※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
当会は思想の自由を尊重しつつ、神秘哲学、人生哲学、形而上学、心の深奥の探究にご興味をお持ちの方々に、長い年月を経て検証され伝えられてきた知識を、通信講座、雑誌、講演などの形で、世界87ヵ国でご提供しています。
スピリチュアルとは、スピリチュアリティとは、その本当の意味を簡単に解説
英語に詳しい方の多くが承知していることだと思いますが、日本で使われている「スピリチュアル」というカタカナ語の意味は、
英語の「spiritual」(スピリチュアル:形容詞)、「spirituality」(スピリチュアリティ:名詞)という語が持つ典型的な意味とは大きく異なってしまいました。
そして、このことを残念に思っている方は少なくないのではないかと思います。
では、本来の英語での意味は、どのようなものでしょうか。
辞書には、「spiritual」の意味がこう書かれています。
「体や物ではなく、人の心に関連する」(形容詞)
(connected with the human spirit, rather than the body or physical things)
(Oxford Advanced Learner’s Dictionary 第8版、翻訳は筆者)
ですから、「スピリチュアリティ」(spirituality)とは、ごく手短に言えば、「体や物ではなく、人の心に関連すること」です。
しかしこれだけでは、どうもピンとこないという方も、多いのではないでしょうか。
それは、「人の心」とひとことで言っても、そこに、さまざまなレベル(階層)の多様な働きが含まれているからです。
「考える」のではなく「感じる」
上の図をご覧ください。この図はバラ十字会に伝えられている、人の心の階層構造を表す図です。
人の心は最も表層(下の部分)の客観的意識で、外界を「知覚する」(知る)という働きを行っています。
そして次の階層の主観的意識では「思考、想像、決断する」(考える)という働きを行っています。
そして、この図で示されているように、主観的意識と下意識(subconscious:無意識)の重なっている部分、
つまりこの2つの意識が共同で働いている部分で「感情、直観を生じさせる」(感じる)という働きを行っています。
これから、スピリチュアル/スピリチュアリティという言葉の意味が、特にはっきりと表れている4つの実例をご紹介していきます。
それを見ていくと分かるように、スピリチュアルという言葉には、主観的意識の深い部分(図の上方の部分)、すなわち「考える」のではなく「感じる」ことに関連するという含みがあります。
スピリチュアルな実践のひとつに瞑想があります。ただ「考える」のではなく、「感じ」なければ瞑想にはなりません。
ブルース・リーの「燃えよドラゴン」の名セリフ、「考えるな、感じろ」(Don’t think, feel.)を思い起こされる方もおられることでしょう。
(当会で学習されている方のための付記:図の主観的意識、客観的意識は、教本の「客観的意識の主観的な側面」、「客観的意識の客観的な側面」にあたります。)
4つの実際の例
NHKの語学番組「トラッド・ジャパン」の例
「spiritual」という単語は英語の日常会話で、ごく普通に使われます。以下はNHKの語学番組「トラッド・ジャパン」で採り上げられた会話です。
「伊勢神宮に行ったことがありますか。」(Have you ever been to Ise-Jingu?)
「ええ、とても厳粛な気持ちになりました。」(Yes, I have. I found it be very spiritual experience.)
伊勢神宮を訪れたときの気持ち(雰囲気)が英語では「spritual」と表現され、日本語では「厳粛な」と訳されていました。
日本人の私たちには「spiritual」が表現する雰囲気が、この例で良く理解できるのではないでしょうか。
英和辞典によれば、「spiritual」(スピリチュアル)という語は、「精神の」、「霊魂の」、「宗教上の」、「霊的な」などと日本語に訳されるようです。
しかし、どうも真意を尽くすことは難しいようです。
この例で「spiritual」(スピリチュアル)は、「人の心の深い部分が感じる、美しさ、厳かさ、素朴さ」を意味していると考えることができます。
知能指数(IQ)、感情指数(EQ)、スピリチュアル指数(SQ)
やや以前のことですが、米国の大企業のリーダーの人たちに心理学の調査が行われ、著作として発表されたことがあります。
その本によると、著しく業績を伸ばした人たちの特徴は、知能指数(IQ)が高いことではなく、むしろ感情指数(EQ)とスピリチュアル指数(SQ)が高いということでした。
知能指数についてはご存じのことと思いますが、この本の著者によれば、「感情指数」(Emotional Quotient)とは、
不快な状況でも感情を爆発させることなく上手にコントロールしたり、他の人の感情を敏感に察知したりする能力を表します。
そして「スピリチュアル指数」(Spiritual Quotient)は、スピリチュアリティを表す数値です。
この場合、スピリチュアリティとは、謙虚であり、強い使命感や責任感を持ち、人生そのものに深く感謝するという精神的な態度を意味しています。
WHOの定義によるスピリチュアルな人の特徴
クオリティ・オブ・ライフ(QOL:Quality of Life:生活の質)という言葉を、あなたもお聞きになったことがあることと思います。
それは、ターミナルケア(終末医療)などの分野で、望ましいあり方を検討するために用いられる尺度です。
1994~1997年にWHO(世界保健機関)は、クオリティ・オブ・ライフを調査するための100の質問(WHOQOL-100)を作成しました。
この質問は、身体的健康、心理学的健康、独立のレベル、社会的関係、環境、スピリチュアリティ(および宗教と個人的信念、Spirituality/Religion/Personal Beliefs)という6つの領域に分かれていて、スピリチュアリティの領域には次の4つの質問が含まれています。
1.あなたの個人的信念は、あなたの人生に意味を与えてくれますか。
2.あなたの生活は、どれぐらい有意義ですか。
3.あなたの個人的信念は、苦難に向き合う力をあなたにどれぐらい与えてくれますか。
4.あなたの個人的信念は、人生(生活)における苦難を理解するためにどの程度役に立ちますか。
(参考資料: WHOQOL: Measuring Quality of Life)
ですから、この例ではスピリチュアリティとは、
生活を有意義だと感じており、人生に意味を与えてくれる個人的信念や、人生に生じる苦難を理解し、それに向き合う力を与えてくれる個人的信念を持っていることを意味しています。
映画『ラスト・サムライ』の例、「スピリチュアルなものを感じる」
多少古くなりますが、映画「ラスト・サムライ」には、「spiritual」(スピリチュアル)という言葉の意味がとても良く表れているせりふが登場します。
(以下の記述では物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされていますのでご注意ください。)
トム・クルーズが扮する主人公のネイサン・オールグレン大尉は、語学が堪能で、アメリカ先住民の文化をよく知っていました。
ところが、北軍の士官として戦争の渦中に、先住民の女性や子供の虐殺に加わることになり、心の傷からウイスキーびたりの生活をつづけていました。
一方、日本は明治維新の数年後であり、政府は近代的な軍備の増強を進めていました。
南北戦争の英雄であったオールグレンは、大金で政府軍の訓練のために雇われることになります。
訓練が始まったばかりの頃に、国の近代化をさまたげる悪者として扱われていた士族一派の領袖である勝元(役者:渡辺謙)が鉄道を襲ったという知らせが入ります。
オールグレンは、にわか作りの軍隊ではまだ実戦は無理だと主張しますが、近代的な銃装備を過信する大臣大村に強いられ出陣し、
馬と鎧刀と弓だけの勝元軍にあっさりと破れ、オールグレンは捕虜になり、士族たちの住む村に連れ去られます。
そして、勝元の妹のたか(役者:小雪)に世話をされ、勝元の英語の話し相手となりながら、山あいの美しい村で、武士や他の村人たちの生き方を目撃します。
村人たちは誰もが、里山の自然に溶け込むように生き、規則正しい生活を送り、自分に厳しく、静かな笑顔をたたえながら、常に控えめであり、礼儀正しさを崩すことがありません。
畑を耕す者も、刀を鍛える者も、朝目覚めたときから、一心に自分の務めにはげみます。
アルコール中毒から立ち直り、徐々に周囲に心を開いたオールグレンは、武士たちと木刀での稽古を積みながら、それが単なる戦いの技術ではなく、心を磨き鍛える道であることを実地に学びます。
オールグレンは、メモにこう書き記します。(映画中ナレーション)
「1877年春。17歳の時に農場を出て以来、こんなに長くひとところに留まったことはない。この村には私に理解できない多くのことがある。」
「私は、教会に通うような人間であったことは一度もない。そして、戦場で見たことによって、神の意志などというものを疑うようになった。」
「だが、ここではスピリチュアルなものを感じる。」(But there is indeed something spiritual in this place.)
「このことが、はっきりと理解できる日は永遠にこないだろうが、しかしその力を感じる。」
「はっきりと分かっていることがある。この地でこそ、数年ぶりに初めて、私はぐっすりと眠れた。」
日本における「スピリチュアル」の意味
では、どうして日本ではカタカナ語の「スピリチュアル」には、かなり異なる意味が与えられてしまっているのでしょうか。
ひとつには、「spiritualism」(スピリチュアリズム)という言葉との混同が考えられます。
これは19世紀中頃にフランス人のアラン・カルデック(本名イポリット・レオン・ドゥニザール・リヴァイユ、1804~1869年)が広めた降霊術のことを指します。
「spiritual」という英語の典型的な美しい意味には、この降霊術のことは含まれていません。
そして、もうひとつ、「psychic」(サイキック)という言葉との混同があります。
この語の語源はギリシャ語の「サイキ」であり、元々は魂のことを意味していました。
辞書によれば、「psychic」には、「精神の」、「心的な」、「心霊の」などの訳語があてられるので、「spiritual」(スピリチュアル)と混同しやすい語です。
この「psychic」(サイキック)という言葉が典型的に使われるのは、現在では、いわゆる超心理学の分野です。
つまり、透視、予知、テレパシーなどの超常能力に関連する事柄を指しています。
このような能力が人間にほんとうにあるかどうかを、ここで議論しようとは思いませんが、
「spiritual」(スピリチュアル)という英語がその意味に含んでいる「人の心の深い部分が感じる、美しさ、厳かさ、素朴さ」というニュアンスと「psychic」(サイキック)という言葉の意味は、
かなり離れたものであることが、ご理解いただけることと思います。
まとめ
以上、辞書の定義と4つの実例をもとに、「スピリチュアル」、「スピリチュアリティ」の意味について、ご紹介してきました。
それは「人の心の深い部分が感じる、美しさ、厳かさ、素朴さ」を表していました。
また、「謙虚であり、強い使命感や責任感を持ち、人生そのものに深く感謝する」という精神的な態度や、
「生活を有意義だと感じており、人生に意味を与えてくれる個人的信念や、人生に生じる苦難を理解しそれをに向き合う力を与えてくれる個人的信念を持っている」ということを意味していました。
バラ十字会の哲学ではスピリチュアリティを感じることを、ある種の同調だと考えています。
つまり、人の心の奥には本来「美しく、誠実で、素朴で、善良である」という性質があり、
そのおかげで他の人たちの心にある「美しさ、誠実さ、善良さ」、自然や人生にある「美しさ、調和、単純さ、厳粛さ」というスピリチュアルな性質を感じ取ることができると考えています。
ちなみに、日本語の「真・善・美」という言葉は、この意味のスピリチュアルな性質、つまり、人間の心の奥にも、自然や人生にも存在しているポジティブな本質をよく表しています。
そしてバラ十字会の考え方では、スピリチュアリティを高めるということは、心の奥の本来の性質を、あなた自身の考えや発言や行動に表せるようになるということを意味しています。
ご紹介になりますが、当会の通信講座は、スピリチュアリティを高めることを主な目標にしています。
ご興味をお持ち方は、このページの下部にある「詳しくはこちら」と書かれたオレンジ色のボタンを押して、リンク先に書かれている詳細をお読みください。
執筆者プロフィール
本庄 敦
1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学(mysticism:神秘哲学)の普及に尽力している。
詳しいプロフィールはこちら:https://www.amorc.jp/profile/
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