最終更新日: 2026/07/10

以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

区切り

過去の価値を継承するということ
The Value of the Past

クラウディオ・マッツッコ(バラ十字会AMORC世界総本部代表)
By Claudio Mazzucco, Imperator of AMORC

中世の城

「過去に戻ること、それが真の進歩となる」ジュゼッペ・ヴェルディ(作曲家)

世界中の文化に多大な影響を与えたイタリア音楽界の偉大な巨匠、ヴェルディが残したこの言葉には、実に魅力的な響きがあります。精神面での進歩という私たちが歩んでいる道は、そのルーツが歴史の彼方に失われてしまったかのように思われます。しかし、この道において「過去に戻る」という発想が、どのようにして私たちの進歩を助けてくれるのかを考えてみることにしましょう。過去の時代には、人々は互いに深い敬意を払い、規律が保たれ、公共の利益への配慮が尊重され、市民としての義務が重んじられ、うわべだけの軽薄さが全体的に少なかったと、多くの人が語っています。それに対して現代では、社会の基本的な価値観が劣化しつつあり、人々はかつてないほどのこの衰退に引きずり込まれ、若者の多くが本来なら避けられるはずの浅薄で一時的なものに心を奪われています。

人間の心には過去を偏った形で高く評価する傾向があり、過去の良い点を特に思い起こす一方で、現在の良い点をしばしば見落としてしまいます。神経科学者たちは、脳の機能についてさらに詳しく知るために、この現象を研究しています。たとえば、昔は歯の痛みにどれほど苦しんでいたか、あるいは、ペニシリンが登場する以前の感染症の脅威のことを考えれば、当時の生活には、現代の生活よりもはるかに悪くなる可能性があったことが分かります。そしてわずか80年前にヨーロッパは、数千万の命が奪われた戦争のさなかにあったことも忘れてはなりません。

過去を良いものだと評価するこうした傾向から、入門儀式の伝統を持つ団体のことを、今では意味を失った古代の慣習を保持している宗教のようだと考え、そうした団体に参加することは、現代に追いつけず過去を維持しようとする必死の試みだと考える人もいることでしょう。だからこそ、私たちはバラ十字会の立場を明確にしておく必要があります。確かに、バラ十字会員として私たちは馬車の時代に戻りたいと思ってはいません。しかし、過去に価値あるものがあるなら、それは維持していく必要があります。ですから、過去には魅力的だったけれども今日では価値を失ったものではなく、現在においても「真の進歩」だと見なすことができる、過去に由来するものを絶えず再評価しなくてはなりません。

「価値」という言葉は、過去から継承すべきものと、手放すべきものを見極めるための鍵となります。私たちバラ十字会にとって、人間の道徳意識と精神性を高めるすべてのものには価値があります。かつて過去のバラ十字会員たちが教会の入口に宣言書を置いたような方法を、私たちはもはや用いません。なぜなら、私たちの考え方を自由に広めることには価値がありますが、現代的なコミュニケーション方法を用いることができるからです。しかし、さまざまなコミュニケーション手段がますます技術的かつ効率的になる一方、ソーシャルネットワークを通じてだけでなく、人と人が実際に顔を合わせることが不可欠であると私たちは今も考えています。

人間の性質の一部は、時代とともに大きく変化してきました。私たちという存在は、環境との関係、他者との関係、自分自身との関係、そして各人が持つ〈絶対なるもの〉についての概念(神や創造主の概念)との関係によって形づくられます。これらすべての関係が、私たちを私たちたらしめ、「進歩」と呼ばれるプロセスに寄与しています。このことが理由で、私たちバラ十字会でこれから行われる儀式は、これまで行われてきた儀式と同じままです。このことは、個人の聖所(訳注)で一人で行う儀式にも、他の会員とともに下部組織(訳注)で行う儀式にも当てはまります。私たちは、遠い過去から受け継がれてきた言葉やジェスチャーや象徴を用いて、それらを活気ある状態で変えることなく継承することに努めています。

(訳注:個人の聖所(home Sanctum):バラ十字会員が個人として整えることを推奨されている学習と瞑想のための場所。)

(訳注:下部組織(Affiliated Body):友愛組織としてのバラ十字会には、自宅学習のカリキュラムを補足する役割を果たす下部組織が各地にあり、定期的に会合が行われ、儀式や講演や神秘学の実習などを行っており、他の会員と交流することができる。)

アンティークのコンパスと宝箱と地図

ある観点から見れば、バラ十字会は騎士道の伝統だと見なすことができます。騎士団の伝統はキリスト教世界とイスラム世界の両方の遠い過去に源があり、「名誉」と「正義」という高い理想を特徴としています。すべての人にとってその尊厳を尊重することが、努力に値する価値であるとされます。騎士の象徴である剣は、私たちが切望する正義の象徴です。馬は、野心を持つ騎士をその欲望が満たされる場所であればどこにでも連れて行くエゴの象徴であり、手なずけて主人の意志に従わせなければなりません。

真のバラ十字会員は、何よりもまず「バラ十字の騎士」です。現代社会では、あらゆる誓約書は公証人が署名しなければ何の価値もありませんが、バラ十字の騎士にとっては、バラ十字の象徴の前での自らの言葉こそが、自らを縛る誓約になります。騎士道の価値観は、今なお意義があると同時に必要とされており、バラ十字会員として私たちはそれを大切にしています。

たとえば礼儀正しさ、多様性の尊重、弱者の保護、正義と名誉と言葉の重みを重視すること、神聖な象徴に応答できる心を持つこと、異なる信仰を尊重すること、友愛の精神を共有すること。これらすべては遠い過去に由来する価値観ですが、今日もそれを実践することが人類全体にとって真の進歩を表します。繰り返しになりますが、「変化」とは必ずしも何か新しいものを創造することではありません。ヴェルディが私たちに思い出させてくれるように、過去に新たな命を吹き込むこともまた進歩なのです。

※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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