資料室

宇宙の統一を表す聖なる記号 第1章 起源 (後半)

Sacred Symbol of Oneness

ジョン・ディーの象形文字のモナド

John Dee's Hieroglyphic Monad

第1章 起源 (後半)

PART 1 Origins(The latter half)

ポール・グドール

By Paul Goodall

いくつかの概念的側面

Some Conceptual Aspects

ハインリッヒ・コルネリウス・アグリッパ・フォン・ネテスハイム著『神秘哲学』(De occulta philosophia libritres)の表紙。

 博学であったディーの世界観、哲学、科学的な傾向には、その原点となったものが多数あります。したがって、彼の知的な展望と方向性は、時期によって様々に異なります。世界をひとつの記号で表わそうとする彼の強い願望と、その記号を自然界についての人間の知識の要約にするという彼の構想の原点、少なくともその足掛かりは、ロジャー・ベーコン(1214-92)の著作と思想の中に見いだすことができます。ディーは1556年に、この思想を偶然知りました(注15)。そして1558年までにディーは、ベーコンの著作をすべて手に入れ、読み込んでいました(注16)。錬金術、占星術、自然魔術(訳注)、数学は、統一的な知識を打ち立てるというベーコンの計画に欠かすことのできない要素でしたが、これらの要素の間にベーコンが関連性を見いだしていたことに、当時ディーが気づいていたことに間違いはありません。これらの要素から統一的な知識を打ち立てるということは、地上の世界が、天体の世界と天上の世界によって支配されているという確信から当然生じてくる計画です。それゆえに、彼は秘伝的学問(訳注)の知識が直接人類の役に立つと考え、それに関わり続け、それを世に広めようとしたのでした(注17)。ディーのモナドは1550年代には、魔術と錬金術の知識を表わした記号でしたが、ディーはそれをより発展させて、1560年代には「普遍的文法」(universal grammar)の表現、つまり普遍的な知識のすべてを含む記号にしました。

訳注:自然魔術(natural magic):霊ではなく医薬、磁気、言葉を用いる魔術。ルネサンス期に行われた魔術の大部分は自然魔術であった。

秘伝的学問(occult science):神秘学(神秘哲学)、錬金術、占星術、数秘術(数の象徴的意味を研究する学問)、神聖幾何学などのこと。

 ディーはロジャー・ベーコンの著作と同時に、ドイツの学者、ネテスハイムのハインリッヒ・コルネリウス・アグリッパ(1486-1535)の著作、とりわけ『神秘哲学』(De occulta philosophia libritres)という題の3巻からなる書物を読み込んでいました。その中で、ディーのモナドと特に関連が深いのは、第2巻の第4章「唯一なるものとその階層について」(De unitate, & eius scala)という箇所です。階層としては、元型界、知性界、天界、元素からなる世界すなわち地上界(ミクロコズム)、下位世界、そして冥界が列挙され、そこにはそれぞれ、「基本的な唯一なるもの」(essential oneness)が現れているということが示されています(注18)。〈賢者の石〉は、錬金術では変成(訳注)を促す薬剤である〈哲学者の水銀〉にあたりますが、重要なことにアグリッパによれば、〈賢者の石〉は、四大元素からなる世界(地上界)に含まれます。そして、ディーの記号の基本になっているのが水星(Mercury)であることは、この記号を見ればすぐ分かります。実際に、『モナス・ヒエログリフィカ』の中では、太陽よりも水星(Mercury)の影響が主な役割を果たしていることが強調されています(訳注)。このことは、タイトルページ中央の挿絵の脇に、水星の名前のひとつであるΣΤΙΛΒΩΝ(Stilbon)が書かれていることによって強調されています。表紙には「鋭く安定した毒針によって完全になる時、水星はすべての天体の親にして王となる」(ΣΤΙΛΒΩΝ [Stilbon] acumine stabili consummatus, omnium planetarum parens, et rex fit)と書かれています(注20)。

訳注:変成(transmutation):錬金術で非金属を貴金属に変えること。

ラテン語、英語では水銀と水星は同じ語(羅:Mercurius、英:Mercury)で表わされる。  ドイツのベネディクト派の修道院長であった、学者のヨハンネス・トリテミウス(Johannes Trithemius、1462-1516)は、ディーの宇宙論的で魔術的な世界観に大きな影響を与えました。『モナス・ヒエログリフィカ』の中で、ディーが錬金術を意味する言葉として用いた「内なる天文学」は、彼が読んだトリテミウスの著書に起源があります。トリテミウスは錬金術のことを、下位の天文学(世俗の、つまり地上の天文学)であり、自然魔術の一分野であると見なしていました。トリテミウスは、ヘルメス・トリスメギストスのエメラルド・タブレットの文章が、錬金術の過程と同時に、宇宙の生成の過程も示していると確信していたからです(注21)。確かに、エメラルド・タブレットと『モナス・ヒエログリフィカ』には、いくつかの類似点があります。それぞれにある「ひとつ」と「ひとつの物」という表現がその一例です。「すべての物は〈一なるもの〉が思念することによって〈一なるもの〉より作られた。それゆえに、すべての物は、置かれた場所に適した姿に変えられることによって、この〈一なるもの〉より生じる」というヘルメス思想を、ディーが作った〈象形文字のモナド〉は反映しています

トリテミウスと、彼が暗号の作成と解読について書いた『ステガノグラフィア』(Steganographia)中の1ページ。

 魔術を含む自然哲学のすべての領域の背後にある秘密を解き明かしたいというディーの情熱は、彼が熱心に行っていたトリテミウスの研究、中でも彼の著書『ステガノグラフィア』(Steganographia、1499年)の研究から芽生えました。この著書は、暗号の作成と解読と超常的な手段による情報の伝達についての専門書です。ディーは、『ステガノグラフィア』のことを「私がこれまで発見した中で最も貴重な宝石」であると述べています。そして『モナス・ヒエログリフィカ』の執筆に取り組む際の基礎にしたのだと思われます(注23)。 

 1563年1月20日、ディーはアントワープの地(訳注)でジャック・ゴオリー(Jacques Gohorry、1520-1576)の書いた『文字と記号の魔術的性格について』(De Vsu et Mysteriis Notarum Liber)を手に入れました。それは、秘伝的学問に関するさまざまな論文を編纂した本であり、トリテミウスの考えが全体的に論じられています。またこの本には、トリテミウスの2通の手紙の抜粋が含まれています。1通は、“正真正銘の”魔術師に求められる資質に関する手紙で、もう1通は、魔術の3つの原則について相手に助言を与えたものです。そこにディーが書き込んだ数々の注釈からは、『モナス・ヒエログリフィカ』の内容を最終的に決める上で、この2通の手紙が計り知れない影響を与えたことがありありと伝わってきます(注24)。

訳注:アントワープ(Antwerp):ベルギー北部の港湾都市。

 『文字と記号の魔術的性格について』に掲載された他の論文の作者には、カバラとヘブライ文字の神秘学的な意味に精通していたギヨーム・ポステル(Guillaume Postel、1510-81)がいます。ディーは、ポステルに1548年にパリで会っています。また、イタリアの人文学者であったピコ・デッラ・ミランドラ(Pico della Mirandola、1463-94)の論文も掲載されており、彼の数学のこの論文もディーに影響を与えました。もう一人ディーに影響を与えた人物として、ドイツの人文主義者であり学者でもあったヨハネス・ロイヒリン(Johannes Reuchlin、1455-1522)を挙げるべきでしょう。彼は『カバラの術について』(De Arte Cabalistica、1517)の中で、ピタゴラスが説いたように、数学が、宇宙と人間を結びつける媒体として働くことを強調しています(注25)。ピタゴラスについては後に触れることにします。

幾何学的な組み合わせ

Geometrical Composition

『モナス・ヒエログリフィカ』フォリオ版13 ページ右と14 ページ左より抜粋。定理10~ 13。この水星の幾何学図形をもとに、ディーは、さまざまな向きの惑星記号を示し、一方、どの記号が、月水星と太陽水星のいずれに含まれているのかを示している。太陽水星には本文で、「異父兄弟」(uterine brothers)という名前が付けられている。

 幾何学的な組み合わせによって作られたディーの象形文字は、彼自身の発明だったと思われます。彼は、「ひらめいた場所はロンドンだが、実際に創作したのは、1557年、アントワープにおいてであった」と言っています(注26)。彼は、最初の着想は神から与えられたインスピレーションのおかげだとする一方で、『モナス・ヒエログリフィカ』(フォリオ版の4ページ)では、水星のことを「エホバ(Jehovah)によって我々に遣わされた伝令の天体」であると述べています。人文哲学者レオン・ティスタ・アルベル(Leon Battista Alberti; 1404-72)の書いた『建築論』(De re aedificatoria libri decem)の1523年版の写本を、ディーが所有していたことが知られています。この本には、エジプト人が象形文字を神聖な書体として用いていたことが書かれており、彼がコスモグラム(Cosmogram:宇宙の姿を表現した幾何学図形)を作り出す際に影響を与えたということがあり得ます(注27)。すべての惑星を表す象徴記号ばかりか、ギリシャ語とヘブライ語とラテン語のアルファベットを、ディーはこの幾何学的図形から導き出します。主眼である錬金術的な意味に加え、数学とカバラにも意味を拡張することで、このコスモグラムは、普遍的な重要性を持つ、宇宙の構造を全体的に表わす記号になりました。三日月型を伏せて2つ並べた(牡羊座を表す)図を、水銀の記号の下部に加えたこの図形の発想の元は、ペンセウスが著した『ヴォーアーカドゥミア』の図なのかもしれません。この本には、中央に水銀の記号があり、下部に伏せた三日月型がひとつある、カバラの宇宙を表わす図が掲載されています(注28)。

 人文主義者で哲学者でもあったマルシリオ・フィチーノ(Marsilio Ficino、1433-1499)は、ギリシャ語からラテン語への翻訳で名高い人物で、コジモ・デ・メディチ(1389-1463)の要請を受けて、14巻からなるヘルメス文書の翻訳に取り掛かりました。この作業は1463年に完了し、1471年に印刷されました。その中に「だが、そうだとすれば、なぜ我々人間は、宇宙の姿、まさに宇宙の姿を知らずに済ませて良いのであろうか。」という一文があります(注29)。フィチーノは、数学的で幾何学的な図形が、そのような宇宙の観念を作り出す「記号という手段」として使えると考えました(注30)。ディーはフィチーノの著作を何冊か所有しており、それらにびっしりと注釈を書き込んでいました。ディーは、こうして哲学の膨大な知識を身につけ、新プラトン主義のヘルメス思想の素地を養ったのでした。この思想では、人間のことを、聖なる世界と地上界の中間に本質的に位置し、自分の性質を形づくる能力を持つ存在であると見なしています。

定理12 と13 に示されている惑星記号の組み合わせ。ここから「異父兄弟」と呼ばれている2つの錬金術記号、すなわち月水星と太陽水星が生じる。そして、さらにこの2つの下部に、占星術における火の相を持つ白羊宮の記号が加えられる。(「幾何学的観点から見る『モナス・ヒエログリフィカ』の意味」より、ジム・イーガンによる図表、Cosmopolite Press、P.12、2010 年刊)

 『モナス・ヒエログリフィカ』というタイトルは「宇宙の統一を表す聖なる記号」という意味で、この記号とその幾何学的構成には、ヘルメス思想と関連する意味があり、C.H.ヨーステンが書いている通り、「エメラルド・タブレットの〈ひとつのもの〉(una res)」(注31)は、この意味と同じ内容を示唆しています。ヘルメス思想とのこの関連は、先ほど述べた『予備的な格言』(Propaedeumata Aphoristica)の表紙にも見ることができます。この表紙では、ディーの象形文字の記号が、カルトゥーシュの中央に飾られており、絵文字の両脇には、ジョン・ディーの頭文字(IとD)が書かれています。これは単に、この記号が著者のオリジナルであるということを輝かしく表わした印かもしれませんが、ヘルメス思想が元になっている、より深い意味が暗示されている可能性もあります。ヘルメス思想では、人間のことを小宇宙(microcosm:ミクロコズム)と呼びます。流出という観念を表わしている「カバラの生命の樹」の図には、アダムカドモンという人間の元型が、〈生命の樹〉に重ね合わせられるように表現されています。同じように、ディーの〈象形文字のモナド〉にも、人間の秘伝哲学的な側面(占星術と錬金術の側面)を見て取ることができます。このことは、『予備的格言』の表紙の図において、一点から放たれた光線が、それぞれの絵記号、特に太陽と月に向かって伸びていることで裏づけられます。錬金術では、男性性と女性性という2つの性質の結合が重視されています。さらに、『モナス・ヒエログリフィカ』の定理13(フォリオ版の14ページ右)で、ディーは次のように述べています。

「この構成によって、もうひとつの水星が出現するが、実はこれは、最初の水星の〈異父兄弟〉(Uterine Brother)である。これは明らかに、四大元素という、月と太陽による実に完璧な魔法である。我々がしっかり目を据え、耳をそばだてさえすれば、この〈象形文字の伝令〉は、実に雄弁にこのことを語りかけてくる。最初の水星は(神の意志により)、極めて有名な〈哲学者の水銀〉と小宇宙(microcosm)とアダムである。」(注32)

『ヴォーアーカドゥミア』から抜粋した、ペンセウスのカバラ的宇宙図。ディーはこの本を細部に至るまで読み込んでいた。水星の記号が中央に描かれ、底部には伏せた三日月があり、そのすぐ上には金星の記号、そしてその上には太陽が配置されている。月が水銀との関連で描かれているこの図は、〈象形文字のモナド〉の作成に影響を与えた可能性がある。

 ここで語られているもう一つの水星とは〈太陽水星〉のことで、これは〈月水星〉の異父兄弟です(イラストをご覧ください)(注33)。水星もしくは水銀が果たす役割は多く、また次々に変わります。錬金術の作業で水銀は、「物質と手段と結果」の象徴であることから、錬金術師(および魔術師)は、実は「水銀のような人間」であり、錬金術を行う実験者であると同時に、錬金術の過程を進める触媒でもあることが分かります(注34)。

訳注:水銀のような人間(mercurial man):水銀は金属であると同時に液体であることから、異なる2つの性質を持つものの象徴とされる。

 この文章の第2部では、ディーの〈象形文字のモナド〉の基本的な幾何的構造と、そこに現れる、惑星と占星術の要素を取り上げます。その後に、この記号に内在する、数秘術(数の象徴学)的な意味と、流出という新プラトン学派の観念とこの記号の関連について紹介します。(次号に続く)

脚注
References
15. Clulee, John Dee’s Natural Philosophy, p. 121
16. Clulee, Astrology, Magic and Optics, p. 642.
17. Clulee, John Dees’s Natural Philosophy, p. 126. Dee even went so far as to write a defence, Speculum unitatis… (although unfinished and now lost), against the accusation that Bacon’s ‘science involved the practice of magic and other demonic arts’. ibid., p.64.
18. C. H Josten, ‘John Dee’s Monas Hieroglyphica’ in Ambix, Vol. 12, 1964, p. 106.
19. Federico Cavallaro, ‘The Alchemical Significance of John Dee’s Monas Hieroglyphica’ in S. Clucas (ed.), John Dee: Interdisciplinary Studies in Renaissance Thought, Springer, 2006, p. 165.
20. Forshaw, ‘The Hermetic Frontispiece…’, p. 132.
21. Clulee, ‘Astronomia inferior…’, op. cit., pp. 173-4.
22. See Clulee, ibid., p. 179.
23. Clulee, John Dee’s Natural Philosophy, p. 136.
24. See further, Stephen Clucas, ‘Pythagorean Number Symbolism, Alchemy, and the Disciplina Noua of John Dee’s Monas Hieroglyphica’ in ARIES 10.2, 2010.
25. Michael & Phyllis Walton, ‘The Geometrical Kabbalahs of John Dee and Johannes Kepler: The Hebrew Tradition and the Mathematical Study of Nature’ in Theerman & Parshall (eds.), Experiencing Nature, University of Western Ontario Series in Philosophy of Science, Vol. 58,
1997, p. 46.
26. Norregrén, op. cit., p. 219.
27. Györg y E. Szonyi, John Dee’s Occultism: Magical Exaltation Through
Powerful Signs, SUNY, 2004, p. 164.
28. Urzula Szulakowska, ‘John Dee’s Alchemy of Light: The Monas Hieroglyphica and the Cabbalah’ in The Alchemy of Light: Geometry and Optics in Late Renaissance Alchemical Illustration, Brill, 2000, p. 62.
29. Quoted in Szonyi, ibid., p. 167.
30. ibid.
31. C. H. Josten, p. 106.
32. Translation by Jim Egan, op. cit., The Works of John Dee, p. 94.
33. Jim Egan, The Meaning of the Monas Hieroglyphica with Regards to
Geometry, Cosmopolite Press, 2010, p. 35.
34. C.H. Josten, pp. 103-4.

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