投稿日: 2021/12/10
最終更新日: 2023/11/17

以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

区切り

宇宙の統一を表す聖なる記号 第2章 数としての性質と流出に関する性質(前半)
Sacred Symbol of Oneness Part 2 Numbers and Emanation Attributes(The first half)

ジョン・ディーの象形文字のモナド
John Dee’s Hieroglyphic Monad

ポール・グドール
By Paul Goodall

ジョン・ディーは論文『モナス・ヒエログリフィカ』の冒頭で、宇宙の統一を表わす自身の図形を、24の一連の定理によって「数学的、魔術的、カバラ的、そして寓意的」に説明していくと述べています。これらの説明には占星術、錬金術、言語学の側面も含まれています。

このような要素のすべてが一体になることで、上記のイラストに示されている「モナス・ヒエログリフィカ」つまり「宇宙の統一を表す聖なる記号」の性質が、包括的かつ体系的に、神秘学と科学という立場から表現されています(脚注1)。この第2章では、この図形の基本的な構造について短く論じた後に、この象形文字についてのディーの説明の最初のアプローチを読者の皆さんに紹介します。この象形文字には、数としての性質と、流出に関する性質の両方が関係しています。本文を読む際に、イラストと図を参照されると、より明確な理解が得られることと思います。

基本的な構造

Essential Structure

図1 この象形文字には、直線、半円、円が幾何学的に配置されており、一見しただけでは見誤ってしまうほど単純であるため、ジョン・ディーはこの記号の複雑さについての説明を書き記し、読者の関心をある程度惹き付けるという配慮を行わなければならなかった。24 の定理をすべて読んだ読者は、このテーマに対する彼の熱意を明らかに感じ取ることができる。

見てすぐ分かるように、この図形は、占星術と天文学で用いられている水星の記号に修正を加えたものです(図1を参照)(脚注2)。哲学の水銀はその中にあらゆる神秘を含んでいるとディーは説明していますが(脚注3)、この象形文字に水星の記号が用いられていることは、ヘルメス思想と錬金術思想に密接に関係しています(訳注)。水星の記号の底部に、2つの逆さになった三日月(半円)からなる白羊宮(牡羊座)の記号が組み合わされています。占星術において白羊宮は、火の性質を持つ3つの宮(白羊宮、獅子宮、人馬宮)の最初の宮であることを考えると、この象形文字を作動(始動)させるためには、火という要素が必要であるので、ディーが水星の記号に火という特徴を付け加えたのだと、定理10を読み解くことができます。ここでは、占星術と錬金術の理論が組み合わされています。最近提案された説によれば、加えられた白羊宮が表わしているのは、火の性質を持つ硫黄です。すると、哲学者の石(賢者の石)を構成する2つの要素であると中世に考えられていた水銀と硫黄が、この図形の中にあることになります。(脚注4)天空の要素を表わす記号のこのように単純な組み合わせが、自身の目的にうってつけであり、詳しく分析すると、天上の世界全体を具体的に表わしているということをディーが発見したとき、啓示とまでは言えないとしても、極めて幸運なことだと感じたに違いありません。

訳注:英単語のマーキュリー(Mercury)の語源は、ローマ神話で神々の伝令、商業の神とされるメルクリウス(Mercurius)である。この2つの語は水星と水銀の両方を表す。また、ヘルメス思想の名前の元になったギリシャ神話のヘルメス神を、ローマ人はメルクリウス神と同一視していた。哲学の水銀(Philosophic Mercury)は錬金術の用語で、自然界の普遍的な生命の原理のことを表す。

図2 定理15 では、この象形文字に白羊宮と金牛宮の占星術記号が配置されていることが示されており、この2つの宮の占星術における重要さが示されている。

この象形文字の底部にある白羊宮、つまり黄道十二宮の最初の星座は、十二宮全体すなわち恒星天(訳注)を象徴する役割も果たしています(脚注5)。円と半円によって金牛宮(牡牛座)の記号が作られ、象形文字の上部を構成しています(図2参照)。ディーの象形文字の中に、この2つの要素が配置されているのが、極めて注目に値することであることを理解するためには、次の事柄を考え合わせてください。古代の七惑星(訳注)のそれぞれは、ある特定の宮を通過する時に「高揚する」(exalted)、つまり最大の影響力を発揮します。たとえば月は金牛宮の3度で高揚し、太陽は白羊宮の19度で影響力が高まります。白羊宮と金牛宮が占星術において重要であることは、『モナス・ヒエログリフィカ』の表紙でも強調されており、この表紙では象形文字を囲む卵型の枠の左右に、この2つの宮を示す絵が描かれているのを見ることができます(脚注6)。錬金術において、水星とともに太陽と月が果たす役割は本質的であり、そのためこれらの2つの黄道宮の占星術と錬金術における重要さを表わすために、その記号が象形文字の中に配置されています。

訳注:恒星天:プトレマイオスの天動説において恒星が固着していると考えられた最外殻の天の球面。

古代の七惑星:月、火星、水星、木星、金星、土星、太陽のこと。

そしてディーの象形文字をさらに詳しく調べると、太陽や月、金星といった他の古代の七惑星の記号も含まれていることが分かります。分かりやすくはありませんが、木星と土星の記号も含まれています。太陽と白羊宮の記号の組み合わせからは、火星の記号が生じます(ディーの象形文字に、惑星の占星術記号が含まれていることを示す図3を参照)。天上の領域は円(太陽)と半円(月)によって示され、この2つはどちらも十字よりも上にあります。十字は、月下の領域つまり四大元素からなる地上を意味しています。このようにこの象形文字の中に宇宙全体が図示されているのを見ることができます。そしてそのすぐ下には、火の性質を持つ宮である白羊宮の記号があり、火の作用のもとに創造が行われたということが示されています(図4参照)(脚注7)。ディーの象形文字は、先ほどの表紙の中では卵型をした枠線の中に配置されています。この表紙は、さまざまな天体の要素を巧みに統合して占星術と錬金術の全体を統一的に表わしています。

図3 象形文字のモナドに七惑星の記号が含まれていることが、定理12 と13 で明らかにされている。

図4 定理10 に見られるディーの象形文字の分割と要素

著書『モナス・ヒエログリフィカ』に含まれている24の定理は、ディーの図形について補足的な説明を提供してくれています。その中でも定理1と2でディーは、象形文字に使われている構成要素の正当性についての議論を展開しています。そこには、この記号を解明するための要点が次のように述べられています。「事物の単純な表現は直線と円によってなし遂げられる。しかし、円は線がなくては表れることができず、線は点すなわちモナドがなくては生じることができない(定理2)」。以上のことは、ピタゴラス派の考えの核心にあたり、象形文字のモナドを全体として考察する際に、心に留めておかなければなりません。またこのことは、宇宙の創造についてのカバラの哲学のある概念と類似しているのを見て取ることができます。それは、〈生命の樹〉のケテル、コクマー、ビナーという3つのセフィロトが形成している至高の三角形の中で働いている流出のプロセスです(図5参照)。モナドは宇宙がそこから顕現する創造の最初の点を表しており、続いてそれは投射されて直線(直線運動)になります。そしてその次に、円(円運動)が形成されます(脚注8)。このような創造のプロセスは、以下のようにさらに詳しく論じられています。

図6 象徴的で数論的で形而上学的な発展が、ディーの象形文字の月下(地上)領域の部分に含まれていることが定理6で説明される

 ここでは、図形の中の十字の腕は、すべてが同じ長さに描かれていないことに留意してください(図6参照)。ディーはこれらの腕に「垂直線」(Rectilinear)、「直交線」(Rectangular)、「水平等分線」(Equilateral)という名前を付けています。この十字を構成するときに、彼はその形が哲学、宗教、形而上学のさまざまなレベルと深く関係していることを確信していました。彼は定理16の前半において、この十字のあるべき形を説明して次のように述べています。(フォリオ版の15ページの右)

 すでに述べたように、我々の十字は同じ長さの2本の直線からなっているが、それらは互いを等分していない。我々の十字の神秘学的な分割においては、等しい部分と等しくない部分があることが望ましい。しかし、このように分割されている2つの直線の効力には、腕の長さがすべて等しい十字の長所が秘められている(なぜなら2本の直線は同じ長さだからである)。(脚注9)

(次号に続く)

脚注
References
1. Gyorg y E. Szonyi, Dee’s Occultism: Magical Exaltation Through Powerful Signs, SUNY, 2004, p. 169.
2. All diagrammatic figures have been created by the author.
3. I. R. F. Calder, John Dee Studied as an English Neo-Platonist, Chapter VI, Part 4., Unpublished (1952), (http://www.johndee.org/calder/ html/Calder6.html)
4. Peter J. Forshaw, ‘The Hermetic Frontispiece: Contextualising John Dee’s Hieroglyphic Monad’ in Ambix, Vol. 64, No. 2, 2017, p. 132.
5. Nicholas H. Clulee, John Dee’s Natural Philosophy: Between Science and Religion, Routledge, 2013 (1988), p. 89.
6. See Forshaw, op. cit., pp. 134-35.
7. Clulee, Ibid., p. 89.
8. See Gareth Knight, ‘John Dee’s Hieroglyphic Monad’ in The Hermetic Journal, No. 3, 1979, p. 25.
9. Translation from Jim Egan, The Works of John Dee, Cosmopolite Press, 2010, p. 96.

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