投稿日: 2022/12/02
最終更新日: 2022/12/26

こんにちは、バラ十字会の本庄です。

バラ十字会日本本部代表、本庄のポートレイト

皆さんもご存じのことと思いますが、先月、エジプトのシャルム・エル・シェイクという都市で、気候変動の対策について話し合う国連の会議、COP27が開かれました。正式名は「第27回気候変動枠組条約締約国会議」と少し長いですね。

そのロゴを見て、びっくりしました。

著作権の関係で、ここに直接表示することはできないので、下記URLのWikipediaのページをご覧ください。

https://en.wikipedia.org/wiki/2022_United_Nations_Climate_Change_Conference

このロゴの中央には、地平線を表す緑色の線が引かれていて、その上方には、太陽の光を表す黄金色の線が放射状に描かれています。そして下方には、やはり太陽の光を表している線が描かれているのですが、こちらは青色をしていて、その一本一本の先端が、人の手の形になっています。

太陽の光線の先が手になっているこの図案は、古代エジプトに由来する古いものです。

議長国のエジプトが、文明発祥の国のひとつである自国をアピールしたのだと思いますが、それだけでないように私には思われます。

そしてそれが、今回ご紹介したいことです。

この写真は、ドイツのハノーバーにあるアウグストケストナー美術館(旧ケストナー美術館)が所蔵している、太陽神アテンとスフィンクスが描かれたレリーフです。このレリーフが作られたのは、古代エジプトの新王国時代です。

アテンとスフィンクスのレリーフ
アテンとスフィンクスのレリーフ、「Kestner Museum of Hanover, Germany」所蔵、Hans Ollermann, CC BY 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by/2.0, via Wikimedia Commons

太陽神から伸びて、スフィンクスに降り注いでいる光線の先が、COP27のロゴに見られるのと同じように人の手の形をしています。

人類は、世界と人生にまつわる謎を、三千年以上にわたって研究してきました。新王国時代の第18王朝期の初期、紀元前1450年頃にはすでに、このような謎を探究する人たちの集団である「神秘学派」(mystery school)が整えられ活動をしていました。

参考記事:『人生の目的、人生とは何かを探究する

その約100年後、エジプトのこの神秘学派にアメンホテップ4世という天才が現れます。当時のエジプトの主流であった多神教に代えて一神教を唱えた改革者として、広く知られています。

当時のエジプトでは、数多くの男神と女神が崇拝されていました。多神教の神官たちは、神殿に生け贄となる動物などを奉納すると、幸運や、現世や来世での幸福が約束されると人々に語り、莫大な富を集め、それを背景に絶対的な権力を振るっていました。

そして、これらの神々の頂点に立つ神が「アモン・ラー」(Amon-Ra)でした。アモンは元々テーベ(現在のルクソール)地方の豊穣神だったのですが、その後太陽神「ラー」と一体となり、アモン・ラーという名前で、太陽そのものが最高神とされていました。

アメンホテップ4世は、アトン(Aton)という太陽神を信仰する一神教を唱えました。「アメンホテップ」は「アモンを崇拝する」を意味するので、彼は即位後に自分の名前を「アトンの弟子」を意味する「アクナトン」に変えています。

しかし、彼以前から太陽はそもそも最高神だったので、何が変わったのかと感じる方も多いのではないかと思います。

歴史家の一部は、このことを権力闘争という見方から説明しています。当時、ファラオを中心とする王族と、エジプト全土に広がっていた神官たちの組織は権力を争っていました。ファラオ・アクナトンは、アモン・ラーをアトンにすげ替えることで、従来の信仰から力を奪い、アトン神を信仰する新しい宗教の中心にファラオを据え、王家に権力を取り戻そうとしたという解釈です。

しかし、おそらくそれは真実の一方の面であり、神秘学(mysticism:神秘哲学)からは、別の見方をすることができます。

当時の多くの人の精神の発達段階は、呪術・神話的と呼ばれる段階にありました。現代人の目から見ると、生けにえ、おまじないなどは、とても非科学的で愚かな行いに思えますが、当時の人にとってはそれが、将来への不安を静め、心の安らぎを得る方法でした。また、それらを基盤にした当時のアモン神中心の宗教によって、人々の道徳心も維持されていました。

アクナトンもそう考えたためか、アトン神以外の神々を信仰することを禁止していません。

しかし、人々の内面がこの段階から先に進むためには、新しい哲学的な枠組みが必要でした。当時の神秘学派の最先端の考え方によれば、宇宙と自然界と人間の秩序と調和は、「あらゆるところに存在する知性」(Universal Intelligence:普遍的知性)によって保たれています。

この知性がアトンです。アモンが人間に似た姿をした人格神なのに対して、アトンは抽象的な知性であり、人間とは似ても似つかないものでした。人間には直接は知ることができないとさえ考えられていたのです。そして、太陽はアトンそのものではなく、アトンの象徴であると、アクナトンは考えていました。

アトンと太陽の象徴的な関係は次のように説明されます。太陽の光が、地上の生きものの全てに分け隔てなく、エネルギーと暖かさを与えるように、アトンは、すべての生きものの内部に「ある崇高さ」を与えています。そして、人間の心の内部にある「この崇高さ」を表す言葉としては、英語では「スピリチュアリティ」(spirituality)がよく当てはまり、日本語では「真善美」という言葉がよく当てはまります。

科学者が新しい発見をできるのも、芸術家が斬新な着想を得られるのも、そして、すべての人がものごとの善悪を、自分自身で感じ取れるのも、心の奥のこの「崇高さ」が働いてくれているおかげだと、考えることができます。

これは極めて進んだ考え方で、現代の神秘学も、ほぼ同様の考えが基礎になっています。

ちなみにアクナトンは、エジプトの首都をテーベからアマルナ(現在のテル・エル・アマルナ)に遷(うつ)し、この地に芸術家を集め、その活動を後援しました。そのためこの時期には芸術がとても栄えました。写実性が特徴のこの芸術は、アマルナ芸術と呼ばれています。

アマルナの神殿の遺跡
アマルナの神殿の遺跡

この写真は、カリフォルニア州サンノゼ市にある、当会の古代エジプト博物館が所蔵する石灰岩のレリーフです。

アマルナ時代の写実壁画、バラ十字会古代エジプト博物館(カリフォルニア州サンノゼ市)所蔵
アマルナ時代の写実壁画、バラ十字会古代エジプト博物館(カリフォルニア州サンノゼ市)所蔵

左側には、太陽光線の手を見ることができ、右側には、頭を下げて草を食べているガゼルが見られます。

ガゼルの首は優美な曲線を描いており、自然界とその美しさに対する繊細な感受性がよく表れています。アマルナ芸術の代表的な遺物です。

こちらは、カイロのエジプト考古学博物館にある、「アクエンアテンと彼の家族がアテンを信仰している姿」というレリーフです。

アクエンアテンと彼の家族がアテンを信仰している姿、Egyptian Museum, Public domain, via Wikimedia Commons
『アクエンアテンと彼の家族がアテンを信仰している姿』、Egyptian Museum, Public domain, via Wikimedia Commons

やはり太陽光線の手が見られます。また、描かれている人体とハスの花が、写実的な美しい曲線を描いています。

話をCOP27に戻しましょう。この国際会議のロゴに描かれた太陽光線には、地球温暖化の防止のために、再生可能エネルギーを積極的に活用しようという主張が、もちろん込められているのだと思います。

しかし、光線の先が手になっていることには、より深い思いが表れているように、私には思われます。

二酸化炭素やメタンガスの排出の削減や、生態系の保全を人類全体で進めなければならないことは、誰の目にも明らかであるにもかかわらず、先進国と発展途上国の立場には、いまだに大きな隔たりがあります。

この隔たりを乗り越えるためには、どのようにしたら良いのでしょうか。自身の心の深くの声に耳を傾け、太陽光線の手が表している、私たちの心に与えられている「崇高さ」が働くようにすることが重要なのではないでしょうか。

この「崇高さ」が多くの人の心の中で十分に働いたとき、先進国で暮らす私たちのような一部の人たちが手にしている既得権よりも、将来の世代の人たちすべての幸せや、地球全体に対する人類の責務が優先されるということが、世界の常識になってくれるように思います。

最後は、やや話しが大きくなりました。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

またお付き合いください。

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バラ十字古代エジプト博物館(カリフォルニア州サンノゼ)の入り口
神秘学の重要な源流が古代エジプトにあると考え、当会はその研究に力を注いでいます。カリフォルニア州サンノゼにある研究拠点であるバラ十字古代エジプト博物館(上記写真)は一般公開されており(会員は無料)、毎年10万人以上の参観者がある人気の観光スポットです。また、子供向けの考古学のイベントを開催して、地元の教育に貢献しています。

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