資料室

魂の暗黒の夜(第一部)

The Dark Night of the Soul Part1

セレスティーナ・サガッツィオ

By Celestina Sagazio, PhD

 「魂の暗黒の夜」は、不可解で軽々しく扱うことのできない神秘学的概念であり、よく理解されていることも、それについて議論されることも、ごくまれです。人類の進歩の現時点は、この概念について考察してみる好機であると現代の多くの神秘家が述べています。

 バラ十字会での学習では、心の深奥の光と啓示(illumination:悟り)について幅広く学習します。では、このコインの裏面は何でしょうか。それは、私たち自身の心の闇や、この世界の暗部です。バラ十字哲学も他の精神世界の伝統も、心や世界には二元的な性質があることを指摘しています。つまり、人生は光と闇、受動的なものと能動的なもの、男性的なものと女性的なものなど、対になる要素からなっています。広く知られている陰陽図(太極図)という象徴には、こうした二元性が美しく要約されています。

 「暗黒の夜」という言葉は日常生活では、辛く厳しい時期、ときには憂うつな気分や不調な時期を表わすのに使われています。「今、暗黒の夜なんだ」と誰かが言うのを、あなたも聞いたことがあるかもしれません。

 それは、偉大な神秘家たちが体験したものと同じものなのでしょうか。別の言い方をすれば、神秘学的な意味で進歩している人たちが、精神探究の旅の途上で通過するある段階と同じものなのでしょうか。「暗黒の夜」には、さまざまな種類があるのでしょうか。偉大な神秘家であっても、深刻な「暗黒の夜」の段階を経験しないことが可能なのでしょうか。これらは、私たちにとって考察に値する疑問です。

 最初に注目しなければならないことは、「暗黒の夜」には効用があり、それはそれを体験し通過した人が、極めて進歩した神秘家、並はずれて優れた人間へと変容することです。ですから、〈暗黒の夜〉は議論するのが難しいテーマですが、私たちは明るい希望と勇気を持って、このテーマに取り組まなくてはなりません。そして〈暗黒の夜〉のこの効用は、この上なく素晴らしいものです。この変容こそがまさに、私たち神秘家が何にも増して達成しようとしていることだからです。

 では勇気を持って、この概念について考察していきましょう。私たちにとって良い知らせは、典型的な〈暗黒の夜〉を体験し変容を遂げて啓示を得た人たちが伝えてくれている、重要な実践法や技法や助言が数多く存在するということです。このような知識によって私たちは、極めて厳しいこの試練に立ち向かうために、自分自身を武装することができます。それはいつでも、人生の今の時期でも、未来へと続く長い道のりの途上でも、もしかしたら別の人生でも役に立ちます。これから説明する考え方と戦略を読んでおくだけでも、おそらく、その情報は私たちの潜在意識に留まり、時期が来た時に役立つことでしょう。

 「暗黒の夜」という言葉は、16世紀のスペインの偉大な神秘家、十字架のヨハネ(St John of the Cross:サン・フアン・デ・ラ・クルス)に由来しています。彼はこの神秘的な段階を耐え抜き、それを他の人たちの助けになるようにと書き残しました。彼は暗黒の夜に関する詩集を編纂し、二冊の本でそれらの詩について詳細に解説しています。その中で彼は、自身の魂(soul:ソウル)が創造主と神秘学的に統合する旅の過程について述べています。彼は、創造主との統合に至る道には、2つの浄化の過程が必要であると指摘しています。第一の浄化もしくは純化を、彼は「活動的」なものと描写しています。それは、ソウルの感覚的な部分に関する浄化です。この浄化は私たち自身によって行われます。第二の浄化は、ソウルの深奥に関するものであり、「受動的」なものです。この浄化は創造主によってなされるため、完全に徹底的に行われることになります。

 さまざまな時代を通じて、多くの卓越した神秘家たちが〈暗黒の夜〉を通過しており、もちろん達人イエスもその一人です。偉大な神秘家であった詩人ルーミー(Rumi)は、〈暗黒の夜〉を耐え抜き、驚くべき文学の遺産を築き上げました。十字架のヨハネの親友であったアビラのテレサ(St Teresa of Avila)は、『内なる城』という素晴らしい作品を書いており、この作品では、人間の心の深奥の発達のうちの暗い部分が扱われています。他にも、リジューのテレーズ(saints Thérèse of Lisieux)やマザー・テレサ(Mother Teresa)などがいます。マザー・テレサの〈暗黒の夜〉は、50年間にも及びました。彼女は闇の中に生きたのですが、それでもなお毎日人類に奉仕し続けました。確かに、〈暗黒の夜〉は謎の多い概念です。現代の精神世界で指導的立場にあるエックハルト・トール(Eckhart Tolle)もまた、〈暗黒の夜〉を体験したと述べています。

 バラ十字会や錬金術やヘルメス学の伝承からは、私たち人間の内なる光と内なる闇という2つの側面を統合することによって、神秘学的な進歩をなし遂げるための、数えきれないほど多くの洞察と技法を得ることができます。

 精神世界の著作家イーヴリン・アンダーヒル(Evelyn Underhill)が書いた、神秘学の本質に関する重要な著作があります。古典的名作であるその本の題名は、『神秘学:人間のスピリチュアルな意識の本質とその発達の研究』(Mysticism: A study in the nature and development of Man’s spiritual consciousness)です。アンダーヒルは、私たちが考察するのに適した神秘学的な進歩のモデルを示しています。

1.目覚め(Awakening)

2.浄化(Purgation)

3.啓示(Illumination:悟り)

4.魂(ソウル)の暗黒の夜(Dark Night of the Soul)

5.合一(Union)

 このモデルでは、「魂の暗黒の夜」は進歩の極めて高い段階で体験することになります。〈暗黒の夜〉が啓示の後に起こるとされていることに、驚く人もいるかもしれません。なぜ、深遠な光が訪れた後に、深い闇が訪れるのでしょうか。それは逆行ではないのでしょうか。しかしさらに検討すると、なぜ〈暗黒の夜〉が「啓示」と「合一」の間に置かれているのかが良く理解できるようになります。

 アンダーヒルは自著の中で、多くの著名な神秘家の生涯と著作について検討しており、〈暗黒の夜〉についての多くの洞察を与えてくれています。彼女はそれぞれの神秘家の差異に着目していますが、共通する特徴も指摘しています。

 アンダーヒルはこう述べています。「〈暗黒の夜〉は、心理学の分野で「うつ病」と呼ばれているものの一種のように見なされることがあるが、神秘学という観点から見ると、そのようなものよりもはるかに多くのことを意味しており、〈暗黒の夜〉は、性格の徹底的な再構築、浄化、「創造主の中における変容」に寄与する。」

 彼女は、偉大な神秘家たちの〈暗黒の夜〉には、それぞれに異なる特徴があると考えていましたが、一方でいずれにも、これから説明していくような点が共通していることを発見しました。

 彼女は〈暗黒の夜〉のことを「完全な空虚と停滞」と描写しています。内面の進歩の他の段階とは異なり、〈暗黒の夜〉にヴィジョン(訳注)や声を体験することはほとんどありません。神秘家は「みじめさ」、「無力感」、「孤独」を体験するとアンダーヒルは述べています。この段階の特徴は「浄化のための暗き火」です。〈暗黒の夜〉の段階で、私たちは「新たなバランス状態」を作り出そうとしているのであり、そのため低次の自己(通常の自分自身)は、「喜びの状態」と「苦痛の状態」の間を「行ったり来たりする変化」を体験します。

訳注:ビジョン(vision):神秘体験としての性質を持つ示唆的な幻視。

 アンダーヒルはさらにこのように述べています。

「創造主へと回帰する激しくも愛に満ちた〈暗黒の夜〉という道では、遅かれ早かれ『サイキックな労苦が始まり』、啓示の状態が崩れ始め、『闇と喪失に圧倒される』。したがって、神秘的な目覚めによって、崇高で高度な意識を自己は獲得するが、もう一方には、『落胆と苦痛の意識』がある。」

 喜びの意識と苦痛の意識の間を行ったり来たりする変化は、〈神秘の道〉の新たな時期の始まりに最もよく起こるように思われるとアンダーヒルは述べています。つまり、浄化と啓示の間の時期、啓示と〈暗黒の夜〉の間の時期です。しかし〈暗黒の夜〉自体に匹敵するような激しい段階は、他にはひとつもありません。〈暗黒の夜〉には延々と続く辛い苦しみがあり、それは浄化の段階よりもはるかにひどいものです。

 喜びと苦痛の間を行き来するこの変化を「愛のゲーム」と呼ぶ神秘家もいます。このゲームでは創造主が、探求者の魂とある種の「かくれんぼ」をしているのです。

 以下は、アンダーヒルが確認した〈暗黒の夜〉のさまざまな種類です。

1.創造主の不在:創造主が意図的に自体の存在を隠し、神秘家は見捨てられたと感じる。

2.罪の感覚:新しいすさまじいほどの洞察力を得たことが理由で、その神秘家は創造主の純粋さに圧倒される。善のビジョンによって、自分が絶望的なほど不完全であり無力だという感覚がもたらされる。

3.徹底的な感情の疲労:情熱が消え去り、その代わりに倦怠感に襲われ、それを克服することができない。

4.意志と知性の停滞:自分の嗜好や考えをコントロールすることができない。悪徳が目覚め、暴力的な考えが意識の領域に入りこんでくる。

5.「創造主を見たい」という耐えがたい渇望:これは「偉大なる荒廃」(great desolation)と呼ばれるものの一種であり、「暗黒の激情」もしくは「創造主の痛み」と表現されている。並外れた孤独に襲われ、神秘家はこの世にひとりも仲間がいないことに気づく。

 神秘家の人生には、このようなさまざまな種類の〈暗黒の夜〉が訪れることが一般的であり、それには圧倒的な苦悩と無力感が伴います。神秘家は、全般的な意味で絶望と停滞を体験しますが、そこには、その神秘家の必要に合致した特定の焦点があります。

 たとえば、マダム・ギュイヨン(訳注)の〈暗黒の夜〉は、彼女自身が行った詳細な講演で明らかにされているように、放棄するということと神聖な受容的態度という要素が焦点でした。一方でアビラの聖テレサの〈暗黒の夜〉は、決して満たされることのない「暗黒の激情」として表れたとアンダーヒルは指摘しています。

訳注:マダム・ギュイヨン(Madame Guyon):フランスのカトリック系神秘家。静寂主義(quietism)を提唱し、ルイ14世の宮廷で熱烈な信奉者を得たが異端とされ投獄される。

「暗黒の夜」の目的は何か

What is the purpose of the Dark Night?

 創造主を切望する偉大な探求の後に、このような種類のあらゆる苦難が生じると言うことは信じがたいように思われますが、神秘家は誰一人として例外なく、〈暗黒の夜〉のこうした特徴はすべて、内面の発達の進展において必要な段階だと述べています。この段階は、合一の準備における、意志もしくは人格の浄化を意味すると神秘家たちは考えています。

 〈暗黒の夜〉は少しずつゆっくりとやってくる傾向があります。自身の活力と直観がひとつまたひとつと失われていき、やがて「神秘的な死」に至ります。

 ソウルには、内的で崇高な喜びを求め、その喜びの中に憩う生来の傾向があり、また現実について夢想することによって与えられる喜びを現実と混同してしまう傾向があります。〈暗黒の夜〉の目的は、そのようなソウルの傾向を矯正することです。高度なレベルに登りつつある自己は、子どもじみた満足感を手離さなくてはなりません。そして自己の愛を、絶対的に偏りがなく、強く勇気ある愛に変えていかなくてはなりません。探求者は、個人的な満足のための取るに足らない利己的な探求を置き去りにして進みます。私たちの幻想は破壊されます。

 自己は、〈無限なる意志〉に完全に身を委ねなくてはなりません。〈暗黒の夜〉は、心の最終的かつ徹底的な浄化であり、分離が取り除かれ、自己本位という傾向が滅ぼされます。探求者は徹底的に謙虚になり、献身的で忍耐強くなります。何にも増して、利己心が根本から浄化されます。この苦悶と苦悩の期間に、探求者は、愛のために愛がないことを受け入れ、〈すべてのもの〉のために無を受け入れるのです。自己が闇の中にあるのは、耐えられないほど強い光によって目がくらんでいるからです。

 探求者は、自分自身のことを考えるのを止めることを学びます。それは死であり、〈すべてのもの〉への完全降伏です。ソウルは無へと還元されます。明らかなことですが、自我を断つこのように激しい過程が、何のストレスもなく起こるとは考えられません。〈暗黒の夜〉もしくは「神秘学的な死」は、多様性から統合へと至る移行の一過程です。このときのストレスや辛苦、孤独は、〈多であるもの〉が〈一なるもの〉へと至る道の、必要不可欠な要素です。そして完全なる降伏という行ないの後に、〈光〉が到来します。

 哲学や宗教や精神世界の極めて多くの専門家が、このことに同意しているとアンダーヒルは述べています。錬金術の伝統もこのことに同意しており、火なくして変成が起ることはないとされています。

13 世紀と14 世紀に生きたドイツのドミニコ修道会の修道士ハインリッヒ・ズーゾーの肖像画。作者不詳。

 アンダーヒルは、13世紀と14世紀に生きたドイツのドミニコ修道会の修道士ハインリッヒ・ズーゾー(Henry Suso)の生涯を調査しました。その結果、〈暗黒の夜〉についての彼の率直で詳細な記録によって明らかにされたのは、成長の一段階である〈暗黒の夜〉は、主にその個人の気質によってその特徴が決まり、その人の意識が絶えず作り変えられるということです。

 ズーゾーはひどい憂鬱と絶望に10年間もさいなまれました。また、病気と虚偽の告発にも悩まされました。彼は多くの敵や、誹謗中傷に耐え抜きました。たとえば、悪意を持った女性が、自分の子どもの父親はズーゾーであるという虚偽の告発を行い、彼の世間での評判は地に落ちました。哀れなズーゾーは、打ちのめされました。彼はときおり、ビジョンや啓示を得ていました。内なる声は、さらに完全な自己放棄をするようにと彼を駆りたてました。人生で考えられる最も深刻な試練を受けることと、忍耐と愛を厳しく試されることによって、彼は深遠なる平安と創造主の意志との合一に達しました。そしてズーゾーは、魂の奥底から主を讃えました。アンダーヒルはこう書いています。

「彼は完璧にへりくだることによって多くのものを得た。そして、創造主のもとへと上昇するための価値ある多くのことがなし遂げられた。」

(第二部に続く)

出典
Sources
St John of the Cross, Dark Night of the Soul, (ed) E. Allison Peers, Double Day & Company, New York, 1959
Evelyn Underhill, Mysticism: A study in the nature and development of Man’s spiritual consciousness, World Publishing Company, Cleveland, Ohio, 1955

 ※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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