投稿日: 2024/09/06
最終更新日: 2024/09/17

以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

区切り

古代エジプトの目
The Eye in Ancient Egypt

ポール・グドール
By Paul Goodall

古代エジプトの目
古代エジプトの目

古代エジプトの人々が目を重要であると考えたのは、目が知覚の主要な器官だからです。そのため、目には意識、知性、知識、理解といった抽象的な性質が表れると考えられていました。目には光と闇を識別する能力があることから、宗教的な象徴と見なされるようになりました。古代エジプトの人たちはまた、目から影響力が発すると信じており、やがて「邪悪な目」(evil eye)という概念が生じました。邪悪な目の影響に対抗するために、古代エジプトの人たちは女神ウアジェト(wedjat)を表す目の形をしたお守りを身につけました。これは、一般にはホルスの目として知られています。

この象徴の起源は定かではありませんが、ウアジェトの目はエジプトの図像に広く用いられており、考古学の発掘調査で発見されたお守りの中で最も数が多いものです。ハヤブサの姿をしたホルス神の目が高度に様式化されて描かれています。詳しく調べると、このデザインは人間とハヤブサの姿を融合させたものであることがわかります。人間の目の下に、自然界で鳥の目の下に見られる特徴である顎線が描かれています。

ホルスはオシリスとイシスの息子であり、エジプトの神々の中でも主要な神です。エジプト神話によると、ホルスは叔父のセトに殺された父の仇を討つためにセトと戦いました。戦いの最中にセトは、ホルスの左目をちぎり取って引き裂きました。ばらばらにされたホルスの目を知恵と書記の神であるトートが発見し、魔法を使って元の形に戻しました。しかし、この神話にはバリエーションがあり、ホルスの目を治したのは愛の女神ハトホルだという説もあります。

この神話から、算術で分数を表す方法が生じ、ウアジェトの目の各部分に特定の分数の値が割り当てられました。象形文字で書かれた会計の文書では、ウアジェトの目の各部分が、分数を表すために用いられました。これらの部分の合計は64分の63(訳注)になり完全には1になりませんが、エジプトの人々は残りの64分の1をトートの魔力が補っていると考えていました。

訳注:ホルスの目の各部分は1/2、1/4、1/8、1/16、1/32、1/64を表すとされ、この合計が63/64になる。

一般にホルスの目として知られている、女神ウアジェトを表す目の形をした装身具のお守り
一般にホルスの目として知られている、女神ウアジェトを表す目の形をした装身具のお守り

ハヤブサの神ホルスの両方の目は二元性を表現しています。右目は太陽を表し、左目は月を表すとされていました。これは、葬儀の護符として作られた両方の目に使われた材料によって物質的に表されています。太陽の目は赤碧玉(石英の一種)から作られ、月の目は青金石(ラピスラズリ)から作られました。この2つの目は一対になっていることが多く、棺の左側(東側)に描かれているのが一般的でした。ミイラを左側に向けて寝かせると、ホルスの目を使ってミイラは外を見ることができるのだとされていました。実際に、死者は冥界に向かう西ではなく、生きている者の方角である東に向けられていました。これは、エジプトの人々が死というものに完全に心をとらわれていたわけではないことを示しています(脚注1)。このような目の使い方は船にも採用され、ホルスの目が前方を見通すことで船乗りを保護することができるとされました。この慣習は今日まで受け継がれています。

ウアジェトの目を用いる主な動機は保護を願ってのことであり、この象徴的意味を表現しているものが数多く存在します。お守りや宝飾品がこの象徴を取り入れた主な工芸品でしたが、防腐処理の際に死者から内臓を取り出す切開部の上にも、ウアジェトの目が刻まれた板が置かれました。装飾が施された胸飾りにも、守護のためにこの神聖な目がデザインされました。また、翼の生えた目も見られ、神々や王の頭上の装飾に用いられました。

ハヤブサの頭を持つホルス神の形をした古代エジプトの象嵌細工
ハヤブサの頭を持つホルス神の形をした古代エジプトの象嵌細工

神聖な目には、神話に基づくもうひとつの役割がありました。それは、ホルスが取り戻した目を父オシリスに贈ったことに由来し、捧げものの象徴としての役割でした。捧げものとしてのこの象徴の使用例は広く見られますが、古代エジプトの歴史の後期の芸術で特に盛んでした。

もちろん、目に象徴的な意味があるのはエジプトに限ったことではありません。古代世界のあらゆる場所で、目は恐れられ、崇拝され、今日でもなお秘伝的な強力な象徴です。目の象徴はアメリカ合衆国の紙幣にも描かれています。目の変わることのない魅力は、象徴としてのその多様な意味にだけあるのではなく、古代エジプトの芸術の素晴らしさを証言する美しいデザインとしても生き続けており、将来も使われ続けるに違いありません。

脚注
Bob Brier, Ancient Egyptian Magic, Quill New York, 1981, p.121.

参考文献
Richard Wilkinson, Reading Egyptian Art, Thames & Hudson, 1992.
Maria Carmela Betro, Hieroglyphics, Abbeville Press, 1996.
Bob Brier, Ancient Egyptian Magic, Quill New York, 1981.
Anthony Stevens, Ariadne’s Clue: A Guide to the Symbols of Humankind, Allen Lane, 1998.
Barbara Watterson, Gods of Ancient Egypt, Sutton, 1996.

ハヤブサの頭を持つホルス神を描いた古代エジプトの壁画。エジプトのテーベ(現在のルクソール)にあるラムセス王朝期のプタハ=ソーカル(Ptah-Sokar)の祭司アメンエムオネト(Amenemonet)の墓の内壁
ハヤブサの頭を持つホルス神を描いた古代エジプトの壁画。エジプトのテーベ(現在のルクソール)にあるラムセス王朝期のプタハ=ソーカル(Ptah-Sokar)の祭司アメンエムオネト(Amenemonet)の墓の内壁

※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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