以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
ジョン・ディーの象形文字のモナド
John Dee’s Hieroglyphic Monad
宇宙の統一を表す聖なる記号 第2章 数としての性質と流出に関する性質(後半)
Sacred Symbol of Oneness Part 2 Numbers and Emanation Attributes(The latter half)
ポール・グドール
By Paul Goodall
数的な側面
Numerical Aspects
ジョン・ディーの象形文字のモナドを幾何学的な図形として見たとき、それは象徴的に一連の整数を意味しており、このことがまさに、定理6で説明されています。主にこの象徴的な意味は、2本の直線からなる十字の部分に由来します(図6参照)。まずディーが読者に説明しているのは、この象形文字の円の下の十字には、2本の直線と、ひとつの交点があることから、「3つ組」(訳注)という意味があるということです。彼はこの3つ組が肉体(corpus)と精神(spiritus)とソウル(anima)であると述べています。彼はまた、十字が4本の直線で描かれていると考えることもできることから(定理6)、「4つ組」(訳注)という意味があると説明しています。この4つ組は、錬金術の四大元素を表しています(定理7)。定理6では論じられてはいませんが、単子(monad、モナド)という意味を持つ交点を加えれば、5つ組(quinary)という意味が生じ、それは、四大元素とそれを支配する〈精神〉(Spirit)に対応します(脚注10)。ディーはまた、「極めて秘密の方法」で8つ組(octonary)という意味が作りだされることを説明しています。それは、4本の直線からなる十字を仮に複製することによってなされ、この2つの十字は重なり合って”結婚”しています。7つ組(septenary)という象徴的な意味は、3つ組と4つ組の和から導き出されます(3+4=7)。一方、この2つの積からは、12個の組(duodenary)、すなわち12要素という原理が生じます。7つ組は伝統的な七惑星(訳注)、12個の組は占星術の十二星座であると考えることができます。(脚注11)
(訳注:3つ組(ternary):錬金術の塩・水銀・硫黄、キリスト教の父・子・聖霊、弁証法のテーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼのように3要素から作られる組み合わせのこと。)
(訳注:4つ組(quarternary):方位の東・西・南・北、季節の春・夏・秋・冬、四大元素の土・水・火・空気のように4要素から作られる組み合わせのこと。)
(訳注:伝統的な七惑星(seven traditional planets):占星術で用いられる月、火星、水星、木星、金星、土星、太陽のこと。一週間の曜日に対応している。)
10個の組(denary)すなわち10要素からなる原理という象徴的意味は、定理8に説明されているように(図7参照)、4つ組の数列の各要素の数を加えることによって得られます(1 + 2 + 3 + 4 = 10)。これをディーは「4つ組のカバラの手法による拡張」(訳注)と述べており、以下で議論されるピュタゴラスのテトラクティスと関連があるとしています。10という象徴的意味はまた、後の定理16で説明されているように、2本の直線からなる十字を45度傾けることによって得られます。この図形が、10という数を表すローマ数字の「X」になるからです。定理8でさらに説明されているのは、10個の組を3つ組と7つ組に分けて、この2つを乗じると21が得られるということです。ディーが読者に注意を促しているのは、古代ローマの初期の哲学者が「X」という文字を、数の10を表すために選んだのであり、「X」という文字は、ラテン語のアルファベットの21番目の文字であるということです(図7参照)。(脚注12)
(訳注:カバラ(ユダヤ教の秘伝思想)では、ヘブライ語の単語や文の秘められた意味を明らかにするために、各文字の数値を加え合わせるという手法が取られることがある。)
先ほど述べたように、定理16でディーは、十字を45度傾けることによってローマ数字のX(すなわち10)が生じ(図8参照)、その上半分には「V」の形(ローマ数字の5)が見られると述べています。この2つを乗じると(5 × 10)、50という数、すなわちローマ数字の「L」が導かれます。このようにして、ラテン語の「LVX」(訳注)が得られ、定理17でディーはこのことを次のように解説しています。
(訳注:LVX:「光」を意味する。古い時代のラテン語のアルファベットにはUがなく、Vがその発音の母音文字にあたる(脚注12を参照)。現代では照度(明るさ)の単位「ルクス」(lux)に用いられている。)
我々の十字は、分かたれて2つの文字になった。先ほどはその数としての性質を扱ったので、次はこの十字の言葉としての力を調べよう。というのも、そこから「光」という言葉が生じるからだ。我々は、結果として生じたこの威厳ある言葉を理解し賞賛しようではないか(後略)。(脚注13)
光を意味するラテン語であるこの特別な単語は、復活したキリスト、もしくは蘇生したオシリス神の神秘を表しています。このことと関係している、ディーの象形文字の別の特徴があります。この文字の上半分には、ギリシャ文字のアルファ(α)が横倒しになって現れており(太陽を表す円と三日月形の図形が組み合わされて作られている)、下半分の白羊宮の記号は倒置されたオメガ(ω)だと解釈することができます(図9参照)。意味深長なことに、この2つは、ギリシャ語のアルファベットの最初と最後の文字にあたります。この2つの間に十字が置かれており、十字のことを身体、あるいは物質の世界の象徴だと解釈すると、この3つの組み合わせには、人生という旅との興味深い関係があります(脚注14)。また、時の始まり、すなわち創世(宇宙の創造)という脈絡で、定理5を解釈することもできます。ディーは、次のように述べています。
そして確かに、一日は朝と夜からなり、月を表す半円を、それを補完する太陽と結合することで形成される。そうであれば、哲学者の光が形成されたのは第一日目である。(脚注15)
定理16について、さらに付け加えるならば、5は10の半分の値ですが、5を表すローマ文字Vが、文字Xの中には2つ配置されていると解釈することができます。一方のVは正立していて、もう一方のVは倒立しています。ディーはさらに、5が25(5 × 5)の平方根であることを指摘しています。25という数に含まれている意味について、ディーはこう述べています(フォリオ版16ページ)。「(前略)循環する数、それは5という数である」(訳注)。5という数を表す文字「V」は、ラテン語のアルファベットの20番目の文字でもあり、同時に5番目の母音です(図10、図13参照)。しかし、彼の説明は、これだけで終わりません。彼は十字が「L」の文字(すなわちラテン語で50を表す数字)の重ね合わせであると解釈します。上部にある「L」は正立しており、下にあるものは倒置しています(図11参照)。ディーはこの文字が「まさに、我々の十字の象徴の5つ組という意味と10個の組という意味から導かれる(5×10)」としています。(脚注16)
(訳注:5という数を自乗(2乗)したときに、一の位にそれ自体が再び現れることを言っているのだと思われる。)
さらに、「L」をもう一つの「L」に加えることで(50 + 50)、十字の「10という力」が強められて、100(10×10)という象徴的な意味が生じます。理論をさらに展開して、ディーは50と50の積である2500を、先ほど作った25(5×5)で割っても、100という数が得られることを示しています(図12参照)。「このように、十字そのものには、10という数の力が秘められていて(訳注)、100という数にも関係していることが認められる」。(脚注17)さらに、「L」という文字は、ラテン語のアルファベットの「A」から「X」のちょうど中央に位置し、その両側の10文字によって、10個の組の対称性が強調されています(図13参照)。
(訳注:十字が10という数に関連していることは日本語では明らかであるが、英語の「cross」(クロス)には、10という数に明らかに関連する意味はない。)
ディーはこれらの数学的な神秘にとても驚き、次のように述べています(フォリオ版16ページ)。「おお、創造主よ、これら神秘の何と偉大なことでしょうか」。彼は定理16を次の言葉で締めくくっています(フォリオ版16ページ右)。
従って、1、10、100という一連の数列を、この十字が意味として含むことが、これらの理論によって我々に教えられている(注目に値することは他にもまだあるが)。十字の持つ10に関する対称性によって、我々は上昇させられる。それにもかかわらず、十字の性質は唯一であり〈一なるもの〉を表している。(脚注18)
〈一なるもの〉に関する以上の内容は、図15に示されています。ディーの象形文字のモナドの数学的な構造は、自然数(正の整数)の生成に深く関わっており、宇宙の数学的な創造を反映していることが分かります(脚注19)。ディーは自身の象形文字について、こう述べています(フォリオ版3ページ右)。「私はそれを『象形文字』と呼んではいるが、詳細にそれを調べる人は、その中に数学的な、ある種の光と強さが存在することを認めるであろう」。
流出的な側面
Emanation Aspects
定理1および定理2(フォリオ版12ページ)の中で、ディーは哲学的で幾何学的な創造の過程について論じています。その過程には最初は点だけが含まれていましたが、点は延長されて直線になり、直線が点の周りを回転することによって、円と円周が形成されました(前半の図5を参照)。ディーのこの考えは、プロクロス(西暦412年頃~485年)の書いた『エウクレイデス原論第1巻注釈』に由来すると思われます。この本を彼は1563年より以前に読んでいます(脚注20)。エウクレイデス(Eukleides:ユークリッド)は紀元前300年ごろにアレクサンドリアに住んでいました。彼の書に書かれた定理のほとんどは彼自身の発見ではなく、ピュタゴラス、キオスのヒポクラテス、アテナイのテアイテトス、クニドスのエウドクソスなどの、それより以前のギリシャの数学者たちの成果でした。しかし、彼はこれらの定理の間の論理的な関係を明確にしたことで高く評価されています。この著作の大部分は、数、幾何学、比率についての理論を扱っています。
『モナス・ヒエログリフィカ』において、点、直線、円というこの流出の過程は象形文字の天上の部分、つまり円と半円(太陽と月)にだけ当てはまるとされています。物質的な元素、すなわち四大元素からなる領域(象形文字の十字部分)は直線の運動によって生み出されるとされています。このことは、十字を形成している4本の直線が中心点から伸びていることによって表されています。十字の構造の中には、ピュタゴラスのテトラクティスが表されています(図14参照)。ルネッサンス期において、宇宙生成の理論とテトラクティスは、しばしば結びつけて考えられていたので、ディーは、自然数によって作られるこの構成のことをよく知っていました。彼はテトラクティスに示されている自然数の持つ力を、ヒエログリフのモナドに組み込むことに特に興味を抱いていました。というのも、4つ組は、三次元の(地上の、物質からなる)立体と関係があり、それが10個の点からなる三角形をした配置(3つ組)に表されており、1から4までの数列を表しており(4つ組)、4つのレベル、言い換えれば4層に積み上げられ、以下の事柄を表しているからです。
1.単子(Monad):点であり、すべての数の源であり、数そのものでなく神と関連する。
2.双極子(Dyad):直線という一次元。偶数であり分割することができる。限界のない、形を持たない原初の物質に対応する。
3.3極子(Triad):三角形の形成、面という二次元が初めて構成される。
4.4極子(Tetrad):立体という3次元が初めて構成される。(脚注22)
これらの数は、物質世界の形而上学的な生成、つまり、立体という3次元への流出を表わしています。しかしディーは、ピュタゴラスのテトラクティスには創造の限界(訳注)が内在していると考えたので、彼はこの象徴的な意味を自身の象形文字の地上の部分、つまり基本的な十字にだけ当てはめています。この限界は、先ほどと同じ引用個所の最後の部分にほのめかされています。「しかしながら、十字の持つ性質は唯一のものであるから、それはまた〈一なるもの〉を表している」。
(訳注:創造の限界(creative limitation):創世(宇宙の創造)の一部分しか表していないということ。後述される。)
説明しますと、ピュタゴラスの4つの一連の数を足すと(1+2+3+4)、10という数が得られます。しかし、1から10へのこの前進は、唯一であり完全である1に戻ります。なぜなら、1と0を加えると1、すなわち〈一なるもの〉になるからです(10 = 1 + 0 = 1)(訳注)。そしてこのことを、数論を重視するディーは問題だと考えました。テトラクティスは、純粋に数論的な創造を表しているのではなく、モナド(点)、線、面、立体という幾何学的な進行を通した創造だけを表していると考えたからです。そのため、ディーはピュタゴラスのテトラクティスの象徴的な意味を、彼の記号の中の地上の(物理的な、初歩的な)領域を表す十字の部分だけに当てはめています。
(訳注:ある整数の性質は、その桁の数を加えるという操作を繰り返して、得られた1桁の数に表れるとピュタゴラスは考えていた。)
それゆえに、彼のモナドの象徴は、全体も部分も、点と線から作り出されている一方で、天上の領域を表す部分と地上の領域を表す部分では、質的な違いがあります。物質的な領域の進歩は線まで進み、十字を形成しています。一方、天上の領域は線を超えて円まで進歩します。これは「モナド的であり、したがって完全」(脚注23)です。
第2章では、ジョン・ディーの象形文字のモナドの構造の、象徴的な意味の、幾何学的側面と数学的な側面を詳細にご紹介しました。
▼ 第2章「数としての性質と流出に関する性質」(前半)はこちらから
『宇宙の統一を表わす聖なる記号』第1章「起源」(前半)はこちらから
『宇宙の統一を表わす聖なる記号』第1章「起源」(後半)はこちらから
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脚注
References
10. Knight, op. cit., p.26.
11. Ibid.
12. ディーが述べている初期のラテン語のアルファベットは22文字であり、後のラテン語には存在するJ、U、W,Zが欠けている。
13. Translation from C. H. Josten, ‘John Dee’s Monas Hieroglyphica’, Ambix, Vol. 12, 1964, p. 175.
14. See Calder, op. cit, Chapter VI Part 6.
15. Translation from C. H. Josten, p. 157.
16. Ibid., p. 171.
17. Translation from Jim Egan, op. cit., p. 98.
18. Ibid., p. 98.
19. Clulee, John Dee’s Natural Philosophy, p. 89.
20. Ibid., p. 91.
21. Richard Fitzpatrick (ed. and translator), Euclid’s Elements of Geometry: The Greek Text of J. L. Heiberg (1883-1885), 2008 (2007), Introduction, p. 4.
22. Adapted from Clulee, John Dee’s Natural Philosophy, p. 90.
23. See Clulee, Ibid., pp. 89-91.