投稿日: 2023/05/30
最終更新日: 2023/06/06

以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

区切り

懐疑主義とポジティブシンキング
Scepticism & Positive Thinking

ローラ・カクーティ
by Laura Kacouti

懐疑主義とポジティブシンキング

「現実的になりなさい!」という言葉を、誰もが聞いたことがあるのではないでしょうか。健全なレベルの懐疑心を持つということは、現代において、決して耳慣れない考えではありません。私たちは、証拠や具体的な事実が重視される社会で暮らしています。驚くような主張を誰かが声高に語り、それを他の人たちが、やみくもに同意して受け入れるというようなことが予想される時代は過ぎ去りました。私たちの多くが、疑問を持ち、証拠を求めています。信じる前に、疑う傾向があるのです。

一方で、ポジティブシンキング(前向きな考え方)のことを、多くの人が耳にしています。前向きな心構えを採用し、積極的に行動し、行ったことがすべて良い結果になると期待することは、理論的には良いことだということに、誰もが同意することでしょう。しかし、私生活でポジティブシンキングを実践してみると、やがてこの言葉の輝きが薄れてしまうことがあります。障害にぶつかり、ポジティブシンキングを実践することを難しく感じ、やる気を失ってしまうのです。確かに、私たちは人生の旅路を進んでいくとともに、だんだんと懐疑的になってしまいがちです

心の中の懐疑主義者があなたに尋ねるのです。「これで本当にうまくいくのだろうか?」「私にそれができるだろうか?」「それは、ほんとうに現実的なのだろうか?」私たち一人一人の心の中に、このような内なる懐疑主義者がいると認めることは、恥ずかしいことではありませんし、きまりの悪いことでもありません。新しいことに挑戦しようとするときに疑問を持つのは、ごく自然なことです。しかし、懐疑的な考え方は、ポジティブシンキングの邪魔をしたり、それが私たちにもたらす恩恵を妨げてしまうことがあります。では、どうすればポジティブシンキングと懐疑主義のバランスを保ち、私たちが受け取るべき幸せや充実感が、懐疑主義によって排除されてしまわないようにすることができるのでしょうか

バランスを保つ

Keeping a Balance

「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」ということわざがあります。心の中の懐疑主義者は、物事に鋭敏に気づいていることと、空理空論を受け入れないことを好みます。ですから、このことわざを自分の思考に当てはめるなら、疑いにも適度なバランスが必要だという結論に簡単に達することができます。否定的な考えに常に留まっているのでは、自分にとって何の利益にもならないことは明らかです。常に否定的な心構えをしていることが、自身の健康や人生観、全般的な幸福に、重大なダメージを与える可能性があります。ですから、ネガティブシンキング(後ろ向きな考え方)に、極端に偏らないというバランスこそが大切なのです。だからといって、前向きになりすぎるのも考えものです。常にとても前向きな人と聞くと、どんな人を思い浮かべるでしょうか。おそらく、少々世間知らずな人とか、いわゆる現実離れした人ではないでしょうか。

私たちの心の中の懐疑主義者は、何らかの根拠を自分自身にもたらそうとします。懐疑主義は、心の中の悲観論者をなだめるだけでなく、やみくもな楽観主義者になるのを防いでくれています。しかし、バランスを取るという方針は、おおまかに言えば理にかなっているのですが、実際の場面に適用した場合には、このルールの再考を迫られる例外が常に存在します。

勝算を度外視して行動した人や、不可能を可能にした人を、日常生活の中で、私たちは常に思い浮かべることができます。有名な例をいくつか挙げてみましょう。アメリカの作家スティーヴン・キングの最初の小説は、30社以上の出版社に断られましたが、ベストセラー作家の一人になりました。オプラ・ウィンフリーはかつて「テレビに向かない」という理由で仕事を解雇されましたが、その後、史上最高の視聴率を誇るテレビ番組の司会を務めるようになりました。それに、アインシュタインは4歳になるまでまともに話すことができなかったという話もあるくらいです。アインシュタインの名前が「天才」の代名詞になるとか、これらの人のうちの誰かが成功を収めるなどと考えることが、そのとき、「現実的」だと言えたでしょうか。このような例や、あまり語られることのない他の無数の例のことを考えると、個々の特定の状況において、何が現実的かを知ることができると主張することはできないのです

ポジティブシンキングは、心の自由です!

Positive Thinking is Freedom!

心の中の懐疑主義者を、目の前の現実に合うようにどのように修正するかが分からないという理由だけで、ポジティブシンキングを用いて達成したい願望や野心、未来に対する前向きな展望を修正する必要はありません。なぜなら、前向きに考えることで得られる喜びや利益は、心の中の懐疑主義者が自分自身に課している制約を完全に超えるからです

心の中の懐疑主義者は、自分自身を理解したり、今日の世界で起こりうることを理解するためには、知性や客観的な感覚だけに頼るほうが魅力的だと考えるかもしれません。その方法を多くの人が用いていますし、より安全で、すでに試した方法でもあるからです。しかしそもそも、このような理解の方法が、本当に絶対確実な知識を与えてくれるのでしょうか。

五感や強力な知性をもってしても、人類はまだ宇宙のすべてのものを発見したわけではありません。元素の周期表にはまだ空欄がありますし、今もなお新しい星が発見されています。また、私たち人間は常に、何かを行うための新しい方法や、周囲の世界を理解する新しい方法を探究しています。純粋に知性だけに頼ること、あるいは自分が現実的だと考えるものだけに頼ることには、限界があります。私たちは前向きに考えることを選んだとき、知性を超えることを自分に許可したことになります。私たちには、知性の制約を受けない別の理解の方法に心を開くことができます。それは、心に本来備わっている方法であり、心の奥深くで再び利用されるのを待っている方法です。私たちのために用意されているものは、私たちのものであるということ、そして、私たちに属するものはすべてが善であるというのは、確実なことです。私たちが宇宙と人生を心から受け入れる姿勢を保つ限り、私たちの必要があらゆる方法で最高に満たされるということと、生涯を通して満たされ続けるということは、信頼に値する事実です。

宇宙と人生を心から受け入れる姿勢を保つということは、今日の世界において何が「現実的」かという限定された考えの手綱を緩める必要があるということです。その最大の理由は、宇宙や起こる可能性のあるすべてのことを、私たちが完全に理解しているとは到底言えないからです。

心の中の懐疑主義者にとっては、この説明ではまだ非現実的に思えるかもしれません。しかし、もしこうした前向きな心構えを取り入れ、宇宙と人生を受け入れるようにすれば、一見不可能に思えることを実現した自分を発見するということが起こります。それでも、心の中の懐疑主義に完全に支配されてしまっている人たちは、自分を観察して、結局は、これはまさに奇跡であるとか、運が良かっただけだという結論を出します。しかし実際には、非現実的だと思っているまさにそのことが、自分の人生で起きていることを目の当たりにするのです。

絶望的な楽観主義とは

Hopeless Optimism?

しかしこれは、知性とスピリチュアリティ(spirituality:高度な精神性)が対立しているとか、知性はまったく重要ではないということを意味しているのではありません。人間は多面的な存在です。合理的に判断し、知性を働かせる能力が人間にあるということは、人生において知性が果たす役割があるということを意味します。

ポジティブシンキングとは、合理性や知性を完全に排除することではありません。また、科学を無視しあらゆる理性を放棄する、絶望的な楽観主義者になることでもありません。ポジティブシンキングだけでは回避できない、科学が明らかにしたさまざまな法則があります。たとえば、重力を無視して空中に浮かび上がることはできませんし、どこからともなく黄金の壺を出現させることもできません。

人間は高等生物であり、数多くの宇宙の法則を発見しており、それを自分たちの利益になるように利用すべきです。人類は常に、新しい方法を見いだして知識を補うことができます。私たちは、世界と自分自身を理解するために、あらゆる知の道具を用いることができます。建築家が家を建てるとき、一つの道具だけに頼ることがないのと同じです。

あなたを押しとどめているもの

What is Holding You Back?

ポジティブシンキングについて考えるときには、自分が懐疑的になっている背後にある本当の理由は何かを分析することが大切です。懐疑的な態度を取ってしまうことに、「恐れ」はどれくらい関係しているでしょうか。私たちの大部分はおそらく、前向きな心構えを取り入れることを恐れているのです。なぜなら、もしそのようにして、願っていたことがかなわなかったり障害に直面したりすると、さらに傷ついてしまうからです。もう一度挑戦しようという気持ちや、やる気を維持することが難しくなるのです。

しかし、障害やいわゆる”失敗”が、人生の旅や大志の終点ではないことを理解しなくてはなりません。すべての失敗の中には、多くの学ぶべき経験が含まれており、そうした失敗こそが私たちを、望むものを手に入れるプロセスにおいて、もっとしなやかに、もっと屈強にしてくれます。

また、懐疑主義の同義語は疑念です。常に前向きな心構えでいられるのか、また、そうした態度が人生に大きな変化をもたらしてくれるのかという疑念を、私たちは持っています。ポジティブシンキングをめぐる疑念を鎮める最も強力な方法は、この強力な手段をただ単に実行することであり、どのような違いが生じて、自分が望むことの達成を助けてくれるのかを観察することです。ポジティブシンキングは、主体的にかかわり実際に行うことが必要な実践的な練習であるため、「まず試してみなさい、そして自分の目で確かめなさい」という格言が、深く心に響きます。

それは決して、自分の気持ちを偽ったり、ごまかすということではありません。障害に行く手を遮られると、落胆したり、希望の光が見えないと感じる日もあります。だからといって、あきらめる必要もなければ、不満の感情を抑える必要もありません。ポジティブシンキングには、逆風に対する反応を調整することも含まれます。つまり、その状況に対する自分の考えや反応がどのようなものであるかを、はっきりと意識することと、もっと前向きで建設的なものに形作っていくことが含まれます。

ですから、否定的な思考に陥ったときには、その状況について自分が本当はどのように感じているのかを調べ、愛する友人や、親や、パートナーであるかのように、自分自身に、理解と愛に満ちた手を差し伸べる必要があります。そうすることで、自分がそう感じている本当の原因を知ることができ、心の奥に感情を抑圧するのではなく、真に癒される機会を自分自身に与えることができます。

前向きであることを選択する

Choose Positivity

極めてストレスが多く、同時に、ますます懐疑的になりがちな現代社会では特に、前向きな考え方を採用することは、長く骨の折れる作業になるかもしれません。しかし、それは本当にやりがいのあることです。私たちの心の中には、自分自身に幸せを見つけてほしいと願う潜在的な性質があります。

私たちが人生で行っていることのほとんどすべては、幸せを確かにするための行いです。従事している仕事、探しているパートナー、そうありたいと願う状況。私たちは自分を幸せにしてくれるということに基づいて、これらの多くを選択しています。ですから、ポジティブシンキングに集中して、自分にとって必ず有利に働く、調和の取れた世界観を作ってはいかがでしょうか。

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