934 年) を背景に描かれたスヴャトスラフ・リョーリフの自画像(制作年不明)
ミケランジェロは4世紀以上も前に、次の感動的な言葉を述べています。「真の芸術はそれを生み出す心によって、気高く崇高なものにされる。芸術のことをそう感じている人にとって、何か完全なものを作りだそうとする努力以上に、魂を謙虚で純粋にするものはない。というのも、神とは完全性のことであり、完全性を手本に努力する人は皆、神聖な何かを作りだそうと努力していることになるのであるから。」
インドの詩人ラビンドラナート・タゴールは、芸術について分析した文章で、次の美しい言葉を綴っています。「我々の心の中にいる人は、芸術を通して〈至高の人〉へと返事を送っている。〈至高の人〉は、さまざまな事実からなる光なき世界の向こう側にある、永遠の美からなる世界において、私たちにその姿を現している。」
インドの宗教家スワミ・ヴィヴェーカナンダは力強くこう述べています。「芸術の美と壮大さを感じ取る能力を持たない者は、真に謙虚な者にはなれない。」
私の父、ニコライ・リョーリフはこう主張しました。「芸術は人間のすべてを一つにする。芸術は分割することができない単一体である。芸術には多くの枝があるが、すべては一体である。芸術は来るべき統合の現れである。芸術はすべての人のためのものである。誰もが真の芸術を楽しむことができる。『聖なる源泉』への門は、すべての人に広く開かれていなくてはならず、そうされているならば、芸術の光は、新しい愛によって無数に多くの人の心に影響を及ぼす。はじめのうちは、この感覚が意識されることはないが、芸術は最終的には、人間の意識を純粋にする。どれほど多くの若い心が、本物であり美しい何かを探していることか! だからこそ、彼らにそれを与えよ。芸術を、それにふさわしい人たちに届けるのだ。我々は美術館や劇場、大学や公共図書館、駅や病院だけでなく、牢獄にさえも装飾を施し、美しくすべきである。そうすれば、牢獄はそれ以上はいらなくなるであろう」。
いくつかを引用しただけですが、これらの言葉に表れている思いは、なんと美しく気高いことでしょうか。時代も場所も生まれも全く異なる人たちによって表現されたというのに、彼らの心の奥深くにある感情は何と近しいことでしょうか。これらの言葉の本質が同じであることは、真の文化は一貫したものであることを表わし、真の文化の典型的な表現である芸術もまた一貫したものであることを表しています。
ドイツの哲学者ライプニッツはレンブラントの絵を見たとき、レンブラントが自身の絵の外観について深く思索し不満を感じていたことを、絵筆によって実際に描き出されたものを超えて、感じとることができました。ライプニッツはこう書いています。「感情が高ぶったときの眼に宿る魔力、祈りの魔力、言葉の魔力をレンブラントは確信している。もし絵を描いている時に心の底から笑っていたならば、その絵は喜びを発散する。もし溜息と嘆きが絵を覆っていたならば、その絵は悲しみを発散するとレンブラントは考えている。」
芸術の中の魂
The Soul in Art
スヴャトスラフ・リョーリフによるニコライ・リョーリフの肖像(1937 年)、ニコライ・リョーリフ美術館所蔵
ライプニッツのこの言葉は、偉大な芸術作品が創造されるプロセスについて、ある洞察を与えてくれます。それはつまり、芸術作品には、それ自体の生命が与えられているということです。芸術家は、命をもたない物質に生き生きとした魂を吹き込みます。あらゆる偉大な芸術家がそうであるように、レンブラントもまた次のことをよく知っていました。それは、活気に満ちたメッセージを伝えたり、ある体験についての力強い真実を伝えるためには、扱ったり描こうとしているテーマに内在する魂と、自分自身を完全に一致させなければならないということです。
内面的な自己、すなわち心の奥深くは、私たちが自身の感情と思考になりきれる場所です。そこから言葉を発することができた場合、私たちのメッセージは極めて大きな影響力を持ち、とても強い説得力を備えることになります。つまり、それは真実そのものになります。
私たちはなぜ、原始的な人々が作った、単純でしばしば不器用な線や形、後の時代に獲得された技術的な完全さとはまったくかけ離れているようなものに感動するのでしょうか。古代の芸術家を動かした信念や、彼らの感情の率直さと誠実さが、古代の作品から私たちに放射されて、芸術家自身が体験したのと同じ鮮明な強烈さで、メッセージが伝えられます。
あなたは今までに、美しい絵画を見たり、音楽を聞いたり、見事な詩人の言葉を聞いて、感動で体が震えたことがあるでしょうか。美しい彫刻や偉大な芸術作品を前にして、心がかつてない高みに上昇したと感じたことがあるでしょうか。天才的な作品は、芸術家の思考や感情、あこがれ、試行錯誤の結晶です。インスピレーションを受け取った彼らの魂によって、私たちに残された生き生きとした記録です。このような芸術作品は、外観には表れていないそれ自体に秘められた力を持っており、その力と自身を同調させることによって、そうした芸術作品が生じた源である振動を、私たちは感じて、それに反応することができます。私たちは意識的に、自身の心を受動的な状態にして目覚めさせるように努力しなければなりません。心を内側に向け、芸術作品から発せられる影響に気づくことができるように、自分の心をとらわれから解き放っておかなければなりません。
芸術は生きている
Art Is Alive
ロシアとインドで活躍した画家、作家、科学者であったスヴャストラフ・リョーリフ(1904 – 1993) の生誕100 年を記念して発行されたロシアの切手
真の芸術家は、自分の作品を見ている人や聴いている人の中に、感情や思考の突然の高まりを生じさせる力を持っています。そのとき、新しいイメージ、新しい生き生きとした観念、さまざまな経験やインスピレーションが、その人の心を満たすことになります。
愛するヒーローや指導者の小さな記念品を所有するのを好む人がいるのは、理由のないことではありません。それらは、単なる記念品や記章ではありません。手書きの手紙や署名を例に考えてみましょう。経験を積んだ筆跡鑑定人は、署名ひとつからでも書いた人の性格を読み取ることができます。つまり、署名の中の直線や曲線の中には、その人の性格が閉じ込められながら命を保っていて、それを解読できる人に雄弁に語りかけるのです。しかし意識的に解読することができない人々には、それはまだ隠れたままであり、その影響を放射していますが、無意識にしか感じることができません。この目に見えないエネルギー、この内なる生命は、その影響力に自身を同調させることができれば、いつでも現れてきます。
それと同じように、すべての偉大な芸術作品には、ある量の生命が付与されています。そのような作品は、その芸術家の感情、蓄積された思考、受けた影響の生き生きとした記録です。私たちは、生きている人の誠実さや際立った感情のすべてを尊重し、そこに高い価値を認めます。芸術作品は、多種多様なエネルギーの強力な貯蔵庫であり、同様に尊重されなければなりません。
しかし、こうした態度は何らかの意味で、私たちを英雄崇拝に導いてしまうのではないかという疑問が生じるかもしれません。しかし、英雄崇拝とは、日常生活を超えた何かに対する自然なあこがれであり、いわば、進化論的な促しです。英雄崇拝は、見当違いの対象に向けられたときには、質の低い望ましくないものになることがあります。誤った対象に向けられた愛着の大部分にはそのような傾向があるからです。しかしそうでなければ、それは、人の長所や功績を認め讃えることであり、本質的に極めて価値の高い感情です。より良いもの、より偉大なものにあこがれることによってだけ、私たちは自身を向上させることができます。そしてこの点から考えると、すでに過ぎ去った世代の人たちから安全に管理するように私たちが託された、無数に多くの文化遺産のすべてを守り保護することは、極めて優先順位が高いことです。
偉大な人の生き生きとした記録にあたる芸術作品を、用心深くかつ愛情をもって保護しましょう。私たちに不朽の記録を残してくれた偉大な魂は、その芸術作品に同調することができる人々に、永遠に影響を及ぼし続けます。人生に価値ある目的を見つけるよう努力しましょう。その目的は、自身の物質的な生活を向上させることだけではありません。その先を見つめましょう。すると人生は、意味と重要性に満ちた新しい様相を帯びてきます。
新しく美しい考えによって、日常生活が活気を取り戻し、大きく広げられた視野によって、私たちの興味や寛容の精神が高められ、仲間の人たちと共有している志は、理解と協力の精神を通して、より大きな意味を帯びることになります。私たちの人生を美しくし、美というものが持つメッセージを、すべての心とすべての家庭に運び入れましょう。〈美しいもの〉を追求できることを、日々祈りましょう。
そびえ立つ大聖堂の丸天井の下では、人は暴力を振るうことを躊躇します。しかし、汚れた洞穴の中にはそれがはびこります。美しい環境は自身や子供たちに良い影響を及ぼし、それを作り保つ努力の、何千倍もの報酬を与えてくれます。
色彩には、人の気分に及ぼす影響があることが知られています。広範囲の実験が行われ、人間の精神は、色彩に反応することが明確に示されています。
芸術を奨励している国々の大部分に、極めて偉大な芸術家たちがいました。まるで、美に向かおうとする国家の努力に報いるかのように、芸術家を受け入れるために必要な条件が整っていた国には、偉大な芸術家の魂がきら星のごとく誕生しました。
偉大な芸術作品によって呼び起された大衆の熱狂のことを思い起こしてください。アイスキュロスとエウリピデスが作ったギリシャ悲劇が公演されたときに示された熱狂です。また、古典時代や中世の偉大な詩人たちによって及ぼされた大きな影響を思い起こしてください。それは、偉大な芸術作品に呼応して起こった多くの人たちの感情の急な高まりでした。極めて多くの人が突如として、自分の人生のまさに核心に芸術の影響が及んでいることを認識し、ある偉大な天才から自身の内面に向けられた呼びかけに呼応する瞬間が存在します。それらの人たちは真実を感じます。感じた当人たちがその偉大な感情を説明することが常にできるわけではありませんが、それは、偉大な芸術作品として具体化されていた感情です。
優れた作品を見る時はいつでも、その創作の基礎になったプロセスの意味に、十分に思いを馳せるようにしましょう。先入観なく、その作品の最も深い意味を読み解く努力をして、その芸術家の内的な生命と、複雑で高次の力の両方の影響に同調するようにしましょう。高次の力とは、芸術家があることを理解し創作を行ったときときに、その芸術家を通して流れた宇宙の力のことです。
天上の火
The Heavenly Fire
『そして、私たちは到達しつつある』スヴャストラフ・リョーリフ画
プロメテウスのように、真の芸術家は私たちに偉大なインスピレーション、経験と美という〈天上の火〉をもたらし、オルフェウスのように、芸術の調和を通して〈天の都市〉の壁を築きます。
日常生活における芸術の重要性を、言葉で表し伝えるのはとても難しいことです。しかし、芸術の研究や実践が与えてくれる素晴らしい訓練に加えて、芸術は人の才能を具体化する助けとなり、すべての人が持っている創造力が発揮されるのを助けてくれます。この創造力は、無数に多くの生命としても表わされているものにあたります。それは、受粉に適した花に舞い降りようとしている蝶のひと羽ばたきから、連れ合いの鳥を大声で呼び、その声のこの上ない素晴らしさに陶酔してすべてを忘れている、一羽の鳥の幸せな歌声にまで表れています。
偉大な芸術が人間に授けてくれる真の恩恵を、測り尽くせる人が、どこにいるというのでしょうか。その影響の大部分は、今までに算定されたこともなく、他の何らかの体験と等しいと考えることもできません。できるとしたら、人の味覚を洗練されたものにしたり、人々を惹きつけたり、ある場所を有名にしたり、偉大な芸術作品を生み出してきた地域社会や人種が尊敬され賞賛されるようにしたりするといった、完全に物質的な利益だけです。
タージ・マハルの建設には莫大な金額が費やされていますが、それでも、それは何千倍もの価値で報いてくれています。その名声だけでなく、それは、インスピレーション、賞賛、学術研究、調査、議論、そして模倣の、尽きることのない源を提供しています。それはまた、この有名な建物や、その細かい内装を補修してきた、数多くの職人の生活を何世紀にもわたって支えています。
次のことは、進歩した国と自治体すべての義務にあたります。それは、住民に機会を与え、創造的な才能を発揮することを奨励することによって、〈国を代表するような非凡な才能〉を育成し、彼らが世に姿を現すのを助けることです。そのような天才がどこに現れ、その人が最終的に私たちにどれほど大きな恩恵を与えてくれるかということが、誰に分かるというのでしょうか。
芸術の良い手本は、良い芸術を増やし、励まします。生命は生殖によって自体を増やし、自体を改良し、より気高いものにしますが、芸術も同じです。
レオナルド・ダ・ヴィンチは絵画という芸術についてこう述べています。「絵画という芸術を見くだす者は、世界に対する哲学的で繊細な思考を見くだしている。絵画は自然界の正真正銘の娘、いやむしろ正真正銘の孫娘だからである。存在するすべてのものは自然界から生まれてきたし、自然から生まれた人間は、次に絵画という分野を生み出した。それゆえに、絵画という芸術は自然界の孫娘であり、神自体に深く関連していると私は主張する。」
この巨匠中の巨匠、ダヴィンチ以上に、このテーマについて語るのにふさわしい資格を持つ人がいるでしょうか。
締めくくりとして、中世から伝えられている風変わりなロシアの伝説をご紹介しましょう。キリストが天に昇った時、数人の吟遊詩人が彼に近づいてきて尋ねました。「主キリストよ、あなたは私たちを誰に託していくおつもりですか。私たちはあなたなしで、どのようにしたら生きていけるというのでしょうか」。するとキリストは答えました。「わが子どもたちよ、私はあなた方に金でできた山と銀の流れる川と美しい庭を与えよう。あなたがたはそれらにより養われ、幸せになるであろう」。しかしそのとき、聖ヨハネがキリストに近づき、言いました。「おお主よ、彼らに金の山と銀の川を与えないでください。彼らはそれをどう守るべきかを知りません。豊かで力のある誰かが彼らを攻撃し、金の山を奪い去るでしょう。彼らには、あなたの名前とあなたの美しい歌だけを与えてください。そして、その歌の真価を理解し、歌い手たちを世話し守る者は、誰もが楽園への入り口を見いだすようにしてください」。キリストは答えました。「よし、私は彼らに金の山は与えないが、私の歌を与えよう。そして、この歌を味わい楽しむ者は、楽園への入り口を必ず見いだすであろう」。
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スヴャトスラフ・リョーリフ(1904 – 1993)は世界的に有名な芸術家であり、その絵画には素晴らしい精神性が表現されています。
就任式でデヴィカ・ラニ・リョーリフ氏(スヴャストラフ・リョーリフ夫人)から花束を受け取るジャワハルラール・ネール首相。ネール首相の右は、P.V.ラージャマンナル博士、マドラスの裁判長兼サンゴール・ナタク・アカデミーの議長。フマユン・カビル博士、科学・文化大臣。ネール氏の左がスヴャストラフ・リョーリフ。
彼の作品は、多数の国際的で有名な美術館に展示されています。ロシア美術アカデミーの名誉会員であったリョーリフは、21歳の時に受賞したグランプリを含む、多くの賞を獲得しています。また、インドの芸術と文化への貢献によって、この国から正式な表彰を受けています。
また、人と人が世界規模で互いをより良く理解できるように尽力したことによって、彼は深い尊敬を受けていました。リョーリフは偉大な芸術家であり、神秘家でバラ十字会員であったニコライ・リョーリフ教授の息子です。スヴャトスラフ・リョーリフにとって人生とは、この上なく神聖で、あらゆる要素を含む芸術でした。
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