以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。
※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

クリスチャン・レビッセ著
by Christian Rebisse

『クリスチャン・ローゼンクロイツの化学の結婚』は第三のバラ十字宣言書であると考えられているが、1616年に出版された。これは数多くの錬金術論文の出版者であったストラスブルグのラザラス・ゼッツナ―(Lazarus Zetzner)によって出版された。この著作は初めの二つの宣言書とはかなり異なっている。まず第一に、これは同じように匿名で出版されたが、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエが著者であることが知られている。更に、これは錬金術的小説および自叙伝の形で出された点において、これまでのものとは形も異なっている。
16世紀の錬金術 (The Alchemy of the 16th Century)
この時期には、科学は急速に発達していた。しかし、その当時の数多くの本が明らかにしているように、そのような科学の進化は錬金術の活力を堕落させてはいなかった。むしろ、研究者たちの思想を豊かにすることで貢献し、これに触発されたフランク・グレイナー(Frank Greiner)にこう言わせた。「近代世界の発明は、本質的には機械化の成功から起きたものではなく、黄金を作り出したりする錬金術師の沸騰している蒸留器の中にも見出されたのであった。錬金術は、17世紀にその展望を広げた。錬金術は、知識を統一していると主張していて、医学的な適用方法を含み、より大きな精神的な側面を開発していた。それはまた、「アダムの堕落」だけでなく「自然」の堕落をもたらし、悲劇的な宇宙起源論つまり<天地創造>の歴史を深く熟考することをも探求した。このようにして錬金術師は、人間の医者であって、人間を精神的な状態に生まれ変わらせるように再生させるのを助けるだけでなく、錬金術師は「自然の医者」でもあったのだ。聖パウロはこのことについて、「<天地創造>は追放されて受難しており、人間による解放を待っているのである」と指摘した。パラルケスの弟子ゲルハルト・ドルン(Gerhard Dorn)は、この精神的発展の典型的な人物であった。こういった数々の錬金術論文が出版された状況の中で、『クリスチャン・ローゼンクロイツの化学の結婚』が出てきたのであった。
ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエ (Johann Valentin Andreae)
この宣言書の著者、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエ(1586-1654)は、神学者たちを多く輩出した著名な家系の出であった。彼の祖父ヤコブ・アンドレーエ(Jakob Andreae)は、ルター主義の歴史上の重要な文献である「調和の原則」(Formula of Concord)の著者の一人であった。ヤコブはこの優れた奉仕の功績が認められ、パラティン伯オットー・ハインリヒ(Count Palatine Otto Heinrich)から盾形紋章の使用を許可された。ヤコブはその紋章に、家名のアンドレーエにちなんで聖アンデレ(St.Andrew)の十字架と四つのバラを配して、一つのバラを紋章に描いているマルティン・ルターに敬意を表して組み立てた。そしてルターの紋章は、次のように描写できる。まず中央には黒い十字架があり、精神に苦行をもたらし、磔にされたキリストは償いへと導くことを思い出させる。この十字架は生命を象徴する赤い心臓の中央に置かれている。後者は喜びと平安の印である白いバラの上におかれている。そして全体は永遠の生命を象徴する黄金の環に取り巻かれている。この紋章は、ルターが高く評価していたクレルボーの聖ベルナール(St.Bernard of Clairvaux)の著作に刺激されたものである可能性がある。実際、聖ベルナールは旧約聖書の雅歌に関する説教において、ソウルと<創造主>との結婚を説明する際に、しばしば花と一体となった十字架のイメージを使用していた。

ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエは、子供の頃から錬金術的環境の中で育てられた。チュービンゲン市で牧師をしていた彼の父は、実験室を所有しており、彼の従兄弟のクリストフ・ウェリング(Christophe Welling)もまた、この科学の熱烈な信奉者であった。若きヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエは、父と同じように神学を追及した。神学者のヨハン・アルント(Johann Arndt)は、この若きアンドレーエを自分の精神的な息子であると見なして、この若者に多大な影響を与えた。アルントはヴァレンティン・ヴェイゲル(Valentin Weigel)一派の伝統を汲んでおり、この学派は、ライン川沿岸・フランドル地方の神秘学思想とルネサンスのヘルメス主義と、パラケルススの錬金術を統合させようとしていた。ヨハン・ヴァレンティンはまた、パラケルススの医術とナオメトリーを探求していた神学者トバイアス・ヘス(Tobias Hess)の親しい友人でもあった。若きヨハン・アンドレーエは、チュービンゲン市でこの「殿堂を計測する」科学に熱中する傍ら、師であり、保護者でもあった神学者のマティーアス・ハッフェンリッファー(Matthias Hafenrffer)の助手を務め、「エゼキエルの殿堂」の研究のための図解を描いた。この若き学者は同じように精神的体験の中で象徴が果たす仲介する役割についても興味を抱いていた。この点では、彼は師であるヨハン・アルントとその熱中ぶりを分かち合っていた。神秘主義に強い影響を受けたアンドレーエは、敬虔派の先駆者の一人として見なされるようになっていった。
「化学の結婚」の著者は、劇場が同時代の人々が深刻な物事についてよく考えるように仕向けるための価値ある手段であると考え、彼のいくつの作品は、the commedia dell’arteから影響を受けていた。これはハ―レクインがドイツの舞台に初めて上演されたターボ(Turbo)の場合においては真実である。「化学の結婚」と同じ年に出版されたこの劇は、錬金術について言及している。これは後にゲーテの『ファウスト』のモデルとなった重要な作品である。しかしながら、著者がヘルメス芸術を学んでいるのは一目瞭然であるが、彼の錬金術に対する見方は皮肉的である。概して、神学にせよ科学にせよ、アンドレーエが興味を持ったものは有益な知識であり、無益な思索ではなかった。例えば、アンドレーエとその友人、ジョン・アモス・コメニウス(John Amos Comenius)は、教育学を17世紀に復活させるのを支援した。1614年に、彼はファイヒンゲン市の副牧師に任命された。後に彼はカルフ市で監督者となり、それからシュットガルトの教会会議における説教者、顧問となった。様々な役職を務めた後、アンドレーエはアーデルベルグの大修道院長を最後にその職歴に終止符を打ち、その町で、1654年に生涯を終えた。
ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエは、深い感銘を与える一群の著作を残した。まだ17歳になってもいない1602年から1603年にかけて、アンドレーエは著作家としての最初の試みに挑んだ。彼はエステル(Esther)とヒアシンス(Hyacinth)についての喜劇を書き、『化学の結婚』の初稿も書いた。この小説の主人公は、既にクリスチャン・ローゼンクロイツ~この名は1616年の出版の際に追加されたのだとも考えられるが~の名で通っていた。この文献の最初の手稿は喪失してしまっており、我々がそれを知ることは難しい。しかし、確実に言えるのは、この小説の中には薔薇と十字の象徴はほとんど出てこないということである。また、アンドレーエは、1616年の出版の際に、この手稿を改訂したこともわかっている。興味深いことに『化学の結婚』は、Theca gladii spiritus (The Sheath of the Spirit,聖霊の栄光を示すさや)と同じ年に同じ出版社から出されている。この本は28もの節をコンフェシオ・フラテルニタティスから引用していた。しかしクリスチャン・コスモクセ(Christian Cosmoxene)という名は、クリスチャン・ローゼンクロイツの名で代用されており、この著者は初期のバラ十字会の宣言書に提示されていた概念の全てに固執していなかったようだ。しかしここで、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエは、ファーマ・フラテルニタティスが書かれた年にSocietas christiana(キリスト教修道会)の創設を提案した事を思い出さねばならない。この団体は様々な面で、宣言書の中に形成されている計画の内容とよく似ている。アンドレーエはその生涯を通して、チュービンゲン・サークルのような学びのための団体や、現代も存続している染色者基金組合のような職業組合を創設し続けた。

結婚の物語 (The Story of the Wedding)
第三のバラ十字宣言書は、先の二つの宣言書とは、かなり異なっている。簡単に言えば、この第三の宣言書は次のような物語なのである。81歳の老人であるクリスチャン・ローゼンクロイツが1459年に7日間にわたって起こった冒険について語るのである。翼のある使者(天使)がやってきて王家の結婚式に召喚されたクリスチャンは、山の斜面にあった隠れ家を後にする。様々な出来事の末、彼は高い山の頂上にたどり着き、三つの門を立て続けに通過する。いったん中に入ると、彼と招待された他の人々は、秤にかけられて試される。そこで十分に徳があると判断されると結婚式に参加することが許される。選ばれたわずかの人々には黄金の羊毛が贈られ、彼らは王家の人々に提示される。
王家の人々の前につれてこられた後、クリスチャン・ローゼンクロイツは、ある劇が上演される様子を詳述する。この劇の後に宴会が催され、その後で、王家の人々は首が切られた。王族たちの死体が入った棺は、遠方の島へ行く七艘の船に積み込まれる。目的地に着くと、棺は奇妙な七階建ての堂々たる建物、「オリンポスの塔」の中に安置される。
物語の残りの部分では我々は、招待客たちが七階建ての塔を一階ずつ昇ってゆく不思議な様子を目撃する。それぞれの階で招待客たちは、乙女と老人の指導の下で錬金術的作業に参加する。招待客たちは王たちの皮膚を蒸留する作業を成し遂げ、その時に得られる液体はその後白い卵に変性される。ここから一羽の鳥が孵化し、育てられ、やがては首を切られて灰にされる。その残りかすから、招待客たちは二体の人型を作る。この小人たちは大人の大きさになるまでえさが与えられる。そして最後の作業で彼らに生命の炎が伝えられる。二体の小人は生き返らされた王と王妃に他ならない。その後で直ぐに王と王妃は、招待客たちを「黄金の石の結社」に歓迎し、全員が城に戻る。
しかしながらクリスチャン・ローゼンクロイツは、城内での最初の日に、軽率にも眠れる美の女神ビーナスが横たわっている霊廟の中に入ってしまうという過ちを犯してしまった。その詮索好きな性質は咎められ、罰として城の守衛をさせられることになる。しかしこの判決は執行されなかったようである。なぜなら、この物語はクリスチャン・ローゼンクロイツが自分の住処に戻ることによって突然終わるからである。著者はこの81歳の隠者の余生が、残りいくばくもないことを読者の解釈に委ねている。この最後の声明は、ファーマ・フラテルニタティスがクリスチャン・ローゼンクロイツは尊ぶべき106歳まで生きたと主張していることと矛盾しているように思われる。更に、この物語の別の諸局面では、それ以前の二つの宣言書の中に提示されている人物とはかなり異なる人物像のクリスチャン・ローゼンクロイツが描かれている。
バロック・オペラ (A Baroque Opera)
ベルナール・ゴルセイ(Bernard Gorceix)が述べているように、アンドレーエ著作の本には17世紀のバロック様式の記載があり、寓話や説話や象徴が卓越した地位を占めている。ゴルセイによると、この小説は歴史的そして文学的著作として意義深いものなのである。実際これは、17世紀にバロック文化が出現したことが最もよく表出されている作品のうちの一つである。素晴らしい物事そして装飾の重要性の趣味が極めて明らかである。結婚式が行われる城は壮麗なもので、庭園もその時代の自動装置がしつらえてある泉の趣味を繁栄している。それらは物語の中の様々な場面を彩る背景となっている。最も忘れがたいのは、招待客たちの一人一人が、美徳を計る天秤に自らをかける審判の場面である。作者はまた、我々にベールをかぶった乙女たちの奇妙な行進を目撃させる。彼女らは、抑制されていないキューピッドが放ったいくつもの矢によってもほとんど混乱させられていない。そしてさらに我々は、ユニコーンや獅子やグリフィンや不死鳥といった伝説上の動物に遭遇するのである。
様々な登場人物たちの衣装も豪華絢爛であり、物語が進んでいく間に、錬金術変成の進行の場面に従って衣装の色を黒から白、そして赤へと変える者もいる。様々な饗宴とごちそうが不可視の従者たちによって供され、物語が強調されている。しばしば不可視の演奏者によって奏でられる音楽が、物語に花を添えている。場面が変わる時や人物の登場には、トランペットとケトルドラムが鳴らされる。この文献には至る所に詩が挿入されており、本筋は一つの小劇によって中断されている。
この錬金術論文の中には、決してユーモアが欠落していることはない。それはしばしば思いがけない時に表出されている。例えば審判の場面(三日目)でも数々の露骨な冗談が発せられている。変性が実質的には達成された瞬間(六日目)、作業の監督者は招待客たちをだまして、彼らがこの作業の最終段階に招待されることはないと信じさせる。この冗談の効果を見て、この意地の悪い監督者は大笑いし、「腹の皮がよじれそうになる」。この物語には隠された碑文や、ライプニッツ(Leibniz)が解読しようとした暗号が含まれている。見ての通り、我々は、ファーマ・フラテルニタティスやコンフェシオ・フラテルニタティスとは全く異なる様式の絢蘭豪華な文学作品を目の当たりにしているのである。
内的錬金術 (Inner Alchemy)
『化学の結婚』が出版された翌年の1617年に、錬金術師ラティチウス・プロトフェル(Ratichius Brotoffer)は、Elucidarius Majorを出版した。この本で彼は、『化学の結婚』の七日間と、錬金術的作業の各段階との相関性を立証しようと試みた。しかしながら彼は、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエの本は不明瞭であることを認めた。更にもっと近年になって、リチャード・キーナスト(Richard Kienast,1926年)やウィル・エリック・プ―チカルト(Will-Erich Peuchkert,1928年)などの他の著作家たちがこの本の秘密を解読しようと最善を尽くした。さらにもっと近年に、とりわけベルナール・ゴルセイ(Bernard Gorceix)、サージ・フティン(Serge Hutin)、ローランド・エディゴフェル(Roland Edigoffer)がこの著作を賢明に分析している。「錬金術的結婚」の本は錬金術資料の集大成とは、ほとんど似ても似つかない。そしてそれは技術的な論文なのでは全くなく、実験室の操作手順を述べる目的のものでもないのである。またちなみにその物語は、「賢者の石」を発展させることにかかわっているのではなく、一組の小人を作り出すことにかかわっていたことに留意すべきなのだ。その物語の中で語られている七日間に関しては、錬金術的象徴が中心とされているのは主として第四日目の始まりである。
ポール・アーノルドは、『化学の結婚』は、「赤い十字の騎士」について書かれてあるエドマンド・スペンサー(Edumund Spencer)著の『妖精の女王』(The Faerie Queene,1594)の第十章の単なる翻案に過ぎないことを示そうと試みた。しかし彼の反論には依然として納得できない。ローランド・エディゴフェルは、アンドレーエの物語はゲルハルト・ドルン(Gerhatd Dorn)の著作Clavis totius philosophiae chimisticaeに著しく類似していることを示した。このドルンの本は1567年に出版され、それから1602年にラザラス・ゼッツナーが出版したテアトラム・ケミカルの第一巻の中に入れられた。この本でドルンは、錬金術師によって物質に遂行される浄化は、人自身の浄化にも行われるべきであることを示している。彼はその本の中で、人間の異なった部分である肉体とソウルとスピリットを象徴する三つの登場人物たちを挙げている。この三つが岐路で会い、それぞれの道が、山頂に建つ三つの異なる城へと続いているのを定めるようにしている。一つ目の城は水晶でできており、二つめは銀、三つめはダイヤモンドでできている。幾多の冒険と、<愛の泉>での浄化を経て、登場人物たちは人間存在の内的な再生の過程とされる七つの段階を達成する。この物語と『化学の結婚』の基本的構想(プロット)には、著しい類似がみられる。

精神的な結婚 (The Spiritual Wedding)
ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエは、その本の題辞に「神秘は暴露された時に品格をおとしめられ、冒涜された時にその力を失う」と指摘している。実際、入門儀式形式の神秘主義は、それが知性のみで受け取られた時、その美徳は失われるのである。そのような状況の下では、ここで、我々の関心をひきつけている著作から美徳を剥ぎ取ることなくして分析するには、どうすればよいのだろうか? 確かに、我々は、全ての秘密を明らかにできると主張してはいないが、アンドレーエの入門儀式的小説に提示されている三つの重要な主題:結婚と、啓示の山と、作業の七つの段階は強調しておく必要があるように思われる。
聖なる結婚のヒエロガミー(hierogamy)は、古代の諸神秘学の中に重要な位置を占めている。キリスト教においては、クレアボーの聖ベルナール(1090-1153)が、『歌の歌』(Song of songs)への注釈の中にこの主題について詳しく述べていた。聖ベルナールはその論文『神の愛において』(On the Love of God)の中で、最終段階が精神的な結婚である高次の領域へのソウルの旅について述べた。この象徴的体系は、Rheno-Flemish神秘学派、特にべグイン修道会と、The Adornment of the Spiritual Marriage,1335の著者であるヤン・ヴァン・ルースブックによって、さらにより詳細に開発された。他の数多くの著作家たちの中でもヴァレンティン・ウェイゲルなどの著述では、精神的な結婚の主題が再生と生まれ変わりに関連づけるようにされている。後者の中では錬金術的象徴主義は、キリスト教の象徴主義に加えられている。
王の結婚は、概して錬金術の中で重要な地位を占めており、そして心理学者のカール・ユングは、人間の個性化の過程の段階を説明するのにそれが最適であることを示した。王と女王の結婚は、人間存在の二つの極性、アニムスとアニマの結合を表しており、自我の発見へと導く。ユングは数多くの著書において自らの研究を公表したが、最も代表的なものは、『心理学と錬金術』(Psychology and Alchemy,1944)である。しかしながらユングの調査研究は、Mysterium Coniunctionisの中のAn Inquiry into the Separation and Synthesis of Psychic Opposites in Alchemy,1955-56で最大の発展を遂げたとかんがえられている。この論文では、『クリスチャン・ローゼンクロイツの化学の結婚」が彼の思索の鍵的要素となっているのである。
表題が示唆するのとは反対に、アンドレーエの物語は結婚については語っていない。結婚式はその小説の中では説明されず、むしろその物語の筋は王と女王の復活を中心に展開するのである。聖ベルナールや過去の時代の神秘家たちからすれば、それは人間存在の結婚のことであり、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエが本の中で言及している再生として理解されているのである。

ソウルの城 (The Castle of the Soul)
「結婚」が行われる場所は、山の頂上に設けられている。伝統的な象徴学では、この場所は大地と天地が触れる場所であり、神々の住居であり、そして啓示の居所である。それについては、マリー・マドレーヌ・ダヴィ(Marie-Madeleine Davy)が著書La montagne et sa symbolique の中でよく実証しており、ある人が山に登ることを決意した時には彼は、自己の探求に着手し、<絶対>にむけての上昇に出発するのである。クリスチャン・ローゼンクロイツに届けられた招待状には、彼は、三つの寺院が建っている山の頂上に登らなくてはならないと書かれている。しかしながら、その物語の次の挿話では、寺院ではなく城について言及されている。
クリスチャン・ローゼンクロイツは二つの門を通過して、偉大なる変容を起こすための準備がされている城に到着する。それから島にある塔の中の三番目の場所で<偉大な仕事>が成し遂げられるのである。ここで我々は、マイスター・エックハルト(Meister Eckhart 1260-1328)とアビラの聖テレサ(St.Theresa of Avila,1515-1582)が述べている<ソウルの城>の主題をここに見出すのである。彼らにとっては、ソウルの探求は城の征服としてよく提示されている。錬金術の諸文献は、山の上の城について描写するのにこれらの二つの要素を結合させている。我々は先に、ゲルハルト・ドルンが高い山の上の三つの城について述べていたことに注目した。山、城、寺院あるいは塔・・、我々は物語の中に、旅と上昇の概念を思い起こさせるあらゆる象徴的な要素を見出すのである。
とはいえ、高い山の頂上にある寺院や城は、預言者エゼキエルがビジョンで観たと語っていた到来する神殿を思い起こさせることから、終末論的な側面も持つ。神殿とエルサレムの町が破壊された後、ユダヤ人たちはバビロンへと追放された。エゼキエルが未来の寺院のビジョンを預言したのは、その時であった。エゼキエルはユダヤ人の追放と人間がエデンの園から追放されたことを対応させたのであった。この寺院の破壊は、創造主を<天地創造>から撤退させたのであった。それ以来<創造主>は、人間が奉仕を捧げることのできる唯一の<場>となっているのである。
しかしながらエゼキエルは、第三の新たな寺院の建造を発表したが、それは<天地創造>の復活と同時になった。預言者はこれについて、<高い山>の上に建てられていると描写した。この<寺院>の原型は以前は天上の世界に存在していたのだと預言者は言い放った。このビジョンは、エッセネ派に多大な影響を与え、全ての啓示文学の源となった。我々はここで、サイモン・ステュディオンの『ナオメトリア』の中でエゼキエルの寺院が重要視されていたことを思い出す。そして、前にも述べたように、我々は、ヨハン・ワレンティン・アンドレーエもまたマティーアス・ハッフェンリッファーとともにこの主題について作業をする機会を得ていたことも知っている。さらには、ローランド・エディゴルフェルが示したように『化学の結婚』は、多くの終末論的な側面を含んでいるのである。我々はこの後すぐ、ロバート・フラッドの終末論的寺院の着想に出会うことになるのは、驚くべきことである。彼にとって、寺院の建てられている山とは、入門儀式のことに他ならないのである。
七つの段階 (The Seven Stages)
『化学の結婚』では、7という数字が基本的な役割を担っている。その筋は7日間にわたって展開され、7人の乙女、7つの鍾、7つの小舟について述べられている。そして最後の変容が起こるのは、七階建ての塔の中で祭られているアタノール(athanor)の中心においてである。これはいつもそうだとは限らないが、錬金術師は一般的に<偉大な仕事>を入念に詳述する過程を7つに分けている。
ゲルハルト・ドルンは、その作業の7つの段階について語っている。ここで、我々は錬金術特有のもではない一つの根本的な主題に直面するのである。イオアン・P・コウリアーノ教授(Prof. Ioan P. Couliano)が示すように、ソウルの上昇の過程は7つの段階からなると言う理論は、多くの伝承の中で見ることが出来る。彼の研究が示すところによれば、ギリシアの伝承でダンテ、マルシリオ・フィチーノ、ピコ・デ・ラ・ミランドラの中にも見出されるものによれば、こうしたエクスタシーへの上昇は、7つの惑星的な領域を通して達成されているのである。コウリアーノ教授はまた、バビロニアまで遡る伝承で、後にユダヤ教およびユダヤ・キリスト教の啓示文学、そしてイスラーム教にも受け継がれた別の形の上昇についても記述した。それは諸惑星を参照することなくして、精神的な法悦への七つの段階についても語っているのである。
この要素はまた、ヘルメス思想にも見ることが出来る。ポエマンドロス(Poemandres)は、『錬金術大全』の最初の論文で、宇宙の起源とアダムの堕落に触れた後に、諸領域の枠組を通過してゆくソウルの上昇の7つの段階について語っている。それは、肉体が崩壊した後でソウルが<天上の父>へと上昇する前に自我から幻想と欠陥を除去する為に通過しなくてはならない7つの領域について説明している。ヘルメス学の梗概を備えている第10番目の論文では、この<創造主>へ向かっての上昇を「オリンポスへ向かっての上昇」であると定義して再考慮しているという興味深い事実を記しておこう。『化学の結婚』の中で、7つの錬金術的段階が達成される塔は、<オリンポスの塔>といかにもふさわしい名で呼ばれているということは、我々を感動させはしないだろうか?
この7つの概念はまた、キリスト伝承の中にも見られ、特にヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエが高く評価していた聖ベルナールに関しては顕著である。『化学の結婚』において第一日目で物語られる夢は、その主題を聖霊降誕祭後の第五日曜日に行われた聖ベルナールの説教から取っている。この夢の中で、クリスチャン・ローゼンクロイツは、他の仲間と共に塔の中に閉じ込められている。更には、<オリンポスの塔>(第六日目)の中の階を次々と上昇していく度に受け取る道具・・・紐や梯子、翼などは、聖ベルナールの象徴主義か取られている。我々はこの内的人生の7つの段階への参照を、アンドレーエが賞賛する二人の人物に見出すのである。一人はサルツウェデル(Salzwedel)の牧師、ステファン・プレートリウス(Stephan Praetorius)で、「justificatio(人間が神の信仰によって善とされること)、santificatio(聖別)、contemplatio(瞑想)、applicatio(神との連結)、devotio(献身・誓約)、continentia(節制・自制)、beneficienta(恩恵を与える)」を説いている。もう一人は「新敬虔派」の主唱者フィリッペ・ニコライ(Philip Nicolai,1556-1608)で、神秘的結婚について語る時にソウルの再生の七つの段階について述べている。(『永遠の生命の鏡』The Mirror of the Joys of Eternal Life,1599)

黄金の石の騎士 (Knight of the Golden Stone)
『化学の結婚』の第七日目の終わりにクリスチャン・ローゼンクロイツは、「黄金の石の騎士」に聖別される。この称号によって彼は、無知と貧困と病気を超越する力を与えられる。騎士たちはそれぞれ、<神への会>と神の僕である<自然>に身を捧げる誓約を立てる。要するに、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエが指摘するように、「芸術は<自然>に奉仕する」ということであり、錬金術師は、彼自身の復活と同様に<自然>の復活にも関係しているのである。ある記録には、クリスチャン・ローゼンクロイツは次の言葉を刻印したとある。「最も崇高な知識は、我々は何も知らないということである。」この文言は「学んでいる無知」とのニコラウス・クザーヌス(Nicholas of Cusa,1401-1464)の説教を参照している。後者は、プロクロスやアレオバゴスの裁判官ディオニュソスやエックハルトの伝統を引いており、合理的論理に対抗しているのである。「学んでいる無知」とは、よく一般に考えられるような知識を拒否することでなく、世界は無限であり、完全な知識の対照にはなりえないということを再度学ぶことなのである。ニコラウス・クザーヌスは、グノーシス思想、つまり啓示から得る叡智を唱道し、相反する対照物の同時発生を理解することによって、見える物の世界を越えることができるとしたのである。
要約すれば、『クリスチャン・ローゼンクロイツの化学の結婚』は、人間個人のソウルとの結婚へ至る道を探求する主題を扱った入門儀式的物語なのである。このソウルの上昇は、人間と<自然>の両方を含む過程の一部分なのである。この本を読むとき、我々は著者の博学ぶりに裏づけされた豊かな言語能力に衝撃を受ける。実際、参照された神話学、文学、神学、秘伝哲学の全てを指摘するには、一冊の立派な本を必要とするだろう。この記事で我々は、この驚くべき物語の簡単な梗概を提示したに過ぎない。我々の主たる目的は、この物語の多種多様な意味を説明するよりもむしろ、あなたがバラ十字伝承の根本となっていて、ヨーロッパ文学史上に卓越した位置を占める物語を読みたくなるようにすることなのである。

| 結婚式の七日間 第1日目 ―― 出発の準備:天界からの招待;塔の囚人たち;C・ローゼンクロイツが結婚式のために旅立つ。 第2日目 ―― 城への旅:四本の道の交差点;城への到着;三つの関門を通過;城での宴会;夢。 第3日目 ―― 審判:ふさわしくない客たちが判決を受ける;選ばれた者たちへの黄金の羊毛の贈呈;判決の執行;城への訪問;秤の儀式。 第4日目 ―― 血の結婚式:ヘルメスの噴水;2枚目の黄金の羊毛の贈呈;六人の王族への紹介;劇の上演;王族たちの処刑;棺を載せた7つの船の船出。 第5日目 ―― 航海:ビーナスの霊廟;王族たちの偽りの埋葬;航海;島への到着;七階建ての塔;実験室。 第6日目 ―― 復活の7つの段階:くじ引き;噴水と大釜の周りでの儀式;吊り下げられた球体;白い卵;鳥の孵化;鳥の斬首と火葬;円形の炉;灰から始めて二つの小立像の作成;生命の炎;王と女王の目覚め。 第7日目 ―― クリスチャン・ローゼンクロイツの帰還;黄金の石の騎士;船での帰還;クリスチャン・ローゼンクロイツに課された罰;赦免後の帰宅。 |
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※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラのこころ」の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。
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第2号:人間にある2つの性質とバラ十字の象徴、あなたに伝えられる知識はどのように蓄積されたか
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