こんにちは、バラ十字会の本庄です。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
「神秘」とは何か
今回話題にしたいのは「神秘」(mystery)です。辞書によれば神秘とは、「理解したり説明したりするのが難しい何か」ですが、「神秘」についてインターネットを調べている方々の多くは、これだけでは満足されないことでしょう。
古代から今に至るまで、「神秘」と呼ばれる重要な何かを探究する人が数多く存在し、その中には宗教に属する人も、そうでない人もいました。
「神秘」について探究する人は「ミスティック」(mystic:神秘家)、その行いは「ミスティシズム」(mysticism)と呼ばれます。この「ミスティシズム」については、訳語がかなり混乱しています。
ミスティシズムの語訳の混乱
「ミスティシズム」の日本語訳として、「神秘主義」、「神秘哲学」、「神秘学」などが用いられています。この分野の研究の大家である井筒俊彦(1914-1993)さんの名著の名前が『神秘哲学』なので、哲学の分野ではこの語が用いられることが多いようですが、「神秘」の探究は単なる哲学ではなく、実践と深くかかわっていることが多いので、どうもしっくりしないと感じる方も多いのではと思います。
シュタイナー研究の大家である高橋巖さん(1928-2024)は「神秘学」という訳語を使っています。
一方で、「オカルティズム」(occultism)の訳語として「神秘学」が用いられることもあります。「オカルト」というと日本では、怪奇現象のようなおどろおどろしいものを想像する方もいることと思いますが、語源はラテン語で「隠されたもの」を意味する「occulta」であり、そのようなイメージはありません。しかしオカルティズムに含まれるのは占星術、錬金術、魔術などであり、神秘体験(後述)を探求する「ミスティシズム」とは分野がずれています。
なぜ「神秘」が重要なのか?
さて、「神秘」のことを多くの人が、なぜそれほど重要だと考えるのでしょうか。ひとことで言ってしまえば、現実(実在)の真の姿が、神秘体験によって(だけ)明らかになると考えられているからです。このことが、ある英語の専門辞書にわかりやすく書かれていたので、その日本語訳をご紹介します。
この内容は、すでにバラ十字会で神秘学を学習している方にも、大いに参考になることと思います。
下記の記述との関連では、バラ十字会の神秘学は、宗教に結び付いていない神秘学に相当し、世俗への関心の放棄は勧めていないということをご紹介しておきます。
ケンブリッジ哲学辞典の「神秘学」(mysticism)の項目
感覚による知覚や知性的・概念的思考によっては得ることができない現実(実在)についての知識を、人は得ることができると主張する教えと修練。
多くの場合に宗教的な伝統と結びついており、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の伝統思想では、人格神論(theism)の形態をとり、ヒンドゥー教の一部の宗派や仏教では非人格神論の形態をとる。
神秘学の主張によれば、神秘体験は知識を得るための手段であり、祈り、瞑想、断食、身体の修練、世俗への関心の放棄を含む精神修養の結果として得られる。
人格神論の神秘学では、神秘体験は神によって授けられるものだとされ、そのため、(それを得ることは)神秘家がコントロールできるものではないとされる。人格神論の神秘家たちは神秘体験の際には神との親密な関係を感じると主張するが、そのときに神とともに自己が存在するとするのは異端であるとされる。
非人格神論の神秘学では、神秘体験は神秘家によって引き起こすこととコントロールすることが可能であると主張される傾向がある。またこの体験では、自己と現実の区別、主体と客体の区別が錯覚であることが明らかになるとされる。
神秘家の主張によれば、神秘体験は幻覚とは異なる現実の体験ではあるが、言語によって適切に描写することはできない。なぜなら、通常の言語によるコミュニケーションは、感覚体験や概念の識別に基づいているからである。そのため神秘家の記述には、直喩や隠喩の性質がある。
あらゆる神秘体験が基本的に同一のものであるけれども、異なる文化的伝統に影響された解釈の結果、体験の間に差異が認められるという見解があり、このことはたびたび議論されている。
William E. Mann(1940-2022、バーモント大学名誉教授)
(出典:Audi, Robert. The Cambridge Dictionary of Philosophy (English Edition). Cambridge University Press. Kindle版)
さて、バラ十字会フランス本部代表が、自身の人気のブログに神秘についての記事を書いていますので、その日本語訳をご紹介します。
記事『神秘について』
神秘とは何か
辞書によれば、神秘とは、理性によって理解することができない何かであり、本質的に、日常的な現実を超えるように思われる何かのことです。このような意味で、創造の神秘、宇宙の神秘、自然界の神秘、人生の神秘、死の神秘、死後の世界の神秘などということが言われます。しかしこの言葉は、まだ解決できていない謎を表すためにも用いられます。エジプトのピラミッドの神秘、バミューダ三角地帯の神秘、ストーンヘンジの神秘、カルナック列石の神秘、アトランティスの神秘、イースター島の石像の神秘などの場合です。歴史のある時点で、私たちが理解できていないものごとと同じほど多くの、さまざまな神秘が存在します。
歴史のある時点で神秘だったものが、今はかならずしも神秘ではない
「歴史のある時点」と書いたのは、過去に神秘であったものが現在も神秘であるとは限らないからです。たとえば、昼夜の交替や、潮の満ち干、季節の移り変わり、内臓の働き、病気の原因などは、科学者が説明できるようになるまでは神秘だと考えられていました。時とともに、他の神秘も科学が解明していくことは明らかです。
神秘学派
人は常にさまざまな神秘に惹かれ、それを理解し見破ろうとしてきました。古代エジプト時代には、すでに複数の「神秘学派」が存在していました。神秘学派とは、宇宙、自然界、人間自体の神秘を研究する学校のことでした。私たちに伝えられていることによれば、神秘学派には男性だけでなく女性も参加していました。神秘学派に集合する人たちには、秘密を守る義務が課せられていました。なぜなら、彼らの活動は宗教から異端と見なされていたからです。後になると、ギリシャ、ローマ、中世とルネサンス期のヨーロッパに神秘学派が現れましたが、バラ十字会(薔薇十字団)もそのひとつでした。
「神秘」という言葉の二重の意味
興味深いことに、古代ローマで「神秘」を意味した「ミステリウム」(mysterium)という言葉の語源は、入門を意味する「ムステリオン」(musterion)でした。この語に二重の意味があることは、「神秘の探究」を行っていた学派の大部分が「入門儀式」(訳注)を採用していたことを反映しています。当時から、神秘の探究を行っていた人が「神秘家」として知られていましたが、基本的に彼らが関わっていたのは精神世界の探究、つまり心の世界の探究でした。実際のところ、神秘学(mysticism:神秘哲学)には、最も純粋な形で精神性が存在しています。なぜならそれは「救済の探求」ではなく「知識の探求」だからです。
訳注:入門儀式(initiation):ある集団に入門することを希望した人が、それを認められるために通過しなければならない儀式。そこでは多くの場合、誠実、勤勉、秘密の厳守などの誓約が行われる。
神秘には2種類のものがある
ある意味では、神秘には2種類のものがあるといえます。1.科学が扱う神秘:物質世界とそれを支配している法則に関係するもの。2.神秘学が扱う神秘:精神世界とそれに特有の法則に関係するもの。しかし、この2つの世界の間に、真の境界はありません。残念なことに、科学者の多くは物質主義者であり、心の世界に関心を持っていません。一方で神秘家は、物質の世界に常に関心を払ってきました。なぜなら神秘家の多くは昔も今も、「上にあるものは下にあるものに似ており、下にあるものは上にあるもの似ている」(訳注)という格言が正しいことを確信しているからです。
訳注:この格言は、ヘルメス学(錬金術の哲学)の原理を要約したとされる「エメラルドタブレット」と呼ばれる文章の最も有名な部分にあたる。「下」は物質世界を意味し、「上」は精神世界を意味する。ヘルメス哲学では、物質世界を構想し創造したのが絶対精神であるとされることから、この上下関係が想定されている。
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第2号:人間にある2つの性質とバラ十字の象徴、あなたに伝えられる知識はどのように蓄積されたか
第3号:学習の4つの課程とその詳細な内容、古代の神秘学派、当会の研究陣について
執筆者プロフィール
セルジュ・トゥーサン
1956年8月3日生まれ。ノルマンディー出身。バラ十字会AMORCフランス本部代表。 多数の本と月間2万人の読者がいる人気ブログ(www.blog-rose-croix.fr)の著者であり、環境保護、動物愛護、人間尊重の精神の普及に力を尽している。
本庄 敦
1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学の普及に尽力している。
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