瀬と高瀬
こんにちは、バラ十字会の本庄です。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。
さて、高瀬川と言えば京都が有名ですが、日本の各地には高瀬川と呼ばれている川が、他にいくつもあります。
辞書で調べてみたところ「瀬」と「高瀬」はいずれも、歩いて渡れるほど浅い川を意味し、「立つ瀬がない」という慣用句も、ここから来ています。
高瀬舟と高瀬川
高瀬を航行するために作られた舟が高瀬舟です。本文中の写真に見られるように、深く沈まないように舟幅が広く、また船首に向かって船底がそり上がるように設計されています。
高瀬舟は、古くは平安時代から用いられていたとのことです。
京都には中心部と伏見の間の物流のために江戸時代に作られた高瀬川が、鴨川を沿うように流れています。
高瀬川は当時、京都の罪人を島流しにするために大阪に運ぶためにも使われました。罪人は大阪から、壱岐、五島列島、天草などに流されたのだそうです。
今回は、おやじバンドでの演奏とお祭りが三度の飯よりも好きだという山形県にお住いの私の友人から、森鴎外の短編小説『高瀬舟』についての寄稿がありましたので、皆さんにお届けします。


記事:「森鷗外『高瀬舟』の思い出」

山下 勝悦
公民館の一室で
私が小学五年生のときのことです。
そのころ、私はソロバン塾に通っていました。場所は塾のオーナーが借り受けていた隣り町の公民館の一室です。
当然のことですが公民館の使用は町内の方たちの都合が優先となっています。
ときたまソロバン塾と町内会が使用する時間帯が重なる場合がありました。その時は会合が終了するまで私らが外で待つということになっていました。
その時間帯が重なったある日のことです。
町内会の大人たちは何をしているんだろう、好奇心に駆られた私は公民館の裏口からこっそりと忍び込んだのです。
そっと戸を開けて中を覗いてみました。
すると館内ではスライド上映が行われていました。
小学生の私には良く理解できませんでしたが、その時の場面は快復の見込みのない病に伏せっている弟が、これ以上は兄に迷惑を掛けるに忍びないと、自分の喉をカミソリで切り裂こうとしている場面でした。
もうお分かりの方もおられるのではないでしょうか、森鷗外の『高瀬舟』でした(そのときは知りませんでした)。
高瀬舟とは京都から罪人を島流しにする際、その護送に使う船のこととか。

「高瀬舟」の内容
さて、高瀬舟の内容ですが。
病に伏せっている弟が兄の喜助にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないと剃刀(かみそり)を喉に当て自死を図るのです。止めようとした兄は弟の死なせてくれと懇願する目に負けてしまい、結果的に自死の手助けをやってしまうのです。その後いわゆる自殺幇助の罪に問われましたが、お上の慈悲もあり、島送りとなるのです。物語のメインは喜助と彼を送る役目で同船した同心の庄兵衛、この二人の会話となっています。
さて、公民館に潜り込んだ時間に戻りましょう。私はとんでもない場所に入り込んでしまったのではないだろうか? そう思いました。それでも、好奇心には勝てずにその場に居座り続けてしまいました。
その時、まだ小学生だった私には内容が良く理解できませんでした。
この物語のタイトルが森鷗外の『高瀬舟』と知ったのは、それから数年後、確か高校一年か二年の頃だったと思えます。
今度は文字の情報、つまり小説での出会いでした。
バラバラだった公民館での記憶が次々と一本に繋がってきました。その頃の私には理解できなかったことも少しは解るようになっていました。
作品のテーマ
作者の言わんとするテーマは「安楽死はありか」、「足るを知るとは」、「本当の幸せとは」なのだろうと自分なりに解釈するに至りました。
当時も「安楽死」と云う言葉はありましたが、その頃の私には深く考えようとする気は起こりませんでした。
「足るを知る」に至っては、あの頃は東京オリンピックを間近にして、高度成長期に突入せんとしているときでした。私の周りでは、この言葉はあまり聞こえてくることはありませんでした。
ある意味、平和だった…?
もう数十年も前のことです。つい最近まで思い出すことも考えることもなかったのですが何かのキッカケで思い出しました。
ご時世でしょうか?それとも歳のせい? ん!?後者だろ〜って……はい、そうかも(笑)
さて、気を取り直して話を元に戻しましょう。
島送りになるというのに、晴れやかな表情の喜助、不思議に思った同心の庄兵衛が話しかけるのです。すると喜助は「仕事をせずとも食べさせてもらえる、ありがたいことです。島送りとなってどのような仕事に就くことになるかはわかりませんが、今までの苦労とは比べれば苦になりません。二百文という今までに手にしたことの無いお金もいただきました。ありがとうございます」というのです。かたや同心の庄兵衛は倹約の意識の薄い妻の行動にやるせない生活を送っているのです。
人間、生きる意味って何なんでしょうね。本当の幸せって何なんでしょうね。永遠に答えの出ない問いですよね……。

安楽死はあり?
後書きの様な……モノです。
安楽死はありでしょうか?
快復が見込めない病などに侵され、極限の状態に追い込まれたときに、人は何をどの様に考えるのでしょうか。
実は、私自身も極限の状態の景色がボンヤリと見えそうな所まで行った経験があります。
その時はなぜか、お迎えの使者が途中でUターンして帰ってくれたようです(笑)。
いや、これは笑い事ではありませんよね……
皆さん、御自身の健康管理には留意してください。
足るを知る
「足るを知る」に関してです。
自分で事業を立ち上げて成功を収め、それなりの稼ぎもありながら実に質素な生活をしていた友人がいました。
彼曰く「着るモノは暑さ寒さに対応出来て造りのしっかりしたモノであればメーカーもブランドにもこだわらないよ」、「車は小さい方が面白いよ、山下〜お前さんなら分かるだろ?」「酒はホドホドに安いモノの方が、飲み応えがあって美味いよ、ウィスキーはサントリーの◯リ◯が美味いよ〜!!」。いつ会ってもこんな調子でした。
とは言っても、会社の経営と社員の福利厚生、その他、必要と思われることには出費を惜しまないという太っ腹でした。
友は令和元年に病で亡くなりましたが晩年まで、足るを知るの標本みたいな人物でした。
私ですか? 私の場合は大丈夫、我が家の家計が足るを教えてくれています……(笑)。

再び本庄です。
作品『高瀬舟』は青空文庫の下記URLにあるリンクで読むことができます。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/card45245.html
下記はこのブログの前回の記事と、山下さんの前回の寄稿です。
よろしければこちらもどうぞ。
今回も最後までお読みくださり、ありがとうございました。 また、お付き合いください。
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執筆者プロフィール
山下 勝悦
1947年11月22日生まれ。山形県村山市在住。バラ十字会日本本部AMORC理事。 おやじバンドでの演奏と地元のお祭りをこよなく愛し、日常生活の視点から、肩ひじの張らない神秘学(mysticism:神秘哲学)の紹介を行っている。
本庄 敦
1960年6月17日生まれ。バラ十字会AMORC日本本部代表。東京大学教養学部卒。
スピリチュアリティに関する科学的な情報の発信と神秘学の普及に尽力している。
詳しいプロフィールはこちら↓
https://www.amorc.jp/profile/