投稿日: 2021/12/10
最終更新日: 2022/08/08


資料室

ああ、徳高きお方よ

Oh Gracious One

アメリア

By Amelia

イベリアの高原の厳しい寒さの冬の晩のことでした。凍った川を渡してくれる馬を待っている老人のあご髭は、霜で覆われていました。待っている時は長く永遠のように思われ、老人の体は吹きすさぶ冷たい風でしびれ、何も感じなくなっていました。

訳注:イベリア(Iberia):コーカサス山脈の南方の古代の一地域。現在のジョージア(グルジア)共和国に当たる。

ようやく、馬たちのかすかないななきと規則正しい蹄の音が、凍った道を通って渡し場に近づいてきました。何人かの馬乗りが角を曲がるのを老人は見つめていましたが、最初の馬乗りが近づいて来ると顔を下に向け、馬乗りは何も言わずに通り過ぎて行きました。そして次の馬乗りも、その次も、何人もの馬乗りが走り去り、とうとう最後の馬乗りが、雪に覆われた老人が座っている場所に近づくと、老人はわずかに腕を上げ、馬乗りがそれに気づきました。

馬乗りは、馬を操りながらどなりました。「ご老人、こんなところにいたら凍え死んでしまうぞ。なぜここに座っているのだ」。震える声で老人は答えました。「だんな、川を渡りたいのですが、あなたの助けなしに一人で渡る力はないのです」。馬乗りは、なかば凍りつき立ち上がることができない老人を見て、馬から降りて言いました。「ご老人、喜んであなたを助けよう」。彼は老人を助け上げて馬に乗せ、馬を引いて凍った川を渡っていきました。しかし、老人の辛そうな様子に深い哀れみを感じると、老人を鞍に乗せて再び馬に乗り、川から10キロほど離れた老人の行き先まで彼を運びました。

小さな農家に近づくと、馬乗りは尋ねました。

「ご老人、私にはそう見えたのだが、あなたは顔を上げて見ることもせず、私以外のすべての馬乗りが通り過ぎるのをそのままにしていた。しかし私が近づいたときには、顔を上げて困っているのを教えてくれた。なぜこんな寒い夜に、助けを求めずに、最後の最後の馬乗りを待つという危険を冒したのだ。他の馬乗りがそうしたように、私があなたを無視したらどうするつもりだったのだ。」

骨の痛みにうめきながら、老人はゆっくりと馬から降りて、穏やかな目で馬乗りを見上げ言いました。

「私は長く生きてきて、人の心について多くを学びました。どの馬乗りたちが近づいてきたときも、顔を上げることをしなくても、私は氷のように冷たい彼らの心を感じましたし、どの馬乗りも私が困っていることに関心がないことが分かりました。だから、助けを乞うのは無駄だったのです。しかしあなたが近づいてきたとき、私はあなたを導く魂の温かい手を感じました。そして顔を上げて、あなたの目の中に他の人にはなかった優しさを見たのです。あなたの優しい魂が、助けを必要としている人に自分ができることを喜んで行うことが私は分かりました。」

深く感動した馬乗りは、涙で一杯になった自分の目を恥ずかしがるように、老人から目をそらして、かすれた声で言いました。

「ああ、徳高きお方よ、あなたのおっしゃったことに感謝します。限りない慈悲に満ちたアラーに祈ります。助けを必要としている人々に、親切と思いやりの心で応じることを、常に私が心から望みますように。」

馬乗りの言葉を聞きながら、老人は彼の手に触れました。その手は老人の命を救った馬乗りの心のように温かかったのです。老人が手を離し、馬乗りが涙ぐんだ目でゆっくりと見上げると、驚いたことに馬乗りが目の前に見たのは、何もない彼方の地平線から昇りつつある満月で、雪に覆われた大地には家も人も見えませんでした。人の真の温かさに触れたその瞬間に、馬乗りの人生は変わったのでした。コルドバの賢者ムスタファは、永遠の扉を通り抜けて馬乗りのそばからそっと立ち去り、二度とその姿を見せることはありませんでした。

※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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