投稿日: 2021/12/10
最終更新日: 2022/12/20


資料室

スウェット・ロッジとアメリカ先住民の精神性

Spirituality and the Sweat Lodge

ジョッシュ・アフリート

by Josh Afrit

21世紀に暮らすアメリカ先住民たちの間にも、近代化は圧倒的な力で浸透してきています。それにもかかわらず、北中南大陸でいにしえの時代から受け継がれてきた精神の核心は、今もなお生き続けています。この記事では、そうした遺産の一つであるスウェット・ロッジと、その奥深い起源について詳しくご説明します。この起源はおそらく、人間が初めて新世界に足を踏み入れた16,000年前より、はるか以前にさかのぼります。

中央アメリカでアステカ語の「テマスカル」(Temazca)という言葉は、西欧文化圏で「スウェット・ロッジ」(訳注)として広く知られてきたものを指します。これに類似する「サウナ」は、名の知れたスポーツジムやホテルなら世界中のどこへ行っても目にしますが、元々は、大昔のフィンランドの習慣を取り入れたものです。しかし、体を発汗させるという目的に特化して設計された部屋の起源はさらに古く、北方アジア地域の新石器時代にまでさかのぼります。そして、新世界のスウェット・ロッジやヨーロッパのサウナも、おそらくここに端を発しています。

訳注:スウェット・ロッジ(Sweat Lodge)北中南米アメリカ大陸の先住民によって用いられている汗をかくための施設で、発汗小屋、蒸し風呂の家などと翻訳される。

サウナもスウェット・ロッジもその原理は、石を炉で加熱し火から下ろした後に、熱いうちに水をかけて室内の温度と湿度を一気に上昇させるというものです。1500年代までサウナは、ローマ帝国とヨーロッパ全土に普及していましたが、その後ヨーロッパ大陸の大部分の地域では、この文化は廃れてしまいました。しかし、フィンランドだけがその例外であることは見逃せない点です。このことが主な理由で、今日ではサウナ文化の起源はフィンランドであると広く考えられています。もちろん、現代のサウナは電気的な機構によって作動しているので、水をかける前に石を運ぶ必要はありませんが、新世界のスウェット・ロッジとその原理は同じです。スウェット・ロッジの原型は、アメリカ大陸に人類が住むようになった何千年も前からあったことに疑いはありません。

マリアベッキアーノ絵文書(Codex Magliabecchi)に描かれたテマスカル

西洋では、健康や元気の回復、デトックス効果をサウナから連想することはあっても、深い精神的な体験と結びつけて考えることはほとんどありません。サウナ室に入って熱さをこらえ、部屋を出たら、シャワーを浴びたりひと泳ぎしたりして、爽快な気分で家路に就くだけです。このようなことが現代に限られた現象であることにはほとんど疑いはなく、北ヨーロッパとアジアの全域と、とりわけ新世界で用いられていたスウェット・ロッジの原型は、太古の昔から友情に基づく人々の結束や伝統の絆と関わっていました。特に、高度な理想とともにある集団の調和と、心の深奥で感じる他の人との一体感と密接に関連していました。

古代のメソアメリカ(メキシコから中米にかけての地域)では、テマスカルすなわちスウェット・ロッジが、狩りやボールゲームの儀式(訳注)や戦争などで肉体を酷使した後に、肉体的にも精神的にも自身を浄化するための療養儀式の一環として使用されていました。精神面での主な目的のひとつは、身体を若返らせて「大いなる神秘」(訳注)と再び一体となることにありました。「大いなる神秘」とは、観念的な表現を用いておおまかに言うと、西欧で言うところの創造主あるいは至高の神にあたります。スウェット・ロッジはまた、病気の治療、不妊治療や一般的な健康の改善、時には女性の出産のためにも用いられました。また、近代社会の影響の及んでいない先住民社会では、完全に精神的な目的のためにも用いられています。しかし現代では、スウェット・ロッジは外から持ち込まれたキリスト教などの宗教の概念の影響を受け、古代から続いてきた部族の真の精神的な伝統とはほとんど無関係になってしまっています。このことはアメリカ大陸でも例外ではありません。とは言え広い見方をするならば、スウェット・ロッジは今日においても、家族や友人との絆を深める社交の場であり、身体と心の両方を浄化する手段として主に使われています。しかし、すべてのスウェット・ロッジがそうなってしまったのではありません。現代の思考様式からは遠く離れた、隔絶された土地には、スウェット・ロッジの本来の儀式がまだ存続しています。

訳注:ボールゲームの儀式(ceremonial ball game):中米で前古典期からスペインによる征服までの間, チームに分かれて行なわれていた球戯で、 儀式と遊びの両方の要素をもっていた。

大いなる神秘(Great Spirit):アメリカ先住民が崇拝する部族主神であるとされるが、人格神ではなく宇宙の真理に類するものであるという報告もある。本文で後述。

古代マヤ地域のテマスカル(スウェット・ロッジ)

中央メキシコで栄えたナワトル文化(アステカ文化)では、女神テマスルカルテシ(Temazcaltoci)が、テマスカル(スウェット・ロッジ)の守護神でした。テマスルカルテシは「浴場の我々の祖母」を意味しています。この女神は、「神々の母」もしくは「我々の祖母」と呼ばれる女神テテオインナン(Teteoinan)、つまり、ナワトル文化の神々の中でも最上位の女神が顕現した姿のひとつです。女神テテオインナンは薬剤や薬草の神でもあり、治療師や外科医や助産婦に崇拝されていました。テマスカルすなわちスウェット・ロッジを備えた家庭では、テマスルカルテシが深く敬われ、この女神の彫像や絵画がスウェット・ロッジの内部に置かれていました。女神テマスカルテシを崇拝する風習は、メソアメリカ(訳注)全域に広がり、ミシュテカ文明、サボテカ文明、マヤ文明といった、この域内で栄えた他の優れた文化でも見られました。女神への信仰とテマスカルがこのような密接に関連していたことが、スペイン人がスウェット・ロッジの使用を禁じる必要性を強く感じた大きな理由でした。

訳注:メソアメリカ(Mesoamerica):現在のメキシコ中部からコスタリカ北西部に至る、多くの文明が栄えた文化領域。

メキシコの先住民は、体を清潔にしておくことをとても重要なことだと、昔から常に考えていました。スペイン人がやってきた当時、メソアメリカの人々は可能な限り毎日入浴していました。一方、ヨーロッパ人は清潔であることをあまり重視しておらず、体の一部を浸す程度の入浴でさえ、一ヵ月かそれ以上行わないことが珍しくありませんでした。フランスのルイ14世(1638-1715)の入浴についてのちょっとした逸話があります。

 当時の医師たちは、水が健康に直接害を及ぼすと固く信じており、国王に入浴を禁じていた。ある時、王が病気で倒れた際に、万策尽きた医師たちは、下剤を用いて、さらに浣腸まで行った後に、最後の手段として入浴療法を施すことを決めた。

 しかし、このような特権的な治療を受けるだけの金銭的な余裕は、中央アメリカを侵略したヨーロッパの船乗りたちにはなかったことでしょう。これとは対照的な、ケビン・P・グロークが書いた現代の論文を以下に抜粋しましょう。彼はこの論文の中で、メキシコ南部のチアパス州にある、マヤ族の血を引くツェルタル族が暮らす村で、最近取材した話について報告しています。

 蒸し風呂は、家庭で行える疾病の予防および治療のための重要な医療手段である。蒸し風呂療法の主な機能は、「肉と血を温め」、病原性の「冷たい風」を体内から追い払い、健康長寿に必要な、生体の「熱」すなわち生体の「温かさ」を回復させることにある。ごくありふれた体調不良ならば、各家庭にあるこの泥作りの小さな建物の中で治療が行われる。その際、さまざまな薬草と薬効を持った動物(の内蔵)が通常併用される。こうした薬草や動物製剤は、少なくとも32種の異なる体調不良の治療において、蒸し風呂との組み合わせで日常的に用いられている。それらの体調不良の中には、胃痛および下痢などの軽度の症状から、リウマチ、浮腫および精神錯乱といった深刻な症状に至るまでが含まれている。(脚注1)

火と水による浄め

Purification Through Fire and Water

建築中のスウェット・ロッジ

遠い過去の先祖たちの知恵から、何かを得ようとすることに熱心な人たちが増え、テマスカル(スウェット・ロッジ)を使用する人が増えてきました。他の儀式の多くが特定の地域に限定されているのとは異なり、スウェット・ロッジで行われるイニピ(訳注)は、北アメリカ中の先住民が営む儀式でした。共同で汗をかくという行ないは、祈りと、肉体と心と魂を浄めるための儀式でした。汗をかくことによって、溜まった毒素が汗腺を通して排出されることが促され、参加者たちは浄化されます。しかしそのような肉体的な効用はありますが、それ以上に、儀式と汗をかくという行ないの両方が、精神的な癒しに関連する考え方と密接に結びついていました。

訳注:イニピ(Inipi):スー族のひとつであるラコタ族の言葉で「再び生きること」を意味する。

ヨーロッパの入植者に最初に遭遇したアメリカ先住民たちは、アメリカ大陸のことを「カメの島」と呼んでいました。そのため、スウェット・ロッジの形は元々はカメの甲羅に似ているのだと伝えられています。スウェット・ロッジは、新世界という大宇宙の中にある小宇宙(microcosm)であり、その中では、最良の思考、発言、行動をすることしか許されません。囲いの中央には土が積み上げられて、小さなドーム形の祭壇が築かれ、そこから一直線に真東に向かうと、スウェット・ロッジの外側にたき火があります。

このたき火の中とその周りに石が並べられます。熱せられた石は、適当な時間の間隔をおいてスウェット・ロッジの中に運び込まれ、中央の祭壇に置かれて、定められた儀式の段取りに従って、上から少量の水が注がれます。入り口がカメの頭を表し、囲いは甲羅を表しています。したがって、カメはたき火のある東の方角を向いています。東はあらゆる善が出現するとされる方角です

先コロンブス期の北アメリカの信仰

Spiritual Beliefs in Pre-Columbian North America

 スウェット・ロッジについてのある物語の中では、スウェット・ロッジは再生へと向かう道であるとされています。儀式で行われる祈りと詠唱と歌は、参加者がある体験をするために役立ちます。この体験は、いわば精神的な生まれ変わりであり、それによってその人は、より望ましく高貴な自己を発見します。このような儀式の手順を見ると、世界中のスピリチュアルな伝統には、共通した象徴的な意味があることが分かります。オグララ・スー族の賢者ブラック・エルクは、次のように語っています。

 わしが赤ヤナギ(red willow)の樹皮をこの聖なるパイプに詰めるところを見るがよい。だが我々がこのパイプをふかす前に、あなた方は、これがどのように作られどのような意味を持つのかを知らなければならない。この胴の部分から垂れた4本のリボンは、宇宙の4つの部分にあたる。黒のリボンは西である。西には雷が住み、我々に雨をもたらす。白のリボンは北である。北からは、白い偉大なる浄めの風が吹く。赤は東である。東は光が発する場所であり、明けの明星が住み、人間に英知を授ける。黄は南である。南からは夏が訪れ、成長する力がもたらされる。(脚注2)

 アメリカ先住民が抱いていた信仰と、他の多くの信仰に大きな違いはありません。「生き、他者を尊重し、大地に敬意を払い、話すように軽やかに歩め」。信仰を人生から切り離すことはできません。信仰とは教会ではありません。それは生き方です。

ブラック・ヒルズ(黒い丘) - ラコタ族の聖地

ラコタ族の人々によれば、最初の人間は地中の奥深くで誕生し、ウインド・ケイブ(訳注)の小さな開口部を通って地上に現れ、生命の息吹を吸い込み、絨毯のように芝生が生えそろった大地に足を踏み入れました。ラコタ族にとって、ワカン・タンカ(Wakan Tanka)とは神聖なものを指す言葉であり、しばしば「偉大なる聖霊」(Great Spirit)と訳されていました。しかし、ラコタ族の信仰は一神教ではなく、その意味は「大いなる神秘」に近いものです。ワカン・タンカは、あらゆるものに宿っている力もしくは神聖さだと解釈され、アニミズムや汎神論の信仰に似た概念です。ワカン(Wakan)の男女とは賢者のことであり、「大いなる神秘を知り、大いなる神秘とともに力を持つ者」のことです。この文のカッコで囲んだ箇所に注目してください。アブラハムの宗教(訳注)のように、すべてを支配したり思い通りに操ったりしようとするのではなく、自分たちを取り囲む世界と協力して生きてゆくことが、この土地のいにしえからの生き方なのでした。

訳注:ウインド・ケイブ(Wind Cave):現在のサウス・ダコタ州にある洞穴。世界で初めて国立公園に指定された洞穴である。

アブラハムの宗教(Abrahamic religions):旧約聖書に登場する、イスラエル民族の祖とされるアブラハムの伝統を受け継いでいる宗教。主なものは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教。

ジェームス・R・ウォーカーが、ラコタ族についての研究の中で報告していることによれば、彼らは興味深いことに、生きている人間のひとりひとりは次の4つから構成されていると考えていました。

1.人が生涯を通して結びついている肉体

2.ナギ(nagi)。霊と訳される。バラ十字会でサイキック体として知られている部分。これは人間の一部でありながら、(一時的あるいは完全に)肉体から分離することができ、現在生活している世界の別の場所や、この世界の上位や下位の領域を体験することができる。

3.ニヤ(niya)。魂と訳されるが、バラ十字会では「ソウル」と呼ばれる。ニヤから生じるニ(ni)は人の生命力であり、息と同一視されていた。ニはすべての力の源であり、実際のところ、すべてのものの源泉だと見なされていた。すなわち、ニがなければ何も起こり得ず、何も生じない。ニによって体内にあるすべてのものが浄く保たれている。ニが弱ければ、体の内部を浄化することができない。そして、ニが肉体を離れる時に、その人の命が終わる。ニヤ(魂すなわちソウル)は、ニ(生命力)が引き寄せられて体内に入り込み、その人の生涯にわたって体内に留まるための原動力である。

4.シチュン(sicun)。「守護者」と訳され、バラ十字会ではソウル人格として知られている。その人に事前に危険を知らせたり、悪に抗い正しさを保つように諭したりする影響力である。

この3種類の非物質的存在の説明からは、古代エジプトのアク(Akh:ナギすなわちサイキック体)、カー(Ka:ニヤすなわちソウル)、バー(Ba:シチュンすなわちソウル人格)が思い起こされます。このような一致はまさに、どのような文化圏の人であっても、現実世界全体の源である普遍的精神と接触して、そこから情報を手に入れることができることを示しています。

スウェット・ロッジには、囲いの底面が円形をしたものがあります。あらかじめ地面に囲い専用の穴を空けておき、そこに8~16本のヤナギの枝を差し込んで囲いを作ります。次に、その枝を湾曲させてドームを作り、頂上の中央で交差した枝を束ね、ヤナギの樹皮から作った細長い紐で結びます。ヤナギの枝は、曲がりやすい切りたてのものが使われます。次に、支柱となるこれらの枝でできた構造の周りに、細い枝を地面と水平に編んでいくと、1.5メートルほどの高さのドーム、すなわちイグルー(訳注)のような形をした建物が完成します。ドームの覆いにはバッファローやヘラジカの皮を用いますが、乾燥した地域では、その代わりに泥を使うこともあります。覆いの目的は、日光を遮断することと熱を逃がさないことです。出入り口の覆いには厚手の布や毛皮が用いられ、簡単に開けられるように入り口の上だけが固定されています。

訳注:イグルー(igloo):イヌイット族の人たちが雪や氷で作るドーム型の家。

メキシコのテマスカル。左の絵は室内の断面図、右の絵の正面はたき火用の小室

古代エジプトとアメリカ先住民のどちらの宇宙観でも、知識や英知や啓発の光は東からやって来ると考えられていました。それは東が、朝に太陽の光が現れる方角だからです。そのため東は、生命力そのものを表していました。古代エジプト人にとって、東の地平線の上を昇りつつある太陽は、闇の世界を通過する危険で過酷な旅が完了したことを意味していました。夜明けは、試練と苦難の終わりの時であり、太陽神が南に高く昇ることは、啓発と力の象徴でしたが、特にファラオにとっては、地上における神の化身としての支配力と権威を意味していました。

アメリカ先住民は、太陽のことを生きている炎だと考えていました。太陽は、毎日の旅を東で開始し、空を横切って、一日の終わりに西で休息します。スウェット・ロッジで用いられる石を熱する炎は太陽神でもあり、スウェット・ロッジの縁(へり)に沿うように座っている人々に生命力を吹き込むのでした。7個の石は、聖なる7つの方角を表しており、儀式に先立って、たばこの煙を吹きかけることで浄められます。その後に7個の石は、小屋の中央に作られた盛り土へと運ばれ、それぞれの方角に並べられます。

火は太陽神を表し、たき火が行われるくぼみを部分的に取り囲んでいる別の盛り土の土手は三日月を表しています。月が意味するのは外側の世界であり、目に見える宇宙でした。それに対して、石が赤熱している中央の炉が表しているのは内的な世界であり、儀式の参加者は誰もがこの世界と心を通わせたいと願っていました。炉、いやむしろ、熱せられた石と炉が置かれている場所には、宇宙の子宮という意味が込められています。ここでは、生まれる前のあらゆる魂が創造され、”生きている魂”がエネルギーを回復し再生します。

ラコタ族の場合、石が十分に熱せられ、スウェット・ロッジのリーダーが準備のための儀式を行い、呪文を唱え終えると、スウェット・ロッジの入り口の前に参加者が整列します。列を導く人は、香りの強い薬草、通常はセージの小枝をアワビの貝殻に乗せて火をつけ、参加者のひとりひとりをこの香で清めます。つまり、参加者の周囲に両手を用いて煙を広げます。これはスウェット・ロッジという神聖な領域に入る前の浄めの儀式です。それが済むと、参加者はひとりひとりスウェット・ロッジの入り口まで這って進み、額を地面に当てて「ミタクエ・オヤシン」(Mitákuye Oyás’in)、つまり「私にかかわる全てのものたち」と唱えてから、母なる大地の真っ暗な腹を象徴しているスウェット・ロッジの内部に入ります。このようにして、スウェット・ロッジを訪れた参加者のひとりひとりは、入り口で祈りを捧げて、他者に対する怒りや恨みを捨て去ります。「ミタクエ・オヤシン」という言葉には、すべてのものが相互に結びついているという、ラコタ族が持ち続けてきた世界観が表れています。この言葉は、「私にかかわる全てのものたち」とか「私たちはすべてつながっている」、あるいは「私の全ての縁者たち」などと訳されます。つまり、他の人も動物も、鳥や昆虫、木や草花も、岩や川や山や谷でさえ、すべてが命の姿なのであって、「ミタクエ・オヤシン」はそれらとの一体化と調和を求める祈りの言葉です。

再生

Rebirth

 イニピ(Inipi)は浄めの儀式であり、指針となるビジョンを見ることを望む探求者が、無私の境地に入り、一種の精神的再生を体験することを支援するために必要とされます。スウェット・ロッジはイニピの中核をなしていて、 そこで捧げられる祈りは、宇宙のあらゆる力を引き出します。古い時代には、大きな仕事を始める前には、体を浄め、忍耐力と能力を得るために必ずイニピが行われました。

フーパ族のスウェット・ロッジ

参加者のひとりひとりが四つん這いになって、スウェット・ロッジの暗がりに入ることは、母なる大地の子宮に入って、別の自分になることを示していました。囲いの入り口は高さがほとんどないため、膝をつき両手を使って前屈みになって中に入る必要がありましたが、この姿勢は、自然を創った神に対する謙遜の念も表しています。参加者は入室すると、祭壇の周りを時計回りに移動します。アメリカ先住民の大部分の儀式がそうであるように、イニピの儀式でも、すべてのものは太陽の見かけ上の動き方に従って移動するからです(北半球では時計回りになります)。

助手を務める人たちが囲いの内部に通されると、参加者たちへの敬意が何らかの形で示されます。というのも参加者は、再生と浄化のために母なる大地という子宮に蒔かれる種子を象徴しているからです。イニピの儀式の間、入り口は4回開け放たれますが、この行為は「聖なる白いバッファローの仔の女」(訳注)が語った人類の4つの時代を表しています。4回目に入り口が開かれると、参加者たちは小屋を後にして、闇から光のもとに姿を現します。これは、物質の世界からの解放を意味しています。スウェット・ロッジに残されたすべての不純なものは、大地に散り消え去ります。スウェット・ロッジを離れるときには、うずくまった姿勢で去ります。これは、母の子宮から出る胎児を象徴しています。再び十分な活力を得て新たな誕生を迎え、生と死の新しいサイクルを始めるのです。

訳注:聖なる白いバッファローの仔の女(Sacred White Buffalo Calf Woman):自らの姿をバッファローに変え、ラコタ族を救ったとされる女神。

健康

Health

 皮膚や肝臓や循環器系の健康障害、リウマチ、関節炎、痛風やその他の慢性疾患、さらには筋肉痛、風邪、うっ血のような急性疾患には、発汗を促すことが効果的であることが昔から知られています。蒸し風呂は、健康的な発汗をもたらすために使われる方法のひとつです。スウェット・ロッジは、具体的な方法が確立されており、おそらくこの種の治癒技術の中で最も効果的であり、何世紀もの間にこの技法が適用された症例は、極めて広範囲に及んでいます。

体を通常よりも温めると、様々な反応が起こります。表面と深部の血流が活発になり、心拍数が上がるだけでなく、拍動の力が増し、体温を調節する機能が高まります。また、代謝が活発化して発汗が促されます。こうした多様な影響によって、体内のエネルギーと体液の活発な移動が生じます。この影響は、激しい運動によって筋肉や臓器や細胞組織の循環が高められることに類似しています。蒸し風呂はどれもこうした効果を生み出すのですが、スウェット・ロッジは、伝統ある方法と、担当の治療師が行う調整の巧みさが理由で、高温に対する身体反応が適切にコントロールされ、治療効果が最大に発揮されます。

この記事のまとめとして、次のように言わずにはいられません。ますます反目しあっている世界の政治の指導者たちのほんの一部であっても、もし敵対している相手と一緒に、スウェット・ロッジでいくばくかの上質な時を過ごして、互いの家族の話をしたり、大切に思っている身近な事柄を話し合ったりしたとすれば、何が起こるでしょうか。それぞれに明確な違いがあるにせよ、結局は、他の人たちと同じように個人的な関心事をどっさり抱えた、普通の人間に過ぎないのだというお互いの理解に至り、世界にどれほど大きな恩恵がもたらされることでしょうか。

ホー・ミタクエ・オヤシン。そうだ、みんなつながっているんだ。

参照文献
Reference
Black Elk Speaks by John G. Neihardt. ISBN: 0-349-12522-8
(邦訳書:『ブラック・エルクは語る』ジョン・G・ナイハルト著)
Lakota Belief and Ritual by James R. Walker. ISBN: 0-8032-9731-9
Oglala Religion by William K. Powers. ISBN: 0-8032-8706-2
Stone Boy, Legend of Inipi by S.W. Laro. ISBN: 9-7815-4724-286-3
The Lakota Ritual of The Sweat Lodge by Raymond A. Bucko. ISBN: 0-8032-1272-0

脚注
Footnotes
1.Kevin P. Groark – To Warm the Blood, to Warm the Flesh: The Role of the Steam bath in Highland Maya (Tzeltal-Tzotzil) Ethnomedicine.
2. John Neihardt – Black Elk Speaks.

※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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