以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

沈黙
Silence
ジャンヌ・ゲドン
By Jeanne Guesdon

哲学者ピュタゴラスは、新しく入門を許した者に教えの奥義を伝授する前に、その候補者(入門志願者)にさまざまな試練を課しました。その試練は、志願者の人格を高めるように意図されており、またそれによって、この偉大な哲学者は入門志願者の性格や将来の見通しを判断することができました。そのため、入門志願者はクロトンの賢者たちに混じって話を聞くことは許されていましたが、意見を述べたり質問をしたりすることは決して許されませんでした。何ヵ月もの間、入門志願者には沈黙の修練が課せられ、ようやく再び話すことを許可されたとき、彼らは必ず熟慮と敬意とともに話すようになりました。入門志願者は自らの体験を通して、沈黙には崇高とさえ言える力があり、沈黙がすべての美徳の母であることを内面的に学んでいたのです。
ああ、ピュタゴラスが示した親のごとき指導に、なぜ私たちは今守られていないのでしょうか。今日の世界の主な問題のひとつは、沈黙が欠けていることです。現代社会は、文字通り機械の喧騒に毒されているだけでなく、特に、騒々しく空虚な言葉で溢れかえっています。誰が最も大きな声で話すか、誰が最も多くの発言をするか、誰が物語を最も些末な詳細まで語るかが競われています。偉大なデンマークの哲学者キルケゴールはこう書いています。「現在の世界は病んでいる! もし私が医者であり、アドバイスを求められたなら、こう答えるだろう。『黙れ!』」
真のバラ十字会員は、いくつかの美徳の中でも特に、会話の節度によって見分けることができます。彼らの口数は少ないのですが、その言葉には豊かな意味が込められています。そして、スーフィー(イスラムの神秘家)の、ある師のアドバイスを実践しています。「もし、あなたが話そうとしている言葉が沈黙よりも美しくないなら、それを口にしないようにしなさい」。
新しい知識や能力を習得したいとき、私たちは他人に対してだけでなく、自分自身に対しても沈黙を守らなければなりません。私たちはこのことを十分に理解する必要があります。私たちの真の自己が外面的な自己と交信するのは沈黙においてだけだからです。私たちが真の自己の貴い助言を聞き、直観的なひらめきを受け取るためには、心の内の卑俗な声を沈黙させる方法を知らなければなりません。聖書にはこのことを象徴的に教えている部分があります。預言者エリヤが砂漠に避難し、主からのメッセージを待っている様子が『列王記上』(19:11-13)に示されています。
主は言われた。「出て来て、この山中で主の前に立ちなさい」。主が通り過ぎて行かれると、主の前で非常に激しい風が山を裂き、岩を砕いた。しかしその風の中に主はおられなかった。風の後に地震があった。しかし、その地震の中に主はおられなかった。地震の後に火があった。しかし、その火の中に主はおられなかった。火の後に、かすかにささやく(主の)声があった。
ペルシャの神秘家アッタールは、『鳥の言葉』という有名な物語で、同じ真実を別の方法で表現しています。「彼らは歩いている間話をしていたが、到着すると完全に話を止めた。もはや案内人も旅人もおらず、道さえも存在しなくなっていた」。
フランスの偉大な神秘家、ルイ=クロード・ド・サン=マルタンは、弟子たちから「知られざる沈黙の人」と呼ばれるにふさわしい人物でした。当時の誰よりも、彼は沈黙の美徳を賞賛していました。「偉大な真実は沈黙を通してのみ教えられる」と彼は書いています。さらに彼は、残念ながら現代にも当てはまる次の言葉を残しています。「言葉の多さ以上に、私たちの弱さを証明するものがあるだろうか」。習慣や性癖のゆえに沈黙を守る方法を知らない人にとって、沈黙が真の試練となることは事実です。言い伝えによれば、古代ギリシャやローマには、沈黙を讃えることが特にその役割である女神がいました。このことは、私たちの祖先がどれほど沈黙という美徳を敬っていたかを示しています。
沈黙を修練することには、善のための偉大な影響力があります。なぜなら、沈黙によって私たちは、無駄な言葉によって費やされてしまう生命力の流入を自身の内部に保つことができるからです。話す前に、言おうとしていることに価値があるかどうか、その言葉が何か良いことをもたらす可能性があるかどうか、そして特に、いかなる害も及ぼすことがないかどうかを見極めるようにしてください。無駄な言葉を抑える努力をすると、あなたの内面に、ある反応、つまり誘惑との闘いが起こることに気づきます。そしてそれに勝利するたびに、新たな力が湧いてきます。
だからこそ、スーフィーの助言に従うのは賢明なことです。もし、あなたが話そうとしている言葉が沈黙よりも美しくないなら、それを口にしないようにしなさい。この言葉についてよく考え、よく瞑想してみてください。この言葉が、あなたが、心の崇高さの発見という階段をもう一段上る助けとなることを願っています。
※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。
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