古代思想と3という数字の神秘
3という数字が、世界の創造(創世)や、世界の背後に秘められている法則(神秘)と深く関わっているということが、歴史の早い時期から多くの文化で指摘されてきました。
このブログでは1年ほど前に3という数の象徴的な意味についての寄稿記事を取り上げましたが、今回は少し違った角度から眺め、古代思想などについてのご紹介をさせていただきたいと思います。
参考記事:『三という数が持つ神秘性|統一体を分割するという考え方、四大元素、陰陽五行』

3という数と、創世についてのカバラの伝承
古代の多くの伝承で語られていることによれば、この世界が存在するようになる前には、数字の「1」で表される〈統一〉だけがありました。この「1」は潜在的にすべてを含んでおり完全でしたが、この「1」のほかには何もなく、完全な静けさであり、そこには何も生じることがありませんでした。
そして、この静けさに突然「ロゴス」(logos)、もしくは「言葉」が作用しました。すると、「1」とは正反対の「2」が生じました。さらに「1」と「2」の相互作用から、「3」が生じました。「3」とは顕在状態になった世界であり、そこから、あらゆる事物とすべての生命が生じたとされています。
旧約聖書の最初の書である『創世記』には、このことがよく表されています。そこでは、「1」が「水面」によって象徴され、ロゴスが「光あれ」という言葉で表され、「2」が昼と夜で、「3」が世界で表されています。
旧約聖書の最初の5書は「トーラー」、「律法」、もしくは「法」(law)と呼ばれ、モーセが書いたという言い伝えがあります。バラ十字会の専門家によれば、「トーラー」には古代エジプトと古代バビロニアの文化の影響が見られます。
参考記事:「カバラとは? 生命の樹とセフィロトと流出について、数の象徴学と数秘術」
カバラ(ユダヤ教の秘伝哲学)の最も基本的な文書であるセーフェル・イェツラー(The Sepher Yezirah:形成の書)には、「宇宙の王」がセフォル(数もしくは観念)、シップル(発声された言葉)、サフェル(書かれた言葉)の3つによって宇宙を定め、創造したと書かれています。そして、観念と言葉と文字は人間にとっては事物を表す3つの異なる方法であるが、「宇宙の王」(神)においては一体で同一であるとされています。
ここには、日本の言霊思想に似た考え方が表れています。
3という数が登場する他の創世の逸話
3という数が登場する創世の逸話は、このほかにも、古代世界の多くの地域に見られます。
古代ギリシャでは、叙事詩人ヘシオドスによれば、始めに「1」にあたるカオスがあり、次に、大地の女神ガイアと愛の女神エロスが生じたとされています。ガイアは自分と対等な天空の神ウラノス(2)を産み、母ガイアと息子ウラノスの結婚から、さまざまな巨人族(3)が生じました。
中国の老子道徳経には「タオからは一が生じ、一からは二が生じ、二からは三が生じ、三からは万物が生じた」と書かれています。
古代の哲学者の多くが、創世や世界の基本構造を規定しているのは1,2,3という数であると考え、これらの数の意味を探求しました。この学問は「数の象徴学」(Science of Numbers)と呼ばれています。

ピタゴラスと三角形、宇宙の根源テトラクテュス
古代ギリシャの哲学者ピタゴラスは、その代表的な人物です。彼は宇宙の根源(アルケー)が数であると考えていましたが、それは彼が22年間学んだエジプトの神秘学派の影響だと思われます。彼はその後に現在のイタリアにあるクロトンという町に戻り、自身の神秘学派を創設しました。
ピタゴラスの学派では、1,2,3,4の数を10個の点を三角形に並べた図形で表し、「テトラクテュス」(テトラクティス:「4つであること」を意味するギリシャ語)と呼んで、宇宙の根本原理として崇拝していました。つまり彼は人格神を崇拝するのではなく、世界の背後にある法則を神だと見なしています。この点で、ピタゴラスの思想は宗教というよりは、むしろ神秘学(神秘哲学:mysticism)に近い性質を持っています。

ピタゴラスの定理の幾何学的証明
数学にご興味のない方は、この部分は読み飛ばしてください。
下の図をご覧ください。

2つの同じ大きさの正方形を使います。図に示しているように、2つの
正方形の辺をそれぞれ、a とbの長さの2つの部分に分割し、分割点を、
それぞれの図のように直線で結びます。すると、2つの正方形の中に、辺
の長さがa,b,cである4つの合同な直角三角形ができます。左右の同
じ面積の正方形から、同じ4つの三角形の面積をそれぞれ引くので、正方
形の中の残りの面積は、左右で等しくなります。左の図形には、辺の長さ
がa である正方形と辺の長さがbである正方形が残ります。つまり、残り
の面積は、辺の長さがa である正方形と辺の長さがb である正方形の面積
の和となります。右の図形では、辺の長さがcである正方形、つまり、直
角三角形の斜辺を辺とする正方形が残ります。以上が、直角三角形の斜辺
の長さの二乗が、他の二辺の長さの二乗の和に等しいという定理の証明で
す。幾何学図形だけを使った優雅な証明法です。
(書籍『図形と数が表す宇宙の秩序』より)
古代エジプトの創世神話における3という数
古代エジプトのヘリオポリス(太陽の都市)で伝えられていた創世神話によれば、地上を象徴する神ゲブと天界を象徴する神ヌートの間に、オシリス(1)という男神とイシス(2)という女神が生まれました。そして、オシリスとイシスの間にはホルス(3)という子どもが生まれます。三位一体の一例です。
参考記事:『イシスとオシリス、セトの謀略 - 古代エジプト神話と密儀の関係について』
ローマ時代の著作家プルタルコスによれば、古代エジプト人は神の「知性」が世界を構想し、それを「物質」に及ぼした結果、複雑な世界ができあがったと考えていました。
そして、イシスは物質、オシリスは知性、ホルスは創造された世界を象徴しています。まさに最初にご紹介した旧約聖書の逸話と、考え方が同じだとは思われないでしょうか。
世界中に見られる三位一体
このような三位一体は、世界のさまざまな宗教に見られます。
キリスト教では、父と子と聖霊であり、ユダヤ教では、ケテルとコクマーとビナーであり、イスラム教ではピル=ビンヤミン、ピル=ダウィード、ピル=ムーシです。
ヒンドゥー教では、創造神ブラフマン、維持神ビシュヌ、破壊神シヴァが三位一体を構成しています。
このうちのいくつかは古代エジプトの影響だと思われますが、人類の集合意識の中には三位一体として表現される、ユングが提唱したいわゆる「元型」があるのかもしれませんし、自然界を観察した古代人が、そこに潜んでいる原理をこのような形で独立して言い伝えたのかもしれません。
参考記事:『カール・グスタフ・ユングと人間の神秘-経歴と思想と名言7選』

「三角形の法則」と神秘学派
バラ十字会の通信講座では、「三角形の法則」とその応用を学習することになります。
ある要素を「1」と、それと反対の性質を持ち「1」と互いに補い合う要素「2」が作用し合うと、第3の新しい要素が生じるというのが三角形の法則です。
この法則には、創世神話以外にも無数に多くの例が見られます。
たとえば、男性と女性の間には子供が生じ、電気のプラスとマイナスが結ばれると電流が生じ、プラスの電荷を持つ原子核とマイナスの電荷を持つ電子が結びつくと原子が構成されます。
弁証法では、最初の命題テーゼと対立する命題アンチテーゼから、より高度な命題ジンテーゼが作り出されます。
先ほどのピタゴラスの学派の影響が大きいのだと思われますが、三角形の法則はさまざまな時代の神秘学派で、世界を秩序立てている法則のひとつであると考えられてきました。
今回は3という数と、三位一体、三角形の法則を話題にしました。ご参考になったところが少しでもあるとお感じいただけていれば、嬉しく思います。
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第3号:学習の4つの課程とその詳細な内容、古代の神秘学派、当会の研究陣について
執筆者プロフィール

本庄 敦
1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学(mysticism:神秘哲学)の普及に尽力している。
詳しいプロフィールはこちら:https://www.amorc.jp/profile/