投稿日: 2025/08/29

以下の記事は、バラ十字会日本本部の季刊雑誌『バラのこころ』の記事を、インターネット上に再掲載したものです。

※ バラ十字会は、宗教や政治のいかなる組織からも独立した歴史ある会員制の哲学団体です。

区切り

とあるスロバキアの物語
A Slovak Tale

スロバキアの王国、ブラチスラヴァのラスティスラヴ王がお触れを出しました。彼の思いを崇高な精神の高みにまで上昇させることのできるワインを作った者に褒美を与えるというのです。王は、心の奥深くを見つめることができ、気高い思いを与えてくれるワインを望んでいました。そのようなワインはきっと心には喜びをもたらし、頭には理知と分別をもたらしてくれると王は考えていました。

ブラチスラヴァ城の麓に住んでいたラドスは、王の願いを聞き、特に褒美のことを聞いて、特別なワインを造ることを決心しました。かくして彼は、若い葡萄の苗木を植え、多くの楽しいことや美しいことを木々に絶えず語りかけ続けました。たとえば、聖典に書かれた物語、勇気と思いやりに満ちたお話、美と力のおとぎ話などでした。何年もの間、朝から晩まで、ラドスは葡萄畑でこつこつと働き、全霊を尽くして彼の葡萄に語り続けました。彼は、葡萄のことをあたかも自分の子どもたちであるかのように愛しました。そして、葡萄の房が年を追うごとに大きくなり、かつてなかったほど、みずみずしい果汁を含んでいくのを誇らしげに見つめました。

ブラチスラヴァ城
ブラチスラヴァ城

そしてある日、彼の葡萄はもはや子どもではなく、最高の状態に実った申し分のない大人になったことをラドスは知りました。木製の絞り機に葡萄を入れている間も、彼は美しさと励ましの言葉を語り続けました。「我が子よ、素晴らしいワインになるのだよ。お前たちのその芳香が心に喜びをもたらし、悲しみを忘れさせてくれるように。飲んだ人の分別を失わせることなく、酔い痴れさせることもないように。日ごとに、熟成して素晴らしくなっていくように。」

そして彼は、ふと思いました。「しかし、樽はどうしよう。私のワインを今までの古い樽に入れることはできない。」そこでラドスは、樽作りの名人サモのところに行き、彼が何を手がけているのかを説明しました。サモはさっそく仕事に取りかかり、彼のために大きな樽を作ってくれました。その樽の底には、王が食卓についている部屋を模した美しい木彫りの装飾が施されていました。王は片手にワイングラスを持ち、もう一方の手にはブラチスラヴァの紋章を持っています。この堂々とした樽で、ラドスはかけがえのない、まだ若いワインを熟成させることにしました。ラドスは、ワインが熟成するまでの二年間、この素晴らしい樽の傍らで寝起きし、彼の魂の深淵から湧き出る美のバラードを静かに歌いました。

ワイン樽と醸造家

ワインは見事に熟成しました。そして二年後、樽から汲み上げた赤い液体で満たされたガラスの瓶を持って、ラドスは王のもとに行きました。そして召使に 「王様が何よりも望んでおられるワインをお持ちしました」と告げました。その召使いは、彼を王の御前に連れて行きました。二人は長い時間語らいました。王は彼のワインについて尋ね、ラドスは彼のワインの物語を最初から最後まで話しました。王は彼に感謝し、そしてその晩遅く、晴れわたった空に満月が昇ると、開け放たれた窓のそばに静かに座り、ゆっくりとラドスのワインを飲みました。

他のワインと同じように酔いが回ってきました。しかし、これまでのような、頭が回らなくなるような酔いではなく、このワインは王を喜びで満たしてくれました。王の心の奥深くから、全ての人のために善い行いをしたいという切なる思いが沸き起こりました。戦いがあるところに平和をもたらしたい、プライドを傷つけられた人々を癒してあげたい、助けを必要としている人々を助け、勇気を必要としている人々に勇気を与えてあげたいという心からの願いがあふれ出たのです。

そして素晴らしいワイン職人が、彼の葡萄の木々と、そこからできたワインを大切に世話したように、自分に任されているこの王国を、大切に治めていきたいという強く深い望みに王の心は揺さぶられました。「これこそ、私が生涯ずっと探していたワインだ」と彼は思いました。「このワイン造りの名人に褒美を与え、彼の技の秘密を学ぼう。なぜなら、彼の技には、偉大な智慧と完成があるのだから。」

グラスに注がれるワイン

このワイン造りの話には、秘められた別の意味があります。それは入門儀式(訳注)の過程です。ラドスは自身の言葉と歌によって、自身の思いの力をワインという実体に結び付け、自信と謙虚さとともに、ラドス自身が感じ続けていた思いと同じ性質の思いを、王が静かに個人的に、まるで自分から発した思いのように体験することを願いました。優れた他の醸造家と同じようにラドスは素晴らしいワインを造りました。しかしラドスはまた、優れた錬金術師の誰もが行うように、自分の思いをインスピレーションと啓示という実体に変容させました。ですから、もしあなたが自分の人生において真に優れたワインを造ることを望むなら、ラドスのこの話、彼が王にもたらした心の平和と満足についての話を心の隅に留めておいてください。あなたの人生というブドウ畑において、あなたもまた醸造の達人になることができます。

訳注:入門儀式(initiation):神秘学派に入門することを希望(志願)する人がいたとき、それを許可(もしくは拒絶)するための儀式。あるいはその構成員を、探究の次のレベルへと飛躍、変容させることを目的として行われる儀式。

参考記事1:『入門儀式の山が象徴する内面の旅-16世紀と17世紀のバラ十字会員の秘密の象徴より

参考記事2:『ピラミッドは墓ではない|本当の目的とどうやって作ったかという謎

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