こんにちは、バラ十字会の本庄です。
スチュワード、スチュワーデスという言葉が使われなくなり、フライト・アテンダントという呼び方になってから、もうずいぶんと年月が経ちました。私は知らなかったのですが、母子手帳を親子手帳と呼ぶ自治体があったり、クレヨンの「肌色」が「うすだいだい」に変更されていたりするそうです。
これらの言い換えには、ポリティカル・コレクトネスが関連しています。
ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ:political correctness)とは?
ポリティカル・コレクトネスは「政治的妥当性」などと訳されますが、この訳語だけでは意味がほとんど理解できないのではないでしょうか。ウィキペディアによれば、ポリティカル・コレクトネスとは「社会の特定のグループのメンバーに不快感や不利益を与えないように意図された政策(または対策)などを表す言葉の総称であり、人種、信条、性別、体型などの違いによる偏見や差別を含まない中立的な表現や用語を使用することを指す」とのことです(*1)。
コリンズ英英辞典によれば、「不利な境遇にあったり、性的アイデンティティー、性別、人種、ハンディーキャップなどが理由で不平等な扱いを受けてきた、社会のいかなるグループの人々に対しても、気分を害したり怒らせたりしないように極端に注意する態度、もしくは政策」とされています(*2)。
言葉の言い換え以外の具体例としては、たとえば、最近のディズニーのアニメーションの登場人物には、さまざまな人種の人が含まれるように細心の注意が払われています。
ウォーキズム(wokeism)とは?
これから話題にするウォーキズム(wokeism)は、「目覚める」を意味する英語の動詞「wake」の過去分詞「woke」から生じています。ポリティカル・コレクトネスと似た意味の言葉ですが批判的な意味が込められています。ウィキペディアによれば「ウォーク」(woke)とは「人種的偏見と差別に対する警告を意味する英語の形容詞」であり(*3)、コリンズ英英辞典によれば、「社会的不平等もしくは政治的不平等に強い関心がある人々が、その傾向があまりにも極端であり、社会に強い影響を持っている場合、ウォーキズム(wokeism)もしくはウォーケリー(wokery)と呼ばれる。(批判的用語)」とのことです(*4)。
キャンセル・カルチャー(cancel culture)とは?
キャンセル・カルチャーも上記の2つに関連しています。この場合のカルチャーは本来の意味の文化ではなく、日本語で「若者文化」と言う場合と同じように、特定の集団の行動の傾向を指します。ウィキペディアによればキャンセル・カルチャーとは、「容認されない言動を行ったとみなされた個人が排斥・追放されたり解雇されたりする文化的現象」(*5)であり、コリンズ英英辞典には、「キャンセル・カルチャーとは、文化、特にソーシャルメディア上の文化であり、ある人が誰かに批判されたことに触発されて、その人への支持を止めること」とあります(*6)。
ソーシャルメディア上で炎上を起こさないため、あるいは論争に不必要に巻き込まれたりしないためにも、これらの用語の意味や、その背後にある考え方を知っておくことが役に立つと思います。そこで、多様な意見や微妙な論点が多く、政治的な含みも多い事柄ですが、あえて取り上げてみました。
下記の文章は、当会(バラ十字会AMORC)のフランス代表が、自身の人気ブログに書いた「ウォーキズム」についての文章の翻訳です。
記事:『ウォーキズムについて』
ウォーキズムとは
最近インターネットでも他のさまざまなメディアでも、ウォーキズムについてたびたび目にするようになりました。ウォーキズムという言葉は「気づいている」ことを意味する「ウォーク」(woke)に由来し、「目覚めの運動」を意味します。さらに具体的に言えば、不正義、不平等、人種差別、その他の差別、外国人・同性愛者・性同一障害やトランスジェンダーの人に対する偏見や差別などに警鐘を発する運動のことです。この運動は米国で2000年代の初期に生じました。もともとそれは、人種差別や社会的不平等と闘うアフリカ系米国人によって主に行われた運動であり、彼らの置かれた状況から考えると、当然理解されるべき運動です。
ウォーキズムの広まり
ウォーキズムは米国で出現した後に、特にインターネットの影響で、世界中に広まり発展しました。今日ではヨーロッパで特に活発であり、数多くの影響力のあるウォーキズムのネットワークが生じています。一般的な傾向として、多数派の人たちから自分たちが誤解されている、あるいは良く理解されていないと考える少数派の人たちは、団結して自分たちの考えや主張する権利を守るために積極的に活動します。このような取り組みは、寛容の精神と広い視野をもって行われる限り、尊重されるべきだということは大切な原則です。
ウォーキズムのセクト主義に陥る傾向
あらゆる種類の不平等、不公正、差別、迫害に対して抗議を行うのは正当なことですが、ウォーキズムに関わる人たちの中には、セクト主義的(訳注)であったり、不平等や差別を非難するやり方が、頑固なまでに非妥協的であったりする人が少なくないように私には思えます。これらの人たちは、自分たちと主張や見解を共有しない人々に対して不寛容であるように私は感じることがあります。彼らのSNS上での表現の方法がそれを示しており、正義を自分たちだけが独占し、他の人々に自分たちの視点を押しつけることを望んでいる印象があります。
訳注:セクト主義的(sectarian):所属する宗教もしくは政治集団を強く支持し、多くの場合に他の集団との争いに関わる傾向があること。
キャンセル・カルチャー
多くの社会学者の意見によればウォーキズムは、特定の主義に偏った排他的なイデオロギーにあたり、「キャンセル・カルチャー」と深く関連しています。キャンセル・カルチャーとは「消去のカルチャー」すなわち「あるものを消し去ろうとする特定集団の行動」を意味します。このような行動としては、著者や作者の言葉、人格、人生が非難に値するという口実によって、芸術作品や彫像、著作などを攻撃することが挙げられます。
もしその怒りに正当な根拠があるのであれば、これらの人が芸術作品や彫像や著作などを「ボイコット」する際には、その理由を裏付ける論拠をきちんと示す説明がなされるべきです。
寛容な態度で、自分の考えを表明すること
ご理解いただけていることと思いますが、私はウォーキズムを高く評価していません。なぜなら、それはあまりにもしばしば、ある種の修正主義に似ているからです。さらに言えば、ウォーキズムの信奉者が熱狂的に擁護している主張のいくつかに私は同意することができません。彼らはまるで、自分たちのように考え生きることが最善であり社会的規範になるべきだと考えているかのように行動する傾向があります。彼らの中でも最も過激な人たちには、参照すべき歴史的事実を「抹消」することを望んでいるような印象があります。バラ十字会のモットーである「最大の寛容と厳格な独立」が、良いヒントを与えてくれるように私には思われます。すべての人は、自分の意見を表明したり自分の考えを主張したりすることが自由にできると私は考えています。しかし、そうする際には寛容であるべきであり、いかなるイデオロギーにも依存するべきでないと私は思います。
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執筆者プロフィール
セルジュ・トゥーサン
1956年8月3日生まれ。ノルマンディー出身。バラ十字会AMORCフランス本部代表。 多数の本と月間2万人の読者がいる人気ブログ(www.blog-rose-croix.fr)の著者であり、環境保護、動物愛護、人間尊重の精神の普及に力を尽している。
本庄 敦
1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学の普及に尽力している。
詳しいプロフィールはこちら↓
https://www.amorc.jp/profile/
参考文献
1.https://ja.wikipedia.org/wiki/ 「ポリティカル・コレクトネス」の項目。2024/8/9閲覧
2. https://www.collinsdictionary.com/jp/dictionary/english/political-correctness#google_vignette ”Political correctness is the attitude or policy of being extremely careful not to offend or upset any group of people in society who have a disadvantage, or who have been treated differently because of their sex, gender, race, or disability.” (2024/8/9閲覧)、翻訳は筆者。
3.https://ja.wikipedia.org/wiki/ 「Woke」(日本語版)の項目。2024/8/9閲覧
4. https://www.collinsdictionary.com/jp/dictionary/english/wokeism “People use the terms wokeism and wokery when they think that people who are very concerned with social and political unfairness are too extreme and have too much influence in society.“ [disapproval] (2024/8/9閲覧)。翻訳は筆者。
5. https://ja.wikipedia.org/wiki/の「キャンセル・カルチャー」の項目。2024/8/9閲覧
6. https://www.collinsdictionary.com/jp/dictionary/english/cancel-culture “Cancel culture is a culture, especially on social media, in which people stop supporting a person because they are encouraged to do so by someone that person has criticized.” (2024/8/9閲覧)。翻訳は筆者。