
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
先日、久しぶりに夕焼けを見ることができ、ただただ「美しい」と感じました。
そしてそれと共に、子供時代などの感覚も蘇り、懐かしさや郷愁のような、何とも複雑な感情に包まれました。
私たちは、なぜ「美しい」と感じたり、「懐かしい」と思ったりするのでしょうか?

クオリア(Qualia)
このような、私たちの主観的な感覚を、哲学的には「クオリア」と言います。
この「クオリア」とは、私たちが主観的に経験する「感覚の質」などを指し、たとえば、赤いバラを見たときの「赤さ」や、痛みを感じたときの「痛さ」といった、意識の中で生じる個人的な感覚そのものを指します。
しかし、私たちの美的感覚などは、後天的に植え付けられるものも少なくはありません。
一方で、美的感覚などは、住んでいる地域、属するグループの価値観などに飲み込まれてしまうことも多々あります。
ただし、その主観的な価値観が後天的に植え付けられたものだとしても、初期衝動として「美しさ」などを感じる「クオリア」は、個人の主観的なものであり、それ自体はどう感じようと何の問題もありません。
しかし、その後、「クオリア」として感じた「美しさ」と、それ以外の「美しさを感じないもの」を区別する過程で、「思い込み」という罠にはまってしまうことがあります。

純正律と平均律
私は音楽の演奏活動などもしているのですが、プライベートやレッスンのときに、「純正律」と「平均律」について質問されることがあります。
おそらく、巷に純正律で作られたヒーリングミュージックや、その素晴らしさを説く本や人などが多々あり、質問内容もそれらの意味や効果について聞かれたりします。
「純正律」と「平均律」を簡単に説明すると、
- 純正律
ある特定の和音(主和音)は非常に澄んで響くが、複雑な和音は使用できず、転調などにも不向き
現在は西洋音楽でも特別な場面でのみ使用
日本の雅楽や民謡などでも似たような調律は多く存在し、現在も使用されている
- 平均律
すべての和音が微妙に濁ってはいるが、複雑な和音にも使用でき、転調も可能
現在の西洋音楽では主流
確かに、純正律の特定の和音(主和音)は非常に澄んで響きます。
そして、これを「美しい」と感じるのは、個人の持つ「クオリア」のおかげです。

ただし、ここからが問題なのですが、純正律を「美しい」と感じるあまり、平均律の「濁り」に対して、否定的な感情が生まれたりする場合があります。
そして、純正律と平均律を単に区別するのではなく、優劣をつけて、他方を攻撃するようなことが起こったりもします。
しかしこれらの多くは、音楽を専門としていない、知識を聞きかじった人に見られる傾向でもあります。
本来は、「美しい」と感じた「クオリア」をそのままにしておければいいのですが、それを信奉するあまり、「思い込み」という罠にはまることになります。
こうなってしまうと、自身の持つ「クオリア」から「自我」を肥大させ、「感情」というものに結び付き、とても攻撃的になってしまうことが多々あります。
「初期衝動」と「思い込み」
日常生活でもこのようなことは頻繁に起こります。
たとえば、Aというお店のラーメンを食べたときに非常に「美味しい」と感じ、足しげく通うようになることがありますが、これが度を超すと、A以外のラーメンを認めなくなり、その他のお店のラーメンに否定的になったりもします。

自身の「クオリア」が「美味しい」と思うあまり、それ以外の「美味しい」とは思えないものに対して、寛容さというものを欠いてしまいがちになります。
これは、「ラーメン」や「美味しい」などの言葉を他の言葉に置き換えてみると、日常生活において非常に頻繁に起こっており、自身の言動や態度を振り返ってみて、ぞっとすることもあります。
ですから私は、「美しい」などと感じた初期衝動はそのままにしておき、その後は「思い込み」をはじめ、「感情の虜」にならないように気を付けてはいますが、中々難しいものでもあります。
自身の生き方、職場や家庭などの人間関係、社会問題、国際問題、政党間の主張……
大小様々な事柄が初期衝動から外れ、感情に囚われ、「思い込み」によって妄信されているような状況がSNSやYouTubeなどにもあふれていますが、「クオリア」をきっかけとして、自身が感じたものの本質をもう一度見直してみたいと思います。
何か、反省文のようになってしまいましたね。笑
執筆者プロフィール
渡辺 篤紀
1972年9月30日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部下部組織(大阪)役員。ベーシスト。 TV番組のBGM、ゲーム音楽の作編曲のほか、関西を中心にゴスペルやライブハウスでの演奏活動を行っている。

人間が物質だけから構成されているのか、それとも、たとえば「魂」と呼ばれるような非物質的な要素が関与しているのかということは、哲学上の大問題です。
クオリアという考え方は、このことに深く関わっています。ご興味のある方は、こちらの記事をお読みください。
体験教材を無料で進呈中!
バラ十字会の神秘学通信講座を
1ヵ月間体験できます
無料でお読みいただける3冊の教本には以下の内容が含まれています

第1号:内面の進歩を加速する神秘学とは、人生の神秘を実感する5つの実習
第2号:人間にある2つの性質とバラ十字の象徴、あなたに伝えられる知識はどのように蓄積されたか
第3号:学習の4つの課程とその詳細な内容、古代の神秘学派、当会の研究陣について