進歩(progress)とは?その類義語
こんにちは、バラ十字会の本庄です。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
進歩は、あいまいな言葉です。文字通りには「進み歩む」ことですが、比喩的に用いられて「肯定的(プラス)に変化していくこと」を指します。何が肯定的かということは価値観に関わっているため、何が進歩かということは、それを語っている人の価値観に左右されることになります。
これからご紹介する文章では、フランス語での進歩の類義語が取り上げられますが、日本語では進歩の類義語としては、「発展、発達、進展、展開、開花、発達、上達、向上、増進、躍進」などが挙げられます。
進歩主義(progressivism)
進歩主義は英語の「プログレシビスム」(progressivism)の訳語で、「革新主義」と訳されることもあります。
進歩を重視する態度を単に意味することもありますが、特に、1900年~1920年にアメリカで起こった、極めて多様な内容の政治改革と社会改革の運動のことを指します。そこに含まれているのは、たとえば、自由放任主義経済からの脱却、労働者の法律による保護、禁酒法などです。
プログレシビスムという語は、進歩主義教育(progressive education)を意味することもあります。それは、19世紀末に米国で起こり1910~1930年が最盛期だった教育改革運動です。この運動は、プラグマティズム(実用主義)を唱えた米国の哲学者ジョン・デューイ(1859-1952)の考え方をもとにしており、教科に関する知識の習得よりも、具体的な生活経験を通した学習を重視しました。
当会のフランス本部代表のセルジュ・トゥーサンが、自身の人気ブログに「進歩について」という題の文章を書いていますので、その翻訳をご紹介します。
進歩(progrès)について
進歩の定義
辞書を調べると、進歩とは「ある理想に向かって徐々に進む変化の過程である。同義語は改善(amélioralion)、発展(développement)、完成(perfectionnement)」と書かれています。この定義が示唆しているのは、あらゆる進歩が前向きで、役に立ち、必要なものであるということと、進歩は、より良い何かに向かっているということに思われます。
ほとんどの人が、あらゆる分野の進歩について、このような考えを持っていることでしょう。そして一般に、このイメージとともに「技術の進歩」、「科学の進歩」、「医学の進歩」、「芸術の進歩」、「社会の進歩」のことが語られています。
人類は多くの分野で進歩を遂げてきた
人類が多くの分野で進歩を遂げてきたことは否定できません。このことを確信するためには、先史時代、古代、中世の人間の生活環境について考えてみるだけで十分です。20世紀の初めまで、地球の住民の大部分は「悲惨」とまでは言えないとしても、貧しい生活を送っていました。飢餓や伝染病によって、何万人もの人たちが亡くなるということがたびたび起こっていました。もちろん今日でさえ、一部の国はあらゆる種類の困難に苦しんでおり、社会的、経済的、科学的にも、医学レベルという点でも、それらの国は、真に進歩を遂げたとは感じられません。明らかなことですが、それはとても残念なことです。
「進歩」と呼ばれているすべてのことが、ほんとうに進歩なのか?
一方で、いわゆる先進国において進歩と呼ばれているすべてのことが、本当に進歩なのかという疑問があります。個人的に、私はそうは思っていません。たとえば動物のクローニング(訳注)は、人間にさえ行われようとしており、倫理的に見てあらゆる意味で有害です。
訳注:クローニング(cloning):同一の遺伝子の組み合わせを持つ個体を複数得ること。
一部の豊かな人たちが宇宙旅行を体験できるようにするために、スペースシャトルを作ることはどうでしょうか。各種の電波やGPSを検知したり、運転を容易にしたりすることが想定されている他の多様な機能のガジェットに運転者が困惑してしまうほど、ますます高機能で洗練された自動車を製造することはどうなのでしょうか。大部分の鉄道駅で、切符の販売が行われなくなったことは進歩なのでしょうか。ますます多くの消費財を、その多くが使われないことを承知で生産することはどうでしょうか。会社のある部門の従業員をロボットに置き換えたり、過度に機械化したりすることによって、従業員が職を失うことは進歩なのでしょうか。インターネットやテレビの前で人々が何時間も過ごすように仕向けることは進歩なのでしょうか。このような例はまだまだたくさんあります。
自分勝手に、他の人々を幸せにしようとしない
私の考えでは、どのような分野でも進歩の名のもとに、人間の総合的な幸せ、尊厳、アイデンティティーが損なわれることが決してあってはなりません。進歩だとされる試みに対して、それが、人間の幸せに真に貢献することが確実かどうかという、慎重な配慮が常に払われるべきです。残念なことに、進歩主義者を自称する多くの人が、あまりにも多くの場合、「自分勝手に、他の人々を幸せにする」ことに力を注いでいます。つまり、他の人たちの本当の望みや必要を考慮することなく、進歩を強要しようとしています。さらに、このような人たちの多くは、人生の物質的な面だけを考慮しているので、彼らの進歩主義は明らかに、人間の心の気高さ(spirituality)という視点を欠いており、そのため必然的に、人間性を尊重しないものになっています。
参考記事:マニフェスト『バラ十字友愛組織からあなたへの訴え』(精神性の重視/人間の尊重/環境の保護)
https://www.amorc.jp/pdf/manifesto2014_appellatio.pdf
道徳面、知性面、心の気高さという面での進歩をうながす
人間の生活状態を改善するために、物質面での進歩のために努力しなければならないのは確かなことです。しかし、道徳面、知性面、そして心の気高さという面での進歩をうながすことが、同じように重要だと私には思えます。もし、あらゆる社会的立場のすべての人が、倫理と心の気高さのことをさらに重要だと考えるようになれば、世界は今よりもはるかに良くなるだろうと私は思います。このことが意味するのは、すべての人が、自分の考え方と行動を進歩させる必要がある。つまり、それを前向きで他の人への思いやりに満ちたものに変え、自分の個人的利益と社会の利益のために実際に行う必要があるということです。このことはまさに、バラ十字会に伝えられている哲学とテクニックを活用して、バラ十字会員の多くがなし遂げようと努力している事柄にあたります。
下記は前回のセルジュ・トゥーサンの記事です。
参考記事:『ヒューマニズムとは何かを簡単に解説|その精神と意味と歴史上の運動』
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執筆者プロフィール
セルジュ・トゥーサン
1956年8月3日生まれ。ノルマンディー出身。バラ十字会AMORCフランス本部代表。 多数の本と月間2万人の読者がいる人気ブログ(www.blog-rose-croix.fr)の著者であり、環境保護、動物愛護、人間尊重の精神の普及に力を尽している。
本庄 敦
1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学の普及に尽力している。
詳しいプロフィールはこちら↓
https://www.amorc.jp/profile/